第42話

スイクンがいると思われるポイントまで、俺たちは移動していた。クリスのここまでくる経緯を聞いたミナキは、顎に手を当てて考え込んでしまう。不安そうに、どうしたんですか?と首を傾げるクリスとマリルリの横で、俺は別の意味でうちひしがれていた。オ―ダイルーっと思わず泣きつくふりをする。忘れてたーっ!アルフの遺跡の石版は全部で四つあるわけだけど、貴重なつきのいしまで展示されちまってるらしい。あああ。そうだよ、すっかり忘れてたけど、クリスが見つけたホウオウがいないと入れない秘密の部屋の奥は、俺が一番欲しい「いのちのたま」が唯一入手できるんだよ。もしトゲピーがクリスをホウオウに導くのなら、俺は事実上入手不可能ってことになる。つきのいしは、まあいいよ。まだ入手方法あるし。でも、でも、いのちのたまは一個しかねえんだよ!うああああ。あわあわ、としているオ―ダイルに、泣きそうな顔で笑って、なーんちゃって、と舌を出す。頭を抱える俺に、ゴールドまで、な、何か問題でもあるの?とクリスは戸惑いがちに聞いてくる。はあ、とため息をついた俺は、とりあえず適当なことをでっちあげることにした。


「アルフの遺跡のおっちゃんに、石室に入れてもらうって約束忘れてたと思ってよう」

「なっ……!ずるいわ、ゴールド!関係者以外立ち入り禁止じゃないのっ?!」

「だってオイラ、関係者じゃん」

「あ、そっか……でもでも、アタシも入りたい!」

「安心しろい。心配しなくっても、その遺跡をおっちゃんに話せば、きっといやでも中に入れてもらえるって」

「そうかしら?うーん、じゃあ、一度話してみるわ。ありがと」

「いえいえ」


ずっと黙り込んでいたミナキが、ようやく顔をあげる。


「一言でいうと、おかしい、といわざるを得ないな。スイクンの研究を続けて長くなるがね、スイクンが作り出したこの空間に、ゴールド君のように不本意な形で迷い込んでしまう例は多々ある。しかし、クリス君のように、アルフの近くなんてあまりにも遠くにいる人間をわざわざ迷い込ませるような事例は聞いたことがないのだよ。私のまだ知らない能力をスイクンが持ち得ているという可能性は否定しないが、おそらくクリス君はまた別の原因でこの世界に迷い込んできたのではないかね?たとえば、そう、アルフの遺跡のトラップが発動したとか」

「でもさ、オイラんときはなんもなかったぜ?」

「おや、そうなのかい?」

「そうねえ、アタシの時とゴールドの時の違いっていえば……アンノーンが出現してるかしてないか?」

「なるほど、アンノーン達が、何らかのきっかけになったのかもしれないな。彼らはまだまだ謎の多いポケモンだ。だがね、クリス君、アンノーン達は今のところ人間を移動させるような能力は報告されてはいないのだよ。どこからともなく現れる事例は多々あるが、目撃した人間で神隠し的な被害にあったものはない」

「ミナキ詳しいなあ」

「はは、スイクンとゆかりの深いポケモンのことを調べるのもまた、研究の一環なのだよ。うーむ、そういう意味で考えると、私は一体だけ心当たりがあるんだが、まさかな」

「え、心当たりあるんですか?」

「……ここ、スイクンが生きてた頃の古代の世界だって言ってたよな?ミナキ。もしかして、それって」

「ああ、ご名答。私の仮説にすぎないがね、この世界はかつてスイクンが生きていた頃、つまり、かつてかねの塔で焼かれ死ぬ前、くらいのはるか昔の世界。そう考えている。ここらにはえている草木は、現代ではとうの昔に絶滅したはずの種もある。採取しても何も残らないが、記録はできるだろう?そうして少しずつ調べた結果たどり着いた答えだから、私は確信しているつもりだ。私たちは今、過去の38番道路にいるといっても過言ではない。つまり、現代から過去への時間飛躍。あとは、聡明な君たちなら、わかるだろう?それが可能なポケモンを君たちは知っているはずだ」


俺とクリスは顔を見合わせた。マリルリは話についていけないらしく、オ―ダイルに視線を向けるが、オ―ダイルもまた疑問符をうかべた。お前ら、ちょっと遊んでな、とリュックからボールを引っ張り出して渡す。いってらっしゃい。


