第6話

ただいま、キキョウシティのポケモンジムのフロント。巨大なモンスターボールのうえだけ上部にくっつけたようなポケモンセンターは、珍しい仕様だな。上から見る能力がない分、ちゃんと一発でわかる建物なのはありがたいぜ。わーひとがいっぱーい。ウツギ博士がポケモンセンターにいるよう取り計らってくれたらしいけど、そういえばポケモン爺さんがどんなひとか知らねえや。さすがにドット絵だけじゃ判別できないしなあ、あーくそ攻略本の杉森さんの書き下ろしイラストちゃんと見とけばよかったぜ。基本的に女キャラしかチェックしてないからなあ、あっはっは。男のジムリーダーなんぞ興味はないんだよ!ライバルに落書きするのは、デフォルトですが何か!



キョロキョロ、とオーキド博士を連れてる爺さんを探すけど、なかなか人が多くてわからない。あー、電話番号聞いいときゃよかったぜ。いるかー?ワニノコ、と聞いてみるけど、やっぱり会ったこともない人間の匂いはさすがにたどれないらしく、首をふられる。二階に上がって見渡すか、と方向転換した俺は、ジェントルマンとぶつかってしまう。あ、すみません、と反射的に謝った。ごほん、とせき。前を見ると、蝶ネクタイにスーツ、そして帽子をかぶった白髪に口髭を蓄えた俺より身長が高い(ちっくしょー、なんで唯一コトネより身長が5センチもしたなんだよ、ヒビキは!リアルで考えたら女子の方が成長早いだろうけどさ!)ジェントルマンが、かつかつ、と杖を携えて現れた。やあ、と笑う。



「ワニノコをつれた少年、だね。ワシに何か用か?」

「あ、もしかしてポケモン爺さん?」

「いかにも、ワシがポケモン爺さんじゃ。ウツギ博士のお使いの子じゃろう?すまんのう、わざわざここまで来てもらって。いきなり訪ねてきおった誰かさんが、アルフの遺跡を案内しろとうるさくてのう」



ほっほっほ、じゃないっての、しかもオーキド博士のせいかよ!コガネシティのポケモン講座収録はどうしたよ、実は録画放送とかいう残念仕様のくせに。本当だよ、とむくれると、ワニノコも真似して怒ったように腕を振り上げる。約束の日に来てくれなかったもんじゃから、といわれてしまえば、ううう、と詰まるしかない。つまりすべてはあいつが原因ってわけだな、俺が引き返す羽目になったわけだし、と自己完結。もちろんウツギ博士のポケモンが盗まれた事件に関しては、朝からどのニュース番組でも扱ってる。新聞でも三面記事だ。でも少年法に基づいて具体的な容姿とかは明かされず、10代の少年としか公表されてない。難航したら顔写真とかモンタージュとか張り出されるんだろうか、ちょっと見てみたい気がする。大変じゃったのう、と言うあたりポケモン爺さんも把握はしてくれてるらしい。あー、やっぱり邪気眼とか厨二とか付けたらおもしろかったのに!いっそのことサカキとか!つか苗字か名前かわかんないし、どんだけネタばれだ。あーでもそんなことしたら、次会ったとき、あいつに殺されそうな気がするから、まあいっか。



「ワニノコとは、珍しいポケモンを連れとるなあ。ウツギ博士の研究のお手伝いかい?偉いのう」

「へっへー、最初のパートナーなんだ」



なー?というと、元気のいい鳴き声とジャンプ。いっひっひ、いい反応だぜ、相棒!



「で、用ってなに?」

「これをウツギ博士に持っていってほしいんじゃよ。ポケモンの卵なんじゃが、珍しいがらじゃろう。育て屋夫婦がみつけたもんでな、ポケモン進化学専門のウツギ博士に見てもらおう、というわけじゃ」



ごろん、と差し出された卵。おおう、意外とでかいなトゲピーの卵。そもそもこいつって誰のトゲキッスとメタモンもしくはその他卵グループと結婚させたんだろう?トゲピーって生まれてもまた卵の殻かぶってる謎生物だよな。今さらだけど。よっしゃ、これを後で助手から受け取って、ホウオウかルギアフラグを立てるわけですね、わかります。そろそろ舞妓はんの対面フラグかな?わくわく。



「でも進化学だったら、ナナカマド博士がいるんじゃ?」

「ほおう、よく知っておるなあ。じゃがのう、若い可能性はどんどん育てていくべきじゃろう?ナナカマド博士の門下生第一期生らしいからのう、お墨付きじゃよ」

「あ、オーキド博士!はじめまして、オイラ、ゴールド!こいつはワニノコ!ポケモン講座いっつも聞いてます!(目覚まし代わりだけどな!クルミの補足はフリーダムすぎるゼ)」

「ああ、はじめまして、オーキドじゃよろしく。ウツギ博士から話は聞いておるぞ」



なんという裏設定。そんな言及ゲーム中あったっけ?まあいいや。なんだかんだいって感動だぜ、生のオーキド博士!ピッピカチュウ!君もポケモンゲットじゃぞ!って声が再生されるぜ、やっほう!



