第7話

ツバメが低く飛ぶと、雨が降る。ちっちぇえ頃に亡くなった爺ちゃんが言ってた言葉だ。なんでも湿度が高くなると、小さなツバメやスズメといった野鳥は気候の湿度によって翼が重くなり、うまく高く跳べないんだそうだ。カラスとか白サギくらいの大きさなら左右されずに飛べるくらいの浮力を産めるそうだけど。だから湿度が高いってことは、雨が降る確率があがるってことだな。もちろんこの時期じゃないと通用しないけど。ジムに向かっていた俺は、キキョウジムすぐ真上での周囲に群れをなしているポッポ達が、一斉に止まっているのを見た。こりゃ一雨くるかな?幸先悪いじゃねーの、これから再戦ってときに。



ややテンション下がりつつ、俺はジムの門をたたく。テレビじゃ今日はいい天気だってお墨付きだったのにな、と疑問に思いつつ、たのもーっと道場破りよろしく掛け声をかけた。ぎいいいい、と門があく。てっきりサングラスのおっさんがポケモンの銅像の前でアドバイスをくれるとばかり思ってたんだけど、どうも典型的な道場の作りを呈しているキキョウジムは、ぐいーん、とクレーンで上空に持ち上げられるようなからくり屋敷じゃない。金銀に近い。先に進んでいくと、一気に視界が開け、まるで空手道場みたいな一室に出る。きっとゲームじゃ省略されてたんだろうなあって地味に感動したバトルフィールドが置かれている。まるでバスケのコートのようなラインが引かれ、中央はモンスターボールをかたどったシンボルが張り付けてある。きいきいと軋む床を踏みしめて、俺は3日ぶりのジム戦に臨む。2つのモンスターボールを携えて、藍色の袴儀に薄い青みがかった灰色の和装をしているジムリーダー、ハヤトが俺を認めて、きり、と笑った。



「挑戦者、だな?」

「おうよ。今度こそ、キキョウジム・ジムリーダー、ハヤト、アンタのバッジを貰いに来たぜ!」

「よろしい。こちらの手持ちは2体だ。わたしに勝てばポケモンリーグ公認のウイングバッジを与えようぞ。全力で来い!」



俺たちは、同時にモンスターボールを投げた。


「ゆけ!ピジョット!」

「頼むぜ、イシツブテ!」



相手が覚えてる技はピジョンと大差ないのが幸いだ。つばさでうつ、どろかけ、はねやすめ、この3つで耐久仕様になってる。おかげで何の対策もしてなかったから、どろかけ連発されて、命中率下げられ、かろうじて当たったみずでっぽうのダメージすら回復、じわじわ責められて先発のワニノコ落とされて、防御が低めのホーホーは先制とられてリフレクター張る暇なんてなかった。たぶんのこり1つは電光石火。つまり全部の攻撃技を半減できる恰好のタイプだ。3回くらいは耐えられると思う。


新しい手持ちか、とハヤトがつぶやく。レベル差は埋めようがないけど、なんとかタイプ補正で持つだろう。さすがに序番道路でレベル30以上なんて何日かかるかわかったもんじゃない。泥かけされても抜群だけど防御力は折り紙つきだ。どろかけ受けてもロックカットで素早さを高めて、いわおとしで攻撃すれば何とかきっかけはつかめるはず。



「ピジョット、ふきとばし!」

「えっ?!」

「少々厄介なのでな、御退場願おうか」



なんという鬼畜!ピジョットが激しいまたたきでつむじ風を起こす。まあ竜巻(固定ダメージ)とかフェザーダンスよかましだけど、よりによってそれかよ!あーくそ、メンドくせえ!風にあおられてイシツブテがモンスターボールに戻されてしまう。そしてボールが転がってしまい、アリゲイツが現れる。今から変えるとよけいなダメージ喰っちまうな。アリゲイツには頑張ってもらうか。



「ほう、進化させたのか。では仕切り直しといこうか、ピジョット、つばさでうつだ!」

「徹底的に防御面を強化したんだ!今度は一撃じゃ倒れないぜ!アリゲイツ、こわいかおだ!」



3日間ずっとイシツブテとコラッタ、ポッポを倒しまくった成果を見せてやれ!容赦なく飛んでくるタイプ一致の猛攻をかろうじて耐え抜いたアリゲイツが、殺気をみなぎらせてピジョットを見る。チコリータん時と変わらないくらい、ぞっとするような無表情さだ。びくり、と体を震わせたピジョットは逃げるように上空に滑空する。本能的に捕食者のまなざしに気づいたらしい。うーん、やっぱりけっこう削られちまったな、2回くらいは耐えられるかと思ったけどやっぱりレベル差補正はきつい。たぶん次はぎりぎりで先制をとれるはず。氷の牙にしようと思ってたけど、これならいけるな!



「アリゲイツ、じたばた!」



最後の気力を振り絞ってピジョットに向かって突っ込んでいく。どーん、とかまされた体当たりにバランスを失ったピジョットが降下する。そのすきに、がぶり、と首のあたりを後ろから鶏冠ごとふかぶかと噛みつく。ぴいいいいい!と耳をつんざくような悲鳴。ピジョット!と叫んだハヤト。あーくそ、やっぱりうまいこと急所ってわけにはいかないか!



