第43話

レベルはこっちの方が上だし、序番ですばやさあげまくったかんな、こっちの方が早いはずだ。
高速移動はいらねえ、つっこむのみ!
能力値で考えりゃ、80と83、なんてたった3しか違わねえけど、それは同レベルでタイマンするときに悩むべきことだ。
問題は、こっちの覚えてる特殊技がことごとく半減されちまうってことだな。
くっそ、あいつたしか特殊防御の方が、ずっと防御力より低いってのに。
有効技はない。攻撃技はタイプ不一致で、しかも威力が80って中途半端なかみくだくのみ。
防御力が下がることを祈るのみってところか。

指示を待つオ―ダイルが、ぐあーっと口をあけて、腕を振り上げ、マリルリを威嚇する。
マリルリも負けじと体を大きく見せるべく、しかめっ面をしてぶるぶると体を震わせた。


「オ―ダイル、かみくだけ!」


よっしゃ、やっぱ早い!先手もらったぜ、とこぶしを握りしめた俺は、様子をうかがう。
クリスはある程度予測してたのか、少し顔をゆがめたものの、やっぱりね、とつぶやいて、
すかさず反撃を命じる。
なんだなんだ、やっぱりすてみタックルか?
こっええんだよなあ、ホントは攻撃力50しかねえってのに、特性のせいで実質2倍だから。
なんせ努力値もふくめて、攻撃力が2倍だぜ?おそろしすぎるだろ、チャーレムか。
タイプ不一致とはいえ、オ―ダイルなみの攻撃力とか脅威すぎる。
素早さもほとんど変わらねえし、なかなかこわい存在なんだよな、いろいろと。
それに、威力のある技突っ込まれると、いくら防御面をあげてるオ―ダイルでも、
下手したらタイマンの状況かじゃ負けちまう!
勢いよくかみついたオ―ダイルに、悲鳴をあげるマリルリだが、その割にあんまり痛くなさそうだ。
モンスターボールをにらめっこしてるクリスの反応を見るに、結構いいダメージは
でてるっぽいんだけどなあ。
あんがい顔にでねえのか?クリスはバトル中、あんま顔に出ねえよう練習した方がいいかもな。
思わず笑った俺に、なによう、とクリスはふくれた。


「マリルリ、アクアリング!」

「は?」


マリルリが声をあげると、近くの小川の水が反応して、マリルリを取り囲むように
ベールを形成すると、ふしぎな壁を作り始めた。
毎ターン回復する耐久型御用達の技だ。たしかレベルアップで覚えるんだっけ?


「ちょ、え、あれっ?まさかの耐久型?!力持ちじゃねーの?!」

「さあ?どうかしら?」

「まじかーっ!くそっ、オ―ダイル、防御力を下げちまうくらい、思いっきりかみついちまえ!」


くすくす、とマリルリと同じ顔をしてクリスが笑う。
さすがは長年付き合ってきたポケモンとトレーナーってか?
ポケモンは親に似るってありゃ、やっぱほんとだな。
わかんねえとはいえ、やることはかわんねえ。
まずいぞ、こっちがせめる一方ならいざ知らず、どうなってんだこれ。
どのみちやることは、ひたすら攻めの一手しかねえ。
耐久型なら、熱い脂肪だから、氷と炎技が半減されちまう。
もともと水タイプで半減対象だから、実質4分の1だ。
ますます特殊技だしにくくなっちまった!あーもー、レンズの意味ねえ!
でも高速移動なんて無駄なだけだしなあ、アンコールとかされたら困る。
育て屋さんの娘だし、卵技遺伝しててもなんらおかしくはないのがこええ。ずりいなあ。

かみつくオ―ダイルをしのいだマリルリは、ふるふるとくびをふる。
やっぱり防御かHPのあたりに力入れてんな、こりゃきつい。
あれ?やばくね?ふりじゃね?がんばれえええ!
オ―ダイルの猛攻にも関わらず、かってえ上に、アクアリングが怖すぎる。


も、もしかして特殊型?


「マリルリ、きあいだま!」


やっぱりいいい!くそ、力持ちじゃねえから、特殊技でいいのか。
格闘技でありながら、とくしゅ技というむちゃくちゃなその技は、
無論この特殊格闘技において最高威力を誇る。
オイラに力を分けてくれ!とばかりに力を集中し始めたマリルリに終結する光。
あたったら結構まずいぞ、こっちダメージくらうしかねえのに。
はずれろはずれろ!必死に祈る。頼む、命中威力70の弊害をいまここに!


豪快な力がさく裂し、オ―ダイルは大きく後退するが、フルフルと首を振る。
ちら、とモンスターボールのHPゲージを見れば、黄色までいったものの、幸い半分くらいのこってる。


「や、やっぱり一撃じゃ無理ってこと?!うそおっ!」

「よ、よかったーっ!レベル上げといてよかった!
がんばれ、オ―ダイル!もういっちょかみくだけ!」


この調子なら、なんとか!

