第39話

ポケモンジャーナル ×月×日 ×曜日 第××××××号社会面コラム
「条都之滝」より抜粋

アルフの遺跡でポケギアのラジオを起動すると、「?????」という項目が出てくる。奇妙な鳴き声とノイズが絡み合った、非常に不気味なメロディーは、むろんコガネのラジオでは使われていないチャンネルで聞くことができる。一時期、都市伝説になるまでの騒ぎになったあのメロディーの正体が、このほど明らかになった。その正体とはズバリ、噂だけはあったものの、最近になってようやく発見されたアンノーンの話声。サミットで公表された情報によれば、あれを聞きながらアンノーンが出現する大広間に行くと、アンノーン達の出現率が上昇するとのことである。おそらく仲間であると勘違いして、飛び出してくるとのこと。アンノーンは、ズバットやホエルコのように、彼らでしかわからない特有の波長の電波で意思疎通を図るポケモンで、このトラウマラジオは、それをラジオがたまたま受信してしまったものらしい。

ポケモントレーナーのゴールドという少年により、カブトの石版のパズルが完成され、秘密の地下遺跡に続く扉がひらくと同時に、一番大きな大広間にアンノーンが出現するようになった。これによって、アルフの遺跡はますます観光客が増え、今はアンノーン図鑑なるものまで、配布されるようになっている。ポケモン図鑑を持っているトレーナーは、博物館の受付に申請すれば、無料でデータを追加してくれる。


アンノーンは、全国各地で、特に遺跡や伝説ポケモンとゆかりの深い土地で確認されることが多い、謎の多いポケモンである。伝説のポケモンが出現するとき、集まってくるともされるが、伝承の域を出ない。いずれにしろ、ますますアルフの遺跡の解明が待たれる。












38番道路は、エンジュシティからモーモー牧場につながる、緩やかな草むらと広大な土地を牧場と道路に区切る柵や段差が続く、比較的整備された道路である。背後には、森が迫っており、ここにしかいないポケモンもいる。やがて下りに入ると39番道路になり、潮の音が聞こえてくることには、アサギシティが見えてくる。そんな38番道路に、草むらを揺らす風すら置き去りにして、すさまじいスピードで走り抜ける影があった。


Aの形をかたどったアンノーンが、ふわん、と青い波紋を描いて、突然空間から現われた。それを追いかけるように、I、H、M.W、G、T、とさまざまなアルファベットに似たアンノーン達が、群れとなってあらわれる。だが、すぐに同様の波紋を残し、消え、そしてなにかを追いかけるように、再び現れる。


ざざざざざっと滑り降りる草むらに反応して、ぴょこん、とブルーとオオタチが飛び出してくる。だが、そこにはすでになにもいない。ただ、肌寒い風が通り抜けて行った。そのあとには、先ほどまで魚を捕えていたピジョンのせいで、すっかり沈澱していた泥がわきあがり、にごってしまった水が、たちまち穏やかな姿を戻している。


ロッククライムでしか駆けあがれない崖を、それはなんとたった一度の跳躍で飛び越えてしまう。一体の大型のポケモンである。そのポケモンの持つプレッシャーに負けて、生息しているはずのポケモンたちは、おののいて隠れてしまう。おたけびをあげると、波紋が生まれ、北風が38番道路にふきぬけた。


紫のたてがみをなびかせ、白いベールに身を包むポケモンは、額の水晶のような形の額を上げた。北風の生まれ変わり、湧水の優しさをもつ、とポケモン図鑑にも示されている、伝説のポケモン。スイクンである。スイクンの視線の先には、いつも己を追いかけてくるトレーナーの姿があった。アンノーンが、周囲を取り囲む。


「すばらしい!ようやく見つけたぞ、スイクン!どうか、私の腕を試させてくれないか?」


構えられたモンスターボールに、スイクンは戦闘態勢に入る。彼は感動して、言葉を失ったまま、スリーパーを繰り出した。彼の名前はミナキ。友人のマツバと同様、伝説のポケモンに魅入られた一人である。





