第59話

えーっと、準備万端だよな?と一応モンスターボールのステータス画面を確認する。
オーダイルはLV.45だ。技は高速移動、吹雪、噛み砕く、なみのり。
ヨルノズクはLV.44。ルギア戦が効いたな。技は催眠術、リフレクター、エアスラッシュに神通力。……やっぱ補助効果は美味しいんだ。あはは。
ゴローニャがLV.42。大爆発、大文字、岩おとしに地震。あーあ、ロックブラスト覚えさせりゃ良かった、身代わり潰せたのに何やってんだ、俺。ストーンエッジを覚えるレベル把握してりゃ馬鹿な選択ミスしなかったのに!
ピカチュウが頑張ってレベル上げをしまくったおかげで、29まで上がってる。技はボルテッカーと電磁波、電光石火、電気ショック。重複してるけど仕方ないよな、ボルテッカー連発したらすぐ倒れちまうし。
ちなみにバルキーがLV.26。技は一切変化なし。マッハと飛び膝蹴りと手助け、猫騙し。


ポケモンセンターにも行ってきたし、フレンドリーショップが無いタンバでは持ち物が生命線だ。すっかり忘れてたぜ、もっと回復用の道具買っとくんだった!薬屋さんが思いのほか遠いのが致命傷。もし行くとなると、半日かけていずれはサファリになるのだという建設途中の敷地をずーっと横切って山を登らなきゃいけないらしい。なんてこった。行き帰りで一日費やしちまうのは困る。今日ジム戦するって言っちまったしなあ、というわけで、結構慎重にフルメンバーで挑むことになりそうです。こんにちは。








ウイーン、と開かれた自動ドアをくぐり抜けていくと、どこか遠くの方からどどどどど、と絶え間なく水の打ちつける音が聞こえてくる。わずかながらの湿気を感じ取ったのか、連れている秘伝要員その1なサンドが嫌そうな顔をした。引っかかる感覚に下を向くと、ボールに戻せとばかりにがじがじがじ、とサンドが這いつくばって必死でアピールしている。オモイオモイオモイ、痛いッてやめれ!かわいいけどいたいって!ぶんぶん、と足をどけて引き離した俺は、裂けてないか確認したけど幸い無事だ。あぶねえなあ、もう。こら、と叱責するより先にまた俺のスニーカーの紐を爪でひっかけて止めようとしてくるサンドに俺はためいきをついた。あーもー、靴ひもが解けちまったじゃねーか。しゃがんで結ぼうとすると、ボールに戻せと腰のボールに寄りかかってくる。

「だーめだって、まだ分かんねえだろ?確認してからな」

よいしょっと邪魔しないように抱えあげ、おろせおろせとバタバタしている砂漠育ちの甲羅のように硬い体を羽交い締めにする。あっはっは、これくらいなんともねえよ、ワンパク坊主を捕まえんのはワニノコで嫌ってほど慣れてんだ。残念でした、もうちっと付き合ってくれ。そう呼びかけると諦めたのか頭と尻尾を丸めて体ごとまるくなってしまった。あはは、ボールみてえ。膝との間にはさみながら、俺は靴ひもを結んだ。普通に結ぶ時に作った輪の中に二回紐をくぐらせて力を入れるとほどけにくくなる。蝶結びにしてからさらにできた両方の輪を丸結び。不自然なまでに結び目が盛り上がるけど仕方ない。不恰好だろうがどうでもいいし。よいしょっと紐を靴の交差している紐のあたりにくぐらせ、解けないようにした。どうせしょっちゅう踵を踏んづけているせいですっかり跡がついちまったスニーカーは、紐をわざわざ解かなくても履ける。とんとん、とつま先を叩き、これでよし。立ち上がろうとすると、さっきまで大人しかったサンドがいきなり暴れだす。ちょ、いきなり暴れんなよ、いててててっ!脇腹を思いっきり蹴られた俺は思わず手を緩めてしまった。

