クリスの冒険7

「ミナキさん、質問なんですけど、スイクンて海の上歩けたりします?」

「どうしたんだい?突然」

開口一番、突拍子も無い質問をぶつけてきたクリスに、ミナキは努めて冷静に返した。友人にスイクンの事になると我を忘れてまくし立てることが気味の悪い癖だよ、ホント、と誤字ではない失礼な指摘をされたのは記憶に新しい。微妙に気にしているミナキからすれば、キミが言うな、という言葉を持って締めくくりたい話題である。そんなこと微塵も知らないクリスは、なんとなくですけど、と困ったように返した。ミナキにスイクンが水上を歩いている様子が垣間見られるかも知れない可能性を潰された落胆と、また自分ではなく別の人間がスイクンを目撃するという奇跡を体験したことに嫉妬しなくてもいい安心をもたらす。ミナキは、残念ながら人づてなんだが、と前置きして話し始めた。話題だけにいきいきするのはもはや趣味に没頭する人間の性である。生きがいと豪語するなら、なおさらのこと仕方ないといえた。

「もちろん海だろうと山だろうと道路だろうと、風のめぐるところにはどこにだってスイクンは現れるさ。海上を走り抜けたとしたら、不自然なまでに冷たい風が吹くから、それが唯一の道しるべだろうね」

「おー、すごいですね!さすがは北風の化身。泳ぐんじゃないんだ」

「私も一目見てみたいものだよ。残念ながらその姿に関しては、憶測でしか無いんだが、各地の伝承によれば間違いないだろう。まあ、エンテイが水上で出現するんだ。水タイプのスイクンも可能だろうことは予想の範囲だがね」

「え?エンテイって出てくるんですか?炎タイプなのに!」

「ああ、詳しくはマツバくんに聞いてくれ。先をこされてしまって悔しい限りだよ、全く」

思わぬ情報にクリスはぽかんとするしかなかった。







「この夕日なんてどうかしら?マリルリ。きれいだと思わない?」

フェリーの売店でおみやげとして置かれている絵葉書を物色するクリスは、ほら、と一枚100円の夕焼けをみせる。くるくるくるとラックが四方にあり、絵葉書が取れる支柱を回す。写真集は高価だし、セットは塵も積もればなんとやらで旅を続けるクリスにはなかなかの出費になってしまう。よって絵葉書は安上がりな記念品なのである。こうしてよさそうな絵葉書を見つけるたびに、新しい街に来るたびの記念として、クリスは2,3枚購入する。実は去年からの習慣なのだが、今ではすっかり売店に立ち寄るのがひとつの楽しみとなっていた。デジカメがあればいいのだが、そそっかしい上によくものをなくすクリスに両親は高価な買い物を許してくれない。マリルリはこっちの方がいい、と背伸びするので拾いあげると、そこには南国のフルーツが手前で、カクテルかジュースが描かれている。夕日が映えてとてもきれいだが、これは明らかにメインがフルーツの山盛りだ。こーら、とクリスは苦笑した。あれこれと選んだ後、ようやく1枚に絞れたクリスは売店の店員に声を掛けたのだった。

ビニル袋を下げてポケギアを見るが、ミナキとの約束にはまだ1時間ほどある。どうしようかと考えていると、まるでタイミングを見計らったかのごとく、ポケギアがコールを開始する。はやくはやくと急かすマリルリに押される形で、クリスは首に下げているポケギアを通話画面に切り替える。

『もしもし、クリス?ウチやで、アカネ!元気しとるかー?』

「あ、アカネちゃん!久しぶりね。アタシはこの通り!マリルリも元気だよ。今フェリーでタンバに向かってるところなの。お昼ごろには着くかなあ。それはそうとどうしたの?」

『そっかー、シジマさんのジムやんな?がんばりー。そうそう、もうすぐモーモー牧場のやつ近いやん?クリスはどうするんかなあって思って電話したんやんか。帰ってこれそう?』

「あー、そっか。もうそんな時期なのね。うん、大丈夫。バッジゲットしたらすぐ帰るから心配しないで」

『おーおー余裕やんか。足元すくわれんよう気いつけなあかんで?バトルは何が起こるかわからんし』

「あはは、わかってるって。大丈夫よ、うん。アタシがこの子たちを信じてあげなくちゃいけないんだよね。アカネちゃんに教えてもらったこと、忘れてないから安心して」

『その調子やで!その調子でがんばりや、クリス!』

ありがと、とクリスは笑みをこぼす。久しぶりの親友との会話にすっかりご機嫌なクリスにマリルリは首をかしげた。やがて仲の良い女の子同士の会話はだんだんと加熱していく。さっそく話題が去年に飛んでしまった。

