クリスの冒険8

「こんにちは、昨日お電話させていただいたクリスです」
「やあ、いらっしゃい。さ、どうぞ」
「突然電話してすいません」
「いやいや、かまわないよ。わざわざアポイントメントまで取ってくるトレーナーは珍しいからね、むしろ驚いたくらいさ」

快く迎えてくれた青年の足元には、見たことのないポケモン達がじいっとクリス達を見守っている。その視線に気づいたマリルリが前に出ようとするが、驚いて一目散に逃げてしまった。弱冠ショックを受けているマリルリに、人見知りばかりだから勘弁してあげてくれないかな、と青年はクリスを案内しながら笑った。好奇心と警戒の狭間で揺れ動きながら、挙動不審気味に見慣れない客人を見ているポケモン達は様々な姿を見せてくれる。リビングに通されたクリスはソファに腰掛けた。クリスの前には、すでに珈琲が置かれている。

「あ、ごめんなさい。お客さんいらっしゃったんですか?」
「ああ、ごめんごめん。片づけるよ。ついさっき色違いのポケモンが欲しいって交換を申し込んできた子がいたんだけどね、あいにく僕は専門外だからお断りしたんだ。そう言えば結局珈琲一口も口を付けずに帰っちゃったのか」

残念そうに奥の部屋に食器を片づけようとする青年が振り向いて飲み物を聞いたので、クリスは紅茶を選択した。しばらくして紅茶を持ってやってきた青年にお礼を言って、一口付ける。ヒマでヒマで仕方ないらしいマリルリは、さっきからそわそわと周りを見渡してはきょろきょろしていたが、青年に渡されたクッキーに専念している。もう、と食い意地を張っている相棒に苦笑いしながら、クリスも進められるまま一つつまむことにした。

「色違いって言えば、この前やってた映画に出てたバンギラスって色違いでしたよね」
「あー、真っ黒のバンギラスだったかな?あの映画のおかげでずいぶんと注目されてるみたいだけど、勘違いする人がたくさんいて大変そうだよね」
「え?黒じゃないんですか?」
「あはは、さっき来たトレーナーも勘違いしてたなあ。僕の知り合いに色違いを集めることに命をかけてるコレクターがいるんだけどね、あれだけは納得できないって力説してたからよく覚えてるよ。本当は灰色の身体に紫色のダイヤみたいな模様があるらしいね」
「へええ」
「僕の知り合いが言うには、よく勘違いされるけど、全てのポケモンには理論上色違いが必ず存在してるらしい。野生かもしれないし、卵から生まれるかもしれないし、もしかしたら伝説だって、初心者向けの3タイプのポケモンだって入手できるかもしれないって言ってたよ」
「卵かあ……浪漫ですね。実は私の家、育て屋ファームやってるんですけど、色違いのメタモン預けてる人が結構いるんです。何か関係あるのかしら?」
「へえ、そうなんだ?だったら僕の知り合いは間違いなくいつもお世話になってるよ、きっと。今度ヨロシク言っておいてもらえるかな?」
「あはは、はーい。わかりました」
「うん、よろしくね。僕の知り合いが言うには、預けるポケモンの片方が色違いだと普通よりも色違いのポケモンが生まれてくる可能性が高いらしいよ。だからじゃないかな?色違いのメタモンが重宝されるのって。後はそうだなあ、外国で生まれたポケモンと預けると確率がさらにあがるとかなんとか。よくグローバルターミナルに行ってるらしいから多分正しいと思うよ」
「へえええ、そうなんですか。海外のポケモンかあ。確か呼び方違うんですよね。字数制限も5文字じゃないらしいし。いいなあ」
「まあ、色違いのポケモンならグローバルターミナルで欲しいって思えば、交換してくれる人もいるかもしれないし利用してみたらどう?でも時々金色のコイキングみたいに、ペンキとかで無理矢理色を塗っちゃう酷い奴がいるっていう話だし気を付けた方がいいよ」
「そうなんですか?ありがとうございます」
「うん。でもね、なんか最近不自然に色違いが入手できる気がするって言ってたなあ。もともとポケモンって8200匹に1匹って割合の出現率らしいし、大量発生のポケモンの中からさがすっていっても、そこまで根気も時間も資金もあるトレーナーなんてほんの一握りのはずなんだけどね」
「そう言えば怒りの湖で赤いギャラドスがどうとかってニュースで見ましたけど……。なんか関係あるのかしら?」
「うーん、どうだろう?あそこって元々たくさんコイキングが釣れるらしいから、ギャラドスに進化する奴も多いだろうし、偶然かもしれないよ?観光とかで潤ってるって聞くし、珍しいポケモンをわざわざ逃がすとは考えにくいしなあ」
「でも釣り人サンが観光客より多かったんじゃなかったでしたっけ?大会とかよくやってるのテレビで見たけど、最近全然やりませんよね」
「大変だよね。僕の知り合いみたいなコレクターはこぞって出かけてるみたいだけど、捕獲したって話は聞かないし。どうなってるんだろう?まあともあれ、何かあるのかもしれないね。最近は何かと物騒だし、ウツギ博士のポケモンが盗まれたって言うじゃないか。僕も気を付けないとね。僕の持ってるポケモン達はカントーやジョウトでは比較的珍しいから」
「おー!ホントですか?楽しみだなあ」
「あっと、ごめんね。話が長くなっちゃったな。そろそろ僕のポケモンみせてあげるよ。そういえば、さっきのトレーナー、ちょっと怖かったって言うか目つき悪くてさ、髪赤かったなあ。まあ気のせいだと思うけど」

