第52話

船舶の往来がなくなったからか、本当に41番水道はポケモンの大量発生だらけだった。本来出現しないはずのポケモンがわんさかいて、結構図鑑も埋まったと思うから、オーキド博士に見せんのが楽しみになってきた。基本的には捕まえては逃がすのを繰り返していた俺だけど、今丁度暫定的な波乗り要員が加わったから紹介しよう。マンタインだ。ギャラドスとは違って、空を飛ぶ覚えねえかなあ、と期待をかけて捕獲したはいいけど、やっぱりダメでした。仕方ねえから、こいつを水陸移動用にしよう。オーダイルのレベルを考えると、そろそろ波乗りがいらなくなってくる頃だから、なみのりを一番上に設定しといて育て屋さんにあずけりゃいけるはず。ピジョンって意外と小さくてさ、あと5レベル上げりゃいいんだけど、めんどい。あーあ、もっとでっけえ飛行タイプはいねえもんかね。

「オーダイル、大丈夫か?無茶すんなよ?」

慣れた揺れ。モンスターボールの中でたっぷりと休息を終えたオーダイルは、任せとけ、と再び紐を引っ張り始める。一匹でここまでずーっとは流石に可哀相だと、途中で捕まえたマンタインと交代に切り替えてから、はや数時間が経過している。まあ、もともと手持ち5体しかいないしな。ちょっと西日に傾き始めた太陽を確認して、俺はポケギアを見た。半日っていうけど、あれってどれくらいのこというんだろう?太陽が出てる時間帯の半分だとすると、大雑把に見積もって10時間の半分、5時間くらい?うーん、出発したのが10時で、休憩で1時間挟んでるから、順調に進めば太陽が沈むまでには到着できるかな?ってかできねえとやべえな。シルバースプレーも半分近くがからだ。

それにしても、やっぱり船がないってのはきついんだろうなあ、と改めて思う。確かに水ポケモンは、地磁気を敏感に感じ取り、方向を正確に察知して泳ぐことができるというおっさんの言葉を思い出すと、頼りにはなるけど利便性を考えたら効率悪い。デンリュウの光が届くいつもの霧に戻るのを祈るばかりってね。

海生まれでもないオーダイルが、ここまで一度もポケギアで表示される地図からすれば、一度の迷子も経験せずに順調にタンバシティに近づいている。流石にルートを導くような不自然な謎の透明な壁も、上空から見渡せる能力もない分ありがたい。結構遠くまできたもんだ。すっかりアサギシティは朧気な蜃気楼に飲み込まれ、そしてただ広がるのは大海原のみ。地図だけ見りゃ内海なんだけどな。でも、すこしずつすこしずつ行く手を阻むように視界に広がってきている濃霧。うずまき島が近いんだろう。まあ、下手に近づかなきゃ海賊船に遭遇することもないだろうから、いいけどな。ムネオには悪いけど、ルギアを捕まえんなら、せめてちゃんとうずしおが入手できてからの方がいい。ただでさえこの世界は容赦なく高レベルのポケモンが出てくるような世界だし、準備はちゃんとしておきたい。何よりも一度はタンバシティでミカンちゃんのお使いを済ませたあとのほうがいい。タンバシティの方がずっとうずまき諸島に近いし、空を飛ぶにしろソッチの方が便利だ。しっかし、こうも見栄えの変わらない景色が続くと………だめだめ、しっかりしろ、俺。ポケモンが出てきたらどうすんだ!あふ、とあくびを噛み殺す。しゃべり続けたら、潮風に当てられて喉が痛くなってきちゃって、思った以上に飲水の消費が早くて困る。のど飴かっときゃよかった、なんて。なんか起こらねえかなあ、と不謹慎なことを考えていた俺は、その発言を心底後悔するハメになる。


ぼー、という汽笛が聞こえた。驚いて顔を上げた俺は、あたりを見渡すが、船の影も形もない。泳ぐスピードはそのままで、オーダイルもどっから来る音なのか探してる。霧の中に誘い込む海賊船か?その手には乗らねえぞ。俺は、オーダイルにもっと霧から離れて進むよう指示する。ますます迂回ルートになるけど、襲われちまうよりはました。力強い先導に引っ張られ、ゴムボートがゆっくりと方向転換を図る。

