第70話

どうどうどう、と聞いているだけで恐怖に駆られるような川の音が反響して聞こえる。ひんやりとした空気に満たされた空間は、どこまでも澄んでいる。目の覚めるような寒さが俺を襲う。たまらず目を覚ました俺を待っていたのは、真っ暗闇だった。あれ?と思う間もなかった。不意打ち禁止いい!時間差で全身が鈍い痛みに悲鳴をあげて、一瞬呼吸を忘れた。強く体のあちこちをぶつけたらしく、声を上げることすらできないまま、悶絶のあまりうずくまった俺は、横になっているところが余りに冷たくて驚いた。さわり心地のいい毛布でも柔らかいクッションでも、ソファでもなく、水を含んでドロドロになった粘土状の何かをつかんでいる感触。一気に現実に引き戻される。つばを飲み込もうとして異物を感じた俺はあわてて吐き出すと、そのまませき込んだ。なんかしらないけど、土を食っていたらしい。袖で拭うとしたら、どうも土臭い。あれ?と思って触ってみると、レインコート。どうやら全身泥だらけらしい。気持ち悪くなってレインコートを脱ぎすてる。どうやら土の上で寝てたらしく、幸い骨折とか捻挫とか行動できないような怪我は負っていないものの、ずっと横になっていたせいか妙なだるさがを感じる。あーくそ、洞窟の中に逃げ込んだはいいけど、ロープを伝って身長に降りたわけじゃないから、落下速度を殺しきれずにそのまま豪快にすっ転んだらしい。頭でも打ったのか、それとも身体を強く打って耐えられなかったのか、正直一睡もしてない身体はいろいろと限界だったみたいで、そのまますとんと意識を飛ばしてたらしい。かっこわりー、何やってんだろ俺。悪態をつくと、ピッピの鳴き声がしたので辺りを見渡すが、まだ暗さに慣れていない俺はさっぱりどこにいるのかわからない。名前を呼んだ俺の声が、じんわりと洞窟の中に響いた。返事が聞こえる。よかった、ピッピも無事だったか!早く来いと指示して、飛んで行かんばかりにあわてて返事をするピッピの声に少し笑って、ほっと一息。ほっと俺は息を吐いた。声に出して初めて俺は声がかすれてることに気が付いた。ああ、そっか。ずっとクリス達探して大声あげてたから。ようやく喉がからっからなことに気付いた俺は、リュックからおいしい水を取り出そうとポケットを探る。すると後ろから、ずんと、のしかかる感覚。びっくりして硬直すると、それはどんどん上にあがってきてすとんと俺の腕の中に納まる。まるで抱っこをせがむように手を広げてくる。鳴き声だけでなく、超近距離になって初めてピッピだとぼんやり輪郭を判断できるようになって、俺はようやく力いっぱいピッピを抱きしめたのだった。ぐしゃぐしゃな顔でわんわん泣き始めてしまったピッピに俺は頭をなでてやる。気絶した俺を見てどうしようどうしようとパニック状態になっていたのだろうことがよくわかる。ピッピ一匹じゃ俺を運んだりできないだろうし、捕獲したばかりの新人は自分と同じ仲間たちが俺の腰元のボールにいることを知らない。さぞかし心配したのだろう。あったかさを感じながら、ピッピが落ち着くまで俺は、心配掛けてごめんな、とわしゃわしゃなでることにした。

久しぶりに飲んだ水は生き返る心地がした。



「だーくそっ、風邪ひいたかな?」

豪快なくしゃみをした後、何度目かわからない鼻をかむ。ああもう。ポケットティッシュのストックあんまないのになあ。キャッチセールスのお姉さんとかから貰った奴がどんどん減っていく。なんか熱っぽいかなあ、と額に手を当ててみるが、手先がぞっとするほど冷え切ってしまっていては判断基準にならない。何となく肌寒い気がするなあ、さっき引っ張り出したTシャツとジャージを着たんだけどもう手遅れだったかな?ぞくぞくしているのはきっと気のせいじゃない。土砂降りの雨の中、長時間外を出歩いた揚句、毛布ひとつないまま一番外の気温が下がる時間帯に雨風をしのげるだけの洞窟の中で気絶。あーあ、こりゃ体調崩しても無理ないわな。今更ながらに自分の計画性のなさには後悔しかわかない。でも今更ここを脱出するには洞窟を前に進むしかないわけで。心配そうにのぞきこんでくるスピアーに、風邪がうつると悪いからと追っ払い、心配すンナと笑って先導を頼んだ。