「セレビィが?あはは、まさか。確かにこっちに来てから、欠かさずウバメの祠にお参りには行きますけど、それはアタシだけじゃないですよ」

「ずっりいなあ、クリス。なーにがずるいだよ、お前のがすげーじゃんか」

「え、ちょ、ゴールド?」

「専門家が言うんだ、間違いねえだろ、たぶん」


うんうんうなずく俺に、類は友を呼ぶのかもしれないな、とミナキは笑う。納得いかない様子でクリスは食い下がった。


うらやましいぜ、畜生。ホウオウかルギアのフラグ立ててるくせに、セレビィフラグまでたてやがって。でもいい奴だってわかってる分、切り捨てんのは惜しいのが、また複雑だ。しっかし、分んなくなってきたなあ。確かにウバメの森イベントは、主人公と幼馴染が過去の世界にぶっ飛ばされるイベントだから、俺がセレビイもってなくても、クリスとたまたまウバメの祠でいあわせりゃ、過去に飛ばされる余地は残ってる。クリスはコトネの設定踏襲してるっぽいし。ブラックからすりゃ、どのみち俺と過去にあったことは変わんねえから、あながち間違ってねえのかもしれねえけどさ、ぶつかるの主人公だけなんだよ。話しかけられるの主人公だけなんだよ。幼馴染は死角だったのか、反応なしなんだよ。ブラックの過去を推測するに、あっきらかに俺の方思いっきり敵視してるし、クリスがメインならあの女はどうしたとでもいいそうなもんだ。でもなあ・・・・・・そもそもレッドさんの件とか考えると、どうなってんのか分んねえや。ま、いずれクリスもブラックに会うだろうから、そんときの反応でもみりゃいいか、いっそのこと聞いてみよう。問題は、俺がセレビィ貰えるかどうかだ。ほしいだろ、幻のポケモン。


ま、ホウオウかルギアフラグとセレビィイベントって連動してるくさいんだけどな、流れ的に考えて。トゲピーおそるべしってところか、さすがは伝説のポケモンに降臨フラグを立てる使者だけはある。クリスは納得いってないみたいだけど、俺はもう確信の域に達していた。

セレビィがときわたりの能力を持ってるのは、映画やアニメでもおなじみだけど、実はポケモン図鑑には非常に気になる記述がされてたりする。え?何で知ってるかって?実は、勝手に俺名義で姉貴がポケモンコロシアムの予約してたんだ。鬼じゃね?俺、別のゲーム買うためにこつこつためてたのに。結局データは貰えたけど、もっちゃいねえ。ま、それは置いといて、実はセレビィは未来から来たという記述がされてるポケモンだったりする。過去現在未来を自由にさまよいながら、草木を茂らせていくらしいセレビィは、時々どっかの未来から卵を拉致って来て放置するという謎の習性があって、それはたいてい未来の卵だったりするそうだ。それがきっかけで研究の糸口がつかめたりするらしい。

ちなみにトゲピーは野生ではカントー、ジョウト、ホウエンでは入手不可能。ダブルスロットしたときのみ、シンオウ地方で手に入る。で、ハートゴールド・ソウルシルバーは、時間軸的に考えるとミカンちゃんの行動から考えて、ダイパ・プラチナの過去に当たる。つまりこっちからすりゃ未来に当たる。ちなみにゲーム中だとトゲピーは結局どっから来たのか分からない。舞妓はん達が伝説のポケモンを導く使者をふさわしい人に託すために、意図的にポケモン爺さんに預けたとも、なんか予言があって卵があったからなんの卵か調べるために預けたとも言われてるけど、真相は謎のままだ。俺はセレビィがトゲピーの卵を持ってきたんじゃねえかと思ってる。トゲピーは図鑑をみりゃわかるけど、平和の象徴的な扱いがずっとされてる。ま、最終進化すると悪魔になるけどな。ハピナス同様。

つまり、拉致ってきた卵が無事にいいトレーナーに育てられてるか見に来たんじゃねーかなあ、と俺は思ってる。そうすりゃ、ホウオウなりルギアフラグもセレビィイベントを主人公が起こすのもきっちり起こすのがつながるんだよな。肝心な話、俺とクリスはどっちも主人公補正ついてるっぽいし、どっちかはわからねえ、と信じたい、なあ。


