クリスの冒険2

一匹のメリープが、もこもことした綿を震わせて、中に蓄えられている電気を飛ばす。はるか上にある、背の高い広葉樹。おいしそうなオレンの木の実がなっていた。ばちっと見事に命中した電撃に驚いて、木に止まっていたポッポ達が鳴き声を上げて、ばさばさと飛び去っていく。電撃はオレンの木の実を支えていた細い枝を焦がし、ぽすん、とオレンの木の実が落下する。駆け寄ったメリープは、口にくわえようとして、はっと何かに気づいたのか、辺りを見渡した。


がさささっと近くの草むらが揺れる。メリープはびくっとして、後ろに下がった。



「やっと、見つけたあ!お願い、マグマラシ!えんまくよ!」



逃がしはしないんだから!


勢いよく草むらから飛び出してきた少女の命令に従って、背中から炎をまとっているポケモンが飛び出してくる。炎タイプのヒノアラシから進化したヒノアラシというポケモンである。少女の前に躍り出たマグマラシは、メリープが攻撃を開始する前に、大きく息をすいこみ、ぼふっと黒い煙を吐き出す。視界が煙に包まれ、メリープは視界が阻まれ、命中率が低下する。メリープが足音を頼りに電撃を飛ばしたようだが、そこにすでにマグマラシはいない。



少女、ことクリスは必死で考える。クリスの手持ちは、ポッポとマリル、そしてマグマラシ、トゲピーの卵。ここまでの道路は虫、草タイプばかり出現して、ヒノアラシに任せていたら、マリルより先に進化してしまったのである。キキョウジムは飛行タイプのジムだから、準備万端といきたいため、今朝からずっと探していた電気タイプなのだ。逃がすわけにはいかない。これで4回目のチャンス。慎重に行かなければ。ポケモン図鑑を少しでも埋めようと、みたことのないポケモンを見つけたら、ひたすらボールを投げていたせいで、今ボールはあと3つしかない。普通に攻撃しては、マグマラシのレベルが高すぎて、すぐ一撃で倒れてしまうのだ。だが他の二匹はメリープが弱点のタイプで相性が悪い。だからこうして、マグマラシの煙幕でひたすらメリープの命中率を下げ、ほとんど当たらなくなったら、一番レベルの低いポッポの攻撃でダメージを削るしか方法がない。



ひたすら、目くらまし作戦である。時折電気ショックが当たってしまうが、レベル差補正が幸いして、あまり深刻なダメージには至らない。計6回。クリスは、ありがと、マグマラシ!とボールに戻した。



「今よ、ポッポ!つつくでダメージを削って!」



いくら、効果今一つでも、つばさで撃つでは倒れてしまうかもしれない。捕まえるまでメリープのレベルが分からないのが、難点だ。風向きが変わる。もくもくと黒煙が広がる草むら、こちらも視界が危ういが、ポッポは鋭い目という特性で、命中率が下がらない。的確に姿をとらえるポッポは、ばさばさとせわしなくはばたかせ、メリープに向かって飛び込んだ。お願いだから、急所にはあてないで!と祈りながら、見守る。目が痛くなってきた、と生理的にこみあげてくる涙をぬぐって、クリスはボールを構えた。



メリープの悲鳴、いや、鳴き声だ。これでポッポの攻撃力が低下してしまう。メリープは足取りがふらついている。攻撃力が下がったから、もう一度攻撃できるだろうか、とクリスは思うが、ポッポのモンスターボールを見て、えええっと声をあげてしまう。なんでこんな時に、せいでんきが発動してしまうのだろうか、ついてない。せいでんきを持っているポケモンを直接攻撃すると、麻痺になってしまうことがある。まひになると、時々動けないうえに、素早さが半分になってしまう。これではメリープに先制を取られてしまう。クリスは、マグマラシに取り換えた。