独り言のようにつぶやいた青年につられる形で思い出したクリスは、そう言えばウツギ博士のポケモンはどうなったのか最近めっきりニュースでやらなくなったと思い出す。ジョウト地方においてロケット団の活動が明るみに出始めた頃から、メディアはこぞって関連ニュースを報道し始めており、なかなか情報が入らない事件は記憶から薄れていくのかもしれない。





おいで、と手招きする青年に応じる形で、人なつこく鳴いた一匹のポケモンが姿を現した。まるで夏に生い茂る葉のような鮮やかな緑の尾が嬉しそうに揺れる。萌芽のようなすらりとした足をもつクリーム色の身体がゆったり歩いてきた。くりくりとした大きな目が値踏みするかのようにクリスとマリルリを上から下までじっと見つめていたが、青年が再度呼びかけたので、方向転換。ひょい、と青年の膝元に飛び乗り、我が物顔で丸くなった。

「……えーっと?」
「ああ、この子はリーフィアって言うポケモンさ。イーブイの進化系でね、草タイプだよ」
「え?イーブイって草タイプに進化するんですか?!リーフの石で?」
「残念ながら違うよ。リーフィアはシンオウ地方限定のポケモンなんだ。ハクタイの森って言う有名な森があるんだけど、そこにある「湿った岩」と呼ばれてるパワースポット周辺でしか進化が確認されてない珍しいポケモンさ。植物みたいに光合成するから、いつもリーフィアが昼寝してる周りは澄んだ空気で包まれてるらしいね。太陽の光をエネルギーに変換できるから、あんまり戦いは好まない大人しい奴なんだ」
「ってことは、ご飯食べなくてもいいってことですか?」
「いやいやいや、植物だって土から水とか養分とか吸い上げなきゃ、光合成だけじゃ生きてていけないだろ?それだけじゃお腹いっぱいにはならないさ。そもそも光合成には水はいるしね」

な?と呼ばれたリーフィアは、のど元をくすぐられて気持ちよさそうに伸びをしている。いいなあ、とつぶやいたクリスに、青年は笑った。

「抱いてみる?」
「え?いいんですか?」
「コイツは大人しいから大丈夫だよ。ほら」
「ありがとうございますっ!」

おー!と声を上げて嬉しそうに破顔するクリスの横で、かつての指定席をトゲピーに取られて長いこと立つマリルリは、ちょっとだけむっとした。トゲピーは赤ちゃんだから、と甘えたい盛りの長男長女に言い聞かせる母親の理論で納得させていたため、リーフィアは話が違うだろうと言うわけである。ソファにある丸いクッションをぼふぼふぼふとへこませながら、じいっとリーフィアを見ている目は限りなく妬ましさであふれている。少々気圧されながらゆっくりとクリスの膝元に落ち着いたリーフィアは落ちつきなさそうにそわそわしている。抱きつきたい衝動を全力で抑えつけながらもムズムズしているクリスを見て、いっそのこと襲いかかってびっくりしたリーフィアが飛び退けばいいのにとマリルリは思っているらしい。小さいため息がもれる。それを拾い上げた青年が、少しだけ譲ったげてくれるかい?となだめてきたので、小さな嫉妬を指摘されてしまったマリルリは恥ずかしそうに、うううと唸る。どうしたの?と聞いてくる脳天気なクリスに、マリルリはしどろもどろになってうつむいてしまった。軽く笑った青年は、立ち上がる。