「────っ!!」

一瞬呼吸が止まった。履きならしたスニーカーは指の部分が丁度いい具合に空白部分がある。そこにどごっと落ちやがったサンドは、つま先の小指に直撃する。いってええええええええええ!声に出すのも忘れて悶絶した俺はたまらずそのまま崩れ落ちる。痛い痛い痛い!こころの中で絶叫しても声が出ないせいで、体の中に痛みが巡っていく錯覚さえ覚える。数表遅れて思いっきりタンスの角に小指をぶつけちまったような鈍い痛みと衝撃が俺を襲った。図鑑によれば高いところから落ちてもバウンドして衝撃を受けないという説明のとおり、ケロっとしているサンドがのぞき込んでいた。お前なあ!涙目で何かいおうにも声にならない。やばい前が見えない。ばかやろー!と俺は思いっきりサンドを羽交い締めにした。けたけた、と笑っているサンドは捕まえたままのレベルで、8のままだ。そんなサンドにやられる俺ってどうなんだろう、とぼんやり思う。お前はSか、Sなのか。何処が寂しがり屋だよ、表記間違ってんじゃねーか?モンスターボールめ。俺は半ば意地になってサンドを連れて奥に行くことに決めた。……あ、ちょっと待って、マジでいてえから動けない。たんま。

やっぱり基本的にボックス警備員で必要なときだけ出動を要請する秘伝要員組は、レギュラー達よりも懐き度がはるかに低い。一応手持ちにいるときには構ってやってるつもりだけど、うまくはいかないようだ。ポケモンを捕獲する時に低いレベルにしておきたいしずーっと持ってるのも圧迫するだけだから、レベル上げはおろか連れ歩きもしないからなあ、格差がひどい。6匹制限の弊害だ。1番の古参がこのサンドな訳だけど、やっぱり思うところがあるようで。てちてちと後ろから歩いてくる姿は愛らしいものの、水の気配に嫌悪感を隠さないサンドは俺の足にへばりついている。ま、まだしびれてんだから追撃すんなって、ばか、いてえええ!

「だーかーら!もし怪力が必要だったらどうすんだよ、わざわざポケモンセンター戻んのやだよ、オイラさあ」

滝の音が聞こえる以上、怪力の要らないHGSSバージョンのギミックかもしれないけども、とは飲み込んでおいた。硬くなるなんかされたら俺が死ぬ。だってさ、普通に受け取ってたけど、アサギシティの食堂で船乗りのおっさんからひでんマシンの怪力をもらった時点でもしかしたら、とフラグを予想してたんだよ。だってHGSSだと確かチョウジに向かう途中の洞窟から飛び出してきた山男のおっさんから、何の脈略もなくお礼だと押し付けられてしまう謎イベントがあるはずなんだ。けど肩透かしかなあ、とぼんやり思った俺がいる。うずまき島の主が住んでる壮大な滝を目にしたあとだと幾分迫力が足りなく思ってしまうのは仕方ない。流石に真正面にはいないらしく、通路がつづいていた。奥の方に扉が見える。あの先がジムの内部かな、と廊下をすすんだ。やっぱり人工的な滝がジムの奥の方にあるらしい。

痛みが引かなくてうずくまっていると、遠くの方の滝の音が大きくなる。前を見るとどうやら扉が開いて、細長いヒカリが伸びていた。

「おーっす、なーにもたもたしてんだ、チャレンジャー!って大丈夫か?!」

茶色いヒゲを生やしたサングラスのおっさんが、ひょっこりと顔を出していた。なんとか、と震える声で返したものの、死にかけてるーっとノリのいい返事とともに駆け寄ってくるおっさん。けっこうポッチャリ系だ。はー、痛かった、とようやく引いてきた痛みとほんの僅かなしびれを引きずりながら立ち上がる。なんか長いこと正座したみたいだ。ワケを説明すると、そーか、とほっとした様子で招き入れてくれる。あれ?もしかして、もしかしなくてもジムリーダーが使ってくるタイプの弱点や戦い方を解説してくれるおっさん?荒くれ共が多いタンバジムはぶっ飛ばされそうだから嫌だとポケモンセンターに避難してるはずじゃ?ぎぎっと扉を抜けた俺に続いて顔を出したサンドは、顔色を変えて進みでる。目の前には、通路を覆い隠してしまうドでかい岩がいくつも並んでいた。え、金銀水晶のギミックも混同?めんどくせえ!全く先が見えないのでぽかんとしている俺の傍らで、ごほん、と咳払いが聞こえる。