「あれ?」

方角を確認しようと、薄い雲に覆われている太陽を見上げた俺は、そのとき、俺は白い太陽から落ちてくる何かを見つけた。なんだありゃ。ふわふわと不規則な形で風に流されていくそれは、次第にこちらに近づいてくるようだった。身を乗り出して捕まえようとすると、リュックに結びつけてある、ちりりん、とおみやげのお守りの安物の鈴がなった。あー、くそ、あとちょっとなのに!イラッとした俺は、ヨルノズクを繰り出して、取ってくるよう命じた。しばらくして、帰ってくるヨルノズクのくちばしには、きらきらきらと輝く羽みたいなものが加えられていた。お疲れさん、とわしわし頭を撫でて、ボールに戻す。オーダイルに無駄な負荷はかけらんねえ。叢でもねえのに、ぎんいろの葉っぱなんて拾える訳ないし、まさか、ぎんいろの羽?あはは、まさか。中央で裂け、それぞれが三叉に分かれている羽は、ずっと光を放っている。まあ、羽を散らしながらルギアは空をとぶらしいし、たまたま流れ着いたのかもな、と周囲の波を注意深く見るが、やっぱり見当たらない。あわよくばルギアも見られるかな、と思ったけど、それじゃあ嵐の兆候だ.、さいあくじゃねーか、却下却下。へへ、いいモン拾った!俺はとりあえず、大切なものポケットにしまい込む。われながら四次元リュックの収納スペースは、とどまることを知らない。なんだなんだと知りたそうに振り返るオーダイルに、俺は得意になって自慢することにした。


「………………え?」


思わず目をこする。再び目を開くが、変化のない光景に思わず俺は目をそらした。疑問符を浮かべるオーダイルに、うしろ、うしろ、と指を指す。後ろの気配に気づいたらしいオーダイルがびくっと固まる。

落ち着け、オーダイル、相手はまだこっちが気づいたことに気づいてない。ほっとけばどっか行ってくれるかもしれない、と願いを込めて、俺は思いついたことを話すことにした。



この世界は、まだまだ何が起こるかなんてわからないんだぞ?オーダイル。半裸だったジムリーダーが服をきたと思ったら超イケメンになってたとか、Sッケ全開だったお姉さまがいきなり誰だお前級のイメチェンを図ってたとか、研究員がうおっまぶしっ!?な出で立ちのテリー伊藤になってたりするんだ。とある超古代ポケモンなんか、鳴き声を無理やり平仮名に当てられてきゅうり化したり、今まで無人発電所にいた伝説の三鳥が、有人発電所になったその場所でかたくなに生息域を変えず、すぐ真横に立って抗議デモをやってるとか、もはや伝説の威厳も何もあったもんじゃなかったりするんだ。気をつけろよ。

シンオウ地方にあるどこぞのリゾート地だって、何故かロッククライムっていうポケモンに乗っかって、ガガガって崖をよじ登るような新しいひでんマシンを使わなければいけないような立地条件のホテルに男女ふたりが宿泊してるような時代だ。そこの女性に二回目話しかけたときに、「彼とふたりっきりでお話するの。もっと彼とお話しするの。それからそれから」なんて意味深な発言の挙句に、ゴミ箱から出てくるのが元気の塊なんて邪推させるようなえげつないネタを仕込んでくるようなゲーフリだ。さりげなくエリカのジムに、男のたくましさと女の優しさをもったトレーナーになるのが目標だという大人のお姉さん(ただしFRLGだとタマタマだったのがマスキッパになってるが)が出てくるような時代だ。自然公園に穴を掘るのわざマシンが落ちてるようなこの時代、何が起こっても不思議じゃない。OK、落ち着こうか。いろいろ突っ込みたいことはあるけども、逃げることはかなわないようだ。そうそう、どっかで見たんだけど、ルギアがみず・飛行って映画を連想させるような演出されときながら、エスパー・飛行なのって初代でエスパーが強かったから伝説の泊をつけるっていう意味合いで追加されたらしいよ。月と太陽って意味合いで、空と海って対比でOPではルギア深海をおよいでるけど、ますます惜しまれるよな、みず・ひこう。今ならカイオーガと組んで大暴れできるのに、勿体無い。