きらきらと輝く牧草は、風になびいて海となる。見渡すかぎり緑の海に点在するのはミルタンク。初夏の兆しが見え始めた空はからりと晴れ渡っていて、はるか向こう28番道路が続く先にはアサギシティ、そして太陽の光が反射して煌めいている海がみえる。海と空の境界はまるで蜃気楼のように曖昧であり、溶け込んでいるようにみえる。鮮やか、というにはあまりにも様々な色が溶け込みすぎている。所詮人間が近く出来る色など数百しか無い。その歯がゆさをクリスは身を持って痛感していた。綺麗だな、と思って何となく始めた題材だったが、思いのほか想像しているような色が出せずにクリスは悪戦苦闘している。マジックで下書きをしたときには簡単だなあと思ったのだが、とんでもない。必死で目の前にある風景を焼き付けながら、クリスは次第にかさを増している大きなバケツを前に軍手でペンキの缶を持ち上げて流し込んでいた。そして、お願いね、と呼びかければ、頷いたマリルが根元まで青くなりつつある大きな筆でこぼれないよう、かつ色が固まらないように豪快にかき混ぜる。渡された筆を受け取り、クリスは無駄な部分をバケツの内側で落とし、さっと軽く塗ってみるがうまくいかない。湿度の高いながら、幸い高原は標高の関係で温度が低く、体感温度は遠くに貼り出されている温度より低く感じる。クリスのすぐ横には、直径高さ重量共に120cmの真っ白なかたまり。ガムテープをビニル紐で隙間なくぐるぐるに巻いてしまったような物体がおかれている。これは120kg分の牧草を円柱に固めてしまう機械によって量産されたミルタンク達のエサ、もとい漬物と同じで保存食である。本来はずっと先にある赤い屋根の大きな車庫にこれでもかというくらいに山積みにされるはずのもの。ロールという。しかし、今はなぜか他にも合計50個の白と黒の巨大な塊が等間隔で置かれているのはある意味圧巻である。クリスより小さな将来のトレーナーを志す子供たちが数人グループを作ってその塊と必死で格闘している。わいわいがやがやとそれはもう賑やかで微笑ましいやりとりが繰り広げられている。はー、とクリスはため息を付いた。こうして時折風が吹いてくるので、暑さに体力を奪われることはないが、思いのほか体は汗をかくらしい。クリス、と呼びかけられたので振り向けば、冷たい感覚が首筋を襲ってきて悲鳴を上げてしまう。けたけた、と声を上げて笑ったアカネは、ほら、水分とらんと倒れるで?とジュースをさし出してくる。うけとったクリスは早速プルタブをひねってあける。すると勢い良く飛び出してくる炭酸飲料。反射的に手を離してしまったクリスは、マリルの悲鳴を聞いた。あわてて持っていたハンドタオルで体を拭いてやる。アカネちゃん!と怒りを持って抗議すれば、突然のテロ行為を働いた頭脳犯は牧場さんからの差し入れやでー!みんなあつまりー!と収集をかけていた。黒山の人だかりを慣れた様子でさばいたのち、もー、と口を尖らせるクリスとマリルにごめんと手をあわせてやってくる。大きなツバの帽子をかぶったアカネが厚手の布地で作られたエプロンをして、片手には大きな絵筆が握られている。

「ごめん、二人ともー!怒らんといてよ!まさかそのまんま開けてまうとは思わんかったんやって。アタシが炭酸渡したのに、なーんも警戒せんのやもん。こっちがびっくりしたわ。どーしたん?クリス?なーんか辛気臭い顔しとるから、景気づけに一発とおもてなー、堪忍堪忍!ごめんな、マリル」

ほら、大奮発して二人にはモーモーミルクあげるから!とさし出してくる親友にしぶしぶ頷いた一匹と一人だった。

「なんかね、空を描きたいんだ。ほら、アカネちゃんモーモー牧場かきたいっていってたじゃない?だからアタシは空っていうか上の方描きたいなーって思ったの。ほら、たしか2段までは重ねていいんだよね?おもしろそうじゃない?」