なぜ彼がスイクンの居場所を突き止められたのか、それは1時間前にさかのぼる。





今日は朝から冷え込む、気持ちの良い快晴だった。38番道路に、霧が立ち込める。この道路を活動の拠点にしているトレーナーたちは、すぐにその違和感に気がついた。手持ちのポケモンの技が、そして戦っているはずの野生のポケモンたちの技までもが、不自然なまでにからぶりするのだ。命中率100パーセントの技でさえ、幾度も外してしまう不思議。あまりに濃くなっていく霧は、ホームグラウンドを自負するトレーナー達さえ不安にさせるほどになっていき、ほんの数歩先がみえないありさま。気づけば、太陽が指すはずの時間帯でさえ、霧が晴れない。トレーナー達は不安になり、モーモー牧場に一度掛け合って集合した。牧場主はさっそくポケモン協会に連絡をした。返ってきたのは、似たような気候がシンオウ地方にあるというものである。その白い霧は、シンオウ地方にのみつたわる秘伝の技「きりばらい」を使わなければ、払うことができないという。霧が立ち込める地域は、その視界の悪さゆえにポケモンたちの技の命中率がい区分下がってしまうという特性が備わっている。なぜ突然そのような気候が生まれたのかは謎で、しばらく活動はよした方がいい、との回答に、彼らは残念に思いつつ、仕方ないと顔を向けあった。


だが、ふなのりの男が務め先の漁船に戻ろうと扉を開けた時、仰天することになる。なぜか、あれだけ広範囲にわたって広がっていたはずの霧が、跡形もなく消えてしまったのである。目を凝らしてみれば、その霧は、まるで生きているかのようにどんどん道路を北上していた。あまりに不思議な現象に、もしかしたら、先日復活したらしい伝説の3犬が関わっているのでは、とマツバと親しい牧場主は言ったが、彼らは本気にはしなかった。


牧場主の連絡で、ミナキはここにいるのである。


「さあ、勝負だ!」


静寂の中で、静かな戦いが幕を開けた。












ツクシと交換をおえた俺は、なるべく早くにエンジュシティを後にした。



「あー!なにやってんだよ、オ―ダイル!」


すこーん、と蹴り飛ばした石ころがスルーされて、がささ、と草むらに飛び込んで、どこかに行ってしまった。せっかく手ごろな小石があったから、サッカーもどきをしながら進んでたってのに。あーあー、どこいったかな、と近寄ってみるけど、もう見当たらない。なんだよ、お前からやろうって誘ってきたくせに、こっちがちょっと乗り気になってきたら、いきなりやる気なくすとかそんなのありか?おーいー、といつものように返事をしないオ―ダイルに、振り返ると、あらぬ方向を見ていて、こっちに気づいてない。んだよ、俺にひとりコントさせる気か!


「オ―ダイル!」


びっくりしたのか、大声がひっくり返る。あはは、間抜けでやんの。笑っていると、ようやくこっちに気づいたらしいオ―ダイルが、きょろきょろ、とあたりを見渡し、首をかしげる。


「お前がスルーすっから、石がどっかいっちまったんだよ。こんでおわりな」


がーん、となったオ―ダイルは、あんぐり、と口をあけあわてて弁解してくる。やだよ、と意地悪してやれば、探し始めた。先行くぞ、と名残そしそうなのを無理やりひきはがす。モーモー牧場までの距離を考えりゃ、ちょっとゆっくりしてる暇はないんだよなあ。しばらくして、ちょいちょい、とつっついてくるので振り返ると、にこっと笑っている。微笑ましくなって、つっつきかえしたらどすん、どすん、と足音を立てて笑った。図体はでかいのに、中身は変わんねえんだよな、こいつ。しばらく歩くと、今度は背後にさっきと同じような感覚がして、振り返るとリュックを突っついている。やめろやめろ、お前の腕力じゃリュックがぼっこぼこになんだろうが、と止めさせて、競争しようと宣言する。よーい、どんでスタートな?といえばうなずくので、線を引く。位置についた俺たちは、合図を俺に任せて準備する。よどん!一足先に走り始めた俺に、抗議する声が後ろから聞こえるが、無視無視。トレーナー達が見つからない分、有り余る体力をいいことに俺で遊ぶな、俺で。こっちはお前みたいにばかみたいな体力してないんだよ、勘弁してくれ。




ぜいぜい言いながら、俺は休憩していた。あー、疲れた、のどかわいた、と買い置きのミックスオレをリュックから引っ張り出して、がぶ飲みする。ぬりいい、ポケモンセンターで冷やしといたのになあ、もうそんなに時間たってんのかよ。ゴミを袋に放り込んで、結ぶ。どっかにゴミ箱ねえかなあ。次の街までお預けかな、とリュックに押し込む。そうじゃねーと、どさくさにまぎれて甘い匂いにつられて、オ―ダイルが口に入れちまうからあぶない。タオルで汗を拭いていると、オ―ダイルの声がする。ようやく追いついたらしいオ―ダイルは、まだまだ元気が有り余っているようだった。たまらず俺は目をそらす。お前からすればワニノコの感覚のまま、最後まで進化しちまってんだろうけどな、鏡を見ろ鏡を。お前の基準で遊んでやったら、たぶん俺そのうち過労死で死んじまう。だが、そんなことお構いなしで、オ―ダイルは抱きついてくる。ちょっかいを掛けてきてこっちの反応まち。ああああ、うれしいんだけど、その期待に満ちた目で見てくるのやめてくれ。