ちら、と見ても、相変わらずそいつは俺たちを海面越しに見つめていた。こええええええ!たのむ、頼むから、今すぐ世界で一番有名な、赤い帽子を被った配管工の世界にお帰りください!おかしいだろ!なんでポケモンの世界にこいつがいるんだよ!俺の脳裏に、黒い鉄球に鋭い牙をはやした鎖を引きちぎって襲ってくる化物が浮かんでくる。やばいやばい、かってえ物体なんてもってないぞ俺。再び見ても、相変わらずオーダイルの背後にそれはいる。黒くて丸々とした物体が見える。すぐ真横を見れば、まだ黒い。まさかと思って周囲を見渡すと、どうやらそいつは俺たちの真下にいるようだ。どんだけでかいんだよ!特大わんわんか!ぎんぎらとしたマルイ目玉らしきものが二つ浮かんでいる。え?どうすんだって?今にも泣きそうな顔で決断を迫ってくるオーダイルに、俺は後ずさる。目えそらスなって?バカいえ!俺だって泣きそうだよ、バカヤロウ!


ぶくぶくぶく、と泡が浮かんできて、俺たちは背筋が凍った。く、口あけんな!鋭い牙見せんなよ、ばか!こわいってば!ひいい。そいつは俺たちを丸呑みでもする気なのか、大きく裂けた口をさらす。へ、下手に刺激しねえ方がいいよな、うん。美味しくねえよー、ガキより大型ポケモンのほうがくいごたえ、冗談冗談、冗談だってばオーダイル、ごめんごめん!


「アカリちゃんの薬を取りに行くのが先だ。急ごうぜ、オーダイル」


壊れたように何度も首を振るオーダイルは、ゆっくりと再び泳ぎを進め始めた。バクバクしながら黒い物体の真上を慎重に通りすぎる。何もおきませんように!ちりりん、とまた鈴が鳴った。



ぼー、と船の汽笛がなる。さっきより近いぞ?!なんだよ、こんな時に!俺はまたあたりを見渡した。あ、いた。大型船が、汽笛を上げて、霧の中から現れた。なんだよ、霧に誘い込むつもりなのか?くっそ、なるほど、こうやって追い詰められたトレーナーを引き込むのか何つ−やつだ。やられた、と俺は舌打ちした。ずんずん近づいてくる船から逃れようとするが、やはりオーダイルだけじゃ遅いみたいだ。でもさっきまでの疲れが回復しきってないし、マンタインはまだ出せない。どうしよう。はらはらと見ていると、船の方から声がした。


「なんだ、まだ子供のトレーナーじゃないかい。今の海は危ないって、お母さんから聞かなかったのかい?クソガキが」

「うっせえやい、オイラの名前はゴールドだ、クソガキじゃない!」


女の声だ。見上げてみても、霧で阻まれて顔までは分からない。そもそも船がでかすぎてどこに人がいるのかもわからねえ。船のうむ波のせいで大きくなってきた揺れに、ボートにしがみつきながら、ありったけの声を上げて返した。


「あははっ、口だけは一丁前と来た。頭の回るガキは嫌いだよ。たしか、エンジュシティでブラックと一緒にいた、お子様じゃあないかい?どこにいくのか、アタシに教えてはくれないかねえ?ゴールド坊や」

「だーれが坊やだよ、ふざけんな!」

「おやおや、迷子になったワケじゃあないのかい?海の上では誰しも助けあうのが筋ってもんさ。どうだい?素直に白状すれば、助けてやるよ。ただし、船賃は高いがね!」

「ロケット団の手を借りなきゃなんねえほど、おちぶれた覚えはねえよ、ばーかっ!っつーか、ロケット団がオイラに何のようだよ。グレイの報復でも来たか?」

「あっはっは、なんでアタシがあんな奴の尻拭いなんかしなきゃなんないんだい?確かに今回はあいつと任務はしてはいるけど、関係ないさ。なーに、ちょっと聞きたいことがあるんだよ、正直に答えてくれれば見逃してやるさ」

「なんだよ」

「ぎんいろにひかる綺麗な羽がこっちに飛んで行かなかったかい?お姉さんの落とし物なのさ。もし拾ってたら、よこしな」

「え、あれまじでぎんいろの羽なの?」

「ああ、そうだとも」

「なら、やだよ。マジでぎんいろの羽なら、ダーレが渡すか!」

「ほーお、ガキのくせにその価値がわかるなんて随分じゃないか.。誰に教えてもらったんだい?」

「10年前からしってらあ!」


べーと舌を出すと、ヘッタクソな嘘つくんじゃないよ、と女幹部は笑った。逃げようぜ、と俺はオーダイルに指示す。船舶から追い出されていく海流を捕まえて逃げるオーダイルに合わせて、大きくボートが揺れる。遅いけど、小回りもきかないだろうし、大丈夫だろう。コンのクソガキ、と苛立つ声がする。どうやらロケット団はルギアを探してるようだ。ん?じゃあ、あの噂の大型ポケモンは?ちらと振り返れば、さっきの巨大な影が海上に浮き上がっていた。やべえ、忘れてた。なにしてんだとオーダイルがなく。ごめんごめん、あの女幹部なんか嫌なんだよ.。俺はモンスターボールを構えた。


