第45話

「ルールだと?実戦はいつどこで起こるか分からん。ずるいもきたないもない。いちいち気にするのか?馬鹿馬鹿しい」

「んなこといっちゃって、またジョーイさんに怒られてえのかよ、アンタ」

「それとこれとは話が別だ。さっさと定位置につけ。ジャッジなど路上バトルには必要ない」


砂浜に到着したブラックは、路上でしようとしてたから引っ張ってきた。
ただでさえさっきの騒動で顔覚えられちまったばっかなのに、やっぱあほだこいつ。
警察が泳がせてるとはいえ、指名手配なのにはかわんねーだろうに。
通報されたらどうすんだろ、こいつ。
へいへい言いながら、俺はポケモンに持たせてる道具を確認した。
これも実力のうちってね。あるんなら使ってなんぼだろ、道具なんて。
惜しむらくはきあいのタスキが一個しかなくて、しかも消耗品だってことだ。
あーくそ、バルキーどうやりゃいいんだ。タイミング見計らうしかねえなあ。
ブラックの手持ち、6つもモンスターボール並んでやがるし。
あーもー、俺も早いとこメンバー集めないとやばいなあ。
はあ、とため息をついて、俺はモンスターボールを構える。

「ちょうどいい。灯台のポケモンが病気だとか下らん理由で不在のジムリーダーのせいで、気が立ってたところだ。遊んでやるよ」

「突き落とした理由はそれかよ、ふざけんなあああ!」

どんだけ自己中なんだよ、この野郎ふざけんじゃねえ!
鼻で笑うブラックは、涼しげな顔をして挑発してくる。
決めた。今決めた。ぜってえ負けねえ。今度こそ、勝ってやろうじゃねーか!
俺達はボールを投げた。

「ゆけっ、ゴルバット!あやしいひかりで混乱させろ!」

「先発は任せたぜ、オ―ダイル!混乱なんかにまけんな、高速移動!」

翼をたたんで一気に急下降したゴルバットが、超音波を繰り出してくる。ぐわんぐわんとする波長を真に受けて、ふらふらと足取りのおぼつかないオ―ダイル。
でも、どうやらさっき俺が海に突き落とされたのがよほど気にくわなかったらしく、
怒りが凌駕したのか、ふるふると顔を振ると、素早い動きで体をあっためはじめる。
よしよし、この調子なら今回はあんときのひどい運ゲーにほんろうせずに済むかも!
よっしゃ、これでいい感じに特攻できるぜ、と俺は指示を飛ばす。
ちっと舌打ちをしたブラックはボールを構える。え?


「もどれ、ゴルバット。コイル、お前に任せる。こい!」

「げっ、交換すんなよ、メンドくせえ!ま、いいや、ふぶきっ!」


ないよりはましだけど、これなら波乗りの方が良かったか。
電気タイプはやっぱ鬼門だ。ゴローニャに大きな負担をかけちまう。
しかも鋼・電気とか。交換してもぜってえダメージくらっちまうじゃねーか、くそ。
フォーカスレンズで命中率は上昇してる。
一帯だけ極端に温度が下がり、オ―ダイルの叫びに呼応して氷技最強威力が襲いかかる。
ぱあん、と砕け散っていった氷壁。でも鋼タイプだから効果は半減。
しかもこっちは本業の攻撃技じゃねえ。
やっぱりコイルは反転し、その鈍い光沢をした体を震わせる。浮遊じゃなくてよかった。
どんだけゴローニャ涙目って話だしな。総じて不利だ。俺はゴローニャと交換する。


「コイル、マグネットボム!」


案の定飛んでくる特殊の鋼技。ひいい。
幸い威力の不足と、捕獲したばっかなんだろう、レベル差が補正して案外深刻なダメージにはならない。
ホッとした俺は、耐え忍ぶゴローニャを見る。


「進化させてやがったか」

「へへっ、オイラには友達いるもんね!」

「友達?そんなものいらないだろ。くだらないことほざかずに、さっさとバトルに集中しろ」

「へいへい。ゴローニャ、見してやれ!いわおとし!」

「そう何度も交換するか、馬鹿め!もう一度マグネットボムだ!」


げ、ゴーストに変えてくると思ったのに。余計なターン使っちまった、もったいねえ。
俺はあわててミックスオレを使って回復させる。
道具だと?つまらんことをするな、とブラックは笑う。
そういやこいつって、クロバットを使ってくるようになるまで、一度も回復系のアイテム使わないんだよな。
それなんて縛り?こいつの美学とやらはよくわからん。


