第4話



「基本を知らぬど素人になり下がったお前に、負ける気はしない。大口をたたいた報いをうけるんだな。二度と、最強のトレーナーを目指せないように、ここで徹底的に叩き潰してやる!」

「おーおー、いってくれるじゃん。そのセリフ、まんまアンタに帰すぜ、通りすがりの少年くん。オイラに勝ってからいってくれよ」

「……あくまで知らないと言い切るか、面白い。思い出させてやろう!」

「だーかーらー、オイラはアンタなんか、知らないって言ってるだろー!言いがかりよしてくれよ!(ええい、本格的な初対面は今まさにこの時だっつーのに、な・ん・で・気付かねーんだよ、こいつは!普通3年もあれば声も姿も変わるだろ、この年代の子供は!記憶の俺と今の俺が全く姿が変わってないことになんで疑問をもたねーんだ、こいつは!)ホーホー、何とかしてくれ!」

「ふん、チコリータ、こいつの鳥頭をたたき起してやれ!」



通りすがりの少年???が勝負を仕掛けてきた!


(だーれが鳥頭だ、こんのクソガキィ!泣かす、絶対泣かす!)


ぎりりと歯を噛みしめ、般若の顔をした俺に、びくり、とホーホーが震え、おびえたように俺をみる。目が笑っていないであろう俺は、口元を釣りあげて、指示を出すために、人差指を突き出した。だがスピードで勝る分、相手の指示が迅速に先陣を切る。



「チコリータ、毒の粉だ!」

「ホーホー、催眠術!」



ふりまかれた禍々しい粉がホーホーに襲いかかる。毒状態となってしまったらしく、紫色の泡がふわふわと空に溶けていく。苦しそうにうめくホーホーだが、ぎん、と動向を開き、一気に降下してチコリータの顔面に突っ込んでいく。そして、ふらりと揺れた緑色の体は、ハッパを揺らして、ばたん、と倒れてしまう。寝息が聞こえ始めた。うぬぬ、と俺はうなった。毒の粉は、眠り粉もしびれ粉も覚えられないチコリータの数少ない状態異常技だ。こいつの判断基準は相手により大きなダメージを与えることを優先させる傾向にあるはずだから、たいあたりしてくると思ったのに、明らかに判断能力があがってやがる。それに、ゴロウといいこいつといい、レベルが高すぎる。やばいな、と思った。この時点だとどこにも毒消しが落ちておらず、しかも傷薬は使いきったせいで、俺は回復してやれない。もしかしてこっちのレベルに応じてレベルが上がってくるシステムでも導入されてんじゃねーだろうな、といぶかる俺は、ちい、という舌打ちを聞いた。厄介だな、こっちと同レベルなら、チコリータは間違いなくはっぱカッターや光合成を覚えてる可能性が高いじゃねーか。じわじわ耐えられると間違いなくこっちがじりびんになっちまう。よし、一気にたたみかけるぞ!



「ホーホー、つつく攻撃!」

「ぐっ……さっさと起きろ、チコリータ!」



チコリータは眠ったままだ。1ターンからも起きるよう仕様変更があったとはいえ、やっぱり催眠は強いな。にやにやしながら俺は、もう一回つつくを命じる。タイプ一致で抜群とはいえ、威力40だし、ホーホー自体が耐久力に秀でてるポケモンだからいまいち決定力に欠けちまう。いけると思ったんだけど、どうやらぎりぎりでチコリータは耐えてしまったらしい。ぱちり、と目があく。あー、おきちゃった。俺は、モンスターボールを見る。どくどくじゃないだけましとはいえ、けっこう削られてしまった。いくか。



「チコリータ、光合成で回復だ!」

「もどれ、ホーホー!いけ、ワニノコ!」



ぐぬぬぬ、回復してきやがった、メンドくせえ!その戦法はヒワダだろうが、こいつめ。おかげでこっちがどんだけ、どくけしと傷薬を買いだめするはめになったと思ってんだよ、この野郎!ちなみに俺はヒワダでこいつに2回ほど負けたいやな思い出がある。もちろん消したけど。振り払うように首を振った俺は考える。レベル補正がある分、一発は耐えられるはずだ。光合成は天気によって回復量が違う。今は夜だ、全回復はできないはず。なら、こいつのかみつく攻撃で狙える。回復はあと4回。連発すれば、ひるみも狙えるはずだ。ばしゅっと光がこぼれて、ボールから相棒が飛び出してくる。