「もう一匹、イーブイの新しい進化経路に加わった奴がいるんだ。紹介するよ。氷タイプのグレイシアだ」

名前を呼ばれたことに気づいたらしいグレイシアが、ゆっくりとした足取りでやってくる。クリスの膝元が騒がしくなる。まるで距離を置くようにじりじりと後ずさり始めたリーフィアは、マリルリの後ろに逃げ込んだ。ケロッとしているマリルリは、突然のリーフィアの行動に驚いて振り向くが、リーフィアはじっとしていて動かない。まるで壁にするかのようにじっとしている。頼られていることを嬉しく思うべきか、盾にされていることを歯がゆく思うべきか悩んでいるマリルリに、青年は悪いね、と口にしてそのままリーフィアを抱え上げて避難させた。

「リーフィアどうしたんですか?」
「たぶん、こいつの冷気に当てられるのが嫌で逃げたんだろうね」
「あはは、マリルリ、厚い脂肪だもんね」

良かったじゃない、いつもオレンのみばっかり食べてた甲斐があるわ、と意地悪く笑うクリスに、マリルリはクッションを握りしめて殴りかかった。ぽふぽふと飛んでくる攻撃に、
ゴメンゴメン、とクリスは謝るが、声は笑っていた。水タイプの段階ですでにグレイシアからの冷気は2分の1であるダメージは、厚い脂肪の特性効果で4分の1になっている。

「こいつはシンオウ地方の217番道路っていう、一年中雪原で有名な場所があるんだけど、凍った岩っていうパワースポットで進化できるんだよ。相手を警戒してるときには自分の体温をコントロールして周囲の空気を冷やして動きを鈍らせようとするんだ。まだ僕のポケモンになってから日が浅いんだ。知らない人がしょっちゅう尋ねてくる環境に慣れてないだけだから許してやってほしいな。本気で怒ると、周囲の空気を凍らせて、ダイヤモンドダストが発生するくらいまで無茶するからリーフィアは頭が上がらないんだ。全身の体毛をサンダースみたいに針みたいに尖らせて攻撃するからね」

グレイシアは青年のそばでクリス達とは一定の距離を置いて座っている。触りたいと顔に書いてあるものの、青年にそう言われてしまっては仕方ないとクリスは残念そうにため息をついた。そして、誰もいなくなったクリスの膝元に登ってくる影がある。どうしたの?
珍しいじゃないと首を傾げるクリスを後目に、満面の笑みでその腕の中に収まったマリルリは自慢げにリーフィアを挑発した。

「もしかして、イーブイの進化系が好きなんですか?」
「え?いやー、イーブイ達に対する熱意はマサキさんには負けるよ。僕はシンオウのポケモンに興味があるだけだからさ。あの人、信じられないくらいたくさんのイーブイ持ってて、進化経路はもちろん網羅してて、研究所や事務所、実家までイーブイだらけらしいしね」
「あー……確かにそうかもしれません。妹さん、世話が大変だって呆れてた気がします」
「あはは、やっぱりそうなんだ?そう言えば、この前言ってたけどさ、あまりにもイーブイが増えすぎたから、コガネの実家を尋ねたトレーナーの中でイーブイの良さを分かってくれそうなトレーナーにはイーブイをあげるそうだよ。今度尋ねてみたらどうだい?」
「え?本当ですか?もー、マサキさんたら、一言電話してくれたら良かったのに」

ぼそり、とクリスはつぶやいた。





「さーて、どんどんいこうか。一匹に何分も掛けてたら夜になっちゃうしね!」
「え?」
「いやあ、定期便中止のおかげでめっきり減ってた訪問客が、昨日の第一便から再開したからねー。仕入れてた話とか山積みでさ、誰かに話したくて仕方なかったんだ。でも前の客人はあんまり乗り気じゃなくて、なかなか話が弾まなくて歯がゆかったんだけど、どうやら君なら結構楽しんでくれそうだしね!ちょっと待っててくれるかい?呼んでくるからさ」

さすがはポケモンマニアと呼ばれるコレクターだけはある。先ほどとはうって変わった様子で生き生きとしながら奥の部屋へ引っ込んでいく青年と追いかけるグレイシアを見届けて、クリスとマリルリは少しだけ不安になったのは別の話である。しばらくリーフィアをなでていたクリスだったが、青年の発言にようやく当初の目的を思い出して、あわててマリルリにリーフィアと遊んでいてと無茶なお願いをして膝元からリーフィアを下ろす。ポケモン図鑑をカバンの中から発掘するため、足元のそれをひっくり返し始めたクリスを不思議そうに見つめている。ちょっかいを掛けそうな空気を感じ取り、マリルリは一声鳴いて静止する。先ほどからマリルリの無言の圧力を感じ取っていたリーフィアは居心地悪そうにうずくまっていた。