ぶんぶんと羽音を聞くたびに背筋がぞくぞくするのはきっと風邪のせいだけじゃない。ほら、あの、黒板を思いっきり爪で引っ掻いたような音と感覚が似ている。ハチに刺されたことはないけど、多分本能的に身の危険を感じとってるんだろうなー。スズメバチでさえ2回もさされたらアレルギーで人は死ぬわけで、それを考えたら肝が冷える。縄張り意識の強いスピアーはアニメみたいに侵入者には容赦なく複数で襲いかかるらしいから、間違いなく死ぬ。こんな特大のハチに襲いかかられるとか、普通に考えてダブルニードルからお尻の針で刺されるより前に死ぬ。というか、スズメバチがモチーフなら、普通働き蜂にしろ女王蜂にしろ優遇されるのはメスのはずなんだけど、ミツハニー系列で顕著なオスの不遇さが存在しないスピアー達のコロニーって一体どんなんだろう?ちょっと興味あるなあ。ツクシにでも聞いてみようかね?オスって確か生殖の期間だけ生まれてきて、特に仕事はしないで女王蜂のためのハレム的な部屋で一生を過ごすはずだから、いわば大奥的な立ち位置だったはずだ。でも衣食住の補償がされてて本人は働かないってそれどこのニート?実は最初ニックネームを考えるとき真っ先に浮かんだのがそれだったんだけど、さすがに由来を知ったら思いっきり刺されそうな気がしたからやめた。俺はまだ死にたくない。モンスターボールってすごいなあ、と今更ながらにその効力に驚きつつ、俺はスピアーが照らしてくれる洞窟の中をだるい体を引きずりながら進んでいた。寝不足と風邪気味に加えて無理に体を酷使し続けたせいか、どうにも身体が言うことを聞いてくれない。あー、くそ、しっかりしろよ、俺。かぶりを振って、俺はひたすら前を見据えた。思いのほか洞窟は広い。ただわかるのは、だんだんと洞窟が下へ下へと下がっていく下り坂になっていることくらい。どこまで続いてんだろう、これ。それに、幸いにも今まで一匹もポケモンと遭遇していない。シルバースプレーを振りかける時間も惜しんで進み続けていたから今まで気づかなかったけど、さすがにここまで静かなのはおかしくないかと俺は思い始めていた。ズバットの泣き声すら聞こえないとかどんな異様空間だよ、ここ。なんだか嫌な予感が脳裏をよぎるが、前を進むしかない俺たちはバトルに備えるくらいしかできることはなかった。それにしても、だ。

「なあ、いくらなんでもきれいすぎないか?ここ」

スピアーが振り返る。

「オイラ達が入った場所が多分出口でさ、どんどん入口に向かって進んでるんだとは思うんだ。どんどん広くなってきてるし。でもな、いくらなんでも掘った土の山とか、石ころひとつ見つからないのはいくらなんでもおかしくね?なんかこう、全部もってっちゃったみてーなんだけど」

なあ、何がいるんだろう?その一言が口にできなくて、俺は曖昧に笑った。自分で言っててうすら寒くなってきた、あはは。多分、気のせい。






ヨーギラス
タイプ:いわ・じめん
分類:岩肌ポケモン
高さ:0.6cm
重さ:72.0kg
地中深くで生まれるヨーギラスは、進化するまでにひとつの山を崩すほどの土を平らげる。掘り進んだトンネルの先で地上に出なければ、コロニーを形成している親の顔を見ることができない。

まぐまぐまぐ、と頬いっぱいに土を詰め込んで、止まったら死ぬのだと言わんばかりの勢いで壁にかじり付いている黒い塊は、時折思い出したようにげふと息を吐く。そして再び一心不乱に現在進行形でトンネルを形成し続けていた。つまり、孵化したこのヨーギラスは親のいるはずの地上のコロニー目指してひたすら穴を掘り続けていたが、どういうわけか見当違いの地上に出てしまい、引き返して再びトンネルを作る作業に戻ったらしい。なんという方向音痴。野生のヨーギラスだから、生まれながらに本能で方角とか分かりそうなもんだけど、やっぱりそれぞれ個性があるらしかった。