「ゴローニャ、今度こそいわおとし!」

「ちっ、何も考えずに乱発しやがって。まあいい。一発くらい受けてやれ。
いけ、ゲンガー、葬ってやれ!」

「一人通信交換お疲れさんです」

「うるさい。ゲンガー、シャドーボールだ!」

「へへっ、待ってました!頼むぜ、ヨルノズク!これで無効だ!」


しばらく、お互いのパーティを把握するために、交換合戦が続く。
じわじわじわ、とおたがいにその分ダメージが蓄積されていく。
あと一匹はなんだ?ジョウトじゃたしか5体でパーティは固定されてたはずだから、俺は知らない。
知らないってなんかこええなあ、と改めて思いつつ、必死で展開を考える。
そろそろ動きださねえとらちあかねえな、ただでさえ俺の方がパーティ少ないんだ。
タイマンにつきあってたら、負けちまう。
ゴローニャを繰り出した俺は、ニューラで鉢合わせするブラックと目が合う。

よっしゃ、ニューラきた!冷凍パンチ覚えてねえニューラなんて全然怖くねえもんな。
へへ、たった35からの特殊技はこわくねえよ!たたみかけるか!


「ニューラ、れいとうパンチだ!」

「えええっ?!なんで覚えてんだよ!」

「馬鹿め、あの時はお前のパーティの関係で出せなかっただけだ!
ダメージも蓄積してる!しとめろ!」

「そりゃこっちのセリフだーっ!お前のせいでどんだけハヤトで苦労したと思ってんだよ!
つちかった防御力なめんな!」


がきいん、と冷気をまとった爪が炸裂するが、やはりゴローニャは固い。
攻撃技ならこわくねえんだよ、特殊だとびっくりするくらいもろいけど。


「お返しだ!大文字!」


俺の声に反応して、ゴローニャが本来レベルアップでは覚えないはずの特大の炎を吐き出す。
38番道路でりかちゃんの電話番号聞くついでに、ちまちまコイル相手に練習した甲斐あったぜ。
電磁浮遊されたらうざいんだよなあ、エアームドはまだまだ先だけど、ミカンちゃん戦にはもってこいだし。
あー、でもHPがもう駄目だな、こいつ遅すぎる。
ごめん、後につなぐから、とりあえず切らせてくれ。


「なっ?!」

「へへ、オイラのパーティには炎タイプいねえかんな。
こうでもしねえと鋼が面倒なんだよ。らっきー!」


思わぬ奇襲にたまらずニューラが倒れる。よっしゃ、やりい。


「いけ、コダック。みずのはどうで今度こそとどめをさせ!」

「げえっ、もう一体の新入りは水タイプかよ!」


しかもエスパー技レベルアップで覚えるとかバランス補正まで考えてきやがった!
ただでさえ、ブラックのポケモンは一体一体が強ポケと呼ばれるやつばっかの
「おれのかんがえたかっこいいパーティ」な構成してんのに。
極端な偏りがあっから、救いだったってのに、補正してきやがった!


「ゴローニャ、いわおとし!」


なけなしの抵抗も空しく、ゴローニャが沈む。ごめんな、とボールに戻した。こいつも捕獲したばっかかな、レベルが低いといいな。みたことないし。うぐぐ、と唸る俺はふたたびボールを見る。

ここから一進一退の攻防が続いた。
ヨルノズクでコイルを眠らせ、そのすきに壁を張ったはいいけど、
タイプの相性を承知の上で登場してきたメガニウムはやっぱり硬い。
幸いなのは、ヤドンの井戸の件でメガニウムが、本来覚えるはずの花びらの舞いを、習得し損ねてるってことだ。
でものしかかりを覚えたメガニウムは、踏みつけでヨルノズクと耐久勝負をした経験が生きてるせいで、やたらと当たる。
そのせいでたった2回で麻痺状態をくらってしまったヨルノズクは、エアスラッシュがうまく決まらない。
回復の薬を使いたいけど、タイミングを誤るとまたずるずるペースを引きずられちまう。
なんとかのしかかりが外れた瞬間を見計らって回復させた俺をみて、メガニウムをひっこめちまった。
次のターンで飛び込んできたゴルバットに混乱を呼びこまれ、
そのまま疲労が蓄積していたらしいヨルノズクはおそろしいほど技が当たらなくなっちまった。
なんとかサイキネでダメージを与えた俺は、ゲンガーで取っときたいから、オ―ダイルと交換。
そしてダメージを喰らいながらも、波乗りで押し流す。
でも、とうとうゲンガーが登場してしまい、シャドーボールを受け止めきれるまで回復させるはめになった俺は、オ―ダイルを失った。
でも、タイマンに持ち込んだら、圧倒的に有利なヨルノズクでなんとかのろいと不意打ちをしのいでねじ伏せる。
でも、のしかかりのPPが切れたメガニウムに、新緑が発動したうえで、超至近距離からマジカルリーフをくらい、たまらずヨルノズクは倒れてしまう。

あっちはメガニウムとコダック。

こっちはバルキーとピチュー。

よっしゃ、精神力がやたらおおいけど、これならねこだましでいける!
俺はバルキーを繰り出した。結構なダメージが蓄積されてるはずだ、がんばれ!



