クリスの冒険5

ポケスロンの閉会式。無事、メダル授与も終わり、あとは開会宣言もしてくれたラジオ塔の局長さんのお話と閉幕式を残すのみ。片目が悪くて分厚いサングラスをしている局長さんは、なんだかダンディーなひとだ。緊張したわあ、と式辞を読み終えたアカネはクリスと一緒にインストラクターの人たちに交じってならんだ。その時である。凄まじい音があたりに響いたのは。

「だれや、アンタ!」

ロケット団の奇襲だ。突然押し掛けてきた黒い服の男たち、女たちに悲鳴をあげる観客。アカネはクリスをみる。クリスはうなずいた。

「局長さんはここでみとって!うちらでなんとかするから!」

「アタシとアカネちゃんに任せて、みんな、落ち着いて!」

来賓のラジオ塔の局長さんや観客は、スタッフたちがまもる。大丈夫ですか?と局長さんに問われたクリスとアカネはうなずいた。ぐずっている女の子は、クリスお姉ちゃん、と後ろでジャージをひいてくる。彼女は、今日のポケスロンで2位になった。前まで、可愛そうだからとなかなかポケモンを叱れずにいて、それだけポケモンたちに優柔不断な面ばかり見せていてなかなかうまく指導できなかったのだ。クリスはちょっとだけアドバイスしただけだ。喜び勇んできた彼女が、メダルを見せてくれた矢先の事件遭遇だ。守らなくては、とクリスは思う。

たがが子供だと侮るロケット団の下っぱに、クリスはかちんときた。せっかく成功したポケスロンの水を差す真似をしておきながら、ポケモンをよこせ?ふざけているにもほどがある。クリスは、マリルリとヌオーをくりだした。さいわいちかくには、競技に使った水場がある。

「いくわよ、みんな?アタシたちが楽しんでくれたみんなを守る番!」

二匹はうなずいた。下っぱは、ラッタとアーボックをくりだしてくる。ラッタがかけてくると、鋭い歯をマリルリのしっぽにぶつけた。やーん、とあばれるがなかなか離れない。

「ヌオー、穴を掘る!マリルリ、波乗りよ!いっきに押し流しちゃって!」

ぬぼーっとしていたヌオーは、マイペースにうなずくとさっそく土に潜り、アーボの攻撃をかわした。はっとしたマリルリは、一目散にプールに飛び込む。ラッタはあわてて放すが、マリルリの声に反応して、プール全体の水が激しくうねりをあげる。ざっぱーん、と辺りが水浸しになる。流されたラッタとアーボ。再び持ちなおすと、今度はマリルリに集中攻撃が飛んでくる。ふらふらになりはじめたマリルリに、クリスはいいきずぐすりを施して援護する。ふるふる、と首を振って持ちなおしたマリルリは、もう一度波乗りを発動させる。ヌオーがようやく行動を開始する。仕留め損ねたラッタに下から頭突きをくらわせた。ふっとんだラッタを押し退けて起き上がったヌオーごと、敵陣営に波乗りがおそいかかる。今度は穴からざっぱーん、と二十の攻撃が追撃した。ちゃっかり貯水なヌオーは、マイペースに体力を回復させる。
やった!クリスはガッツポーズ。アカネを見れば、うちに喧嘩売るなんて十年早い!とあっかんべーしていた。あとは下っぱたちと戦っているスタッフさんの支援だ。二人はうなずくと先に進んだ。


「マグマラシ、火炎グルマよ!」

炎をまとったマグマラシが、丸くなるとごろんごろんと転がり落ち、どん!と後ろからドガースを攻撃する。ラッキー、火傷だ。大丈夫ですか?と局長さんに呼び掛けると、ありがとう、と礼を言われた。以前から室長部屋に閉じこもり気味だと言われていたわりには、なんのことはない、ちょっとだけ仕事熱心なおじさんだ。片目が見えないなら、外出も億劫だろうし、仕方ない。なんとなく片目でポケスロンの平均台をあるいたら大変だったと思い出したのだ。クリスはアタシから離れないで、という。ああ、頼みましたよ。

ドガースのスモッグ攻撃で視界がさえぎられてしまう。すかさずクリスはマグマラシを戻して、ピジョンを繰り出す。鋭い目を欺けるようなポケモンはいないのだ。

感心した様子で、やりますねえ、と局長さんに誉められクリスは照れたように笑った。

「ピジョン、逃がさないで。翼で打つ攻撃よ!」

風を生み出して、黒煙の中をピジョンはつっこんでいく。まわりをみれば、どんどんやられていく下っぱたち。退散も時間の問題だろう。

ほっとしたクリスに、局長さんは、ありがとうと笑った。下っぱたちが逃げていく。捕まえなくてはといこうとしたクリスは、局長さんをみた。なんですかな?と局長さんはいう。

「……あ、穴だらけに水浸しにしちゃってごめんなさい。あとでなおしますから!歩けないですよね?どうしよう」

「なーに、スタッフの人を呼びますから心配には及びませんよ。お嬢さんはお先にどうぞ」

「ごめんなさい!」

クリスはそれじゃあ!ときびすを返して、ロケット団を追い掛けようとする。そうだ、と局長さんが呼び止める。

「お嬢さんはどうにも元気がよすぎて、バトルに夢中になると、まわりが見えなくなってしまうようです。もう少し落ち着いて行動を心がけてください。そうじゃないと、大変なことになりますよ?」

「は、はーい。心がけます!」

おちつきがないといつも成績表にかかれていたことを思い出してクリスは笑う。クリスは、気を取り直して駆け出した。

「本当に大変なことになりますよ?お嬢さん」

ねえ、ヤミカラス。どこからともなく飛んできたヤミカラスに、局長さんは笑った。いってらっしゃい、と局長さんは、ヤミカラスをサミット会場へと飛ばしたのだが、むろんこの混乱の最中見ているものなどいなかったのである。

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