第40話

なんでトラウマラジオが流れるんだよ。アンノーンでも出てくるイベントでも待ってんのか?試しにトラウマラジオを流しながら、俺は、練り歩いてみた。

どうしよう。道はどちらもループ仕様、柵をこえて、牧草地を突き抜けてみたけど、ループ仕様。あとは……振り替えると広がる、山に向けて続く森。でも、ゲームじゃいったことねえ場所だし、ツクシに教えてもらったわけじゃなくて、ホントに知らない道だから、いくのははばかられる。迷いフラグたちすぎだろ。時間がとまってんのか?太陽がうごかねえ。ポケギアはとうとう電話も時計機能すらアウト。ポケモン図鑑の現在地は、道路から動いてない。はあ、と俺は途方にくれた。どうする?オーダイルに話し掛ける。すると、ちょいちょい、と指を差される。え?そっちは森だろ?まじでいくのか?ま、どうしようもないけどさ。はあ、とため息をついて、俺は棒切れをさがした。跡をひいてきゃ、ちっとはましになんだろう。ずるずる、となるべく深い線を引きながら、俺たちは森にむかった。なーんか霧が濃くなってきたなあ、昼間なのに。でも、正解臭いな、いつまでたっても線をひいてきたとこまで、もどらねえ。

あ。きらきら、とひかるものがあって思わず駆け足になる。もしかして、なんかあんのか?がさり、と茂みをかきわけて覗き込むと、ヒメグマがいた。あわててラジオを消す。額の三日月が光ってる。視線の先にはスピアーの巣。はちみつ見つけると光るんだ…。うお、かわええ!思わず見入っていると、いきなりオーダイルにぐいっとひかれて茂みに引き込まれる。なにすんだよ!すると遠方からスピアーの羽音が聞こえた。え?スピアーってみつばち?すずめばちじゃねーのか、格好的に。すずめばちはみつをつくらねえはずなんだけどな、肉食だから。こっそり様子をうかがうと、どしんどしんと足音がして、リングマがあらわれた。リングマもヒメグマもシロガネやまにしかいないはずだ。どうなってんだ?いくらゲームダンジョンから外れた場所とはいえ生息してるんなら、ポケモン図鑑に反映されるはずだ。でも点滅するのは、シロガネやまのみ。

リングマが吠えた。ばれた?と焦ると、どうやら気合いをいれたらしい。大木を豪快に揺らすと、するどいつめで、大木のえだをまるごとなぎ払う。えぐれた木からスピアーの巣が落下し、飛び出してくる。リングマとスピアーたちの戦いが始まった。


戦利品に指を突っ込んで舐めているヒメグマ。リングマは落ちてきたオレンの実ではたりないのか、また木をゆらしている。

はた、とこちらを見た。へ?なんで?じいっとこちらをみながら、キョロキョロした。探してる探してる。声を潜めてみた。何でばれた?

ふとオーダイルを見れば、おやつがわりのオレンの実。それだ!指差すと、あわててかくす。木のみぶくろでさえ反応するってことは、リュックんなかの木の実やぼんぐりばれてんじゃね?

「先手必勝だ、よっしゃ、捕まえてやろうぜ!」

オーダイルがうなずく。ってわけでもどってくれ、明らかにダブルバトル臭い。ボールに戻し、俺は茂みを飛び出した。匂いのもとはやっぱり木の実らしく、すぐに振り向いたリングマはヒメグマをよぶ。ねらいが定められねえから捕まえられない、ってゲームじゃあったけど、大丈夫だろ。

「いけ!ゴローニャにヨルノズク!」

同時に繰り出したモンスターボールから現れたニ体は、あれ?といった様子でお互い顔を見合わせる。そっか、こいつら、サミットじゃ寝てたからダブルバトルの感覚がわかんねえんだな。初めてか。でもリングマとヒメグマが迫り、状況だけは把握したらしく、指示を仰ぐ。

「これからすんのは、ダブルバトルな。オイラの指示、しっかり聞いとけよ!」

うなずいた。いい返事だ!




「ヨルノズク、自分だけじゃなくて、ゴローニャにもリフレクターをかけてやれ!ゴローニャはいわおとし!ねらいはさだめなくていい、とりあえずひるみねらいの牽制だ!」

リングマは致命的なまでに足が遅い。状態異常だと、はやあしでつっこんでくるのがこわいけど、さすがに野性でもってはないだろ。ヒメグマは進化前だから論外だ。

ヨルノズクがぎこちない動きで旋回し、自分の身を守るためのかべをゴローニャにかける。技自体はホーホー時代からの技だ、いつもと勝手が違うとはいえ、完成度は問題ない。問題は時間が!