「バルキー、ねこだまし!」


問答無用で素早さを無視して攻撃できるのはありがたい。
幸いリフレクターをはっていないメガニウムは、びっくりしたのかひるんでしまう。


「よっしゃ、もらったぜ!マッハパンチ!」


いくら小さくても、ダメージはダメージだ。とどめがさせりゃ十分すぎる。
倒れてしまったメガニウムをもどしたブラックは、コダックを繰り出した。


「バルキー、,マッハパンチ!」

「ふん、大したダメージでもない。コダック、ねんりきでねじふせろ!」


特有の波動をくらってしまったバルキーは、倒れてしまった。
俺はボールを戻す。


「へっへー、年貢の納め時だぜい!ブラック!観念しな」

「ふん、馬鹿馬鹿しい。ビードルですら耐えられる技でも一撃で落ちるようなやつに負けるか。耐えられるに決まっているだろう」

「ばーか!んなもん、一撃でたおしゃ、問題ねーんだよ!いっけえ、ピチュー!ボルテッカーっ!」

「なっ?!」

案の定、電気ショックしか覚えてないと思われてたらしく、驚きの声が上がる。
ちなみにちからのハチマキつきの特大ボルテッカーだぜ、耐えられるもんなら耐えてみろ!
電気をまとったピチューが、勢いよくコダックに向かって駆けていく。
素早さは微妙にこっちのが早いし、ずーっとすばやさあげてた甲斐があったぜ、やっほう!
どーん、とさく裂したボルテッカーをまともに食らい、コダックは倒れてしまう。
あー、さんざん遊んだ手前負けたら本気でかっこ悪かったからなあ、せーふせーふ。
これで1勝1敗2分けか、いい塩梅じゃん。
そのかわり、がががががっとすさまじい速さで減っていくHP。
こ、こええええ。なんとか止まったゲージは、ぎりぎり黄色で止まった。
ふらふらしてるピチューは、べしゃりとこけてしまった。
初陣だもんな、緊張しきりだったんだろう、お疲れさん。
ぱたぱたと走り寄り、ピチューを抱き上げる。
さんきゅー!と笑えば、疲れた顔をして、笑った。
よわっちいやつめ、と舌打ちをしたブラックは、コダックを戻した。


「よっしゃーい!やっと勝ったぜ、この野郎!そーだ、今度こそちゃんとくれよな、賞金!」

「ぐっ……!仕方ない、今日のところは引いてやる。受け取れ」


くれくれと催促すれば、なんでこんなやつにとばかりに眉を寄せられる。
乱雑に開けられた財布から取り出されたお札と500円玉が渡される。
へへ、まいどあり!と財布にねじこんだ俺は、ピチューを抱いたまま笑った。


「おい」

「ん?」

「ひとつ聞きたいことがある。ニューラに進化系があるってホントか?」

「ああ、マニューラ?いるっちゃーいるけど、たぶん無理だぜ?」

「何でわかる」

「進化条件は、鋭い爪をもたせて夜にレベルアップだからなあ。
鋭い爪は、ほら、あの先にあるバトルフロンティアっていう、
すっごい強いトレーナーだけ招待される施設でしか入手できねえんだよ。
オイラ達じゃ通してくれねえさ。なんせジョウトを制覇しないとだめなんだし」

先は長いなあ、と空を見上げる俺に、ブラックはバトルフロンティアを見ていた。
やめとけよ、警備員いるし、と止めれば、別に侵入する気はない。いずれ俺の名をとどろかせて見せる、となんかやる気出していた。
バトフロで顔合わせしたら面白そうだなあ。


「さあ、アサギの灯台行こうぜ、ピチュー。ミカンちゃんにあってこよう」

「相変わらずお人よしな男だ。強者は常に勝者だが、俺はお前みたいなやつは認めるつもりはない!今度は泥につけてやる、覚悟しておくんだな!」


ピチューはブラックが気に入らないらしく、大きく身を乗り出して抗議の声をあげる。
振り返ることもなく去って行ったブラックは、たぶんポケモンセンターに直行してんだろう。
俺も行かなきゃなあ。


にしても、お人よしねえ、とぼやく俺に、ピチューは首をかしげた。
なんか笑いがこみ上げて来て、俺は肩を揺らす。ホント似合わねえ言葉だこと。
ホントにお人よしなら、呑気にこんなところでつりなんかしてるわけないだろうに。
防波堤を見れば、相変わらず釣り人一人いない閑散とした風景が広がっている。
おひとよし?何それおいしいの?
俺が行きたいのはレベル上げと賞金稼ぎ、ついでにアイテム回収とうはうはな道中が待ってるからだ。
もちろんデンリュウのアカリちゃんも心配だけど、きっとイベント無視してタンバシティに行っちまったら、
きっとミカンちゃんとお近づきになれるタイミングはめぐってこない。
せっかくの主人公補正だ、出会って損はねえしな。どうせなら電話番号聞きたいし。

っとその前に。
ポケモンセンターで回復させたあとは、アサギの食堂に行って昼飯にしよう。もう1時だ。


まってろよ、カーネルおじさーん!


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