えーっと?思わず思考回路が停止する。口元がひきつるのを感じた。俺と拍子抜けした様子で唖然としているオ―ダイル、フラッシュで辺りを照らしてくれているスピアーの前で、特に驚いた様子もなく無心になっているヨーギラスというシュールな光景が広がっている。この天然のダンジョンは、親のコロニー探して三千里中のヨーギラスが作ったってことで、つまりは、えーっと?・・・・・・・・・・ただの寄り道ダンジョンかよ!なんだよー、なんかあんのかと思って警戒してた俺が馬鹿みたいじゃねーか!生まれたばかりのヨーギラスが作り上げた出来立てほやほやの洞窟だ。ディグダの穴みたいにポケモンの作った穴が年月を経てズバットやイシツブテ達が住みついて、ポケモントレーナーたちが通うようになって、いつしかポケモン協会や管轄のジムの手が入ったら地図にも載るくらいの通路になるんだろう。道理でおかしいと思ったんだよ、シルバースプレーが切れちまって野生のポケモンがいつうじゃうじゃわいてくるかドキドキしてたってのにさ、不自然なほど一匹もポケモン出てこないし、泣き声すら聞こえないし。もしかして何か奥に潜んでるんじゃないかと嫌な予感しかしなかったってのに、まさかの見当はずれという意味で当たりやがった。ここまでの労力返しやがれーい!半ばやけくそで投げたレベルボールに飲み込まれたヨーギラスは、ろくに抵抗する様子もなく、あっさりと捕獲できてしまって拍子抜けする。はあ、と息を吐いた俺に、どんまいとばかりに置かれた手はオ―ダイルのものだった。ああ、わかってるよ、まあ変なことに巻き込まれないで済んでよかったけどさ、けどさあああ!ちくしょうめ、と悪態をつくのは悪くないと思う。やりきれない思いを抱えたまま、俺はとりあえずレベルボールを拾い上げてデータを早速表示させた。

「はあ?」

思わず仕舞いかけたポケモン図鑑を再び広げたのを不審に思ったのか、なんだなんだとオ―ダイルたちが寄ってくるので、俺はとりあえずレベルボールに表示されたデータを指さすことにした。まず、ヨーギラスのデータを表示している画面がまるで警告を発しているかのごとく、不自然なまでに真っ赤に染まっていた。様子やタイプを表示するところ、いろんなところが文字化けしていて、エラーエラーとびっしり文字が書き連ねてある。この時点でもう嫌な予感しかしない。いろいろ突っ込みどころが満載すぎるけど、とりあえずぎょっとしているこいつらに一個ずつ説明していこうか、と俺は息を吐いた。おかしすぎるぞ、このヨーギラス。まてまてまて、なんだこいつ。いろいろ規格外すぎることにようやく気付いた俺は、ここが安全地帯であるという結論が早計であることを思い知って冷や汗が浮かんでいた。