「改めまして、おーっす、未来のチャンピオン!俺はトレーナーじゃあないが、アドバイスは出来るぜ。信じろよ!信じればチャンピオンも夢じゃないってな!俺の話、聞いてくだろ?」

「へへへっ、もっちろん!初めまして、解説のおっさん!」

「おおう、意外な反応サンキュー。タンバのジムにくるってことはもういくつかのバッジは持ってんだろうに、礼儀正しくておっさん嬉しいぜ。みーんな言う事一緒だからつまんないって話しかけてくれないチャレンジャーも多くて微妙に寂しいんだ。はっはっは」

「そっかー、でもさ全然そんなことないって。実はさ、オイラ解説のおっさんと会うの初めてなんだ。なんか微妙に感動してんだけど、どうしよう!」

「あっはっは、何ならサインでも書いとくかい?って会った事ないってのはどういうことだ?」

「だってさ、キキョウジムは大人の事情でリーダー以外いつも不在だったし、ヒワダジムは放置プレイしてたら怒られて定休日にやったんだ。コガネジムとエンジュジムにいたっては賭けとサミットイベントでやったからジムにすら入ってねえし。あれ、そういやちゃんとジムの営業時間に挑戦すんの初めてかも」

「なんだそりゃ。まー、いいか。野暮なことは言いっこなしだ。さーて、聞いてくれるか!このジムは格闘使いの熱血野郎達が集まっている暑苦しいジムだ!正々堂々と正面きってぶつかるもよし。格闘タイプが本来想定してない飛行タイプのポケモンで自分のペースに巻き込むもよし、まるで幻のごとく得体の知れないゴーストタイプで翻弄するもよし、エスパータイプのポケモンで小細工上等、策士を気取るも良し。パワーファイターに押し負けないようきばってこー!ひでんマシン「怪力」と「岩砕き」の準備はいいかー!」

「え、マジで?」

「大マジだとも。ガンバレよ、チャレンジャー。穴抜けの紐も忘れずにな!」

「りょーかい。よっしゃ、今度はバッジ持って帰ってくるぜ、おっさん」

「その意気だ、アディオス!」

あなをほるじゃダメなんだろうか、とサンドを見て思いつつ、俺は先を急ぐことにした。



















「頼むぜ、サンド。怪力!」

ひょっこよっこと俺の前に進み出たサンドが、せーの、としっかり足を踏みしめて体をかがめて思いっきり体当りする。どーん、という豪快な音がして、ずずずっと大岩がずれていく。これで動かせる、と。どっちにやるのだと仰ぎ見てくるサンドに、前に押すよう指示を重ねた。一声鳴いたサンドが大岩を動かして行く。ポケモンってすげえ。こんなチッコイポケモンが軽々と岩をどかせるとか。何度見ても感心してしまう光景だ。あーくそ、上から見られれば一発なんだけどなー。御丁寧に天井は低く設定されていて、飛行タイプが滑空するには少々高さが足りない。たぶんトレーナーがいるところは広い空間になってるんだと思うけど。見守りながら下のほうをよーく目を凝らしてみれば、一定の方向にずらしたあとがある。なるほど、進む場所が決まってるっぽいな。最初は戸惑ったんだよなー、これ。なかなか先に進むことができなくて、1時間ほど悩んだ覚えがある。結局わからなくて姉貴に泣きついて攻略してもらった覚えがあっから、嫌でも覚えていた。三つ並んでるなら、右、左の岩を前に押し出し、突き出たままの真ん中の大岩を右なり左なりに最後はずらせば完成のはず。一つ分の岩くらい下げさせて、帰って来いと呼びかけた。帰ってきたサンドを労いながら、今度は左側の大岩を押させようとした俺は、違和感に気づく。……あれ?なんで動かねえんだ、これ。びくともしない大岩に首を傾げるサンドが、困ったように俺を見上げてくる。おかしいな、なんか違うのか?ひたひた、と幾度も挑戦者たちに動かされてきたのだろう岩はポケモンたちに押されてきたからか表面は随分と固く平になり、光沢を放っていた。んー、と下を覗いてみるけど、やっぱり右側の岩と同じく動かされた跡が床に刻まれている。なんで動かないんだろう。