ヨルノズクが苦戦してる間に、ゴローニャは手当たり次第に、石ころを投げつけ、リングマたちを威嚇する。リングマはあたったけど、ひるむ気配がない。ひとつがヒメグマに直撃し、泣き出した。ゴローニャは気まずそうに目を逸らす。ほっとけほっとけ、バトルは遊びじゃないんだよ。リングマが触発されたのか、ゴローニャに向かって突撃してくる。オーダイルよりでけえ。こっええ、と冷や汗をかきつつ、目を凝らす。くっそ、リングマなんてずっとあとのポケモンだから、育てたことねえよ、何の技だ?つめを振り上げて、叩きつけてくる。どのみち格闘技覚えてるわけじゃなさそうだし、大丈夫。ゴローニャはがっとリングマの手をつかみ、ふりはらう。でも、モンスターボールの表示は結構削れた。レベルたけえなおい!だ、ダメージでけえ!やっぱ、シロガネヤマ帰れよ、おかしいよ。あれ?ヒメグマ泣き止んでら。打たれ強いな。

「ヨルノズク、今度はリングマに催眠術!ゴローニャはもっかいいわおとし!」
どっちも眠らせて捕まえてやる。ヨルノズクが催眠術をかける。あ、はずしちまった。やっぱり勝手が違うのはきついか。今度はどちらもひるまないが、実質一体だ。複数催眠は二体までってルールにもあるしな、ま、野生相手にんなことどうでもいいか。ダークホールはえげつないけど。

「え?」

リングマはいきり立つと、雄叫びをあげた。ヒカリがリングマに集積する。え?うそだろ?まじかよ!いやな予感がした。

どおおおおん!

「ゴローニャ!」

放たれた光線が直撃して、ゴローニャは吹っ飛ぶ。うそだろ?なんでリングマが破壊光線おぼえてんだよ!いくらゴローニャでも苦手な特殊相手に、タイプ一致最高威力のノーマル技なんて半減しきれない。先のダメージがでかすぎたか?ボールは瀕死。でもリングマは特殊あんま高くないんじゃ……。ゴローニャを回収して、オーダイルを繰り出す

まさか!

さっきまでぐずっていたヒメグマが、今度はわざとらしく泣いている。このやろう、うそなきでとくぼうさげてやがった!うぜええ!気が変わった。つぶしてやる!

「ヨルノズク、ヒメグマにエアスラッシュだ!」

ゴローニャをつぶされて気が引き締まったのか、ヨルノズクの容赦ない一撃が決まる。

「え?」

ゆらり、とヒメグマの額がひかったかと思うと、消えてしまう。はああっ?なんだこれ?!
ヨルノズクもオーダイルも戸惑い気味に見てくる。と、とにかくリングマなんとかしなきゃ!反動でうごけないうちに、催眠にかけ、バルキーと交換、ねこだましとマッハでも削る。俺はボールをなげた。

「なっ?!」

今度はボールが、何かにさえぎられて、弾かれてしまう。俺、すっごくいやな予感がするんだけどさ、これ、カラカラのお母さんの幽霊と同じじゃね?俺は血の気が引いた。

「オーダイル、噛み砕く!」

破壊光線乱発されちゃしぬ!仕方なく俺はとどめを命じた。経験値なし、だと?まるで霧に溶けていくように、リングマも消えてしまった。へたりこんだ俺は、オーダイルとバルキーをみる。あ、は、はは、マジかよ、マジモンの幽霊かよ!

「な、なんだよ、いまのっ!ゆ、ゆうる、いややめとこい、言わなくていい!言わなくていいかなら!」

いてえ、舌かんだ。はあ、といきをつく俺に、オーダイルたちが後ろを指差す。な、なんだよ、今度は!
がっと肩を捕まれて、びくっとなる。

「やあ、すば」

「ぎゃあああああ!」

















羞恥に悶えた俺が復活するまでには、相当の時間がかかったことだけ、言っとこうと思う。最悪だ、よりによって人に見られるとか。はあ、とため息をついた俺を横に、思い出したのか含み笑いが聞こえてくる。ぎゃーす、勘弁してくれ!俺は耳をふさいだ。ごほん、と咳払いして、その人は俺に現状を説明してくれた。

