第54話

ロケット団と幻のルギアを引き離すことが先決だと言われた俺は子桃さんにいわれるがまま今この場所にいる。うちにおまかせあれ、と穏やかに笑う子桃さんのことだからなんか考えでもあるんだろうけど、結局教えてはもらえなかった。うまくいったら教えてもらった海岸に直行することになっている。よっぽど自信があんだろうねえ。任せといても大丈夫だな、舞妓さんめっちゃ強いし。俺は俺のやるべきことに集中するだけだ。

あーくそどきどきする!緊張しきっているのが嫌でもわかる。心臓がうるせえ。汗ばむ手のひらを拭ってひといき。深呼吸して辺りを見渡した。さあ、やるか。


ぎんいろのはねをかざす。濃霧に阻まれて白い太陽の光を浴びて、きらきら、と淡い光を帯びるぎんいろのはねが、より一層輝きだす。丸い球体状の光を内包して俺の手を離れようとするから、力任せに押し止める。手のひらで閉じ込めてもあふれだす光。熱さはない。なんか不思議な感覚だ。やっぱり実際に目にすると違うんだなあ、今が本物のルギアを呼ぶ縁寿之舞をマジかに見られるわけじゃないのが残念だ。ちなみにその舞の名前はサントラについてるBGMから。はあ、昼間なのにこんなに綺麗なら、あのイベントはたぶんめっちゃすばらしいに違いねえのに!きっと幻なり、本物のルギアを呼んでるんだろう。ちりりん、とリュックの鈴がなった時、風がふいた。濃霧が吹き抜ける。風が強くなって俺は帽子を押さえた。きた、きた、きた、きやがったな、偽物め。昨日はよくもびびらせてくれたじゃねーか。今度こそ倒してやらあ、と意気込んで俺はボールを投げる。

「こい、オーダイル!」

声を上げて飛び出してくるオーダイルとアイコンタクト。ちゃんと覚えてるよな?緊張した面持ちで頷いたオーダイルが大空に舞い上がるルギアがたどり着く前に辺りを確認した。よっしゃ、頼むぜ!

「オーダイル、高速移動!」

俺の掛け声と同時に走りだすオーダイル。ルギアはゆっくりと溜めの時間を作り、光を集約させる。エアロブラスト大好きだな、しかし。さすがは専用技。使い勝手がいいだけはある。翻弄しようとは思ってない。俺は近くの岩場に逃れてエアロブラストが放たれるその瞬間にオーダイルを戻した。どおん、と豪快な音がして衝撃が走る。走り去る風。そこだけ霧が晴れて、道が生まれた。さっきまでいた場所には大きなクレーター。ひいい、と改めてぎりぎりな綱渡りなのはまだまだ怖い。憶さず俺はオーダイルをルギアの射程外にボールを投げる。同じ調子で高速移動をかわし、オーダイルが走ったあとは豪快なえぐり跡が残る。よっしゃ、あとは!

「ヨルノズク、催眠術!」

どおん、と先ほどいたところめがけて飛んでいくエアロブラスト。真逆の方向からすかさず繰り出す催眠術の奇襲。げ、はずれた!ヨルノズクに狙いを定めたルギアの豪快な水撃が放たれる。あわててボールに戻そうとしたけど、間に合わない。思わず俺は声を上げた。届け届け届け!吹っ飛ばされるヨルノズクと俺のボールの間を阻む。ざああ、と風が過ぎ去り、銀色の羽を散らしながら大きく旋回するルギアが見える。あっという間になくなったヒットポイント。瀕死状態を示すように、表示されたデータが真っ赤に染まってしまう。あわててはしった俺は、地面に叩きつけられたヨルノズクをボールにようやく戻せた。ごめんな。あとで回復してやるからさ、とつぶやいて、俺はゴローニャを繰り出した。頼むぜ!くるぞ!と叫ぶんで空を見上げると、ルギアが再びハイドロポンプの体制に入っている。頼む頼むはずれてくれ!必死で祈りながら俺は指示を重ねる。