「おー、ええやんそれ!ウチ真上まで描かんでよくなるし、ラッキー!」

「………え?って、えええっ?!ずるいじゃないアカネちゃん!」

「あはは、ずるいも何もクリスが言ったことやんかあ。変なやっちゃなー。分かった分かった、手伝ったるから泣かんの!ウチが泣かしたみたいやんか」


ほら、と新しいハンドタオルを手渡したアカネにクリスは、ならいいけど、とつぶやいた。アカネはこれから下書きに入るからか、大きな極太の油性マジックを握っている。キャップを外して後ろに装着させたアカネは、うし、と腕捲しをして笑う。

「さー頑張ろか、アタシら年長さんやからそれなりにがんばらんとあかんもんなあ。しっかし10個ってジョニーセンセも鬼畜やんなあ、もー」

「あはは、仕方ないわよ。今年で10回目なんでしょ?夏祭り。そりゃー、ポケモン塾のみんな張り切っちゃうわ」

「むー。まーええけどさ、楽しいし?そーや、クリス。さっきから変な溜息ついてどうしたん?」

「え?あ、ああ、えっとね、折角10個もキャンパスがあるんだから、頑張って空に近づけたいなーって思ったんだけどうまくいかないの。ほら、空って一色じゃないじゃない?」

「あー、まーた始まったクリスの凝り性症候群。そんなん適当でいいんやって。どうせ今日一日で完成させるわけじゃないんやから、ささっと下地塗ってもうて、そこからちょこちょこ重ね塗りすればいいやんか。1個塗るだけでもすっごい疲れるんやで?クリスは初めてやろうけど、そんな張り切っとったら疲れるだけやんか。気楽にやりゃいいんよ。どーせプロになるわけじゃなし」

「そうなの?」

「そうそう。ペンキ塗ってさ、乾く前にザーって簡単に上から白とか灰色とかわざとにじませたり、黄色ちょいちょいのっけたりするんよ。それっぽくなるから」

「うーん、でもやっぱり何か見て描かないと難しそうねえ」

「なら、ポストカードとか買ったらええんちゃう?空なんて山の近くやから、すぐ天気変わってまうしなあ。参考にはならんよ」

「そっか、ありがとアカネちゃん。じゃ、がんばろ!」

「そうやな。さっさと終わらしたろか!」

おー、という号令のもと、豪快にペンキでロールを塗り始めたクリスとマリルは、ポケモン塾の生徒たちと共に夏祭りに入り口を飾る柵替わりの大作を1ヶ月近くかけて作品を完成させたのだった。アカネの電話はこれの誘いだったのである。さて、それはさておき肝心の彼女たちの会話からはとっくにモーモー牧場の話題は終了している。

ガールズトークというものは、一つの話題に対して話していることはめったに無い。ころころと話したい話題からまるで小枝のように細分化し、そしてひっきりなしに話題が戻ったり進んだりする。思い出した、とかいう文言でころころと変わってしまう会話に付いていくのも疲れたのかマリルリは横でまーだー?とクリスの足を引っ張ってアピールするが無視されてしまう。毎度のことながら暇で仕方ない。ふあ、と暇そうにマリルリはあくびをする。誰かが勝負を挑んできてくれればいいのだが、ミナキとの約束はまだまだ先だ。

「そうそう、アカネちゃん聞いてよ。昨日ね、変な夢見ちゃったんだ。なんかね、海の上をライコウが走ってく夢見たの」

「えー、ライコウがかあ?あっはっは、すごいやんか。ライコウって確か電気タイプやんなあ?泳いどるんじゃなくて、走っとん?どんな夢よ!」

「知らないよー。なんかライコウってスコール的な雷雲とも呼ばれてるみたいだし、もしかしたら走れるんじゃない?風っていうし」

「ないないないって、ハネないやんか。特性はようしらんけど、浮いてないらしいし、エスパータイプちゃうで?怖いわそんな電気タイプ。地面技きかんやん。最強やんか」

「そうだけど……。でもね、途中でなんかほら、その、岩礁っていうの?岩が出てるとこあるじゃない?あそこに足ひっかけてこけちゃうの」

「なあんよそれー!しかもこけるって何その間抜けな伝説!まさか溺れたとかいわんよなあ?」

「それがなんか、直立不動で倒れたまんまなんかどんぶらこって感じで流されてってっちゃうんだ。気絶してたのかしら?」

「あっはっはっはっは、面白すぎるわ何その夢!どんぶらこって、川から流れてきたモモじゃあるまいし、何言っとんよクリス。昔話のアニメと伝説がごっちゃになっとるで!」

「しかも釣り人のおじさんにつられちゃうの!もうだめ、思い出しただけで笑っちゃう!」

「釣り人のおっさんすごすぎるやんか、何その最強伝説!大物にも程があるやんか、ホントどんな夢よ、クリス。ほんま時々クリスの頭ん中覗きたくなるわー、面白すぎるでアンタ。いっつもどんなこと考えとんよ!」