反撃に転じたオ―ダイルの牙が、さっきからかみつかれて赤くなり始めているマリルリの耳にふたたび噛みつく。深く深く食い込む。お、これならこっからダメージが増加?
マリルリは悲鳴を上げた。よっしゃあ!俺はガッツポーズして、オ―ダイルに駆け寄った。











「………クリス」

「ど、どうかしら?」

「心配しなくっても、十分すぎるぜ、このパーティ。バランスよすぎ」

「ほ、ほんと?よかった!」

「つか、もうフルメンバー確定してんじゃねーか!」


ばーん、と思わず俺はテーブルをたたく。
何このパーティ。一軍で十分はれるだろ、何がアカネちゃんが大丈夫か心配、だよ!
思いっきりいけるじゃねーか!
たしかに俺と比べてレベルは低いけど、バッジ3つ目なら十分すぎるほどだ。
俺のパーティは、いわゆる初心者トレーナーの集め方じゃない。
他のやつを上げながら、そこそこいい奴をかき集めるって過程をふっ飛ばして、
少数部隊を集中してレベルを上げてたから、むろんレベルが上がり過ぎなくないなのは分かってる。
おかげである程度の不利なタイプに対しても、威力のたかいわざとレベル差補正で押し切れる。
そのかわり、どうしてもフル稼働にしなきゃなんないから、PPがいっつも気にかけないとすぐなくなっちまう。


一方クリスのパーティを紹介すると、こんな感じだ。

マグマラシ
マリルリ
ヌオー
ピジョン
エレキッド
そして、トゲピー


攻略本で紹介されてる、バランスのいいパーティの例をそのまま持ってきたような感じだ。
持ってるポケモンたちの技をすべてカバーしきってる上に、
ジョウトジムを考えると相性がいいポケモンが網羅されてる。
たとえばヌオーは、とくせいが貯水だから、これだけで最後のジムリーダーのいぶきの強敵、キングドラを完封できる。
しかも水タイプが実質無効とかどぎついにもほどがある。
エレキッドを最後まで進化させるのかは知らねえけど、
もしするなら、電気エンジンで電機技が実質的に無効ってことになるし、うかつに出せない。
なんせ、電気エンジンは電機技をくらうとスピードが上昇するという特性だ。
怖すぎるだろ、電気タイプでありながら、電気タイプキラーなんだぜ?地震覚えるし。
うわー、相手したくねえ。


「あとはレベル上げるだけじゃねーか。うわー、がんばらねえと追いつかれちまうなあ!」

「あ、そうなの?ふふ、ありがと。なんか安心したわ。
よーし、この調子でアカネちゃんに勝ってくる!で、バッジ貰ってくるわ!
すぐ追いついてやるんだから!」

「へへっ、負けねーかんな!」

「望むところよ!」


顔を見合せて笑う。俺達は、再びモーモー牧場で別れた。





















ブラックの手持ちは、メガニウム、ニューラ、ゴルバット、コイル、そしてゲンガーである。
本来人との通信交換を経なければ進化しないことで知られるこのポケモンをなぜ彼が持ち得ているのか、といえば、時代の流れがそれを可能にした。
現在トレーナーが通信交換する手段は大きく分けて3つある。


ひとつは、実際にその場にいるトレーナー同士が合意の上で行う、ごく一般的なものだ。
ポケモンセンターのユニオンルーム、もしくはそういった交流場に設置してある特殊な機械にかけることで行われる。
モンスターボールには正式に交換がされたという記録が上書きされ、所有権が移るのだ。
ちなみにこれにはトレーナーカードに記載されているIDナンバーをトレーナー自ら書き込む必要がある。



ふたつは、ポケギアの初期設定にあらかじめついている電話機能を利用したものだ。
いわゆる知り合い同士で行う通信交換のことである。
電話番号を交換した際に、その人のページに自動的にポケギアのみが持っている友達コードと呼ばれる数字列が登録される。
それをユニオンルームに入る際に入力することで行われる。
ちなみに、その友達コードを登録しておく機能を「友達手帳」という。
これで遠くにいても知り合い同士ならば、通信交換が行えるというわけである。


みっつが、見知らぬ人と通信交換ができるというものである。
ジョウト地方ならば、コガネシティのはずれにある、グローバルターミナルという国際施設内部にある、グローバルトレードターミナル、通称GTSでのみ可能である。
トレーナーはいつでも連絡が取れる場所の連絡先を記載する必要があるが、予め交換するポケモンを登録しておき、自分がほしいポケモンを登録しておけば、匿名で誰かと交換できる。