「色おかしいぞ、こいつ」

実物を見たのは初めてだったからポケモン図鑑に登録して初めて気付いたけど、こいつ色違いだ。ポケモン図鑑に載っている画像を見比べてみても、明らかに違うことが分かる。レベルボールの中で呑気に大あくびしているヨーギラスは、本来目の下に黒い隈のような印が浮かび上がっていて、おなかにある菱形の模様は赤色。そして全身が黄緑色をしているはずなのだが、なぜかこのヨーギラスは全身が真っ黒だった。なんだこれ。ついでに菱形が青色だ。で、目元の逆三角が白になっている。あれ?普通にカッコよくね?でも問題は、ポケモン図鑑だった。ポケモン図鑑には色違いのポケモンと出会うと、自動的に色違いのポケモンの画像がダウンロードされるシステムになっていて、色違いを捕獲したかどうか確認したり、観賞したりできるちょっと嬉しいシステムがある。こいつが本当の色違いならば反映されるはずの色違いのページが、なぜかヨーギラスのページに反映されていないのだ。明らかにおかしい。ツクシが預かってたピンク色のバタフリー思い出したぞ?でもあいにく俺は金銀水晶時代のヨーギラスの色違いが何色なのか知らないから、こいつの色が旧色違いなのか分からなかった。うーん、もしそうならかなーりレアってことになる。この世界だと金銀水晶時代の色違いは突然変異の中でもかなりの特例として扱われてるみたいだからなあ、こればっかりはウツギ博士に聴いてみるしかなさそうだ。能力地も確認したいところだけど、あいにく育てたことがないからネット上であるだろう能力判定の機械にでも数値を打ち込んでみないと詳細は分からない。性格も個性も問題はないが、色違いは基本的に能力値がそうとう低いはずなんだけど、なんでか特攻がVの表示がされている。嫌な予感がした。最後に表示された技を見た俺は、思わず閉口する。

「いくらなんでもやりすぎだろうが、なんだこれ」

覚えている技 いやなおと すなあらし アイアンヘッド げきりん

この技の組み合わせだけでおかしい、と一発で勘付けた俺は、やっぱり心の底からポケモンマニアなんだなあ、と改めて実感しつつオ―ダイルたちの説明に戻る。バトルタワーで戦い抜こうと思ったら、いちいち相手のポケモンが覚えてるはずの技とか、大体の能力値とか、特性とか、相性のいい道具とか、いちいちググってたら時間が足りない。ヨーギラスの進化形であるバンギラスの特性は砂嵐。出現と同時に砂嵐状態になるこいつは、砂パと呼ばれる砂嵐状態のときに有利に働けるポケモンや相性のいいポケモンで編成されたパーティの筆頭を務める600族の一体だ。育てたことなくても、対策立てたり闘ったりする中で嫌でも覚えちまう。野生で生まれたであろうポケモンが卵技を習得している時点で疑問符がつくが、まあサファリだから割とポケモンたちは自由に生活しているみたいだし、もしかしたら、ってこともあるかもしれない。でも、な、うん。いくらなんでもおかしすぎる。ヨーギラスは確かにアイアンヘッドも逆鱗も覚えられるけど、同時に遺伝させることは不可能なはずだ。一応エメラルド限定の教え技で両立させることは可能だけど、ここはHGSS、しかもジョウト地方。ホウエン地方なんてずっと遠いところだ。サファリパークがわざわざ教え技仕込みのポケモンを野生として放ってるんなら話は別だけど、それなら大々的に宣伝してもいいはずなのに、それらしい広告は一切なかった。どの道卵から生まれたポケモンが色違いで、しかも卵技習得済み、しかもなかなかいい感じの性格、個性となるともはや超幸運体質とか、偶然とかご都合主義の限度を超えている。こんな奴、普通に考えてサファリパークでポケモンを乱獲するような人がもってそうなポケモンなのに、逃がすわけがない。うん、背後関係は真っ黒と思っていいだろう。公式大会では出すことができないと繰り返し警告色を持って知らせてくれるレベルボール。ネットでよく話題にはなってたけど、実際にポケモンが生きてるこの世界にやるような奴が実在するとは思わなかった俺は、背筋が凍る気がした。いくらなんでもやりすぎだろ、ひでえなあ、はじめて見たぞ、改造なんて。

「このヨーギラス、人工的に能力値とか技とかいじられてんぞ、多分。……この近くにそういう施設でもあんのかもな」

いくか、と呟いた俺の声は、多分いつになくひきつっていた。





風邪はどんどん悪化している。あーくそ、今度は喉がやられてきたせいか、やたらと喉が渇き始めた。やばいなあ。体調崩すと決まって鼻水のせいで鼻呼吸ができなくなって、口呼吸に切り替えたはいいけど、そのまま今度は喉をやられて熱と症状の悪化っていうワンパターンにはまり始めてる。軽くなり始めたペットボトル片手に、おいしい水を飲みながら、俺は先を進んでいた。心配そうに立ち止まるスピアー達に先を促す。どうせこっからでないとどうにもなんないんだから、先を行くしかないんだ。