「ゴローニャ、地震だ!」

ゴローニャの雄叫びが火山地帯に響く。衝撃波が走り、キャップを押さえっぱなしの俺はどおんという音がを聞いた。地面が隆起する。思わず手をついた。帽子を押さえて見守る俺の前に、亀裂が走り真っ赤なマグマがあふれだす。ゴローニャのまわりの足場を残し、ごぽごぽと灼熱にさらされた空気が青白い煙をあげた。こっからでもわかるくらい暑い。汗を拭って、ルギアが近づくのを待ちわびた。視界を遮る煙を潜り抜けて、放たれる水の塊は豪快にはずれたが、俺が隠れてるすぐよこの岩場をえぐった。よっしゃよっしゃ、きた!ガッツポーズを作った俺はありったけの音量で叫んだ。

「ゴローニャがんばれ大文字いっ!」

灼熱の業火がルギアの右翼に襲い掛かる。溶けていく翼。どろどろどろと霧に溶けていく翼によってバランスが崩れたルギアが、溶岩のプールに突っ込んでいく。一気に立ちこめる水蒸気。視界が白に染まり前が見えない。来るなよくるなよハイドロポンプ!ひたすら祈った俺は、しばらくしてすっかり表面が急激に冷やされて固まった、真っ黒な大地が広がっているのをみた。真ん中で誇らしげにたっているゴローニャがいた。

「いよっしゃあ!よくやったぜ、ゴローニャ!」

駆け出した俺に、くるなとアクションがとんできてあわてておしとどまる。あっぶねえ、足がとけるとこだった!腰のボールにゴローニャを戻して、もう一度出す。俺たちはハイタッチした。さあ、子桃さんとこに戻って報告だ。あいつらを今度こそ一網打尽にしてやらあ!やつらの船を知っているといってた彼女を目指して、俺はキマワリの笑う丘を目指して駆け出した。









「さあ、そろそろ出てきてもいい頃なんだがねえ。まだお出ましにならない、か。随分と鈍いんだねえ、この島の主は。まあいいさ、この調子でやっちまいな、お前たち」


端的な返答に頷いて通信を切った女幹部は、操縦席に座る部下たちに二三の指示を出すと船内のモニターを眺める。一番右端のカメラに映りこんだ影に肩をゆらし、どうかしたのかと聞いてくる部下になんでもないさと軽く笑った。外の映像をみれば、いくつもの黒煙が渦巻き島に立ち上っている。しらみつぶしに攻撃を繰り返すうち、絞られた島はあとこちらだけだ。再び攻撃の指示が飛ぶ。そのとき、渦巻き島の丘にある火山地帯にこちらからでも肉眼で確認できるほど鮮やかな光が見えた。銀色の光だ。しまった、と女は振り返る。別のモニターには銀色の光に反応して暴れるルギアの姿が映りこんでいる。霧でできた媒体を崩さないように岩のカプセルに入っていたのを模倣して、巨大なモンスターボールを作り上げていたのだが、やはり無理矢理押さえ込んだ本能にはかなわないらしい。3年前に秘密りに開発していたマスターボールごと情報をポケモン協会に持っていかれなければもっと完璧な計画が練られたはずなのだ。舌打ちをした女幹部は指示を重ねるが、もとより捕獲に凄まじい労力を費やした幻の分身ルギア。見境を無くし力のままに暴れられてはさすがに手立てはない。白衣の下っぱたちがにげまどうなか、ルギアの放つ強力な念力により異常をきたした機器が破壊されていく。飛ぶ気か。ルギアは明らかに飛行には適さないその翼を広げたとき、有り余る念力で体をまとい風を呼ぶ。破壊されていく部屋。とうとうカメラまでやられてしまったらしく、表示される砂嵐。赤いランプが点灯し耳障りなサイレンが響く。よりによってこんなときに侵入者?!動揺が走る部下たちを叱責した女幹部は、ただちに回線を繋ぎ同僚に状況判断を仰ごうとパスワードを口にした。





