第69話

通話機能を表示させたポケギアの画面で「クリス」と選択してから、早30分が経過している。ひたすらボタンを連打する。
ぷるるるるる、と繰り返し響いてくる電子音を無意識のうちに数えながら、40回を超えたところで再びかけ直す。
いい加減親指が痛くなってきたけど、そんな事言ってられるワケもなく、俺は祈るような気持ちでクリスが出るのを待った。
出ろよ、出ろよ、出ろよ馬鹿.なにしてんだ、早くでろってば!焦燥感はイライラに変わり、苛立ちはやがて八つ当たりに変わるが何も状況は変わらない。
くそ、と何回目になるかわからない舌打ちをして、俺は先に進んでいた。息が上がってるし、疲れは溜まっているけれど、眠気なんてとうの昔に吹き飛んでいた。
スタッフとトレーナー達によるクリスとブラックの捜索が始まってから、ずっと無限ループしている気がする。預かってもらっていた白いリュックを鳴らしながら俺は走っていた。
クリスとブラックの外見やもちもの、持っているポケモン、そして連絡先といった持ってる情報を全部洗いざらいみんなに提供して、
待ってられないから協力すると、俺が子供だからと渋るスタッフを押し切って結構な時間が経ったように思う。何時か気にしていられるほど、俺は冷静じゃなかった。
いつものメンツのおかげで道中の野生ポケモン達は心配しなくていい。サファリパークは庭だとばかりにピッピが前を先導する。
ピクシーじゃないけど、さすがは進化前。聴覚は俺よりも遥かに優秀らしく、誰かがいる気配を感じ取っているのか足取りはまっすぐだ。
森エリアの方が近いから、先にクリスをさがすことにしたんだけど、予想以上に遠い。
エリアをどんどん突き進んでいくにしたがって不安定になっていく天候のせいで、コンディションは最悪、しかも真夜中では自転車にも乗れないから、
ひたすらシルバースプレーをまき散らして足で距離を稼いでいた。

「クリスーっ!ブラックーっ!いたら返事してくれよーっ!おーいっ!」

かき消されてしまう俺の声。片手のライトすらほんの数メートル先しか照らせない有様だ。
夜行性のはずのヨルノズクに上空からの捜索を頼まず、レベルの低いピッピだより。効率が悪いのは分かりきっている。
でも、血相変えて俺がピッピと共に必死でクリスとブラックを探しているのは、どんどん悪化していくサファリパーク全体の天候に原因があった。
俺の目の前には、折れんばかりにしなる木々がある。容赦無い土砂降りの雨と確実に行く手を阻まんばかりに吹きすさぶ砂嵐が立ちふさがっていた。
それでも俺がレインコート一枚で捜索出来ているのは、ピッピの特性であるマジックガードのおかげだった。
マジックガードは相手からの攻撃以外のダメージはすべてシャットダウンできる。第4世代にピッピ系統を大躍進させた優秀すぎる特性だ。
その効果は状態異常によるダメージと行動制限〈麻痺や火傷によるすばやさ、攻撃力の低下は受ける〉の無効化、鮫肌などの特性によるダメージ、
やどりぎのタネ、のろい、締め付ける、まきびし、ステルロックなど補助効果のある技の無効化、すてみタックルなどの反動の無効化。
そして、天候変化によるダメージの無効化だ。

まるで俺達を避けるように暴風や砂嵐、そして豪雨が横切っていく。エアーズロックやノーテンキみたいにフィールド上すべての天候変化を無効化できればいいんだけど、
あいにく俺はその特性を持ってるポケモンを持ってはいなかった。俺がブラックではなくクリスを最優先に探している理由はそこにある。
ブラックのコダックは確か、しめりけとノーテンキのどちらかだったはず。スタッフは催眠術を覚えているからとブラックがコダックを連れていったのを覚えていた。
ついでに6体ポケモンを連れて行こうとしていたので、バトルはしないようにと念を押したらしい。
どっちの特性かは知らないけど、たぶんノーテンキ=心配なし。後回しでOK。たぶん。
しめりけだったら普通に考えて、いくらレベル差があるっていっても爆発フラグが立っていたゴローニャに出さないのはいくらなんでも悪手だ。
その一方で、俺の記憶が正しければクリスは一体もこの異常気象に対処できるポケモンを持ってなかったはずだ。
クリスはマリルリしか連れて行ってないって話だし、この天候を上書きできる他の天候変化技を習得してないのは、一度戦ったから知ってる。
もし覚えてたとしても、天候変化技の基本PPは5しかない。ポイントアップを重ねても、午後から参加してもう12時間も経つのにPPが切れないのはありえない。
どっか大きな木の下や洞窟あたりを探さなくてはいけない。クリスは女の子だし、多分また不安がってるマリルリなだめてもらい泣きしてる気がする。
さすがにそれは可哀相だった。