「人のもんを盗んじゃダメだってお母さんからは聞かなかったみたいだねえ?仕方ない、お仕置きしてやろうじゃないか。いくんだよ、ルギア。生意気なクソガキからぎんいろの羽を取り返して、海の藻屑にしちまいな!」


は?もう捕まえてんのかよ!いや、なんで?ルギアゲット済みなら、なんでぎんいろの羽いるんだよ、もういらねえだろ?あれ?俺は思わず息を飲む。オーダイルが警戒して雄叫びを上げた。

ずずずずずずっと海が隆起して.、俺たちはますます押しながされる。あわててオーダイルがゴムボートに捕まる。俺は一旦オーダイルを戻した。これじゃあ引き離されちまう。ざっぱーん、と海が避ける。真っ黒な巨大な球体が浮き上がって姿を表したかと思うと、ボロボロと岩がくだけちっていく。沈んでいくいわのカプセルの中から、ルギアが現れた。雄叫びが、海上にこだまする。羽ばたきが風をよび、雲が押し流され、一気に晴天が崩れていく。海が荒れる。不安定な足場で、俺はボールを構えた。問題はルギアのレベルが45か70か。後者だったら諦めよう。





「たのむぜ、ヨルノズク!」

伝説のポケモンは倒してしまえば後で復活するから、遠慮はいらねえ。まだまん先の話だもんな、本来は。ヨルノズクが現れる。努力値は振ってないけど、こいつならルギアが70だとしても、エアロブラストなら一発は耐えてくれるはず!ハイドロポンプだったら、オワタ、だけどな。ルギアがばちばちっと光の走る光線を溜めていく。これはエアロブラストか?おかしいな、なんで女幹部、直接ルギアに指示しないんだ?こっちはありがたいけど、無駄にPP消費させちまうのに、勿体ねえ。心配そうに振り返ったヨルノズクに、オイラのことはいいから、と集中するよう発破をかける。くるぞ!と俺は叫んだ。ルギアのプレッシャーに気圧されてか、緊張気味のヨルノズクはコクリと頷く。ヨルノズクの浮上が加速する。どおん、と放たれた光線が海を割る。ヨルノズクが悲鳴を上げた。確かに命中率は100%だけど、あんなに高く飛んだのに避けられねえとかどんだけ。がががっと削られるHP。ぎりぎり赤色ライン、70レベルですかそうですか!かんべんしてくれよ、ちっくしょー。耐え切ったヨルノズクが、ルギアの前に躍り出る。先程までいた場所に水柱が上がる。大波に流されていく。ひっくり返らないよう、必死でバランスをとりながら、俺は前を見た。そして、叫んだ。

「さいみんじゅつ!」

広角レンズ持たせてあるから、命中率は心配要らない。いくら伝説だって、状態異常を無効にはできない。少しくらい運ゲーに持ち込まないとダメだ。ルギアなんて、典型的な耐久型の伝説ポケモン、しかも高レベルに対して真っ向に対峙したところでやられるのはめにみえてるからな。くっそ、野生なら捕獲も選択の視野に入ってくるってのに、ロケット団のもんになってんならつかまえられないじゃねーか。舌打ちをした俺は、見事、特有の音波を当てて、ルギアを眠り状態にさせ飛行能力を二ぶらせたヨルノズクが帰ってくるのをみた。うとうと、とし始めたルギアは落下していく。まだまだヨルノズクはやる気にみなぎっている。助かった!よっしゃ、とさっそくオーダイルに取り替える。ルギアは特殊耐久の方が防御耐久より高い。俺の手持ちで弱点をつけるのはオーダイルの噛み砕くかふぶき、ピカチュウのボルテッカー、ゴローニャのロックブラスト。ピカチュウはレベルが足りないし、ゴローニャはゴムボートでは出せない。必然的にこうなっちまう。おきるなよ、おきるなよ、と祈りながら、俺は再び海上に現れたオーダイルに命じる。レベルが70なら、ふぶきだろうが、噛み砕くだろうがおなじじゃねーか。なら、噛砕くで防御ダウンを狙った方がましだ。