ま、どのみちなんでセレビィがクリスをここに拉致ったのかは謎だけどな。


へへ、この調子でいくと、ホントに伝説のポケモンの降臨フラグたったら、クリス大変なことになりそうだなあ。うし、決めた。ここは黙っとく事にしよう。お楽しみは後でってことで。


「ゴールド君といい、クリス君といい、なかなか面白そうな人物に出会えて、今日は運がいいというべきか。なかなか興味深い体験を聞かせてもらったよ。どうだね?セレビィの関連があるか調べてみよう。電話番号を交換しないか?もしスイクンを発見したら、直ちに知らせてくれたまえ」

「はい、わかりました。正直信じられないですけど、もし何かわかったら教えてください」


ミナキとクリスが電話番号を交換する。


「おーい、ハブんなよう。オイラにもぜってー教えろよ?クリス、ミナキ」

「それはこちらのセリフなんだがねえ、ゴールド君。2回目は偶然とはいわないものだ。しかも、なかなかに気に入られていた気配があるんだ、贅沢はいうものじゃないぞ?縁がある人間は、とことん縁があるものだ。それこそ、妬ましいほどにね」

「え、ちょ、どういうことなの、ゴールド!」

「ちょ、ミナキ!余計なこというなよーっ!」


おいかけっこと勘違いした他2体ほど追加して、追いかけまわされたのは、別の話だ。





さっきからマリルリとオ―ダイルの反応がおかしい。あたりを頻繁にキョロキョロしたり、唸ったり、いきなり後ろを振り返ったかと思うと足もとの石ころをぶんなげたり。マリルリはひどく怯えた様子でクリスの足元から離れない。どうしたの?と呼びかけても、何か聞こえるのか長い耳を二つ折りにして、うずくまってしまう。ミナキは、スイクンが近いんだろう、とつぶやいた。そっか、あんときオ―ダイル寝てたもんなあ。会うの初めてか。にしたって、過剰反応しすぎじゃねーか?マリルリの反応は見たことねえぞ?少々疑問に思いつつ、俺達はポケモンを引きずって、茂みまで進んだ。



「そろそろだ。二人とも、静かにしてくれたまえ」


俺達はうなずく。オ―ダイルは相変わらず、異様に背後を気にしていて、マリルリは今にも泣きそうだ。ポケギアのタウンマップにいる現在地とスイクンのデフォルメしたアイコンは、一致してる。スイクンがいるはずだ。俺たちは、息をひそめて、茂みから丘を臨んだ。


いた!


突風が吹く。キャップを抑えて、息を殺す。草原が海原のように波打ち、きらきらと輝いている。宙に浮かぶ白のリボンをまとったスイクンが、丘の頂上に悠然と立っていた。そして、ゆっくりとこちらを振り向くと、すぐに前を向き、飛び上がる。丸い光に包まれ、音もなくスイクンは消えてしまった。


「あそこが出口だ。よく見れば、空間がゆがんでいるのが見えるだろう?さあ、いこう」

「はー、すっごく綺麗なポケモンなのね、スイクンって。見とれちゃったわ」

「ミナキが追っかける理由もわかる気がすんなあ。へへ、ありがとな、ミナキ」

「いや、礼には及ばんよ。しかし、あれだな。スイクンがここまで恐怖されるのは珍しい。少々さみしいものもあるな」

「ごめんなさい、ミナキさん。いつもはこんな子じゃないんです。ほんと、どうしたのかしら?マリルリ。オ―ダイルもさっきから警戒したままだし。おかしいわねえ?ゴールド」

「そーだなあ。もしかして、セレビィでもいんのか?」

「まさか。あ、でも、確かにこの怯え方は、アタシ達がここに飛ばされる直前とよく似てるわ」

「………!どういうことだい?詳しく説明してくれないか?」

「え?あ、その、未発見の石版を見つけたって話したじゃないですか。それで、アタシ達、それを完成させるのにずーっとこもってて、完成したと思ったら、外の様子がおかしいって気づいたんです。そしたら、ずーっと向こうにある遺跡に出ちゃいまして。そのときかしら?マリルリが、異様に外に出るのを怖がっちゃってちょっと手間取ったんです」

「………成程。どうやら、マリルリもオ―ダイルもよほど鼻が利くようだ」

「え?」

「へ?」

「本当に今日はついているな。今回は珍しい客人が多いときている。クリス君、どうやら君をここに呼んだのは、どうやらセレビィで間違いなさそうだ。うしろを見たまえ。おそらくマリルリが怯えていたのは、セレビィに感化されて集まってくるアンノーン達だろう。あの電波はポケモンによって、ひどく恐怖心をあおるものらしい」