「なんか引っかかってんのかもしれねえから、もっかい右の岩押してみっか?サンド。たしか、まだ押せるんだよな?」

こくりとサンドが頷いた。この岩の向う側、たしか空手王のおっさんたちがいたはずだから遠慮なしにずんずんやるのは危ない気がして遠慮してたんだけど、そうも行かないらしい。向う側に聞こえるよう、わざとらしく大きな声をあげながら、俺は再び右側に戻り、サンドに指示をした。ずずず、とズレていく岩の向こうは、ダブルバトルを構えているおっさんたちと通路、ではなくて同じ壁。げ、まさかの行き止まりかよ!どーなってんだこれ、と驚いている俺の横で、よいせよいせと押していたサンドが、突然立ち止まる。中途半端な位置で止まったサンドと大岩。駆け寄ってみると、やっぱり動かないらしい。

「まさかの行き止まり?でも真ん中の岩の先は壁だしな……、ここしか押せないよなあ?」

どーなってんだ、と真ん中の岩の奥にある壁を叩いてみるがやっぱりひんやりと冷たい。本物だ。ペシペシ叩いてみても、本物としか言いようが無い。透明な壁でもあるのかね?うーん……。奥の方から滝の音は聞こえてるんだけどなあ、と壁に耳を押し当ててみても、やっぱりくぐもった反響しか聞こえてこない。

「岩砕きを準備しろと言ってたけど、そんなのないよな……」

怪力で動かせるような大岩とか明らかに岩砕きのレベルじゃない。振り返ってみても、ここ以外のギミックは伺えない。もしかして押す順番を間違えたか?

「サンド、壊せそうな岩、じゃないよな?」

即答だ。

「滝の音が聞こえるのがなんかヒントとか……?」

一番音が大きく聞こえるのは真ん中の岩の奥にある壁だ。一番右の岩が中途半端にしか動かないってことは、何かが邪魔してるってことで、えーっと。どっかに抜け道とか岩をどかすための空間があればいいんだけど。あーくそ、なんで真上から見れる能力がないんだよ俺!

「だめだ、一回リセットしよう、サンド。帰ろう」

さっぱりわからん。とりあえず他の岩を押す順番を変えて、パターンが有るかどうか調べねえと。俺たちは引き返した。


リセットされた岩3つを検証してみる。真ん中の大岩から押して見ると、やっぱりなんかのギミックが働いてるらしくずんずんと進んで行った。でもやっぱり中途半端な位置で止まってしまう。両端を押してみたけどダメ。今度は左側からやってみると、やっぱり中途半端な位置でしか止まらなかったが、今度は小さなトンネルが真ん中の壁から現れた。小さな岩が邪魔している。よっしゃ、あたり!サンドに壊してもらって先に進むと、ぽちっという音が聞こえて、がこん、という音が聞こえて床がへこむ。突然の揺れにかがんでいた俺は盛大に頭を打ち付けた。いってえ、とたんこぶを抑えながら周りを見ると、薄暗いながらやっぱり何かが変わったらしい。奥にもまだ小さな岩がある。どうしようと迷っているとサンドが勝手に岩砕きしやがってまた揺れたトンネルで二つ目のたんこぶを作った俺は、引き返してみるものの、リセットされてしまったことを知る。

再び引き返した俺は、ようやく攻略の手順がわかった。あーもー、誰だよこんなめんどくさいの考えたの。帽子越しに痛みを堪えつつ、ようやく抜けたトンネルの先では、空手王のおっさんが待ち構えていた。でっすよねー!

「よく来たな、挑戦者よ!俺とポケモンたちは熱い友情で結ばれているのだ!誰にも破ることはできんぞ!」

げ、やばいやばいサンド出したまんまだ。先発じゃないけど、と慌てて変えようとしたら、別の角度から声がした。

「裸一貫でのし上がってきたのだ!言葉はいらん!拳を打ち合い、語り合うべし!いざ、来たれい!」

え、これなんていじめ?当然レベル8のサンドを先発させたら瞬殺にも程がある。油断大敵!と奇襲は違うと思うんだ。サンドをボールに戻し、俺は慌ててヨルノズクとゴローニャを繰り出した。狭い空間でサワムラーとエビワラー出すんじゃねえよ、バカ!