「噛み砕いちまえ!」

海上に迫るルギアが豪快に飛沫を上げる。しゅわしゅわしゅわ、ぶくぶくぶく、とルギアの接触した所が異様な泡を立てている。なんだありゃ?ぎょっとしつつも、チャンスを逃すまいとルギアめがけて、オーダイルが自慢の牙をつきたて、あれ?がちん、とオーダイルの牙が音をたてる。まさか食いちぎっちまったのかお前、やりすぎだぞ!思わず叫んだ俺に、オーダイルは仰天しながら首をふる。想像したグロテスクな様子はない。は?よく見れば、ルギアの体をオーダイルは貫通している。どういう事だ?ルギアはエスパー・飛行のポケモンであって、ゴーストタイプじゃない。実態に触れられず気味悪がるオーダイル。まさか幽霊とかいうんじゃねーだろうな?いや、リングマン時はたしか噛砕くは一応効いて、その後で姿が消えたはずだ。どーなってんだ、これ。ルギアは起きる気配はない。よくわかんねえけど、かみくだくが効かねえなら、ふぶきだ。

「オーダイル、吹雪で攻撃してくれ!」

今度も突き抜けてしまう。どうなってんだ、これ。ワケが分からず、俺は混乱する。女幹部の笑い声が聞こえて、俺は舌打ちした。

「どうしたんだい?さっさと攻撃しな」

「お前ルギアになにしたんだよ!」

「ばかいうんじゃないよ、アタシは何もしてないさ」

「はああ?!うそつけ!」

高笑いが耳障りだ。ルギアに改造でも施して、不思議な守りでもつけた?モンスターボールを見れば、しっかりとPPが二倍の速度で減っている。やっぱり特性はプレッシャーだ。いやいやいや、あれは弱点の攻撃は通ったはずで、俺は弱点の技しか攻撃してないから、通らないのはおかしい。ルギアを探してると女幹部は言ったけど、ってことはこいつ一体なんなんだよ、もうメンドクセえ!しゅわしゅわしゅわと泡が上がっている。オーダイルが声を上げて、俺に指差す。どうした?と身を乗り出せば、なんとルギアの翼が溶けていた。なんだこりゃ。ほのおタイプなのか?ワケが分からず判断力がにぶる。状態異常が効いてるってことは、少なくてもこいつは自分で判断して動いてるワケで、機械じゃない。でも物理技も特殊技も効かないなんて、アニメや漫画じゃあるまいし、あってたまるか。女幹部の言葉を信じるなら、初めからこのルギアはこういう奴だったってことだ。くっそ、別の技ためすか?俺は、指示しようとした。そのとき。

「バトルの最中に考え事かい?随分と余裕だねえ。ルギア、思い知らせてやりな。ロケット団を敵に回したら最後、たとえ子供だろうと容赦しないとね!バカな子だねえ、素直にぎんいろの羽を渡せば、見逃してやったのに」

「ばかいえ!ポケモンぶんどる気のくせに!」

「おやおや、よーくわかってるじゃないか。あーあ惜しいねえ、ルギアを前にしても、一切引かないで冷静にバトルできるなんて、その年で考えりゃ不気味すぎるほどだ。もうちょっとその目が真っ直ぐでなけりゃ引き入れることも考えたんだけど。ま、悪く思わないどくれよ、こういうのは早めのうちにつんどくに限る」

ゆっくりおやすみ。永遠にな!


ルギアが目を覚ましてしまった。ろどろどに溶けた翼が一瞬でなおってしまう。自己再生完備ですか、勘弁してくれ!無性に泣きたくなった。今度こそ無理ゲーだろ、一切攻撃の効かない70の伝説なんてどうやって倒せっツーンだ、むちゃいうなよ!まずい!流石にオーダイルじゃ耐えられない!ごめん、と謝って、すごいきずぐすりをヨルノズクに施そうとすると、させないよ!と女幹部の声が聞こえたかと思うと、どこからともなくやってきたヤミカラスが俺の手をはじいてもっていってしまう。あああ!またおまえかよ!なんとかリュックだけは死守しようとうずくまる俺に、飛んでくるヤミカラス。だが何もとんでこない。は、と気づくと、オーダイルがヤミカラスをぶん殴ってやめさせていた。後ろにルギアが迫っている。なのに、かばうようにオーダイルは動かない。確かに女幹部は俺を狙うようなこと言ってるけど、ただの脅しだってば。そんなことどうでもいいだろ、バトルに集中しろよ!オーダイルは首を振ったまま動かない。くそ、と舌打ちした俺は、リュックをモンスターボールに放り込む。ライフジャケットを着込んだまま、一か八か、オーダイルに飛び乗った。ぎょっとしたオーダイルが抱きとめてくる。

「さっき、ルギアの体が水に溶けてたんだ。よくわかんねえけど、ルギアは海にゃ潜れないらしい。とりあえず、一旦にげっぞ!先導よろしく!」

逃げるが勝ちってな。こくり、と頷いたオーダイル。せーの、で息を吸い込んで、俺は潜った。ライフジャケットの浮力も無理やりオーダイルの力でねじ伏せてもらって、オーダイルに捕まって水中にもぐった俺は、ゴムボートを置き去りにして沈んでいく。どおん、とゴムボートが直撃したのか、ぼろぼろになって沈んでいくのが見える。血の気が引いた俺は、オーダイルを頼りに、ひたすら海の中を潜っていったのだった。










「ぷはっ!」

なんとか霧にまぎれてロケット団から逃れられたらしい俺は、ライフジャケットのおかげで浮いていられる。真っ白な世界をオーダイルに捕まってひたすら泳いでいた。体力がどんどん消費していく。はやく陸地に上がんねえとしんじまう!

「しかたねえ、うずまき島にいこう、オーダイル」

海流の関係で辿り着けないとか、渦潮が邪魔で進めないとか聞くけど、とりあえず行かねえとどうにもならない。頷いたオーダイルが進んでいく。濃霧をようやく抜けた俺たちの前に広がっていたのは、バカでかい渦潮がいくつも生まれては消えていく海域だった。どうしよう、まだうずしお覚えてねえ。突破できるかと聞いてみたけど、オーダイルは首をふる。うーん、今から霧の向こうに戻っても、またあいつらと遭遇したら今度こそお陀仏だ。流れが早すぎる波にさらわれないようしがみつく。けほけほ、と時々あまりに高い波が口の中に入ってきて咳き込む。やばいなあ、体温下がってきた。きっと口も紫だろう.、結構寒い。うずまき島が近づいてくるけど、先に行けない。くっそ、これで終わりなのか?あきらめも脳裏をよぎり始めた頃、俺はたくさんの赤い光がこちらに向かってくるのをかんじた。しまった、シルバースプレーの効果きれちまったのか!まいったな、これじゃあボール出せねえぞ。舌打ちをした俺の前に現れたのは、なんと。

「げっ、ドククラゲっ?!」

最悪だ!たくさんのメノクラゲを引き連れてそいつはあらわれやがった。オーダイルまで毒状態にされたらどうしよう!ひきつった俺に、オーダイルも低くうなる。すると、ゆっくりとドククラゲが近づいてくる。オーダイルは、なにかを感じたのかうなるのをやめて、じいっとドククラゲを見始めた。ドククラゲの赤いコアが点滅する。まさかここで俺たちゴト大波でおしながすきなんじゃっ。ポケモンの言葉なんか分からない俺は、見守るしかない。すると、オーダイルが突然、うれしそうに鳴いて、うなずいた。あれ?きょとんとしている俺に、オーダイルがドククラゲを指さす。

「ドククラゲが」

俺を指さす.。

「オイラ?」

うずまき島を指さした。

「はあ。もしかして、連れてってくれんのか?」

大正解らしい。まじですか。アニメのピカチュウのような通訳によると、ゴローニャが助けてた、あのドククラゲらしい。メノクラゲたちが勘違いして攻撃したののお詫びというか恩返し的ななにからしい。

「オイラがしたわけじゃないのに、あんがとな」

さあ、はやくヨルノズクたちの回復をしなきゃ。そう思った矢先、俺は重大なことを忘れていて、あっと声を上げた。

「スピアーもってねえよ、どうしようオーダイル!うずまき島、真っ暗だ!」

オーダイルが固まってしまった。相も変わらず、真っ暗闇は苦手なようだ。



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