「アンノーンのラジオを鳴らしていただろう?あれでは、だめだ。自分はここにいるから、遊んでくれ、と言っているようなもの。現に、君の周りには、アンノーン達が異様に集まっていたんだ。以後、気をつけたまえ。アンノーンの捕獲などの目的でもない限り、なんとなく、で鳴らすようなものじゃない。彼らにとってあのラジオは、仲間を呼ぶ他にも、さまざまなサインが混じっている不思議なものだ。もし、危機を知らせるものだったら、一気に襲われていたかもしれない。いいね?」

「そっか、そうなんだ。あはは、オイラ化かされてたのかあ。うん、気をつける。ありがとな」

「ああ、分かってくれたのならそれでいい。まずは、ここがどこなのか、ということだがね、簡単にいえば38番道路だ」

「へ?オイラ達結構森の奥まで歩いてきたのに?道路って、案外広い敷地のこと言うんだな」

「いやいやいや、違うんだ。そもそも、私たちは、おそらくマップ上を見れば、一歩も歩いてはいないのだよ」

「は?」

「少々、話が長くなるが、かまわんね?」

「おう」

「まあ、そろそろ時刻にすれば昼ご飯の時間だ。どうだ?せっかく会ったんだ、ゆっくり話そうじゃないか」


助かった!オ―ダイルと俺は、ガッツポーズした。


「まぼろし?」

「そうだとも。この空間はスイクンがつくった幻の霧の森。いわば、彼らが生きていた古の森というべきかな。すごいだろう?これが、私がスイクンに魅入られた理由の一つなんだ」

つまり、遭難しなれてるってことか、恐るべし。水で洗ってタップの部分を切り取ってできた、即席のカップにこぽこぽ、とコーンスープが注がれる。熱いから気を付けたまえ、といわれる前に、すでに火傷してるオ―ダイルが一匹。冷めるの待ちゃいいのに。猫舌の俺は、ただひたすら湯気が立つのを待つしかない。飲まないのかね?といわれて、俺は苦笑いするしかない。腹がさっきから鳴りっぱなしだ。とりあえず即席カップをポケモンたちに回して、俺は最後に受けとる。火があれば、ポケモンたちは寄ってこない、とその人は教えてくれる。野宿の野の字もしらねえ俺には、心強い人だ。これが、スイクンストーカーじゃなかったらなあ、モテんだろうに。その労力を一割でも別の分野にはできないもんなのか、と思いつつ、俺はぱちぱち、となる炎で暖を取っていた。そろそろやけた、とこんがり焼けた木の実のアルミホイルを破いて、皮を広げて、ポケモンたちに渡す。これはやきいものような味だ、と教えてくれた。オレンのみもうめえ。

「この異次元空間に夜はない。ずっと昼間だ。だが、私たちは人間だからね、こうしてきっちり休息を取らないとやってはいけないのだよ。無理にでも横になった方がいい。それだけで、十分疲れは取れるものだ」

いってることはまともなのに、このマジシャン的な不審人物の格好はどうにかなんないのかなあ、といろいろ残念に思いながら、俺は話に耳を傾ける。

「そうだ、挨拶がまだだったな。私はミナキ。スイクンを追い求める者、とでも言っておこうか。エンジュジムのマツバくんとは古くからの友人なんだ。話は聞いているよ、ゴールドくん」

「あ、そうなんだ?あはは、よろしくな」

「ああ、生意気なトレーナーだと」

「あんのパジャマジムリーダー何言ってんだ!」

「はは、あれでも彼にとってはとっておきの服装だ。あんまり言わないでやってくれたまえ」

………お前が言うなよ。

「だが、私はそうは思わないな。正直、サミットで突如姿を現したスイクン達を、最も近くで目撃した少年、というから、どんなものかと思ってはいたが、想像以上だったから驚いているよ。スイクン達が認めるのも、わかる気がする」

「認めるって……単に近づいてこられただけなんだけどなあ」

「それ自体、特異なことなのだ、と覚えておきたまえ。本来、スイクンをはじめとする伝説の三犬と呼ばれるポケモンたちは、縦横無尽にジョウト地方を駆け巡り、その勇ましさから自然の化身と讃えられてきたものたちだ。スイクンは北風の化身といわれているが、風は一つの場所にとどまりはしないだろう?そういうことだ」