タンバジムの門をくぐってから、たぶん3時間くらいたった。まだ先は長い。なんで適当なのかというと俺は今、ポケギアを見たら死ぬ状況下におかれているからだ。現在進行形で、俺はかんかんかん、と鉄梯子を登っていた。思いっきり腕を伸ばさないと届かないほど、広い間隔であるハシゴ、一段のぼるのも結構な労力を擁する。子供が登れるギリギリの設計だ。タンバジムってあんまり子供来ないのかなー、不親切にもほどがある。予想してたとはいえ、一人もバトルダールのお姉さんがいないとは一体どういう事だ。むさ苦しいにも程があるじゃねーか。連戦連戦で戦うのは空手王ばっかり。時々空手はした事ないけど、カッコいいからコスプレしているだけだとぶっちゃけてきたヘタレがいたけど、俺が認める空手王はシゲノリのおっさんだけだ。ポイントアップ早く欲しいなあ。

あーもー手が痛い。いい加減手の感覚がなくなってきたし、すっかり指先が白んでいる。力も入らなくなってきたし、手を伸ばす動作がどうすればいいのかわからなくなってきて、もう淡々と体に任せて登っていくしかない。なんというゲシュタルト崩壊。上のほうにはスケルトンな鉄筋丸出しの通路が横たわっている。これで50段目か、遠いなおい。これで3分の1とか。もし高所恐怖症ならどうするんだろう、攻略できねえぞタンバジム。うっかり下を見れば眼下に広がるめまいがしてくらくらするような高さがある。空手王の兄ちゃんたちが黒い点にしか見えない。背筋がぞわぞわときたけど大丈夫。じとりとかいてしまった汗で滑らないよう慎重に登ることにした。もし落ちたら入院どころの騒ぎじゃない。あ、でもポケモンセンターにいた黒髪のジョーイさん相当な美人だったな。白衣の天使に黒タイツは鉄壁だと思うんだ。どこぞの黄色い龍の器だった頃から好きだぜ、あれ。まあ冗談は置いといて、ようやくたどり着いた通路を逆戻りするわけにはいかない。

一応安全ネットがあるから大丈夫なんだけど、その先がいわゆる入り口に強制送還されるワープパネルに通じている。ここまで来るのにどんだけ長かったと思ってんだ、勘弁してくれ。大岩が行く手を阻んでいたり、トンネルがあったり、まるで迷路みたいな複雑な作りの真っ暗な道があったり。斜めの坂の上に登っていくためのいろんな色の足場があったりした。どこの筋肉番付もしくは運動公園だと突っ込みたい。どんだけ改造好きなんだよ、シジマのおっちゃんめ。ジムリーダーにたどり着くまでに疲れさせて判断力や冷静さを失わせる作戦か、この野郎。負けてたまるか!と必死で俺は登った。これで最後だ。頑張れ俺。あとは滝のギミックを終了させれば先に続く扉が開くはずだ。

あー、つかれた。ようやく上に登りきった俺は、ヘロヘロになりながら最後の力を振り絞って上る。冷たい鉄の通路が気持ちイイ。はー、とため息を付いてリュックを探った俺は張り詰めていた緊張から解放されて乾いたのどを潤すべく、おいしい水を一気に飲み干した。ぬるい。微妙に不快な事実に打ちのめされつつ、整ってきた息を確かめながら立ち上がる。夏場に挑まなくて良かった。ムシムシする中でやったら絶対熱中症で倒れちまう。タオルを首に巻いて、俺は手すりにすがりながら立ち上がった。下を見下ろせば今までたどってきたギミックの山が見渡せた。格闘ジムだから営業の傍ら鍛錬でいるように作られているのかもしれないけど、それなら普通挑戦者にはゲームレベルのギミックでいいはずだ。うーん、でもツクシのジムは金銀水晶よりのまだまともなジムだったし……いやまてよ、俺が挑んだときって休業日だったはずだ。もしかして奥の方にHGSSみたいな蜘蛛の乗り物があるんだろうか。ジムリーダーの裁量によるのか?うーん……ポケモンバトルとトレーナーの基礎体力って関係ないと思うんだけどなあ、俺の場合格闘タイプ専門のトレーナーじゃないし。どんだけ門下生の人たちって大変なんだろう。改めてジムの大変さを垣間見た気がする………ってなんか忘れてるような。