天気が無い穏やかな空間がピッピのまわりにだけ発生している。
マジックガードのおかげで俺達は大惨事にはならないにしても、荒れ狂う波のように叩きつける雨と砂埃のせいでぐちゃぐちゃになった地面は、まるで沼地のようにぬかるんでいる。
しかもえぐり取られたように形成された黒土の川は、ふかふかだったハズの雑草の絨毯をズタズタに引き裂いて、押し流してしまっていた。
履き慣れたダッシュシューズが踵まで湿っているのは分かっている。気持ち悪い音ばかりが聞こえる。でも今更そんな事気にしてはいられなかった。
本来同時に発生しえないはずの砂嵐と暴風雨という天候。どう見ても、追い打ち天候バグです、本当にありがとうございました。





追い打ち環境バグという恐ろしい言葉が脳裏をよぎった瞬間、俺は居ても立ってもいられなくなったのだ。
スタッフに話を聞いたら、山エリアには昼間活動するヨーギラスがレアで出現するが、夜になるとバンギラスやヨーギラスのいるコロニーに帰るらしい。
そいつらはレベルが高く、殿堂入りでもしない限り捕獲するのも難しいため、俺のようなビギナーは立ち入り禁止のエリアに入らなければいけないそうだ。
本来作動しているはずのエリア制限も、この悪天候による故障で電子柵やゲートがろくに機能していない状態でほとんど無力化している他、
監視カメラからの映像もろくにものを移せる状態ではない。
スタッフがカメラの映像でなんとか二人の行方を突き止めようとしているのは分かったが、途中で飛び出してきた俺は知らない。
ポケモンは野生の動物より知能もパワーも超越してる奴ばっかりだぞ?エリア区分なんてポケモンたちには知ったこっちゃないだろう。
山里の被害を減らそうと電子柵を設けても、穴を掘られたり、無理やり突破されたりと鹿や猪、さるですら出来るんだ、ポケモンだって朝飯前のはず。
行きたいと思ったら平気で抜け道作るだろうし、スタッフだってこの広大なエリアを監視しきるにも限界がある。
補填にも設備投資にも金はかかるし、絶対どっかにトレーナーが入り込んでしまう道ができてるはずだ。
夜にはヨーギラスは山エリアに出現しないはずだが、もしそのヨーギラスを追っかけてそのコロニーに侵入したとしたら?
そんでもって、捕獲しようとして禁止されてるバトルを行って、うっかり捕獲しようとしていつもの癖で追い打ちなんてしちゃったとしたら?
誰だよ、その大馬鹿は。脳裏をよぎるのは行方不明に成っているという赤毛。俺はため息しか浮かばない。やっぱ馬鹿だ、あいつ。
クリスをケーシィのテレポートで送り届けたら、見つけ出し次第一発殴ってやんないと気がすまねえぞ、この野郎!