「しかし、せっかくここまで来てくれたのに、引き返してしまうのももったいない気がせんか?ゴールド」

「いやいや、オイラが頼まれてここまで来たんだから、やっぱいい、はちょいと困るぜ!」

「ははは、誰かさんによく似て、真面目じゃのう」



人に頼まれるってのは、それだけですごいことなんだって、お母さんが言ってた。まったくもってその通りですってな。誰かさんってやっぱりレッドさん?グリーン?それともリーフちゃん?聞きたいけどさすがに聞いたら怪しまれるよなあ、と思って言えないのが歯がゆいぜ。頭を撫でられる。なんかちょっと照れるなあ、あー死んじゃった爺ちゃんのこと思い出すぜ。へっへーもっと褒めろ!とばかりに笑うと、おいこら、なんだよその目線は!ワニノコ!うっせえわ、人間はなあ、一定年齢を過ぎると頭撫でられるなんてシチュエーションないんだぞ!これがごつごつした骨ばったおっさんのじゃなくて、年頃のお姉ちゃんならもう言うことないんだけどなーなかなか難しいもんだぜ。



「ウツギ博士にも会っておきたいし、わしが持っていこうかと思ったが、余計な御世話だったようじゃのう」

「おつかい、ちゃんと終わらないとジムに挑んじゃ駄目ってお母さんにくぎ刺されちゃって、あはは」



俺は卵を抱きしめた。重いなあ、とつぶやくと、ああモンスターボール入れておきなさい、といわれる。了解。それにしても、まったくもって余計なお世話です、オーキド博士。この卵をちゃんとウツギ博士に渡して、助手に再び受取って、きちんと孵さないと、かわらずのいしもらえないじゃん。それに加えて、わざわざリメイク用にげーふりがいろいろ複線張ってくれて、舞妓はんもスタンバってくれてるだろうにオーキド博士がもってっちゃったら、なんという涙目展開。ホウホウイベントはぜひとも生で拝みたいんだよ、フラグへし折ってたまるかい。え?なんでポケモン爺さんもオーキド博士も、仕方ないなあ、この子は、あははそういう年ごろだなあ、的な視線をよこすんだ?あれ?と考えてみる。



あ。普通、キキョウシティまで来たら、戻るの面倒だからむしろ喜ぶのか?いやでもお母さんからランニングシューズ貰わないといつまでも徒歩はつらいし、って言ってないっけ?よく考えてみたら、いいって!博士たちは見ててくれよ、これは俺のおつかい!って必死こいて手助けを拒否するガキそのものじゃね?はじめてのお使いがうれしくて、なんでもかんでも自分でやりたがる、強情でわがままちっくな子供みたいになってね?違う、違うからね!とあわてて否定しようとするけど、ますます微笑ましげに笑われてしまう。あああああ、なんという羞恥プレイ!俺は諦めてしょぼくれた。あーもー、ゴールドになってからどうも思考回路とかしぐさがガキちっくになってきてるなあ、体に精神が適応しちまってんのか?面倒だなあ。



「ということは、これから引き返すんじゃな?で、それから全国を回る、といったところかのう?」

「もちろん。へっへー、楽しみにしてて!オイラ、チャンピオンになんのが目標なんだ。もちろんカントーにもいくつもり」

「これは心強いのう。うむ、ゴールドなら、このポケモン図鑑をしっかりと埋めてくれそうじゃな。こんなにしっかりとしたまじめな子に育って、親御さんもうれしいじゃろう、ははは。じゃあ、ゴールド、これを君に上げよう。心ばかりの選別じゃ、最新型のジョウト版のポケモン図鑑じゃ、受け取ってくれい」

「おおう!ありがとう、オーキド博士!」

「くれぐれも、60匹で止まることはないようにな」



アイテムとの強制交換までは頑張ったんだなあ、レッドさん。なんて俺だ。だって俺なんてメインの6匹と秘伝要員以外はろくに捕まえなかったせいで、12.3匹だもんな、博士に罵られるのも恒例行事だったぜ。はーい、と返事だけは頑張ってみる。やべえ、ゲーム中じゃまったく完成させる気ゼロだったけど、実際に本物の博士から直々に貰うってテンションあがるなあ。とりあえずストーリー中でゲットできる奴だけは頑張ってみるかな、とやる気が出ている俺がいる。さあいつまでもつやら。