俺達が振り返ると、きらきらきら、と光が宙返りする。周囲にはアンノーン達が集まっており、ぐるぐる、と渦を巻く。目を凝らすと、そちらにも空間の歪みが見て取れた。マリルリはミナキにアンノーンは敵意がないことを説明する。マリルリは恐る恐るクリスの後ろから顔を上げた。すげーなあ、オ―ダイル?と話しかけると、うなずいた。ヒメグマ親子んとき並みにあつまってんじゃねーか。

光の塊が、くるり、とまわるとセレビィが現れた。そして俺達のところにやってくる。おおおー、クリスのおかげでセレビィと遭遇できるとは万々歳だな。あっけに取られているクリスをしり目に、ミナキがセレビィに話しかけた。さすがは伝説を見慣れてる男、動じねえなあ。


「クリス君を迷い込ませたのは、君かね?」


こくり、とセレビィはうなずく。けど、そのまま俺の方も指差して、うなずいた。へ?俺も?オ―ダイルと顔を見合わせた俺は首をかしげる。


「おや、そうなのか。ゴールド君、なにか心当たりはないかね?」

「心当たりっつわれてもなあ。38番道路を突き進んでたら、なーんか同じ道をぐるぐる回るから、片っぱしから進んでみたけど駄目でさ。結局あの森にいくしかねえってことになって、そんで霧の森に……」

「ははは、それでは、そのループする空間とやらがセレビィの仕業だな。スイクンのこの世界はね、霧が異様に深いときに足を踏み入れてしまうことがおおいのだよ。どうやら時間と時間をゆがめてつながれてしまっていたようだ。君が森に行くよう誘導されてね」

「ちょ、セレビィお前なにやってんの!おいらからかわれてたのかよ!」


けたけた、と笑うセレビィはかわいいけどお前お前、素直に出てきて誘導してくれりゃ、いくらでも追っかけたのに。


「ウバメの祠にちゃんとお参りした?」

「失礼だな、ちゃんとしたよ!」

「どーせ、へんなお願いごとでもしたんじゃないの?」

「………」


やっぱ御縁はよくばっちゃだめってことか?心の中で呟いてセレビィをむくと、うなずかれた。ちくしょう!なにお願いしたんだ、と二人に白い目で見られる。何この公開処刑。


「ふむ、では私は用なしかね?君は二人を連れていきたいようだが」


セレビィは首を振った。


「これはありがたい。そういうことらしいぞ、二人とも。さあさあ、主賓は君たちだ。先に行きたまえ」

「ちょ、ミナキおすなよ!」

「え、あ、あの、アタシまだ心の準備が」

「オ―ダイルもマリルリも早くしたまえ」


俺達は強引にミナキに、空間の歪にほうりこまれた。ぎゃあああああ!
まるで異空間のごとく、真っ暗な中を落下していく。クリスの絶叫が響く。
オ―ダイルをとっさにボールに戻そうとして、押し戻される感覚。
振り返ると、無数のアンノーン達の眼とかちあっちまった。
俺は思わず固まる。ぎゃああああ!俺の悲鳴に、クリスたちの声。
夢、夢にでるから、こっちみんな!ぶんぶん振りまわすと、散っていくアンノーン達。
すると、さっきよりこころなし落下速度が遅くなった気がする。でもなんか気持ち悪くなってきた。青ざめてく俺に、引き換え、慣れてきたのかクリスは興奮した様子で叫んでる。え?全部壁がアルフの遺跡のやつと似てる?ようやく慣れてきた世界で、ようやく着地した。あんがい、ゆっくり立てた。はー、こわかった、なんだありゃ。俺は手をついた。


「ゴールド大丈夫?」

「なんでクリスは平気なんだよ」

「あはは、普段の鍛え方が違うのよ」

「さ、さすがは冒険家・・・・・」


オ―ダイルに支えられて何とか立ち上がれた俺は、平気な顔で降り立ったミナキにこの野郎、と無言でたたこうとして外される。うっぜえええ!