ブラックは三つ目のGTSを利用した。
というよりは、3つめしかできなかったというべきか。
彼は複雑なおい立ちゆえに、未成年のトレーナーにつきものの、保護者にあたる人間の署名や住所といった部分における難点から、ポケギアを持っていないのだ。
そしてトレーナーカードのIDを交換するような友人、知人は今のところ存在しない。
彼自身が不必要と切り捨てている以上、望むべくしなければ、いつまでも彼は孤独だ。
ゴールドの持っていたポケモン図鑑も同様。
本来、両親に買ってもらうような金額のものである。
みるたびに、無意識のうちに目をそむけてしまうものの、現状における不満はない。


とはいえ、トレードが目的の施設でポケモン図鑑のデータをのっけることを目的に、2回通信交換をする人間は普通いない。
実はこの施設、匿名で行われる性質上、トレーナーカードのIDナンバーや友達コードといった個人を特定するものではなく、利用する際に登録するアカウントを持って行われる。
一度登録したポケモンをまた別のパソコンから登録した別アカウントを利用して回収すれば、通信交換したと認識されてしまうという盲点がある。
つまり、一人で通信交換を成立させることが可能なのである。何はともあれ、順調にブラックは手持ちを強化していた。


しかし、まだまだ問題は山積のようである。


「………くそ」


ブラックは思案の海に沈んでいた。

ゲンガーは、エスパー・ゴースト・あく。
ニューラは、ほのお・むし・いわ・はがね。
コイルは、じめん・ほのお・かくとう。
メガニウムは、ほのお・どく・ひこう・むし・こおり。
ゴルバットは、でんき・こおり・エスパー・いわ。

いわずもがな、弱点である。
このうち、ゲンガーの弱点はニューラに負担がかかるが、他のポケモンで一切太刀打ちできないというわけではないため、カバーできるので除外。
ニューラはいわを除けばほとんどカバーできない。コイルは、ひこうを除けば同様。
メガニウムに至っては、一つも弱点がカバーできない。
ゴルバットもまた、岩以外は全滅だ。つまり、控えとメインメンツを考慮しても最低2匹はパーティをカバーできる奴がいないと、この先きつくなってくるのである。
こともあろうに次のジムははがね。
現在ブラックの手持ちに、岩タイプに有利なやつは一匹もおらず、なかなかきついものとなる。
しかも海を渡れば格闘タイプ。ゴルバットだけでは心もとない。何がいいか、必死で考えていた。


しかも、サミットで見かけたゴールドは格闘を入手していた。どのみち対策は必要だ。


「……いわなら、メガニウムの弱点を全部カバーできるか。地面技を覚えさせて……。
後は……鋼と格闘か。ゴルバットだけじゃきつい。だめだ、岩タイプは遅いのが多いから弱点になる!鋼は炎・格闘・地面が弱点か。なんとか一匹にできないか?格闘はエスパー・飛行だから、エスパー……」


このあたりにエスパー技を覚える、かつエスパータイプではない奴などいるだろうか。
しかも、鋼に等倍以上のタイプなど。


「……っ?!」


もし、ブラックがポケモンを連れて歩けば、真っ先に危機を知らせたかもしれない。
物思いにふけっていた彼は、足を踏み外し、がけから転落した。










「………なんだ、お前」


間抜けな顔で、覗き込んでくるポケモンに、ブラックは目を覚ました。
激痛に悲鳴をあげるからだと、逆転する空と大地、ぱらぱら、と落ちてくる砂ほこりに、ひっくり返っていることを知る。
黄色いあひるのような外見に、三本立った黒い、間抜けズラ。
頭が痛いのか、ずっと頭を押さえて唸っているわりに、ちらちらとこちらを心配そうにのぞき込んでくる。
うめきながら体を起こしたブラックは、背の丈の低い木々の生い茂る枝に引っ掛かり、その折れそうなほどおい茂った葉っぱがクッションになったことを知る。
赤土のむき出しになった崖を見上げれば、もう登れないほど高い。
舌打ちをしたブラックは、ゴルバットに周囲を確認させようとモンスターボールに手をかけた。


「………?」


空をきる、右手。ブラックは青ざめた。あたりをあわてて見渡すが、見つからない。
どうやらがけから転落した際、モンスターボールが落ちてしまったようである。
幸い生命線のメッセンジャーバックは無事だったが、おそらくごろごろしているであろうポケモンのいる森の広がる下に降りるにしても、危なすぎる。
虫よけスプレーも、数個しかない。
もともとここらのポケモンを捕獲しながら考えるつもりだったのだ。ブラックは舌打ちをした。


ため息をついた先には、間抜けズラをしたポケモンが、相変わらずこっちを見ている。


「………」


ブラックは、何となくボールを投げた。


「………なんて間抜けなやつだ。抵抗すらせず、捕まりやがった」


モンスターボールに登録されたデータを見る。
思わずガッツポーズしたブラックだった。


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