追い打ち環境バグはプラチナから発生した致命的なバグであり、HGSSでも下手をすればリセットするしか方法がなくなってしまう恐ろしいものだ。
ある状況下で追い打ちで相手に止めをさそうとすると異常気象が発生し、被害が発生する。
追い打ちは相手が交換しようとする瞬間にこの技を叩き込むことで、通常の悪物理技が威力60から2倍になる。
タスキ効果を無視して相手に止めを刺すこともできるため、遅かったり相手の行動を予想して攻撃することが得意なポケモンたちにとって大切な技の一つだ。
そのある状況は、晴れ状態、雨状態、砂嵐状態、あられ状態、トリックルーム、そして「さわぐ」を発動中といった環境変化させた状態を指していて、
重力や追い風を含まないなど理由はよくわからない。
でも、技で天候変化しているのか、特性で変化したのかによって効果がバラバラなのがまたメンドクサイ。

まず晴れの場合。
グラードンが持ってる日照りの特性の場合、雨と砂嵐、晴れの状態が同時に発生し、しかもすべての天気で砂嵐と同じダメージが発生してしまう。
つまり、「雨がふっている」とか「日差しが強い」の表示のたびにダメージが発生する。砂嵐はHPの16分の1だから、凶悪過ぎる。
「日本晴れ」の技発動の場合は、雨と砂嵐のみだがダメージは同じく発生する。このダメージは雨の場合をのぞくすべての天候で発生するからたちが悪い。

次は雨の場合。
カイオーガの特性である雨降らしでも「あまごい」の場合でも、レックウザあたりが持っているエアーズロックみたいに、
天気は発生しているのに天候が変化していない状態になってしまう。

そしてあられの場合。
ゆきふらしの特性は雨と晴れ、砂嵐、あられが観測され、しかもすべてダメージが発生するという凶悪な天候に変貌する。
「あられ」の技を発動させた場合は、雨、砂嵐、晴れが観測される。

砂嵐の場合。
砂嵐の特性の場合は砂嵐と雨の天候が同時に発生する。
「すなおこし」の技は雨しか発生しないが、ダメージあり。

その更に上を行くのがトリックルーム。こいつは雨、晴れ、砂嵐、あられ、霧まで発生し、しかもすべてダメージが発生してしまう。
そしてトリックルームの表示がなくなるくせに効果は発動済みという鬼畜さが拍車をかけてるわけで、ひどい有様なのは想像にかたくない。

あとは何故か「重力」や「追い風」ではなく「さわぐ」の技を発動している場合も発生する。
これはトリックルーム並みの異常気象で、雨、晴れ、砂嵐、あられ、さわぐが発生し、もちろんダメージあり。
騒ぐ効果も継続中で、眠ることもできない二次被害が発生する。

この異常気象は雨受け皿という雨状態になると体力を回復する特性があるが、この場合ダメージを受けていれば回復することが可能だ。
しかし、HPが全回復しているとダメージが発生するという非常にややこしい特別仕様である。
そして異常気象が何ターン続くかは不明という酷いプレゼント付き。
もし戦闘中のポケモンの中にチェリムやポワルンといった天候変化で姿が変わるポケモンがいようものなら、終了のお知らせ。
ずっとそのポケモンのフォルムチェンジのターンが続き、もはやバトルの状況ではなくなってしまう。
この場合は直ちに電源を落として泣く泣くリセット、なかった事にするしかない。
解除する方法は、まだ発生していない天候をわざと発生させて上書きすること。
エアーズロックみたいに天候そのものの効果を無効にするポケモンを出現させること。
一番いいのはさっさと離脱するなり、敵を倒すなりしてバトル自体を終わらせるのが手っ取り早い方法なんだよな、普通に考えて。
しっかし、たかが野生ポケモンとの対戦で発生した天候バグが、なんでサファリパーク全体に影響およぼしているのやら。
さっぱり分かんないけど、山エリアが基本エリアの一番奥の立地的に見て高いところにあるのが何か関係がありそうだ。
だーくそ、めんどくせえ!早くみつかれよ、クリス!ブラック!何処行っちまったんだ、あいつら!
二人と遭遇次第捜索してる人たちにポケギアで連絡することになっていることを考えると、繋がらないコールに諦めて連絡モードに入っているポケギアが、
嫌に静かなのが精神的に堪える。シリアスモードもそこそこにしてくれよ?
俺映画や小説、ドラマなんかは見るだけならホラー系は大丈夫だけど、スプラッタやダーク系は耐性皆無なんだから!
え?ホラー系苦手だろうって?みんなでぎゃーぎゃー突っ込みながら見る分には全然いいんだよ。
その後で毎回見なきゃよかったって常に背後の気配に怯えながら夜を過ごす羽目になるけど。
想像力豊かな思考回路がマイナスにマイナスに突っ走るもんだから、なんとか振り払おうと俺はありったけの声を上げて叫んだ。