「あったわ、ポケモン図鑑。危ない危ない、忘れるとこだった」

セーフ、とつぶやくクリスは忘れてる時点でアウトなのはスルーすることにしたらしい。さっそくリーフィアにポケモン図鑑を向けて登録する作業を開始したクリスは、聞き慣れた電子音を聞いた。早速ページを検索してみるが、該当データは存在しなかった。残念ながらクリスが持っているポケモン図鑑は初期のデータであるジョウト地方しか反映されておらず、シンオウ地方にのみ入手可能なリーフィアは反映されていない。データを更新したことは、見たポケモンの数が更新されていることをみれば明らかだが、一覧には出てこない。全国版にバージョンアップしなければならないのだ。しかし、珍しいポケモンのデータを得たか否かはポケモン図鑑の完成度に大きく影響することを考えれば、一歩前進したのは間違いない。ポケモンマニアはジョウト地方やカントー地方では入手が難しいポケモンを見せてくれると言ったはずで、期待度は上がる一方だった。楽しみねー、と笑うクリスの横では、地味にクリスの膝元をめぐる争奪戦が繰り広げられていたのだが、どこ吹く風であるのは言うまでもなかった。ちなみに青年はジバコイルやダイノーズ、シンオウ地方の御三家など貴重なポケモンを見せてくれたのだった。








「ホントにいろんなポケモン持ってるんですね、すごいなあ」
「あはは、そんな事無いさ。ポケモンに覚えさせる技とか、性格とか、ポケモンの持ってる能力とか才能とかを見ぬいて育て上げるのが君たちトレーナーだとしたら、きっとそれと一緒だよ。ポケモンに向ける情熱の方向性が違うだけなんだよね、きっと。僕もポケモンマニアなんて呼ばれて長いことたつけど、出会ったポケモンも知り合った友達も大切なつながりなんだ。ほら、進化用のアイテムを入手する方が大変だったりするけど、僕はこいつらを通していろんな人達と話をするのが楽しみでもあったりするんだよね」
「なるほど。ポケモンが大切にされてるって分かると安心できますし、きっとそれがここにポケモンたちがいる理由にもなってるわけですね?あ、そーだ。そういえば、どうしてシンオウ地方のポケモンを集めようって思ったんですか?」
「そうだねえ。実は僕がシンオウ地方に行こうと思ったのは、あるポケモンがどうしても欲しかったからなんだ。結局手に入らずじまいだったけど。でも諦めきれなくて何度かシンオウに足を運んでいるうちにこんな感じになっちゃった。今でももちろん諦めてるつもりはないんだけどね」
「なんですか?」
「ロトムさ」
「ロトム?ああ、3年前に騒ぎになってたロボットポケモンでしたっけ?」
「そうそう。シルフカンパニーのスキャンダル騒動のどさくさに紛れてそれっきりだろ?なんとか情報だけでもって探してるんだけどねー、なかなか」

青年はため息を付いた。

ロトムとは、3年ほど前にシンオウ地方で発見された新種のポケモンではないかと学会を巻き込んで大騒ぎになった謎の生命体のことである。市販されているロボットの玩具が持ち主の少年の声に応じて、搭載されていないはずの発光や鳴き声のような奇妙な音を出したり、少年の言葉に反応して動作を行い、まるで意志があるかのような振る舞いをしたことで一躍脚光を浴びたことは記憶に新しい。新聞やテレビに取り上げられていたニュースによれば、少年が言うにはロボットになる前に実体があり、少年のイラストが公開されていたが随分と変わった姿だったことを覚えている。強烈な静電気を帯びていたため直接触れることは出来ないとされ、電気タイプではないかと言われていた。が、ロボットではない実体があるのだという少年の主張の真偽が問われていたはずだ。ロトムと呼ばれていたおもちゃのロボットは、市販のおもちゃと色が違い、オレンジ色になっており、フォルムも随分と異なっていたため改造されたおもちゃではないか。そのおもちゃそのものがポケモンなのではないかと様々な仮説が立てられたわけである。無機物が生命を持ち、ポケモンに認定されることは珍しいことではない。捨てられた人形が生命を持ち、ポケモンになったケースはホウエン地方に生息しているジュベッタの例が挙げられる。もともと少年の家族は家の電気が突然点滅を繰り返したり、電化製品が動き出したり、誰もいない場所でいきなり物音がしたり奇妙な音がしたりするというポルターガイスト現象に悩まされていた。内気で病気がち、機械いじりが好きだった少年はなかなか外で友人と遊ぶことが出来ず部屋で一人で遊ぶことが多かったそうで、その時に掃除機から飛び出してきたそのポケモンを発見したのだという。モーターから出てきたから、motorを逆さ読みしてrotom、ロトムと名付けた少年にとって、ロトムが孤独だった少年にとって心の支えだったのは想像できる範囲である。しかし、奇怪の続く、ただでさえ不安だらけの毎日の中で、まるで誰かと話しているかのような行動をとったり、なにかと一人で部屋にこもるようになってしまった少年を心配した両親が少年に尋ねたことから発見された経緯がある。両親からすれば夜中に聞こえてくる声とそっくりなポケモンと息子が仲良くなっているのだ、心配するのも無理はない。両親が職場のツテでポケモン協会にそのポケモンの安全性について調査を申し入れたことから事態は大きくなっていった。当時ポケモン進化の権威とされていたナナカマド博士やオーキド博士、ポケモン研究で実績のあったタマムシ大学、シルフカンパニーが共同研究を行うことで、新種のポケモンの調査が始まっていたはずだった。少年は早くロトムに会いたいと、離れてしまった友達と会いたいという単純で当たり前のコメントを残していたのがぼんやりとクリスの中では残っている。なぜなら、少年とロトムは二度と会うことは出来なかったからである。