「チコリータ、ハッパカッター!」

「よーし、ナイス、ワニノコ!こわいかおだ!」



俺とこいつの会話を聞いて、ホーホーに対する仕打ちに怒りをあらわにしているワニノコは、鋭い眼光でチコリータを射抜く。びくうっと震えたチコリータは後退してしまい、叱責を受けていた。こえええ!思わず俺も冷や汗が浮かんだ。すっげー、怒ってる。モンスターボールはずっとかたかたかた、とレベルが上がる寸前なわけでもないのに、早く出せと暴れていたから間違いない。同じ研究所の出身ポケモンとはいえ、許せないんだろう。半日前まで仲良さそうに3匹がウツギ博士の横で遊んでいたのを見ていた俺は、ちょっとつらくなった。あああああ、切ねえよう。俺をしり目に、ワニノコは唸っている。よし、思いっきりぶつけてやれ。俺がくだらないことでしか茶化さない性分である以上、お前が正統派主人公を頑張ってくれ、相棒!



「ワニノコ、かみつく攻撃!」



いけるか?!ワニノコが怯えているチコリータに襲いかかる。がぶうっと思わず目をそむけたくなりそうな音がして、ワニノコがチコリータの頭に映えている葉っぱのくきに、食いちぎらんばかりに歯を突き立てる。悲鳴が上がった。ぶんぶん、と振り回そうとするワニノコに必死で抵抗するチコリータ。硬ってえ、まだ落ちないのかよ!舌打ちをした。くそ、やっぱり耐久力が優れているだけはあるってか?ふざけんな。



「ふん、勝負に急ぎすぎたようだな、ゴールド。チコリータ、ハッパカッターでふるい落とせ!」



きっ、と涙目だったチコリータの目つきが変わる。及び腰だったが、態度が一変した。まずい!鳴き声を上げると、周囲に落ちている針葉樹が呼応してふわふわと浮かび、一気に降下する。噛みついているワニノコめがけて、いくつもの葉が飛んで行き、効果抜群に加えて新緑発動、タイプ一致でダメージがでかい。ゆるんだすきにチコリータはワニノコを分投げる。そして、勢いよくハッパカッターを炸裂させた。空中で防備のないワニノコはハッパカッターをダイレクトに喰らって落下する。ワニノコ!と叫んだ俺は、あわててモンスターボールに戻した。ああくそ、悪夢がまた蘇りやがった。急所で追撃とかどんだけ運悪いんだよ、最悪だ!ヒワダのまんまじゃねーか!



「頼むぜ、ホーホー!ワニノコの分、がんばってくれ!」



まだいけるか?こくり、とホーホーがうなずく。じわじわなぶり殺しにされてたまるか、と俺は催眠術を命じる。素早さの下がっているチコリータは再び眠りに落ち、俺は必死で起きないことを祈りながら攻撃を命じるしかない。2ターンずっと眠り続けているチコリータ。じわじわと減っていくHP。まずいまずい、いくら先にとどめを刺しても、ぎりぎりで毒を耐えられるか耐えられないかの残量だ。これじゃもしチコリータを倒しても、同じターンで体力が尽きてしまうとドローと判断されて、強制的に負けになっちまう!頑張ってくれホーホー!