「クリスーっ!マリルリーっ!ブラックーっ!くっそ、何処にいるんだよ!さっさとでてこいよ、バカーっ!」

ピッピの足はまだ止まらない。くっそ、人の気配ってやつはまだ先にいるってのか?この先に行ったら森エリア突き抜けて、山エリアに到達しちまうぞ?
どんだけ耳がいいんだよ、ピッピ。すげーな、おい。
はやく、はやく、と急かす鳴き声に半ば意地になりながら応じて、俺は感覚のなくなってきた森の中を走り抜けた。
ライトが俺のガタガタになりつつある重くなってきた走りのせいで一点を照らしきれず、ふらふらしている。
くるりとあたりを見渡せば、似たような明かりがぼんやりと2,3ほど後ろの方に見えたから、捜索してくれてる人たちはいるようだ。
近くを捜していても意味が無い。やっぱりピッピを追いかけるのが先だな。ぜいはあ言いながら、俺は先を急いだ。




ピッピが人の気配を見失ってしまったのか、途中で立ち往生してしまった。




どれくらい走っただろうか、傾斜が出てきた木々の合間を潜り抜け、獣道がますます細くなっていくのが嫌でもわかる。
すぐ横には水の激しく流れる音がして、泥の塊から足を踏み外しそうになったときなんとかピッピが捕まえてくれたおかげで助かったが、
どうやら川が流れているらしかった。どぽん、て鈍い音がするには随分と時間がかかったから、ある意味断崖絶壁みたいなところの縁にいるのかも知れない。
暗くてイマイチ距離感がつかめないんだけど。
あーくそ、ぶっ続けで走り続けて喉がからっからだ。手持ちのライトの光が細くなり始めたため、仕方なく俺はリュックをひっくり返して電池を補充する。
ついでに疲労の色を見せ始めたピッピにも、とがぶ飲みしていたスポーツ飲料の口をぬぐって渡した。もう首元のタオルなんて意味を為してない。

「まだ遠いのか?ピット」

任天堂の飛べない天使から拝借した名前を貰ったピッピは困ったようにあたりを見渡す。
近くにいるのか?でも気配は感じないのか、ますます困惑を深めている。
うーん?こっから気配が消えてる?車なんて使えない場所だってのにそんなことありえるのか?

「まじかー、きっついなあ。もしかして、やっぱ山エリアにいっちまったのかなあ?」

ピッピは首を振った。ふーん、足音はしない、か。
このあたりにいんのかな?俺もピッピと一緒にあたりを探してみることにした。


15分ほど捜したが、見つからない。


「え?けど結構森エリア抜けてきたよな?オイラ達。もうすぐ山エリアに入っちまうぜ?」

うーん、とピッピはなんと伝えていいのかわからないニュアンスに悩んでいるようだった。
遠くはないってことは、さすがに山エリアに入らなくてもいいってことか。
でもあとちょっとって距離ではない。どういう事?

「どっちの方向なんだ?」

ピッピはまっすぐと川が流れているであろう、さっき転落しそうになった崖をさす。
思わず沈黙した俺は、は?と間抜けな声をこぼしてしまった。
どうどうどう、と猛々しい音をあげながら、いつもは渓流なのだろう水流は濁流すら飲み込んで、
背筋が凍るようなスピードですべてを押し流していた。
え、ちょ、ま、おまっまさかまさか、まさかっ?!冗談だよな?と我が目を疑う。

「こっから落ちたとか言わないよなっ?!クリスは結構タフな奴みたいだけど、さすがに死ぬって、押し流されてるって普通!」

どうしよう、やっぱ応援呼んでと半ば頭が真っ白になってポケギアを握りしめた俺に、落ち着け、とピッピがたしなめるように鳴いた。
へ?と再び間抜けなツラを晒すことになった俺は、ピッピがよく見ろ、とばかりに何度も指し示している場所をもう一度慎重にライトで照らしてみた。
樹齢何年かは分からないけれど、きっとサファリパークが出来るずっとずっと前からタンバでポケモンたちを見守ってきたのだろう巨大な大木がある。
そこにはよく目を凝らしてみると、途中で紐が切れてしまったのか、風に巻き上げられてしまったのか、長い紐が複雑に絡み合っていた。
紐の端を取って持ってきてくれたピッピから受け取った俺は、その先に石か何かをくくりつけて重しにしていたあとをみた。
これはあれか、下に降りようとして岩をくくりつけて下に降ろしたけど、なんかの理由で岩がすっぽ抜けてこの暴風に紐が絡め取られて・・・・・・。 