大きく船がゆれる。





「いい調子ですえ、カメックスはん!」


子桃は思わずはるか海岸にいる島の番人に大きく手を振った。カメックスの巨大な噴射口から放たれたハイドロカノンは、いわば破壊光線の水技。威力だけならば事実上最強の技だ。大きな反動で行動不能になる時間があるのが大きな難点だが、これだけの距離に加えてカメックスは海岸付近で身を隠している。カメックスピンポイントでの報復は無理だろう。カメックスは甲羅の噴射口から放つ攻撃は外さない。長年霧のなかというただでさえ技の命中率が下がる渦巻き島を舞台に守ってきた実力者だ、たとえ命中率に難ありだろうと関係ない。この調子で船を引き止めれば、あとは!子桃はルギアの雄叫びを聞いた。あ、と声をあげれば、豪快に船の内装を突き破り遥か上空に舞い上がっていくルギアの姿がある。島を確認すれば見えなくなっていく。銀色の羽が辺りに散らばり、やがては海面に到達する前に溶けてしまう。さあ、いきましょかシャワーズと子桃はルギアを追い掛けてやってくる船を前に呼び掛けた。ゴールドはんブラックはん、頼みましたえ!

「さっきからの妨害は、ああ、あんときのカメックスじゃないかい。まーた来たのかい?懲りないやつだねえ。アタシはアンタにゃ用はないのさ。さっさとどきな」


「ウチは初対面どすなあ?はじめまして、ウチは子桃いいます。残念ですけんど、ルギアはんとお会いさせるわけには行きません。帰っておくれやす」



「まあ随分とつれないじゃないか。舞妓さんは愛想がよくないとダメじゃないかい?まあいいさ、みたところこれらはアンタの仕込みみたいだねえ。面白い、アタシが相手をするよ。おまえらは引っ込んでな。侵入者をとっ捕まえるんだ、逃がすんじゃないよ!女の戦いに首突っ込むような不粋なまねする暇があったら、さっさとルギアをおうか、侵入者の捕獲に急ぎな!」


「渦巻き島には上陸させまへん!」


子桃はにっこりと笑う。


「あんさん方はほんまにこの海のことを何にもしらんのやねえ?この島はポケモンの楽園いわれとるんどす、何でかわかります?」


それは、と子桃は辺りを見渡した。下っぱたちが上陸しようと碇をおろすが、重そうな音に飛沫をあげて沈んでいく鎖が不規則なゆれを起こす。鎖が止まった瞬間、凄まじい放電が碇を伝ってもたらされた。下っぱたちが海を覗き込むと、無数のポケモンたちが集まっている。ぎょっとしたロケット団に、子桃はくすりと笑う。何をしたんだい、と引きつる女幹部に、子桃はシャワーズと顔を見合わせた。


「この世界にはねえ、ポケモンのいうとることがわかる変わった力を身につけなやっていけん職業もあるんどすえ。まあ、おかけさまでポケモンとの付き合いも、ずうっと向き合っていかなあかんけども。ウチはなんもしてません、ただ教えてあげただけどす」


子桃はただ穏やかに笑う。ただ途方も無いほどの怒りが言葉の節々にかんじられたが。


「人の入らん場所にしよ、てみんなで決めた数少ない地帯なんどすえ。何でかゆうたら、それだけ多くのポケモンはんたちが生きとるから。今やったらそうやねえ、あんさん方が大暴れしたせいで場所を追われたランターンはんたち。大事いな大事いな繁殖の時期やし、スターミーはんたちはゆっくり月と交信できんて怒ってはります。もちろん、森や丘、火山地帯のポケモンたちかてそう。きっちり落とし前つけてもらわんと困りますえ!」


子桃の声を皮切りに、ランターンたちのスパークが炸裂する。下っぱたちは動けない。子桃は進み出ると、遠方から攻撃し続けているカメックスをちらと見る。いい調子だ。これならば。やるじゃないか、と女幹部はこめかみに碇を浮かべてやってくる。


「なにやってんだい、お前たち!ポケモンが自らやってきてくれたんだ、捕獲しほうだいじゃないか!ひるむ必要なんかない、いきな!」


どうせこの船は海賊船役であって救助をよそおった強奪役の船ではないのだ。船に侵入れてもいたくもかゆくもない。女幹部はラフレシアを繰り出す。下っぱたちもにわかに活気づく。子桃は一瞬動揺するがシャワーズに鳴かれてはたと我に返ると再び笑みをたたえた。霧をルギアだけでは負担しきれず、ヤドキングもやってくれているのだ。あとには引けない。大丈夫、ゴールドやブラックのような子供に応援を頼んだ手前、大人の自分が負けてどうするのだ。自分をしかりつけ、子桃は女幹部の前に対峙する。二人の指示が交差した。


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