別に普通だと弁解するクリスの横で、トゲピーについての妄想を思い出したマリルリは受話器越しのアカネのように逐一ツッコミを入れられる環境にない自分をひどく歯がゆくおもったのは別の話である。やがて楽しい時間は過ぎてゆく。しびれを切らしたマリルリが思いっきりクリスの足を踏んづけて、涙目のクリスに必死で時計を指さした。ようやく待ち合わせの15分前だと気づいたクリスは、慌ててアカネに断りを入れて電話を切ると、先を急いだのだった。以上がクリスの意味不明な質問までの経緯である。それ故の脈略ない話題だったのだが、とんでもない方向にいってしまった現実にクリスは笑いを堪えるのに必死である。まさかの実現可能な現実。脳内ではシュールな光景が脳内をぐるぐる回る。もし正夢だったらどうしよう。クリスの中で存在する伝説と呼ばれるポケモンに対する神々しさとか厳かさとかそういった大切な物ががらがらと音を立てて崩れていく気がした。不自然なまでに沈黙するクリスに、不思議そうにミナキはまゆを寄せた。なんでもないです、と震えた声で押し殺したクリスは、行きましょう、と先を促した。









「では、ひとつ手合わせ願おうか、クリスくん。お手柔らかにお願いするよ」

「はい!負けませんよ。全力がバトルの礼儀です」

せーの、とどちらかがいうでもなく投げられたボール。ぱかりと開かれたボールの中から光が溢れる。飛び出してきたポケモンたちが対峙する。

「さあ、行くんだスリーパー。すり替え!」

凛とした声が響く。ばさりとマントを翻し、前髪を掻き上げたミナキは真っ直ぐフィールドを見据えた。スリーパーがコインをくくりつけた糸を揺らして、先制を仕掛ける。なにやら念じている。すると、マリルリが持っていた袋が凹んでしまう。突然軽くなった持ち物袋に驚いて中を除いたマリルリは、大好きなオボンのみがなくなっていて涙目である。代わりに現れたのは、スカーフだった。クリスは思わず笑った。モンスターボールを見れば、技を表示する枠が赤くなっている。これから指示を繰り出せば最後、これからずっと一つしか選択できなくなるという警告がでていた。どうやら、素早さが上昇するスカーフとすりかえられてしまったらしい。取り替えたアイテムが肩透かしを食らったためか、ミナキはおや?とでもいいたげな顔でモンスターボールを見た。マリルリは特性が二つある。クリスのマリルリは厚い脂肪。氷と炎技が半減するというものであり、もうひとつは力持ちというものである。命中率を犠牲に攻撃力が2倍という恐ろしいこの特性は、努力値も込で2倍という補正をかける。ちなみにクリスのマリルリの攻撃力は通常通り50前後の数値しか無い。

「次から先制はもらいますよ、ミナキさん。お願い、マリルリ。波乗りよ!」

ざばん、と豪快に海が爆ぜる。豪快に押し流されたスリーパーは、手すりにがんと体をぶつけて悶絶している。今の隙に交換しようか、とクリスは考えるが、スリーパーはエスパータイプの中でも耐久がたかいポケモンだ。催眠術覚えるし、すり替えみたいな相手を翻弄する技をたくさん覚える。交換したいのは山々だが、サイコキネンシスとか強力な技が飛んできたときに大丈夫な子はマリルリだけだったりする。すり替えでいろいろアイテムを取られても困る。次は確実に先制を取れる。クリスは続けて波乗りを命じた。再び押し流されていく。しかし、やはり耐久は高いらしい。ふらふらながらも立ち上がったスリーパーは、金縛りをしてきた。スカーフで技1つに制限され、しかも金縛りで技を封じられてしまったマリルリは、クリスからの指示に応じてすぐに出せる技がなくなってしまい、パニック状態になる。やけになったマリルリはどーん、となけなしの力でスリーパーに攻撃した。ダメージが返る。しかし、オボンのみで回復してしまったスリーパーはピンピンしている。サイコキネンシスをまともに食らったマリルリはきゅう、と倒れてしまう。ごめんね、マリルリ、と謝りつつ、クリスはようやくポケモンを交換した。