「お願い、いっぱつで捕まって!」



傷薬は、モンスターボールを買いすぎてない。10個でもう一個おまけ、なんて広告を見てしまったら、衝動的に手が伸びてしまったのを思い出し、クリスは冷や汗。



ボールを投げる。メリープが吸い込まれ、モンスターボールが、からからから、と転がる音がした。かたかた、かたかた、と抵抗するメリープ。やっぱりもう一回攻撃した方が良かっただろうか、いやでも、と考え直して、見守る。


ばしゅ


「ああっ!あーもー、捕まってよ!」


ボールをもう一度投げるが、今度は弾かれてしまった。あああ!クリスが悲鳴をあげる隙をついて、メリープがもう一度電気ショックを飛ばしてくる。しかも今度はマグマラシが麻痺状態になってしまった。今までのダメージが蓄積して、もうかが発動。マグマラシの背中の炎が威力を増すが、倒すわけにはいかない。最後の一つ!と祈りをこめてモンスターボールを投げるが、だめだった。はあ、とクリスはため息をついた。



「マグマラシ、ひのこ!」



威力の増したひのこがメリープに襲いかかる。マグマラシとポッポは、経験値をもらった!





「ああ、ごめんね、みんな。一回、ポケモンセンターに戻って、あとはトレーナー戦でお小遣い稼ぎましょうか。お金が足りないわ……」



ついてないわ、とクリスはため息をつく。今までトレーナーから逃れるように、ずっと草むらにもぐっていた。お疲れ気味のマグマラシが、こくり、とうなずいた。帰り道でトレーナー戦になったら最悪である。きょろきょろ、とトレーナーがいないか確認しつつ、クリスはバッグをかけ直した。



がさり、と音がして、クリスとマグマラシはびくっとして身構える。



「あ、僕は戦うつもりはないよ、安心して」

「え?」

「あはは、驚かせちゃったかな、ごめんね。それにしても、惜しかったね」



おーい、こっちこっち、と中性的な声がするほうを振り向くと、そこにはクリスと同じくらいのショートカットの男の子が茂みから出てくるところだった。黄緑色の短パンと半袖の服を着ている、虫取り網を持っている彼は、戦う意思はない、とあわてて手を振る。腰にモンスターボールが3つある。虫取り小僧だろうか。勝負を挑まれるのでは、とどぎまぎしたクリスは、ほっとしてにっこりと笑うと、こんにちは、と返した。



「ポケモンセンターなら、すぐ先にあるからさ、回復してくといいよ」

「えっ、ホント?」

「うん。君、見かけない顔だから、近所のトレーナーじゃないでしょ?だから知らないんじゃないかなあ、って思ったんだけど、どうやら正解だね。ポケギアを見てごらん?この森の先に、釣り堀があるんだけど、ポケモンセンターがあるんだよ」

「えーっと、あ、ホントだわ。よかったあ、ありがと!アタシ、クリスタルって言うの。クリスでいいわ。あなたは?」

「僕はツクシだよ。虫使いのツクシっていうんだ。よろしくね」

「ええ」

「僕も行くところだからさ、よかったら、案内するよ」

「じゃあ、いきましょっか。もうちょっとよ、がんばりましょ、マグマラシ」











「バスケットボール大会?」

「うん。この近くのアルフの遺跡の博物館がね、一般公開できるエリアが増設されたから、リニューアルオープンしたんだ。その記念大会が開催されるんだよ」



アルフの遺跡っ?!博物館?!何それ、と普通の女の子とはややずれた部分に反応して、目を輝かせるクリスに、ツクシは少々戸惑いつつ説明を加える。もっとくわしく、と腕を掴まれ、せがまれたツクシは、う、うん、とうなずいて苦笑いを浮かべた。


大脱線で20分ほど使ってしまったが、ポケモンセンターの談話室にて、ツクシから一緒に出ないか、と誘われたクリスである。ルールをパンフレット片手に聞く限り、面白そうである。開催時刻は昼。充分間に合う。



「僕、虫タイプのポケモンばかりなんだ。でも、今回、この大会の常勝チームの火吹き野郎のアキヒコが参戦するって聞いて、タイプ的に不利だから協力してくれる人探してたんだ。参加するなら、どうせなら優勝したいじゃない?」