「振り払え!翼で撃つ攻撃!」



じたばたはこちらのHPの残量分だけダメージを与えられる。急所やたすき+先制技もちじゃないと同じターンに相手を仕留めきれなかった場合、カウンターをくらってしまう。大きな翼でなぎ払われたアリゲイツは、そのまま壁に向かって打ちつけられ、きゅう、と伸びてしまう。俺はモンスターボールに戻した。でも初戦でいっぱつKOだったことを思えば大健闘だ、お疲れ様、ゆっくり休んでくれ、と俺は次の相手を繰り出す。



「ピジョット、はねやすめで回復だ!」

「よっしゃ、ラッキー!ホーホー、いっけー!催眠術!」

「しまった!」

「今のうちに、リフレクターだ!」



ピジョットは眠ったままだ。よっしゃよっしゃ、ラッキーついてる!でも俺はイシツブテと交換した。攻撃力半減とはいえ、ホーホーじゃリフレクター張ってても耐えられない。うーん、ロックカット積むにしても、起きられて、どろかけはなあ。効果抜群に絶対にさがる命中率が地味に痛い。小細工している暇はないな、後攻だろうといわおとしで削ってやるぜ!一度ダメージを与えてしまえば、回復に回るだろうし、あと4ターンが限度だ、大丈夫、いける!



2ターン後に目を覚ましたピジョットの猛攻を耐え抜いたイシツブテのいわおとしが決まる。よっしゃあ、と俺はガッツポーズをした。



「見事なトレーナーとポケモンの連係プレーだ。ここは潔く評価しよう。突破されたのは初めてだ」

「よくやったぜ、アリゲイツ、イシツブテ!」

「喜ぶのはまだ早いんじゃないか?ゴールド」

「へ?」

「言ったはずだぞ?手持ちは2体だと」

「あ」



やべえ、普通に忘れてた。ハイタッチしていた俺とイシツブテは顔を見合わせて、おずおずと手を下ろす。うっわ、恥ずかしい!つか、やべえ、やべえよ、イシツブテが生命線じゃねーか!たぶん奇襲催眠は2度も聞かないだろうし、どこまでいけるかな。最悪元気のカケラだな、ホーホー犠牲に。赤面して、戻しかけていたモンスターボールをベルトにつけ直していると、ハヤトが奥の方にある掛け軸の掛かった書院造の棚を押す。そして、ぐい、となにやらひもを引いた。ごごごごご、と音がして、ジム全体が揺れる。地震か?!あわてる俺をしり目に、今度は掛け軸の代わりに現れたレバーを勢いよく押した。



「え、ちょ、なにしてんだよ!」

「おもしろくなってきたと思ってな。これからの戦いに、このジムは少々狭い。やはり飛行タイプのジムだ、空中戦といこうじゃないか」



ぐい、とレバーが押される。今度はぱらぱら、と上からチリ埃が落ちてきて、上を向くと、まるで野球ドームみたいにジムの天井が見る見るうちにしまわれ、ジム全体に影が落ちる。なんか積乱雲が真上にあって、ぐるぐる渦巻いてるんだけどさ、今にも降り出しそうな天気だ。空中戦なんかして大丈夫かよ、ハヤト。といいかけてやめる。都合よく雷が落ちて戦闘不能になってくれるかもしれないし、黙っとくか。いやでも雨降ってきたら、イシツブテやばくなるな、泥かけの量がいやでも増しちまう。それにしても、すっげー、アニメみたい。ゲームよかよっぽどからくり屋敷じゃねーか。唖然としている俺に、ハヤトが呼びかけてくるから向いてみた。



「ここで負けていたら、と後悔することになるぞ?本当に挑戦するんだな?」

「ったりめえよ!今さら引けるかってんだ!な?イシツブテ」


振りあげられた腕。頼もしいぜ。


「はは、だが残念だ、ゴールド。君は負けるだろう。なぜなら、このポケモンには絶対に勝つことができないからだ」

「なに勝手に決め……て………?」





俺は今度こそ言葉を失った。優雅に特有の雰囲気をまといながら、2体目のポケモンが飛来する。

ひんやり、とした冷気がここまで降りてくる。寒そうでイシツブテはいやそうな顔をしていたが、ハヤトのいう2体目をめにするやいなや、突然唸り声を上げ始めた。ゲームだとミュウツーの目前、レッドさんが待ち構えてるシロガネやまの山中、と強敵がいるということを本能的に感じ取って警戒しているんだろう時の反応だ。そしてもう一つ、この反応をまじかに目にする機会がある。なんで今まさにそんな強敵相手にしなくちゃいけなーんだよ、どんだけ負けたくないんだよ、序番ジムだろ、空気読めよこの野郎!つーかなんでこんなところにいるんだよ!



俺の反応を見て、満足そうにハヤトが笑う。俺は思わず叫んだ。



「なんでキキョウにフリーザーがいるんだよーっ!!」


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