3年前、カントーはロケット団の活動が最盛期を迎えていた。クチバシティではポケモンの行方不明事件が多発し、お月見山では月のいしの違法採掘、稀少価値の高いポケモンの生息域を根こそぎ壊滅状態にするような無茶苦茶な乱獲など事件があとを絶たなかった。タマムシシティのゲームセンターが実はロケット団の資金源兼地下基地だったこと、そして謎のセキチクシティ封鎖が実はロケット団に占拠されていたという事実は、のちに公表されているが、衝撃的な事件だった。いずれの事件もレッドが解決していたということはかのチャンピオンリーグのブームを後押しする形になったのだが、それはさておくとして。問題は当時ポケモン業界においてポケモン研究の先進とも言えたシルフカンパニーがロケット団により支配下におかれ、しかも研究員の中には資金援助と研究支援をエサにシルフカンパニーにおける貴重な内部機密の書類や情報、研究成果を横流しする不届き者がいたことである。逮捕者は途方も無い数になり、その中にはロトムの研究に携わっていた研究者も混ざっていたことで、新種のポケモンという明るい話題は疑惑の目を向けられることになる。ゴシップ誌はある事ない事かきたて、ロトムというポケモン自体捏造なのではないかという記事を発表することもあり、報道関係者がシンオウ地方の少年家族まで押しかけたこともあった。実はシルフカンパニーの解放後、人質と化していた研究員や従業員、スタッフ、ポケモンたちの中になんとロトムがいなかったのである。ボスであるサカキや幹部クラスの人間、一部の研究員は未だに行方不明であり持ち逃げされたのではないかという憶測も立てられたが、真実は闇の中だ。その過熱報道に嫌気が刺した少年家族は弁護士を立てて人前に姿を現さなくなってしまった。今となっては少年はどうなったのか知る人はいない。結局、ロトムというポケモンが実在したのかという審議は、有耶無耶なまま終わってしまった、というわけである。

「あのニュースで話題になってた男の子、探してみたんだけど引っ越しちゃったみたいでさ、近所だった人たち行方を話してくれないんだ。まあ、パパラッチとか僕みたいに好奇心で首突っ込む人とか、振り回されただろうから仕方ないけどね。電化製品の中に入って悪さをするポケモンだっていうし、もしかしたら幽霊だって言われてるのもロトムのせいなのかなって思ってさ。シンオウ地方って結構幽霊スポット多いから、行ってみたりするんだけどどうもねえ」
「ポルターガイスト現象かー、ポケモンのせいだって分かったらちょっと怖くなくなりますね」
「だね」

ゴールドだったらどうだろう?と考えたクリスはちょっと笑ってしまった。

「君はポケモン図鑑を埋めるためにポケモンを集めてるんだっけ?もしロトムのこと分かったら、電話でもしてくれるとうれしいな」
「はい、わかりました。いろいろ面白い話、ありがとうございます」
「いやいや、僕も楽しかったよ。そうだ、サファリパークにはもう行ってみたかい?あの施設は結構カントー地方のポケモンがいるから、図鑑を埋めるためにも一度行ってみるといいよ。まだ開園前だけど、確か体験イベントをやってるはずだから。確か、今日の午後からだったかな?はい、チケット。僕はあんまり興味ないから君にも上げるよ」
「え?いいんですか?」
「いいよいいよ。行くつもり無いのに持ってても仕方ないし、イベント中に家に来てくれた人にはみんな上げてるから」
「そうですか、えっと、ありがとうございました!」


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