もう新しい遊びなんて思いつかねーぞ。二人でできそうな鬼ごっことか、かくれんぼとか、そういうのはあらかた教えたし、飽きるくらいやった。つかこの手のやつだと、俺の方が先にばてちまうから、だめだ。じゃんけんは教えたし、影絵は教えたし、絵描き歌、手遊び歌、童謡、ネタ曲、音痴だから周囲を警戒したうえでだけどやっちまったしなあ・・・・・あと何があるよ。あー、トランプとかけんだまとか、あやとりとかかっときゃよかった!はあ、とため息。

遊んでほしそうに見つめてくる無邪気さの前だと、形無しだ。とりあえず柵に上って、頭をなでてやると、体を押し付けてくる。あー、はいはい。たのむから揺らすな揺らすな、柵がぬけちまう!おわわ、とバランスをとると、なんとかやめてくれる。あっぶねえ。


叱ればいいんだよな、邪魔だって。モンスターボールに戻せばいいんだよな、そもそも。でも一人でいくのはちっとさみしいしなあ。だからって他のポケモンたちを出すにしても、あんまりオ―ダイルと変わらねえ。はあ。オ―ダイルを見つめてみて、考える。首をかしげる相棒。無理だ。俺には無理だ。つまんなそうにしたり、ぶすっとしたりすんのはまだいい。おとなしくなんなら、何よりだ。でも、寂しそうにしたり、悲しそうにしたり、しゅんとしたり、あまつさえ泣き出しそうにされたりすると、うわあああ!ってなるから、無理だ。でもなあ、いつまでもこれってのも、甘やかしすぎってことになるか?なんとなく、そう思って、俺は心を鬼にして言ってみる。オ―ダイルは相変わらず体を押し付けてくる。ばかいえ、だっこなんか出来ねえよ!俺が死ぬ!



「もうちっと落ち着けよ、お前。オイラ疲れたからさ、遊ぶの無しな」



そっぽむいて、つぶやいてみた。


オ―ダイルがきゅうにちょっかいをだしてきた!
すこし、かまってあげますか?

はい
→いいえ

かまってほしそうにぐずってる……


「わりいわりい、ごめん!オイラが悪かった!だからそんな泣き方すんなよっ!」



ブラックの野郎すげえなあ、こんな誘惑を完全シャットアウトなんてすごすぎるだろ、お前。少しだけ、俺はライバルを見直した。


「んー、じゃんけんでもするか?」


オ―ダイルがしゃべれたら、しりとりとかできるんだけどなあ。ま、んなことしたら、今までみたいにポケモンのことを一切考慮に入れないで、作戦だけ展開なんか出来なくなちまうからいらねえけど。でもやっぱり、何回もしてきたものはオ―ダイルも飽きが来ているらしく、えー、とばかりに鳴き声が不満たらたらだ。


「んー、たまにはなんか拾ってきたらどうだよ、オ―ダイル?」


俺はアクセサリーに興味が全くないから、おねえの山男がやってたアクセサリーくじ(一回100円)は一度もやってない。基本的に連れ歩いてるポケモンからもらったやつに依存しきってるから、貧相なもんだ。はっとなったオ―ダイルは、うなずいた。


ん?と振り返ったオ―ダイルは、顔をあげ、きょろきょろ、と何かを探しはじめた。お、さっそくか?でもたしかこの反応は、近くに隠しアイテムがあった時でもあったっけ。

さっそくエンジュシティで入手したばかりのダウジングマシンを起動させてみる。めぼしいあたりに向けて、反応を見るが、ぴこんぴこん、とはいわない。画面も東西南北に区切られた画面に広がる同じ縮尺の円上には、小さな点が浮かぶはずなんだが、それもない。初めて当たったときには、あまりの音のでかさにビビったけど、なれりゃ大丈夫だ。なんせ、近づけば近づくほど音声がでっかくなる仕様らしくて、初めて起動させた時には、なんと俺の座ってた柵の真下にすごい傷薬が落ちてたもんだから、びっくりしたしなあ。
なーにっかなー、と思いながら待っていると、オ―ダイルが戻ってくる。


「お、あかいはねか。さーんき、ってお前、なに連れて来てんだよ、おい!」


あわてて逃げかえってくる先には、なんと赤い羽根を抜かれて怒っているピジョンがいた。馬鹿野郎、おちてるもんひろってこいよ!誰がひっこぬいてこいっていったー!