「集まってきた、と思ったら、電話してくれ。ポケモン図鑑を評価してやろう。ささやかながら応援しとるぞ」

「了解!」



そうだ、これをウツギ博士に見せて、モンスターボール助手から受け取りに行かなきゃ。あっぶねー、1000円分損するところだったぜ。なにはともあれ、俺は二人に別れを告げた。



「あら、あなた」


呼び止められる鈴を転がしたような声。振り返ると舞妓はんがいた。いや舞妓「さん」か。ライバルのまさかの「さん」づけは笑ったなーキャラじゃねーだろ、イブキを変な格好扱いしてファンを敵に回しておきながら。まったくゲーフリはライバルをどういうキャラに持っていきたいのかよくわかんねーなあ。どうも、と頭を下げる。きれいだなあ、さすがはホウオウ降臨の舞を踊るキーパーソンキャラ!からころとならして、こちらに近づいてくる。見とれていると、不機嫌になったワニノコに足をかまれた。いてててて!なにすんだよ、と涙目になると、ぷい、とよそを向いてしまった。


「もしかして、ゴールドはん?」

「え、あ、うん」

「ポケモン爺はんから、卵は無事もらえました?」

「今もらったとこだけど、なんで知ってるの?」

「うふふ、それは内緒。女は秘密が多い方が、ええでしょう?とりあえず、その卵、大事に大事にウツギ博士んとこにもっていっておくれやす。たのんだえ?」

「はあ、まあ」

「では」



去って行った。何も知らなかったら、間違いなく勘違いするか、不審者と思って通報してるところだよな。俺はジムに向かった。







とりあえず、キキョウシティの門下生だけ戦ってみて、レベルをつかんでおこうと挑んでみた。……甘く見てた俺がバカでした。うわーん、と泣きながら俺は全滅したモンスターボールを抱えてポケモンセンターに逆戻りするはめになった。なんで門下生一人もいなんだよ、ミカンかおのれは!



ちっくしょー!フラッシュなんて知るか!イシツブテ捕獲して、戦力強化してやる!覚えてろよ!いいかけた捨て台詞を飲み込んで、震える怒りをこらえて、笑う。ありがとうございました、と半額支払って、ジムを後にする。



「ふふふ、また来るといい。ゴールドといったか、君には見込みがある。楽しみにしているぞ」



袴儀のジムリーダーが笑って見送ってくれた。勝者の余裕に悔しさがにじむ。岩ジムの伝統に空気読めてないとか史上最弱のジムリーダーとかネタにしてごめんなさい、ハヤトカッターってお笑い芸人扱いしてごめんなさい!チートなレベル13のピジョンはどうしたんだよ、ファザコンめ!ただでさえ「はねやすめ」もちでいやらしい戦法つかうくせに、おなじみの2匹をライバルにぼっこボコにされたせいでいないとか、お前それでもジムリーダーか!ジムリーダーならありえないくらい飛行タイプのポケモンを大量育成してるんじゃないのかよ!プライベートもとい強化ジムポケモン繰り出してくるとかどんだけいじめだよ!ちっくしょー、すべては負けちまった俺の愚痴だよ、悪いか―!



信じられるか?2対2のバトルでさ、ハヤト、ピジョット繰り出してきたんだぜ?最低でも36レベルだぜ?ねーよ、どんだけ大人げないんだよ!こちとた平均レベルは17.5だぜ、チックショー、何の対策もしてないんだよ、勝てるわけあるか!そういうわけで、俺はあっさり初陣を真っ白にするはめになってしまったのだった。





俺の他にもハヤトに負けた人は多いらしく、結構な人だかりができていた。


全部俺よりジム攻略早かったライバルのせいだー!すでにベイリーフは常識として、とどめにメリープとかどんだけ余裕だよ。もっと苦戦しろよ、腹たつなあ!くそー、マダツボミの塔であったらボコしてやる!とやつあたりなことを考えつつ、待つ。うーん、今昼間だからつながりの洞窟付近で粘って、ぎりぎりでよるかあ、お母さんに遅くなるって連絡しねーと。俺は、戦力強化を誓ったのだった。


そうだ、あいつの名前わかったから、刑事さんに電話しなきゃ!とポケギアを鳴らす。ハヤトに挑戦したときに名乗ったらしく、入口の像に堂々と名前が刻まれていた。つーか名前あんのかよ!と思ったけど、よく考えたらなにも押さずに「はい」を推したって判定されたんだろう、たぶん。まさかのデフォルトかー、つまんねえ、???じゃねーのかい。まあいいけどさ。ソウルじゃないんだ?とちょっとだけ疑問に思ったけど、すぐに刑事さんに電話する緊張感で彼方に飛んでしまう。



ライバルの名前、ブラックだって。かっこいいな、おい。


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