「ホーホー、つつく攻撃!」

「っ……!もどれ!」

「あー、ホーホー!」



倒れたチコリータはモンスターボールに戻る。毒の消耗に耐えきれず、ホーホーが地上に落下する。直撃寸前に、俺はモンスターボールで回収した。だー、くそ、惜しい!もうちょっとだったのに、引き分けかよ!しかも事実上俺の負けじゃねーか畜生!俺は自棄になりつつリュックを探す。そして、財布を取り出した。痛い、痛すぎる。序盤でこの出費はでかすぎる。勝っても500円しか返ってこねえしなあ。賞金はどういう法則で支払われるかわかんねえし、金銀を習って半額でいいか。俺は1500円を渡そうと顔を上げた。



「ふん、勝ってうれしいか?」

「は?」

「賞金だ、受け取れ」



ぴん、と500円玉を投げられる。とっさに俺は受け取った。……あ、指紋ついちまった!あとで警察に重要な証拠として渡すつもりだったのに!ってそうじゃなくて!俺はあわてて駆け寄ると、なんだ、と不機嫌そうなそいつに500円玉を返し、1500円を渡した。



「おいらの負けだ、いらねえよ!むしろ払わせろ!で、もっかい再戦!」

「再戦?何をいってるんだ、ふざけてるのか?一方的な勝利を挙げておいて」

「ふざけてねえよ。オイラはアンタに勝つって、そう言ったんだ。でも同じターンに、毒の粉の副作用で倒れちまったから、ドローなんだよ。オイラは勝てなかった。言ったことは守るって決めてるんだ。受け取れないぜ。持ってけドロボウ」

「ふん、くだらないことにこだわるとは、甘っちょろいお前らしい。受け取れるか。そんな理由で再戦だと?付き合っていられるか。僕は忙しいんだ」

「はあっ?!なんだよそれ!(まさかのイベント拒否!お前が再戦してくれないとイベント進まないだろうが!)」

「お前が敗者だというなら、もっといい条件をのんでもらおうか」

「な、なんだよ」



にやり、と不敵に笑ったこいつは、言い放った。



「3年前のこと、誰にもばらすな。一切警察や周囲に漏らさないと誓え。そしたら、再戦してやるよ」

「オイラに共犯になれって?そんなこ」

「拒否権があると思うなよ、僕は願い出てるわけでも懇願してるわけでもない。命令してるんだ」

「ちっ、わかったよ」



イベントシナリオを囮にとられたら、何もできないじゃねーか、こんの卑怯者!悔しそうな顔をしている俺に、どうとでもいえ、とライバルは笑った。そしてゆっくりと踵を返す。



「今日の所は見逃してやるが、もしおまえがこのさき僕の前に現れたならば、そのときは決着をつけてやるぜ!」

「な、ちょ、おま、ここで再戦じゃないのかよ!」

「はははっ、そんなこと、一言も言っていないだろう。勘違いしたお前が悪い」

「ふざけんな!」

「おれは俺の信じるチャンピオンになってやるぜ。そのためには、ゴールド、お前は邪魔なんだよ。今度こそ、そのふざけた高みの見物風情から、引きずりおろしてやる!覚悟しろ!」



ライバルは行ってしまった。ポケモンが全滅してるせいで草むらを追いかけていけない。段差を利用してワカバまでもどるしかねーな、くそ。なんか結局引き分けなのにイベントが進行しちまったから、結果オーライとして、結局経験値も手に入らないし、パーティ全滅するしいいことひとつもねーじゃねーか、この野郎!俺はもうやだこの世界、と叫んだ。



















ぜいぜい肩を上下させながら研究所に駆け込んできた俺に、ウツギ博士と助手は仰天して迎えた。全滅したパーティをみた博士はあわてて回復する機械にモンスターボールを担ぎこむ。座ってください、と助手に促されて丸椅子に腰かけた俺は、水を差し出されて一気に飲み干した。たっぷり5分間。ろくに会話できない俺の回復を二人は待ってくれる。
そのうち、現場検証をしていた警察らしき人がウツギ博士に話を聞きに来た。そうそう思い出した、と俺はテンションがますます下がるのを自覚する。残念ながら、非常に残念ながらどうやらこの世界は幼馴染のコトネはいないらしい。もしかしたら別の名前かも、って考えて、家を一応探したし、メールも確認したけどなかったし、ワカバタウンの誰も女の子の名前を俺に出す人はいなかった。なんという理不尽。まあ、逆に疑われもしなかったけど。はあ、と助手はため息交じりに、事件を説明してくれる。