「あーっ!やべ、どうしよう!」

俺は固まった。しまった、弟子入りさせてくれって言っちまったじゃねーか。しかもシジマさん快く遠回しにOKしてくれたじゃねーか。ここをクリアしないとそれ以前の問題って締め出されるのは予想出来る。磨けば光るかもって言ってくれたんだ、裏切っちまうようで今更後には引けないけど、知らなかったとはいえもしかして俺とんでもねえ人に頼んじまったのかと微妙に怖くなる。ポケモンジムなめてたわ。キキョウジムだって野球場みたいな機能がついてたんだ、もしレッドさんのドッキリがなくて通常営業だったらどんだけ大変だったんだろう。無知って怖いね!あーくそ、すっかり顔もおぼろげになってしまった上司がいってたじゃねーか!できるかどうかは即決するな、こころの中で10秒数えてからやれって!スッゲー今更だけど!なんで今の今まで忘れてたんだ、俺!頭を抱えてみるものの、今更やめるとはいえない。

「……どうしようもねーか、はあ」

カポエラーに進化させるためだ、がんばろ。今までバルキーの鍛錬ほっぽいた報いだ、これくらい受けないとダメなのかもしれない。とりあえずはタンバジムを攻略しなきゃ、と振り立たせ俺は先を急いだ。










どどどどど、という水の音が涼しさを運んでくる。ここまで飛沫は飛んでこないけど、人工的な滝とはいえやっぱり蒸し暑い道場内で流れて良く水は清涼感を連想させてくれる。どう見ても巨大な黄色い鹿威しにしか見えないギミックが鉄筋通路の真下にある。やっと着いたよ、長かった!よーく目を凝らしてみれば滝つぼがあろう所は水路になっていて、中央に広がるフィールドを囲っていた。結構深そうな堀を水が流れている。落ちたら上がってこれないなあ、と思ったけど思いのほかちゃんと整備されてるみたいでプール見たく階段が見えた。なるほど、こうやって波乗する場所はきちんと確保されてるわけですね、分かります。金銀水晶ではどっから水を持ってきたんだろう、と思ってたけどHGSSではちゃんと水があるギミックに変更されてたしな。でもそのせいで怪力でやっと動かせる大岩をシジマさんがポケモン像に放り投げて破壊する場面がなくなったから、今度は逆にどこから岩雪崩の岩を調達するのって事になったわけだけど、まあそんなこといったらキリないよな。滝の飛沫がでかすぎてシジマさんがいるのかどうかは確認できないけど、止めないとフィールド前の門が開かないからどの道必要な手順だ。

「じゃあ、頼むぜサンド、ゴローニャ」

おーい、と手をふれば両脇の通路に設置されたドでかいボタンとハンドルがある。ぽちっとな、としたかったんだけど、40kg前後の体重では全然動いてくれなかった。だから一番重いゴローニャにお出まししてもらってる。重量級のポケモンがいなくても、ここまで来るのに大岩があったからたぶん怪力で持ってくればいいんだろう。で、ハンドルの方はというと、たかだか十代前半の非力な力でどうにかなるわけもなく、どうやら同時に動かさないと滝が止まってくれない。もとい鹿威しもどきが上がってはくれないらしいので、それぞれ指示を置いといて配置済み。せーの!とありったけの声を出せば、二匹の声が上がった。水にほど近い環境に難色を示すサンドを大人しくさせとくには、それなりの苦労があったことはいうまでもなく。あーくそ、お小遣い、足りるかなあ。約束しちまったお菓子はもちろんサンドだけ贔屓するわけにはいかないし、それを考えると大出費になりそうだ。……頑張って岩砕きでアイテム発掘しまくろう。どっかにアイテム換金してくれるショップってないかな?それにしても大爆発の連発でなつき度はたぶん最底辺のゴローニャの方がしっかり指示を聞いてくれるってどういうことなの。やっぱり一度でも懐き度をマックスにしたのはワケが違うんだろうか。ポケモンって難しいなあ、と思いながら俺は豪快な音を立てて上がっていくギミックを見守った。


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