「はあ、なるほど」

「本当なら、君と戦って、スイクンに私も認めてもらいたいものだが」

なんでそうなる!わかっちゃいたけど唐突すぎんだろうが、理不尽にもほどがあるぞ、ミナキ!ようやく生ぬるくなったスープを飲んでいた俺は、吹き出しそうになり、変な器官に入ってしまい、ごほごほ、とせき込む。あわててアルミ缶をおいて、手を口に当てた俺を、オ―ダイルがさすってくれる。あー、びっくりした。ありがとな、と手を振る。心配そうに集まってきてたポケモンたちは、ミナキの言葉に反応して、戦闘態勢に入ってる。あほ、食事時に何やってんだ、と一喝して、散らばせた。涙目をぬぐって、はあ、とためいき。はは、とミナキはさっきの俺の失態を思う存分笑い飛ばしたように、また声をあげて笑う。

「お互い回復アイテムにも限界がある。この森を抜け、またスイクンをめぐって会うことがあれば、一戦交えないか?」

「おおー、もちろん!バトルならいつでも歓迎だぜ」

ミナキは一回タンバで戦ったきりで、カントーでのスイクンを追いかける旅が終わったら、どっか行っちまう上に電話番号登録できねえ微妙にレアキャラなんだよな。らっきー!俺たちは早速電話番号を交換した。

「もし、どこかでスイクンを見かけたら、すぐに連絡してくれたまえ」

「あ、やっぱりそっち?」

「もちろんだとも。私にとって、スイクンは生涯を捧げるのもいとわんポケモンだ。労力は惜しまんさ」

「へへ、マツバからも聞いてるだろうけど、オイラがはいそーですかってあっさり譲るようなやつに見える?」

「いや、見えないな。だが、君はかのオーキド博士にポケモン図鑑の完成を託されているのだろう?立派な目標じゃないか。私も一切譲る気はないから、安心してくれたまえ。だからといってないがしろにするほど、私は心が狭くはないつもりだ。スイクンに気に入られるためなら、な」

「すっげえなあ……へへ、負けねえかんな」

「望むところだとも」

「どっちか捕まえたらさ、スイクンと写真とろーな?」

「これまたえげつない約束だ。ああ、いいとも」

個体値はまず無理として、性格や個性って厳選できねえだろうなあ、一匹しかいねえし。倒して、殿堂入りすりゃまた現れるらしいけど、ま、どーせカントー行くまでお預けだ。もし駄目だったらにがそう。ボックスの肥やしになんのは、秘伝要員だけでいい。ヘラクロスはとりあえず観賞用だから、別枠だけど。バトルフロンティア攻略には必要かもしんないけど、努力値をリセットする木の実がねえのが痛すぎる。ま、何はともあれ、殿堂入りしてからのお楽しみだな。

俺たちは、握手した。

「で、どうやりゃでられんの?」

「まあ、スイクンを見つけ出せばいいんだ」

「へ?どうやって?」

「安心したまえ。シルフカンパニーに協力してもらって、タウンマップに伝説の三犬たちが今どこにいるのかがわかるような機能をつけてもらったんだ。せんべつ代わりに、カードを渡そう。ポケギアを貸してくれたまえ」

「え、あ、おう。はい、これ」

道理でゲーム見たく、タウンマップ見てもどこにエンテイやライコウ(スイクンはイベント出現だからなし)の所在地を教えてくれるマークがいつまでたっても出ないわけだよ。データを更新する音がして、これで大丈夫だ、と渡された。ポケギアを見ると、「まぼろしのもり」というダンジョンが追加されてる。おおお!

「とりあえず、これをたどっていけば間違いはない。もう少ししたら、急ぐとするかね」

「りょーかい!」










「なあ、ミナキってスイクンと戦ったのか?」

「ああ、もちろんだとも。ここに来る前にね」

「えっ、まじで?」

「まあ、いつものごとく、逃げられてしまったがね。ほえる対策に眠らせたはいいが、まさかそれでもなお逃げるとは恐れ入った。近々、とうせんぼうなり、くものすなり、覚えさせたポケモンが必要だな」

「あ、挑発覚える奴にしたほうが便利だぜ?」

「なるほど、確かにそうだ。なかなか侮れないな、マツバくんが言っていた意味がわかる気がするよ」

「今度はなんだよ」

「はは、今度はいい意味で、生意気なトレーナーだと言っていたよ」

「一緒じゃねーか!」


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