俺はすぐ、しゃべった。赤毛で目つきの鋭い、黒服の少年じゃないか、チコリータ連れてて、戦った。でもお互いに全滅してしまい、そいつはヨスガシティに逃げたけど、草むらがあるせいで追えなかったと告げる。ウツギ博士と警察の人が寄ってきた。大人に囲まれる。見上げながら、少々緊張しながら、俺はいう。警察を前にすると、なんか無性に緊張するよな、何もしてないのに。あ、俺、隠匿剤になるんだっけ?まあ初対面なわけだから、普通は知りえない情報だけど。



「初対面なのに、ゴールドくんのことを知ってたのかい?変だね。ゴールド君はポケモンをもったことがないから、ワカバタウンから外に出るのは今日が初めてだったはずなのに、強いトレーナー、だなんて(事実だけに、ちょっとだけグサってくるぜ、畜生。他のロムから持ってこれねえかなあ、ポケモン)」

「きっと誰かと勘違いしたんでしょう(未来の俺とな)、ウツギ博士。ゴールド君も災難でしたね、無事で何よりです。はあ、でもチコリータ、今頃どうしてるだろう。悪い人に育てられると、悪いポケモンになるといいますから、心配ですよ」

「ゴールド君、といったね?犯人は、名前とか言ってなかったかい?」



名付けイベント来た!でも案外警察の人に言われると、もともと隠匿罪があるのに、変な名前を付けるともっと後ろめたくなるなあ。どうするか。うーん、と俺は思い出すふりをしながら考える。


あいつは親がサカキだってこと、ロケット団の関係者だってことを話すな、といっただけであって、警察に協力するなとは言ってない。おそらく初犯だろうから、なかなかつかまらない自信でもあるんだろう。警察なめてるよな、ぶっちゃけ。



「すみません、刑事さん。そいつ、名乗らなかったんです(よっしゃ、これで俺は嘘ついてないぜ!これでテロップには???が出るわけですね、わかります。あっはっは、ざまーみろ」

「うーむ、そうか。ありがとう(なんかじーってみられてる?ううう、ばれませんように!いや本当に名前は知らないんだよ。何者かは知ってるけど!)」

「力になれず、すみません(頼むから尋問とかつどんは勘弁して!)」

「いやいや、君のおかげで犯人がどんな奴かわかっただけでも十分さ。ありがとう(よ、よかったー、セーフセーフあっぶね)。もし、何か大切なことを思い出せたら、連絡してくれるかい?(笑顔が怖いです刑事さん)」



まさかの警察の電話番号を登録するはめになった。めっさ疑われてる!ひいい。



「チコリータ、はやく、見つけてあげてください」

「ああ、まかせて。ここからは我ら警察の仕事だからね」



頭を撫でなでされて微妙な気分になる。俺、今年で××歳なのに、なんで子供扱いされなきゃいけねーんだろう。まあコナンもびっくりの異世界の子供だけど。うーん、疑われてるって思ったけど、よく考えたら初めてのお使いでこんなことになったら、心配になるか。いざというときの防犯としてもっておいて、って意味か?と聞いてみると、刑事さんはにっこりと笑って、同じくらいの娘がいるんだ、と笑った。なんだ、ただのお節介か、びっくりした。



「ゴールド!」



ばたーん、と研究所の扉を勢いよくあける音がして、俺たちは振り返る。ぱたぱたと走ってきた影は、ばーん、と俺にタックルしてくる。そして、ぎゅう、と抱きしめられた。ななななな、な?!あわあわとしている俺は、恥ずかしくなって、赤面する。大人がみんな笑ってる。なんという公開処刑!ぎゃー、やめてくれ!



「ちょ、おかーさん、はなしてくれよ!」

「馬鹿!こんな遅くまで連絡もいれずに何やってるのかと思えば、こんな危険な目にあってるなんて!悪いコね、お仕置きよ!」



うぎゃあああああ!公衆の面前で尻叩き百発は勘弁してくれよ!

問答無用!


研究所は大爆笑に包まれた。


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