すこしずつ、すこしずつ、トンネルが平行になり始めてる。もしかして、もうすぐなんだろうか。しかし、ずいぶんと遠くまで来たなあ、とポケギアを確認してみれば、もう外が白み始めている時間帯だ。何度目か分からないあくびを押し殺して、俺は先を進もうとしら、激しい羽音にぶつかった。

「どーしたよ、行き止まりか?」

スピアーが立ち往生している。フラッシュの範囲を足元に落としたスピアーにつられて視線を落とした俺は、思わず足元がすくんだ。ほんの2,3メートル先に広がるのは底の見えない真っ黒な穴。どうやらここから先は急に傾斜になっているらしく、俺が先に行くには危険だと判断してくれたらしい。あんがとなー、と笑えば、小さくスピアーがうなずいた。無表情だからいまいち表情は読み取れないけど、気遣いができるいい子でうれしいよ俺は。なるべく近づかないようにしながら、それとなく覗き込んで見ると、こころなしずいぶんと小さな穴になっている気がする。うーん、でも何でいきなりここから急傾斜があんだろう?もっと奥を覗こうとして天井に手をついた俺は、今まで触ってきた地層とは明らかに違う間隔に気付いて顔を上げた。ん?なんかおかしいぞ、ここ。すこし力を込めて地層の土をはいでその正体を探ってみることにした。俺の様子にスピアーがまぶしすぎるくらいの明かりを当ててくれる。断然明るくなった視界の中で見えてきたのは、見慣れた地層の色とは明らかに違う灰色の固い何かだった。注意深く目を凝らして見れば、急傾斜でどんどん上に掘り進んでいたであろうヨーギラスが、ここの固い部分にぶち当たって、なんとか先に進もうとしたものの、土がご飯のヨーギラスはお気に召さなかったらしい。不自然に削られた痕跡が残されている。もしかしたら、と思って見えてきた灰色の固い何かがどこまで続いているのか確かめるべく、土を少しずつ掘ってみる。ぼろぼろと崩れてくる砂ぼこりにせき込みながら探っていくと、案の定、ヨーギラスが水平に進んできたトンネルの上には必ず、灰色の固い何かが上にあって、これ以上ヨーギラスは掘り進められないような状況になっていた。セメントか、コンクリートか、土木とか建築は思いっきり専門外だからこの上に何があるかはさっぱりわからないけれど、明らかに人工物があるのは明白だ。

はああ、と俺は溜息をついた。ああくそう、早くクリス達見つけてさっさと帰りたかったのに、何でこんなことになってんだか。風邪のせいか、それとも苦痛だからか頭が痛い。まずいな、ヘタしたらこのままぶっ倒れるかもしれない。そんな懸念がもたげてきた。

「なあ、ビート。オイラ、嫌な予感しかしないんだけど、どうしよう?」

首をかしげるスピアーに、俺はモンスターボールを確認しながら続ける。何でわかんないかなあ、もう。

「よく考えてみろって。外は砂嵐に土砂降りの大雨っていうありえない天候。トンネル掘ってる改造疑惑のヨーギラス。こいつが孵ったであろう場所の真上には、なんか建物が建ってるくさい。しかも殺す気満々の誰かさんにオイラ突き落とされかけたし?普通に考えて、このヨーギラス、人工的に孵化されてたやつが脱走したフラグびんびんじゃねーか。どうしよう」

ピッピによればこの洞窟の中に人の気配がしたっていってるわけでさ、順当にいけば……。

「やっぱあったよ、入口」

急傾斜の真上辺りを重点的に探してみると、明らかに周囲とは異なる手触りの天井が見つかった。ご丁寧に押し上げる形の取っ手が付いている。明らかに罠フラグが立ってるわけだけど、どうしよう?開けた瞬間に牢屋にごあんなーいって攻撃態勢のポケモンとかいそうで困る。少し迷った俺は、サファリパークからの離脱用につれてきてたケーシィを繰り出した。

「開けてみっからさ、もし危ないと思ったらテレポートよろしく」

スピアーを戻したことで真っ暗になった空間。さて、しろとでるか、クロと出るか。一か八かにかけて、俺は思いっきり扉を押し上げた。


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