「なあ、ピット。この崖の下に洞窟とかあったりすんのか?」

そのとおり!とでも言いたげに、嬉しそうにこくこくとうなずいたピッピがこれくらーい、と体いっぱいに手を広げる。
ピョンピョンと俺の上に登りたがるあたり、それなりに大きな洞窟らしい。
万が一滑って落ちたら困る。俺はロープをたぐり寄せて、グルグル巻きに腕に巻いて、手でもしっかりと持つ。
大木に慎重に近づくと、ロープから離れないように身を乗り出して覗き込んだが、暗闇が待ち構えているばかりだった。
さすがに降りるのはあぶねえなあ。誤って流されちまったら死ぬ。薄ら寒くなって、俺はポケギアで本部のスタッフの人に電話することにした。

「そこに人の気配がすんだな?」

ピッピはうなずいた。これは人をよんだほうがいいかも知れない。

「クリスーっ、ブラックー!もしいたら返事してくれよーっ!」

ダメもとで叫んでみたが、やっぱり濁流に音が飲み込まれてしまったのか、反響すらしない。
雨風、砂嵐はますます激しさを増している。いくら俺達のまわりだけがマジックガードの恩恵に預かれてても、まわりの環境音が邪魔をする。
電話はまだつながらない。山近くだから、電波が悪いのかも知れないけど、サファリパークの園内だ。本当なら整備されてるってのが理想なんだけどなあ。
もともとつながりにくいのは慣れているにしても。ああ、風が強くてアンテナごと倒れたり、倒れたのかも知れない。
最悪の条件が重なってるなあ、と今さらながらに思いながら俺は再び二人を呼ぶべく息を吸い込んだ。
そのときだった。さっきからしきりに背後を気にしていたピッピが、いきなり俺の足元に思いっきりタックルをかけてきたのは。
予想外の反動にバランスを崩した俺は、反射的に手元のロープにしがみつく。
ピッピも後ろから飛び乗るように俺に抱きついてくる。
がくん、となった俺は、驚いて電灯をはなしてしまった。どぼん、と濁流に飲み込まれていく。

「あああ!ライトが!いきなり何すんだよ、ピット!ってうわあああ!」

何だ何だ?!光源を失ったせいで暗闇に落とされた俺は、慣れた夜とはいえいきなり暗くなった錯覚に陥り混乱する。
ただ分かったのは、俺がロープを握ったまま放り出され、ピッピがそれを追撃したこと。
そして、ぶん、という鈍い音が響いて、何か硬いものが俺の寸前で通り抜けていったちうことだけだ。
宙ぶらりんなまま滑りそうなロープに体重がかかり、腕に巻きつけていた腕が締め付けられて悲鳴をあげる。
ぶらーん、とまるでブランコのように投げ出されたロープの上で、ピッピが俺には目もくれず威嚇するようにさっきまで俺がいたところに声を上げる。
訳がわからないままそっちを見た俺が見たのは、大きな塊を抱えた誰かが再びその影を振り下ろそうと待ち構えているといういきなりの死亡フラグだった。
腕に巻きつけたロープがしなる。痛い痛い痛い!思わずうめくとその影は笑いやがった。
こいつ、俺を殺す気か?!一瞬で状況が把握できた俺は、森エリアを探索するにあたり邪魔な草木をどけるべく習得させていた「いあいぎり」をピッピに指示する。
下を見ると洞窟がすぐそこで大きな口を開けて俺を待っていた。仕方ない、ぶん殴られて川に落とされるのはゴメンだ。
俺は思い切ってそこに飛び込んだ。


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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
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