「お願い、エレブー頑張って!ひかりのかべよ!」

繰り出されたエレブーは、手塩にかけて育ててきたエレキッドが、ようやくフェリーでのバトルの末に進化したばかりである。30レベルでようやく進化したのは、感慨部会ものである。いわば進化してからの初戦だ。部屋の電気を停電させるほどたっぷりと電気を蓄えているエレブーは、意気揚々と後続に備えて透明な防壁を貼る。だがミナキは容赦無い。

「スリーパー、催眠術だ」

眠らされてしまったエレブーに、あわててクリスが眠気覚ましでたたき起こす。飛んできたサイコキネシスも幸い壁効果で軽減済み。体力回復をおりまぜたクリスを横に、ミナキの命じた催眠術が外れてしまう。HPは満タンだ。クリスはすかさずエレブーに命じた。

「いまよ!雷!」

晴れた空に、雷轟が響いた。大枚はたいて購入したわざマシンの恩恵がここにある。やったー!とハイタッチして喜ぶクリスにミナキは苦笑する。

「さすがといったところか、まだまだバトルはこれからだがね!行くんだ、マルマイン。シグナルビーム!」

巨大な球体が出現する。にやりと不敵に笑ったマルマインがその特異なまでの素早さで持って容赦なく攻撃してくる。まさかいきなり攻撃してくるとは思わず、不意をつかれたエレブーはたまらず大きく後退する。大丈夫?と心配そうな声のクリスに頷いたエレブーは立ち上がった。くるくるとマルマインが廻っている。ダメージが小さいのが幸いだ。まだまだ行けそうな様子のエレブーに、いくわよ、とクリスは呼びかけた。心強い返答にクリスは頷く。せっかく光の壁に進化してからのデビュー戦。頑張らせたい。クリスは活躍を見ていてくれとばかりに駆け出すエレブーを見て、指示をだした。

「そうですね、まだまだこれからです。エレブー、アナタの力、見せてあげて!サイコキネシス!」

イベントで入手したためか、わざマシンで覚えているであろう技を初めから覚えていたエレキッド時代から重宝した技である。おかげでマツバ戦では思わぬ活躍をしてくれた心強い味方だ。だが、お互いにタイプ不一致の応酬。長期戦はまぬがれない。ただ、エレブーが光の壁をはった時点で交換しないということは、物理技を覚えたポケモンが後続にいない可能性が高い。半減してしまう特殊技で攻め続ける、ひた隠しにする最後の一匹が気になりつつ、守備よりの攻防を制したのはエレブーだった。ただし、だいばくはつを警戒して出したヌオーが、まさかの急所をくらってしまい、一撃で倒れてしまったが。なにはともあれ、最後の一匹である。クリスは固唾を飲んで見守った。

「まだ、終わりじゃ無いさ。私は諦めるつもりはない。スイクンに認められるその日までは!」

繰り出されたのは、ゴースト。やった!とクリスはガッツポーズする。技PPも消費しているが、まだまだいける。クリスの目の輝きにミナキはまぶしそうに目を細めた。

「エレブー、サイコキネシス!」

鮮やかな光があたりを包み込んだ。光の壁が役目を終えてゆるやかにほどけていく。ぱちぱちぱち、と拍手が聞こえる。クリスは対戦ありがとうございました、と微笑んだ。いやこちらこそ、と握手を求められ、それに応じる。ミナキはなかなかトリッキーな戦い方をする。それが楽しくてたまらなかったのだ。

「キミがスイクンに認められる理由が分かる気がするよ。参考になった。ありがとう」

「いえ、そんなことないですよ。アタシも楽しかったです」

「いやいや。これはささやかながらのお礼なんだが、聞いてくれるかい?私は使者をおくるといったね?それは実はこの子がモデルなのだよ」

「え?」

トゲピーの入ったモンスターボールを指差すミナキは穏やかに笑うだけだ。

「今はまだ時ではないから、そんなに深く考えなくてもいい。何もしなくても、いずれ道はひとつに通じているというからな。とりあえず、トゲピーやマリルリたち、みんなと何時までも仲良くしてくれたまえ」

「え、えーっと、はい、これからも仲良くするつもりです。大事なメンバーだから」

そうか、と満足気に頷いたミナキは、では私はこれでと踵を返してしまう。もしかして、最初に驚かせちゃったからそのお返しなのかしら、と何も知らないクリスは思うだけだ。とりあえずポケモンたちを休ませるべく、自室に戻ることにした。



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