「あ、でもラッキー。これで空飛ぶ要員確保だな。オ―ダイル、戻ってくれ!ヨルノズク、頼んだ!」



俺はボールを投げた。悪く思うなよ、ピジョン。運が悪かったと思って、諦めてくれ!オレの今の手持ちは、オ―ダイルとヨルノズク、バルキー、ゴローニャ、ピチューの卵。大丈夫、あと一個あきあるし。歓迎すっからさ!主にボックス警備員として。

10分後、無事に捕まえることができた。


「つーか、また暇だなあ。なーんで、トレーナーいねえんだろう?」


なあ?とふれば、オ―ダイルもうなずいた。ミニスカートのリカしか覚えてねえけど、たしか結構いたはずだ。なんでピンポイントで覚えてるかっつーと、あれだ、電話番号を教えると、他の気があるトレーナーからの貢物を横流ししてくるえげつない子だったから。それに、絶対登録しときたいんだ、最終的にいつかは分からねえけど、くれるんだよ、かみなりのいし!それに、ピジョンを最後にここに生息してるはずのポケモンが全くと言っていいほど出てこない。なんでだ?

ま、いっか。そのうち会えるだろうと思いなおして、俺達は先を急ぐことにした。つーか、まだみえてこねえのか、モーモー牧場。あれ?こんなに遠かったっけ?





数時間後





俺はいい加減不安になって、ポケギアを起動させた。もう出発してから、結構な時間がたつってのに、一向にモーモー牧場が見えてこない。どうなってんだ?


俺の不安を追撃するように、ポケギアのマップモードが表示されない。じじじじじ、とノイズが入り、真っ暗なままだ。え、まじで?こんな時に、充電切れ?何でだよ、ポケモンセンターで充電してきたのに!しばらくしてると、「NO DATA」と表示されてしまう。えええっ?!悲鳴を上げた俺に、オ―ダイルがのぞきこむ。ら、ラジオは?手当たり次第にやってみると、どこのチャンネルもずざざざざ、と砂嵐のような音だけが聞こえてくる。た、たしかここら辺はコイルが出てきたはずだよな、ポケギアを使ってると寄ってきやすいって言うし、うーん、ばぐったか?辺りを見渡すが、虫よけスプレーしてないのに、まったくポケモンが出てこない。そして、俺は嫌なことに気づいてしまった。


「なあ、オ―ダイル。みてくれよ、あの柵」


指さす先には、オ―ダイルが突撃してきたせいで、微妙に歪んでしまったさっきの柵。青ざめる俺に、オ―ダイルも気づいたのか、二度見する。


「もしかして、オイラ達、ループしてる?へんなダンジョンに迷い込んじまったとか、いわねえよな?なあ?!」


オ―ダイルはきまづそうに眼をそらす。俺はますますパニック状態になった。しらねえよ俺、こんなダンジョン!シンオウの遺跡じゃあるまいし、ちゃんとしたルートたどらねえとでれない、怖すぎるところに無自覚で突っ込むほど馬鹿になったつもりはないっつーの。こんな時ばっかり知らんぷりすんなよ、この野郎!なーってば、とオ―ダイルに詰め寄った俺は、その拍子にポケギアの変なところに、当たってしまったことに気づいて、あわてて画面を見直した。

まずいまずい、まずすぎるぞ、本気でやばい!俺今までポケモンセンターに宿泊するの前提で旅してきたから、ぶっちゃけ野宿する用のもんとか、何一つ携帯してない。そんなに金ないし。へたして出られないとなると、死ぬ!食糧とかはまあ、大丈夫として、寝どことかさがさないと、キャンプ用の機材なんて持ってないぞ、どうしよう!


「?????」が表示され、アルフの遺跡でしか聞けないトラウマラジオが流れてくる。


「ぎゃああああああっ!」


たまらず俺は悲鳴を上げた。
ああ、ワカバタウンのお母さん、そして、ウツギ博士。俺、今度こそ、だめかもしれません。


[ 49/97 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -