第51話

ポケスロンの閉会式。無事、メダル授与も終わり、あとは開会宣言もしてくれたラジオ塔の局長さんのお話と閉幕式を残すのみ。片目が悪くて分厚いサングラスをしている局長さんは、なんだかダンディーなひとだ。緊張したわあ、と式辞を読み終えたアカネはクリスと一緒にインストラクターの人たちに交じってならんだ。その時である。凄まじい音があたりに響いたのは。

「だれや、アンタ!」

ロケット団の奇襲だ。突然押し掛けてきた黒い服の男たち、女たちに悲鳴をあげる観客。アカネはクリスをみる。クリスはうなずいた。

「局長さんはここでみとって!うちらでなんとかするから!」

「アタシとアカネちゃんに任せて、みんな、落ち着いて!」

来賓のラジオ塔の局長さんや観客は、スタッフたちがまもる。大丈夫ですか?と局長さんに問われたクリスとアカネはうなずいた。ぐずっている女の子は、クリスお姉ちゃん、と後ろでジャージをひいてくる。彼女は、今日のポケスロンで2位になった。前まで、可愛そうだからとなかなかポケモンを叱れずにいて、それだけポケモンたちに優柔不断な面ばかり見せていてなかなかうまく指導できなかったのだ。クリスはちょっとだけアドバイスしただけだ。喜び勇んできた彼女が、メダルを見せてくれた矢先の事件遭遇だ。守らなくては、とクリスは思う。

たがが子供だと侮るロケット団の下っぱに、クリスはかちんときた。せっかく成功したポケスロンの水を差す真似をしておきながら、ポケモンをよこせ?ふざけているにもほどがある。クリスは、マリルリとヌオーをくりだした。さいわいちかくには、競技に使った水場がある。

「いくわよ、みんな?アタシたちが楽しんでくれたみんなを守る番!」

二匹はうなずいた。下っぱは、ラッタとアーボックをくりだしてくる。ラッタがかけてくると、鋭い歯をマリルリのしっぽにぶつけた。やーん、とあばれるがなかなか離れない。

「ヌオー、穴を掘る!マリルリ、波乗りよ!いっきに押し流しちゃって!」

ぬぼーっとしていたヌオーは、マイペースにうなずくとさっそく土に潜り、アーボの攻撃をかわした。はっとしたマリルリは、一目散にプールに飛び込む。ラッタはあわてて放すが、マリルリの声に反応して、プール全体の水が激しくうねりをあげる。ざっぱーん、と辺りが水浸しになる。流されたラッタとアーボ。再び持ちなおすと、今度はマリルリに集中攻撃が飛んでくる。ふらふらになりはじめたマリルリに、クリスはいいきずぐすりを施して援護する。ふるふる、と首を振って持ちなおしたマリルリは、もう一度波乗りを発動させる。ヌオーがようやく行動を開始する。仕留め損ねたラッタに下から頭突きをくらわせた。ふっとんだラッタを押し退けて起き上がったヌオーごと、敵陣営に波乗りがおそいかかる。今度は穴からざっぱーん、と二十の攻撃が追撃した。ちゃっかり貯水なヌオーは、マイペースに体力を回復させる。
やった!クリスはガッツポーズ。アカネを見れば、うちに喧嘩売るなんて十年早い!とあっかんべーしていた。あとは下っぱたちと戦っているスタッフさんの支援だ。二人はうなずくと先に進んだ。


「マグマラシ、火炎グルマよ!」

炎をまとったマグマラシが、丸くなるとごろんごろんと転がり落ち、どん!と後ろからドガースを攻撃する。ラッキー、火傷だ。大丈夫ですか?と局長さんに呼び掛けると、ありがとう、と礼を言われた。以前から室長部屋に閉じこもり気味だと言われていたわりには、なんのことはない、ちょっとだけ仕事熱心なおじさんだ。片目が見えないなら、外出も億劫だろうし、仕方ない。なんとなく片目でポケスロンの平均台をあるいたら大変だったと思い出したのだ。クリスはアタシから離れないで、という。ああ、頼みましたよ。

ドガースのスモッグ攻撃で視界がさえぎられてしまう。すかさずクリスはマグマラシを戻して、ピジョンを繰り出す。鋭い目を欺けるようなポケモンはいないのだ。

感心した様子で、やりますねえ、と局長さんに誉められクリスは照れたように笑った。

「ピジョン、逃がさないで。翼で打つ攻撃よ!」

風を生み出して、黒煙の中をピジョンはつっこんでいく。まわりをみれば、どんどんやられていく下っぱたち。退散も時間の問題だろう。

ほっとしたクリスに、局長さんは、ありがとうと笑った。下っぱたちが逃げていく。捕まえなくてはといこうとしたクリスは、局長さんをみた。なんですかな?と局長さんはいう。

「……あ、穴だらけに水浸しにしちゃってごめんなさい。あとでなおしますから!歩けないですよね?どうしよう」

「なーに、スタッフの人を呼びますから心配には及びませんよ。お嬢さんはお先にどうぞ」

「ごめんなさい!」

クリスはそれじゃあ!ときびすを返して、ロケット団を追い掛けようとする。そうだ、と局長さんが呼び止める。

「お嬢さんはどうにも元気がよすぎて、バトルに夢中になると、まわりが見えなくなってしまうようです。もう少し落ち着いて行動を心がけてください。そうじゃないと、大変なことになりますよ?」

「は、はーい。心がけます!」

おちつきがないといつも成績表にかかれていたことを思い出してクリスは笑う。クリスは、気を取り直して駆け出した。

「本当に大変なことになりますよ?お嬢さん」

ねえ、ヤミカラス。どこからともなく飛んできたヤミカラスに、局長さんは笑った。いってらっしゃい、と局長さんは、ヤミカラスをサミット会場へと飛ばしたのだが、むろんこの混乱の最中見ているものなどいなかったのである。















ピチューが光りに包まれる。光を突き破って現れた電気ネズミが、飛び込んできた。念願の電光石火を手にいれたぞ!ついでにピカチュウに進化したぞ!いやー、レベル13までに進化してもらわないと覚えらんないから、焦った焦った。もうだめかと思ったら、ぴったりで進化してくれて助かった!これで、ピカチュウの技は、ボルテッカー、電光石火、電気ショック、でんじはだ。電気玉ないとただの技の持ち腐れだけどなー。悪巧みと迷ったんだけど、アンコールないし、耐えらんないよな、こいつの耐久じゃ。天使のキッスが惜しいなあ。

天気は快晴、風も穏やか、波も大陸を離れて沖合いからずいぶんと遠くまで来たけどまだまだ安定している。一定のリズムの潮騒と波がゆれをさそう。酔いそうだから、俺はひたすらポケモン相手にしゃべりまくっていた。黙ってると間違いなく気持ち悪くなるから、ポケモン図鑑はすぐ登録できるようライフジャケットにつっこんである。文字なんか読んだらしぬ。漁師のおっさんに途中まで送ってもらった俺は、譲ってもらったゴムボートに揺られて水上を進んでいた。やっぱり生まれて初めて人を乗せて泳ぐポケモンに、水道横断は負担がでかすぎるらしい。先端の紐を意気揚揚と赤いギザギザのせびれだけ浮かばせて泳ぐオーダイルにひっぱってもらっている。しっぽを左右に揺らしながら、泳ぐオーダイルは多分研究所育ちだから海は知らないはずなんだけど、さすがは水タイプ。本能でどうとでもなるようだ。一番いいのは一緒に泳ぐのが負担が少なくて済むらしいけど、未成年のど素人のガキにハードルは高すぎる。泳げはするけど、かいパンやろうやうきわボーイになった覚えはないから、泳ぎながらバトルできるほど器用になった覚えはない。ドククラゲとかに刺されでもしたら、洒落にならねえ。何よりもはやいはやい。さすがに飛び出してくるポケモンには対応仕切れないから、ピカチュウがスタンバイしてる。のはいいんだけど、いかんせん初めてずくしの好奇心旺盛なやんちゃ坊主は、行楽気分全開だ。予め振りまいておいたシルバースプレーを嫌って一定の距離を保ち、こちらを波に流されながら観察しているメノクラゲが物珍しいのかオーダイルの背によじのぼって喜んでいる。はしゃいだら落ちるもんだから、気を遣ってオーダイルも泳ぎ方が慎重だ。わりいね、相棒。気にするなとばかりに振り向いたオーダイルは、にかっと笑った。

するとピカチュウが声をあげたので、前を見るとハリーセンが飛び出してくる。やばいやばい、おっさんがいうにはハリーセンは、十リットルもの海水飲み込んで膨張すると、その力をつかって全身のどくばりを一斉に打ち込むらしいからゴムボートに直撃でもしたら沈む!飛び出してきたって事は、ピカチュウよりレベルは高いはずだ。 くるぞ!と声を上げれば、スカーフをまいてスピードの恩恵を受けているピカチュウがオーダイルの上で先頭態勢に入る。

「ピカチュウ、電気ショック!」

むくりと起き上がって坂を作ったオーダイルの背中を駆け上がる。飛沫を上げていきなりオーダイルがあらわれて、驚いたハリーセンが動きを止めた。パチパチと電気をためると、下のハリーセンめがけてピカチュウが電撃をたたき込む。ぼちゃんと海面に落ちたハリーセンは、話のとおり泳ぎがへたくそでうまく体勢が立て直せない。俺はルアーボールをなげた。おっしゃ、やりい。すばやく図鑑に登録をすませると、俺はそのまますぐに逃がす。手持ち制限はきつい。ぱちくりとしたまま、俺をみたハリーセンだったがすぐに海に潜った。ばいばいとピカチュウは手を振った。おつかれさん、と俺はピカチュウに手を広げてよびこむ。突撃してきたほお袋をなでながら、前を見た。オーダイルの邪魔になっちまうかんな。

「もうすぐ、岩場のエリアにつくから、もうちっと頑張ってくれ、オーダイル。ついたらいっぺん休憩しよう」

ポケギアで確認した俺に、了解と一声。心なし、スピードが上がった。さあ、まだまだレベルあげいくぞ、ピカチュウと激励すると嫌そうにピカチュウはないた。格好の場所じゃないか、なんでわからないかねえ。



ゴムボートを流されないように岩場と周囲に広がる砂浜に引き上げた俺たちは、うーんとのびをする。ぶるぶると水を払ったオーダイルの被害を被ったピチューはびっくりしたのか辺りを見回す。あはは。一辺戻れとボールに納め、俺はバルキーをだした。さーて、ここいらのかくとう使い撃破にいくか。はやいとこ進化してほしいもんだけど、先は長いなあ。



「どーした、ゴローニャ。なんか見つけた?」

わざppは限られてるから、メンバーフル稼働だ。ゴムボートに出したら沈むし、オーダイルの上になんてのせらんないゴローニャでも陸地さえありゃこっちのもんだ。カイパン野郎やビキニのお姉さんのくらげさんたちには、レベルにものをいわせたごり押し。あはは、地震おいしいです。

トレーナーでもみつけたのかと顔を上げると、首を振られて、こっちにこいと手招きされる。岩場から覗き込むと、なにやらわらわらわらとたくさんメノクラゲが浅瀬に集まっていた。なんか異様な密集度だな。大量発生か?あれを見ろと言いたげな声とともに刺された指の先には、バカでかいメノクラゲ、いや触手が多いからドククラゲが打ち上げられていた。あらら。たしか漁師のオッサンの話では、ドククラゲやメノクラゲはほとんどが水でできているから、打ち上げられるとひからびちまうらしい。赤いコアに太陽のヒカリを浴びて水で屈折させると、コアから超音波を出して大波をよびこむそうだ。ほっときゃ大丈夫じゃね?ドククラゲはさっきの遊泳んときに捕まえ逃がしたからいらねえんだが。人間の力なんざ野性には邪魔なだけの方が多いぞ?ゴローニャ。すると、頑として動かない。俺は肩をすくめた。

「わーったよ、いってこい、ゴローニャ」

一応水半減の木の実を持たせる。突然のゴローニャの出現に一気にメノクラゲたちのコアが赤くなる。いわんこっちゃねえ!ゴローニャはわかっていたらしく淡々とドククラゲを担ぎ上げる。波やばいやばい、波乗りくるってばか!乗りで即死すんだからムチャすんなよ!岩場に登った俺はさけんだ。

「戻れ、ゴローニャ!あと、ドククラゲ」

あーもー貴重なハイパーボールが!ばしゅっといったん捕まえて、跳ね返った二つのボールを手に納めれば、さっきいたところが波にさらわれる。あっぶねえなあもう!はあ、と息を吐いて俺はハイパーボールからドククラゲを逃がすと使い物にならなくなったハイパーボールをしまう。モンスターボール系統のアイテムは基本的に使い捨てだ。なんせ、一度データを登録したら最後、一般トレーナーはデータの書き替えを禁止してるから。だから一度別のポケモンを捕まえたボールで、他のポケモンを捕まえようとしてもデータ不一致でつまはじきにされちまう。だから不要になったボールはショップに売るとデータを消去してもう一度製造ラインに乗せられるんだってさ。よくできてるよなあ、すげえわ。

ドククラゲやメノクラゲは、ひからびたら海に放り込むといいって本当だったんだな。乾物かよ、おまえら!あはは、と笑って俺は波乗りされないうちに早々に退散した。オーダイルがよんでらあ。


オーダイルはずっとひなたぼっこをしていたらしく、ぐあーと大きな口をあけた。ワニじゃねえから寒いエリアでも行動はできるけど、やっぱり体を暖めたほうがはやく泳げるらしい。なるほど、じゃあゴローニャの大文字で暖とるかといったら、全力で嫌そうなかおをされちまったんだけど、なにがだめなんだろう?ポケモンってむずかしいな。
「さあ、いこうぜ、オーダイル。そろそろ42番水道だし、流されちまわないようきいつけてな」

無理すんなよ、と頭を抱えて笑いかけた俺は、背伸びしてあたまをなでた。もう慣れたよ、ちくしょう!
流れがやっぱり早くなってる。途中で波に流されないように、岩場の隙間に体を埋めて、そのしっぽのぐるぐるで巻き付いて耐えてるタッツーの群れを見た。あ、こっちに驚いて吐いた墨があっという間に流されてく。ほー。

「たっ、助けてーっ!」



順調にトレーナーや野性のポケモンを薙ぎ倒しつつ先に進んだ俺は、のぶとい悲鳴を聞いた。辺りを見渡しても、やたらと岩場が多くて(だから船舶の航路からはずれ、ポケモンも出やすいからトレーナー地帯と化してんだけど)よく見えない。

「ヨルノズク、人の声がしたんだけどさ、オイラたちを案内してくんないかな?」
ヨルノズクは、うなずいて舞い上がる。オーダイルがそれを目印に、スピードを上げた。


カイパン野郎が溺れていた。泳げねえのに、なんでカイパン野郎やってんのおま。

「いやあ、助かったよ。ありがとう。僕はムネオ、よろしく」
「オイラ、ゴールド!よろしくなー!」

カイパン野郎のムネオかあ。あー、そういや疲れたから俺のポケモンかしてくれとかいうやついたっけ?
タンバもアサギも遠いと途方に暮れてたなあ。

「えっと、なんでカイパン野郎やってんの?」

「ポケモンと泳ぐのは得意なんだ。ただ普通に泳げないだけで」

そうだ、とムネオはいう。

「僕のポケモンたちが盗まれたんだ!おおきな船だったんだけど、知らない?」
「盗まれた?!」

「どでかい船が突然現れて、びっくりして逃げようとしたら、やつらにポケモンとられちゃって。もしかして海賊?」

今度は強奪ですか、ロケット団よう、見境ねえなあおまえら!

「オイラはみてないけど」
「そっか、キミも気をつけてね」

「おう。じゃあ、オーダイル、さっきの岩場まで戻ろうぜ。新しいポケモン捕まえないとかえれねえみたいだし」

ありがとうと笑う兄ちゃんを乗せて俺たちは引き返した。ポケギアに登録して、道中で詳しい情報を聞いて、ミカンちゃんに電話した。

船があらわれて、引きそうになったのに、全く方向性をかえないから、逃げたらしい。そしたら、きりの近くまで流されてしまい、うわさのでかいポケモンがコウリン。勝負を挑まれて負けて、命からがら逃げ出したら、別の船がたすけてくれた。でも、乗車賃は高いとポケモンをとられたとのこと。なんという無駄な連係。外まで活動範囲広げてんのか。ポケモン取り返しイベント発生だなこりゃ。うわさのでかいポケモンは、霧んなかでしかでない、ね、なるほど。なんだそりゃ?



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