「ああ、すまない。君には少々あれだったかな?」


にやにや、と笑われ、思わず顔をひきつらせる。


「いうなよ!絶対、誰にも言うなよ!」

「いや、もう遅いよ」

「うっ・・・・・・」

「それにしても、ゴールドもすっごい叫んでたわね。実はホラー系苦手なの?」

「苦手でわりいかよ!映画みた後、風呂入ってるとき、鏡見れねえんだよ!わりいか!」

「わ、わるくは、ないんじゃない?くく、あははっ!」


ぎゃーす。俺は思わず耳をふさいだ。





くすくす、と笑って舞いおりてきたセレビィが手を振り上げると、空間の全貌が明らかになる。あーもーやだ、帰りてえ。涙目の俺はもうHPが〇だった。ぶすくれてそっぽ向くと、クリスがごめんごめんと謝ってくる。やめてくれ、余計にみじめになんだろうが。はあ、とため息をついて、いーよもう、と俺は前を向いた。だがミナキ、てめーは駄目だ、一発殴らせろ、とまだ笑ってるミナキのあほ毛を引っ張った。


アルフの遺跡でおなじみのアンノーン文字がびっしりと敷き詰められた壁画。レンガ造りの床。ポケモンの像。どこだここ。結構広いけど、大広間はこんな感じではないはずだ。首を傾げる俺達に、セレビィはにっこりと笑って、床を指さした。あ、と俺達は声をあげる。これは、と目を見張る。見事なものだ、とミナキは腕を組み、クリスはえ、え、と混乱している。そこには、こう書かれていた。


わたしたち いちぞく ことば ここに きざむ

かれら いしき さっちする ちから あり そと こばむ

わたしたち そとの ぽけもん ぞう つくる

わたしたち にんげん かれらと ともに あゆむ こと ひつよう
    かれらの ために わたしたち たびだつ


すべてアンノーン文字だ。これ、アルフの遺跡のメッセージの全文じゃねーか。これ、意味わかんねえんだよなあ。わたしたち、とか、いちぞくって誰なのか。かれらって、普通に考えりゃアンノーンだよな?で、どっかに引きこもってるアンノーンのために、外のポケモン像を作ったけど、一緒に歩むんならいっしょに暮らせばいいのに、なんで旅立つんだか。なんでそれがアンノーンのためになんだか、意味不明だ。あなをほる。フラッシュ。みずのいし。ホウオウ。これがキーワードなのはわかってっけど、意味不明だ。さっぱりわかんねえ。クリスは初めて見る章を見て、感動しきってる。ミナキはなんかメモとってる。ポケモンたちは文字が読めねえから、首を傾げるのみだ。

すると、今度はくるりと宙返りして、セレビィは笑う。そして、今度は、光があふれた。
眩しくて、目を閉じる。まぶたの裏に変な白いものが残る。しばしばする目をゆっくりと開けば、そこは猛吹雪の遺跡だった。また暗転して、今度はその室内に俺達は立っていた。なんか3つほどすごい装飾が施された高台がある。


「………なんだここ」


思わずつぶやいた俺をしり目に、ミナキとクリスが声を上げた。


「寒くないわ。そっか、幻を見てるんだものね、アタシ達。なにボーっとしてるの、ゴールド!すごいわ、アタシ達、シント遺跡にいるのよ!」

「はあ?」

「おや、ゴールド君は知らないのかね?ジョウト地方とシンオウ地方のかつての古代文化を融合させた、近年まれに見る大規模な遺跡だよ」

「え、ちょ、シント遺跡って、そのシント遺跡かよ!」


アルセウスを連れてアルフの遺跡に行くと飛ばされる限定ダンジョンじゃねーか。なんで普通にみんなしってんの?レベル1のシンオウ地方の伝説3匹が手に入るという謎の仕様だったりする。カイオーガといいグラードンといい、伝説きすぎだろ。にしても、どういうことだよ!とセレビィをさがすと、俺のすぐ真横にいた。ぎょっとすると、俺のモンスターボールをみて、かせ、と差し出してくる。これは、ピチューの卵だ。え?なんで?