「なるほどー」

「しかも、優勝したら、今回はエレキッドがもらえるんだよ?」

「エレキッド?」

「えへへ、悪い話じゃないでしょ?この大会はね、たいてい普通は手に入らない珍しいポケモンがもらえるから、参加者が多いんだ。クリスちゃんみたいに、初めての人もたくさんいるから、大丈夫だよ」

「へええ、おもしろそう!いいわ、アタシも参加する!よろしくね、ツクシちゃん」

「……ツクシちゃん……。あはは、やだなあ、クリスちゃん。呼び捨てでいいよ?」

「え、そう?」



あったばかりなのに、「ちゃん」じゃなくて、呼び捨てでいいなんて、友好的だなあ、とクリスは思う。ひきつったまま、笑みを張り付けていたツクシは、ごほん、と咳をして、再び話を戻した。











「今よ、ポッポ!ボールを離して!マリル、じゃんぷ!」



しっぽをばねにして、飛び上がったマリルが、ブーバーを飛び越えて、ボールをつかむと、思いっきりバウンドをつけて、ボールをたたきつける。ツクシの指示で、糸を吐く攻撃でたくさんのビリリダマによって、モンスターボール状のバスケットボールのかく乱作戦を封じる。すぐに、リザ―ドのひのこで糸が焼き尽くされてしまう。動き始めたもう一体のブーバーを硬くなったトランセルとコクーンが躓かせて、邪魔をする。


バウンドしたボールをストライクが拾い上げ、パスをする。マグマラシが電光石火で一気に駆け抜ける。リザ―ドとブーバーたちがガードに立ちふさがってしまう。あわあわ、としたマグマラシが、後ろで聞こえたマリルの声に反応して、思いっきり投げた。



受け取ったマリルが、再びしっぽを軸にしてびょーん、と飛びあがり、さらに跳躍する。
そして、そのままボールを自分ごと押し込んだ。




ピ――――――!



ホイッスルが鳴り響いた。



しばし、瞬きしたクリスとツクシは、顔を見合わせた。ゴールに通り抜けたボールが、ぽんぽんぽん、と転がる。



「……か、勝った?」

「や、や、やったあああ!やったよ、クリスちゃん!僕らのチームが優勝だよ!」

「きゃーっ!やったわ、ツクシ!みんな、よく頑張ったわね、おめでとう!」



だだだっとコートに駆け込んだクリスとツクシは、ポケモンたちのところに駆け込んだ。
マグマラシとポッポの頭をなでる。おめでとう、と抱きしめたクリスは、マリルの姿がないことに気づいて、きょろきょろ、とあたりを見渡した。



「あ、マリル、大丈夫?!ちょ、あ、スタッフさーん!」



ネットにすっぽりとはまってしまって、動けないマリルが悲鳴をあげる。あーあー、とクリスは頭を抱えた。いくらあつい脂肪だからと言って、お菓子ばかり食べているからである。ツクシはくすりと笑った。








「これからクリスちゃんはどうするの?」

「えっとね、エレキッドと一緒に、キキョウジムに挑戦するわ。がんばりましょ?」



元気に腕を振り上げるエレキッドに、ツクシは元気なエレキッドだなあ、と微笑ましそうに笑った。



「がんばってね。ヒワダジムにもいくんだろ?楽しみにしてるよ」

「え、あ、そのつもりだけど、え?……もしかして、ツクシ、ヒワダジムの人なの?」

「えへへ、黙っててごめんね。ジムリーダーやってるんだ」

「えええっ?!な、えっ?」

「実は仕事だったんだ。あはは」

「うそでしょおっ?!アカネちゃんから聞いてるわ。虫ポケモンの使い手って……あなたのことだったのね?」

「へええ、アカネさんの知り合いなんだ?もー、ならなんで僕のことちゃん付けするかなあ、意地悪なんだね、クリスちゃんたら」

「え?」

「え?」

「ねえ……アカネさんから、聞いて、る、よ、ねえ?」

「え、何が?」

「まさかとは思うけどさ、あ、ははは。一応、一応言っておくけどさ、僕、男だよ?」

「………え?」

「えー」



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