「アルフの遺跡から飛ばされたってことは、もしかして、セレビィはあのいちぞくって人たちがここと関係があるって言いたいのかしら?」

「なるほど、有力視されている説だが、これで一つ証拠が増えたな。長年時をさまようセレビィなら、彼らのことを知っているのかもしれん」


セレビィはうれしそうに踊っている。つか、なんでピチューの卵?このたかだいはアルセウスしか駄目なんじゃね?と首をかしげると、セレビィはふたたびアンノーン達を集めて、文字を作り上げる。


はじめに あったのは
こんとんの うねり だけだった
すべてが まざりあい
ちゅうしんに タマゴが あらわれた
こぼれおちた タマゴより
さいしょの ものが うまれでた

さいしょの ものは
ふたつの ぶんしんを つくった
じかんが まわりはじめた
くうかんが ひろがりはじめた
さらに じぶんの からだから
みっつの いのちを うみだした

ふたつの ぶんしんが いのると
もの というものが うまれた
みっつの いのちが いのると
こころ というものが うまれた
せかいが つくりだされたので
さいしょのものは ねむりについた


「はじまりのはなし、だよな?なんで?」

「ゴールド、セレビィはなにを貸してほしいっていってるの?」

「ピチューの卵もってんだけどさ、貸せって」

「もしかしたら、祝福のつもりじゃないかしら?ねえ?」


セレビィがうなずく。・・・・・・・・・・レッドさんの主人公補正でもそなわってんのか、卵でありながら。ピチューおそろいこ!俺はおそるおそるボールから卵をとりだす。


「まさか拉致りはしないよな?」


ぎくり、としたセレビィは首を振る。ちょ、おま、なに考えてんだよ、だめだってふざけんな!卵を抱え込むと、ごめんなさいと頭を下げる。ったく冗談にせよ笑えねえぞ、おい。ほんとーに、だな?と念を入れて確認を取り、俺は卵を渡した。

セレビィの光に包まれて、卵が光り出す。


アンノーン達が一斉に飛び散り、不思議な舞が始まる。俺達は食い入るようにそれを見つめた。


しばらくして、返してくれた卵は、ぴきぴき、とひびが入る。ボールを見ると、さっきまでまだまだ、と表示されてたのに、もうすぐ、に切り替わってる。すげえ!ぱき、ぱき、と卵がだんだん形を壊しはじめ、大きなひびが入る。元気な鳴き声を上げて、ピチューが生まれた。アンノーン達が騒がしくなる。セレビィはうれしそうに俺のまわりを何回もまわった。


「なるほど、セレビィなりのお祝い、というわけか。よかったじゃないか、ゴールド。そのピチューは大切にするんだぞ?」

「言われなくたって、オイラのポケモンはみんな大事だっての。なあ?オ―ダイル」


こくり、とオ―ダイルはうなずいて、うれしそうにしっぽを振る。


「かわいい!なによ、ゴールドったら、言ってくれたらよかったのに」

「いや、だってさ、それどころじゃ・・・・・・」


いいかけた俺は、セレビィがやってくるので、言葉を止めた。きょろきょろ、としたピチューは、抱いている俺を親と認知したのか甘えてくるので、首のあたりをくすぐってやると無邪気に笑う。セレビィは、なにかを差し出した。ピチューが受け取る。なんだこれ。すると、こんどはクリス、そしてミナキにも手渡すと、何回か旋回した後に、頭を下げた。


光に包まれる。


気づけば、すっかり夜になってしまった、38番道路に、俺達は立っていた。しばらく言葉も失って夢見心地だったけど、いい加減慣れてきて、俺達は笑った。


「セレビィなりのおくりもの、といったところか。いいものをみせてもらった。ゴールド君とクリス君には感謝だな」

「いやいや、ミナキがいなかったら、オイラ達迷ってたと思う。ありがとな」

「ありがとうございます」

「はは。さて、もう遅い。私はこれからエンジュにとんぼ返りして、マツバ君にでも報告しなければなるまい。だが、君たちは初めてスイクンの森に迷った上にセレビィの異空間も体験したんだ。きっと考えている以上につかれているはずだ。無理は言わない。モーモー牧場の宿泊施設に泊まらせてもらいなさい。方角はわかるね?すぐそこだ。迷うことはないだろう」

「モーモー牧場って泊まれるんだ?」

「ああ。よくトレーナー達が利用している。かくいう私もオーナーとは古くからの知り合いでね。大丈夫、君たちがつく前には私から連絡を入れておこう。では、また会う機会があれば、また会おう」

「あんがとなー!」

「またあいましょう!」


さっそうと繰り出したオニドリルにのって、ミナキは去ってしまった。


「はー、なんかいろいろあって疲れたわ」

「だな。いそごうぜ、オ―ダイル達ねむそうだ」

「ええ、そうね」


星に見とれる暇はなさそうだった。



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