第3話

プルルルルルルル!プルルルルルルル!





ポケギアが鳴る。なんだよ、あともう少しでホーホーのレベルが上がるってときに。まさかもうゴロウがかけてきたのか、早えなあ。もし自慢や愚痴だったら、やっぱり削除してやろう、と無碍なことを考えつつ、草むらに飛び込んでいこうとするホーホーを静止させた。もしくはお母さんのはよ帰ってこいっていうお叱りかな。すっかり暗くなってしまった道路を見渡して思う。確かに帰るなら帰る、ヨシノシティについたんならついたで連絡してくれっていってたっけ。まずいな、今何時だ?鳴りやまないのでみると、ウツギ博士。はいはーい、とスイッチを押す。先頭のホーホーが肩に乗っかる。どーしたと一定のリズムで回る首が、傾げに変わる。こいつもかわいいなあ、とにやけるけど、案外体重が蹄にかかって食い込んでくる。痛い痛い痛い。まあ我慢できるレベルだけど、もし進化したら壊れるな、カバーかっとかないと。夜行性だからかやたらとかっぱつなホーホーは、はよでろ、とつついたのでいい加減出てやることにした。



「もしもしゴールド君かい?!えーっと、なにがなんだか、と、とにかく大変なんだよ、すぐ帰ってきてよ!」



つーつーつー。オレはリダイヤルした。いや、まさかな。



「ポ、ポケモンが盗まれたんだ!」



つーつーつー。


落ち着け、妻子持ち。顔が思わず能面になる。ひきつる。一体どうなってんだ、この世界。ゴロウといい、ポケモン盗難といい、いくらなんでもイベント早すぎるだろうが、もうフラグもシナリオ大崩壊じゃねーかよ!何度も言うけど、まだ29番道路だぞ?ここ。まだヨシノシティはおろかポケモン爺さんのところにも行ってないし、卵もらってくるっていうおつかいフラグも回収してないし、ランニングシューズも地図も貰ってないっつーの!わけが分からないオレは、もう一回コールした。今度はいつまでたっても出ない。コールし続けるオレは、だんだんいらついてきた。せっかくここまで来たってのに、逆走とかたまるか。せめてあと一回戦闘こなしてから!



「頼むよ、ゴールド君!早く帰ってきてくれ!」



口を開こうとしたら、ぶつり、と一方的に切られてしまい、ツーツーと無情にも電子音が俺の神経を逆なでする。



「いい加減にしろや、こらァ。我ながら(なぜなら中の人はなんとウツギ博士と同年代だ)恥ずかしいぞ、ウツギ博士!異常事態だったらせめてもうちょっと状況把握できるような説明台詞を吐いてくれよ。そんなんだから髪の毛も存在感も薄いんだよ!」



ぎりり、とポケギアが悲鳴を上げる。突然暴言罵声を浴びせ始めた俺にホーホーが驚いてびくっと揺れた。あ、やっちまった、ととっさに我に帰った俺は、わりいわりい、びっくりさせちゃった?とごまかし気味に笑う。ホーホーは何かを重ねるように怯えていたが、俺が謝ると、離れた距離を詰めてきた。


ちょいちょい、とホーホーがつついてくる。ん?、と顔を上げると、翼を広げたホーホーが滑空して、ワカバタウンに続いている道に飛んでいく。そしてついて来いとばかりに何度も何度も俺の頭の上で旋回始めた。気が立っていた俺は、少しだけ冷静さを取り戻してきて、息をつく。頭が冷えてきた。え、まじで研究所もどりてえのか?早く戻りたそうなホーホーに、少しだけ自分が悲しくなる。いい子だなあ、お前、常識持ってるよ。泣きたくなってきたのをこらえて、俺はうなづいた。










「そうはいかないな、ゴールド!」










一気に走って戻ろうと一歩踏み出した俺は、ずさり、と砂利道で静止を強いられる。体制を整え直し、あたりを見渡す。ホーホーが警戒して肩に戻ってきた。スタートダッシュで誰かがフライングしたときみたいな、微妙な脱力感が襲う。は?、と反射的に間抜け面をしてしまった俺は、聞いたことのない少年の声に、誰だ!と叫んだ。若干いらだちが混じる。なんでだ?なんで次から次と俺がしようとしてることをことごとく邪魔するかな、この世界は!



「ふん、愚問だな。だがいい、教えてやろう。お前はここで、僕に倒されるからだ!」



赤くて長い髪の少年が不敵な笑みを浮かべて現れた。目つきが鋭くて、黒くて白のラインの入っただぼっとした上着に、黒がかった今にも降り出しそうな積乱雲色のジーパン、ブーツ。リメイク版というよりデザイン的には金銀版に近い、髪の毛の長さ的に考えても金銀よりな少年が、見下したまなざしをぎらつかせる。傍らにはチコリータが戦闘態勢に入っている。


出番早いなおい。つうかなんでお前は初登場の開口一番に、高らかに俺の名前を叫んでんだよ。金銀じゃ全国制覇後のリーグ前の戦闘イベントで初めて名前呼ぶんじゃないっけ?もしくはリメイク後だとロケット団員のコスプレをはぎ取るという前前代未聞な珍事をかました直後、じゃないっけ?まあ主人公も普段の服の上にロケット団のコスプレってのもどうかとは思うけどなあ。でもライバルはその上をいく。ドジっ子に変態属性つきの中二病なストーカーなんて笑えねーぞおい。女主だったら犯罪だぞ、って思わず叫んだっけな。まあポケモン選択のときに、窓から差し込む光に不自然な影があるからウツギ博士と一緒に探してみたけど、うまいこと隠れてたし、名前は知られててもおかしくないけどさ。それにしたって、蹴り飛ばされるのは気に食わんから総無視してウツギ研究所に直行したから、まるで顔みしりみたいな態度とられてもこっちが困るんだが。何よりも、なんでこいつゲームよりはるかにいきりたってんだ?俺なんかした?


何よりこのキャラクターで一人称が僕?合わねえな。いぶかしげな俺に、ライバル(仮)は嘲笑う。しっかし、予想してたとはいえ、イケメンがチコリータってなかなかシュールだよな。わざわざこのギャップを作るために今も昔もワニノコ一択だったのが懐かしいぜ。



「アンタは、もしかしてあの時の?それにそのチコリータ、ウツギ博士のポケモンじゃないか!さっきの電話、もしかして、アンタの仕業か!」

「……ふん。こいつはもう俺のポケモンだ(あ、本性出ると俺になんのか)。こいつには強者に育つ才能があるとみた!だから奪ってやったのさ!(なにその、肩透かしくらったっていう顔。お、お前は!?くらいの反応ほしかったのか?)」



ただしジョウトに限って考えるとすさまじい難易度を誇るけど。序盤から飛行・虫ときてノーマルやゴースト、格闘はともかく氷と来てドラゴン。リーグはエスパー・虫・格闘・毒・ドラゴン。総じて考えると半減や抜群の恩恵が他の二匹と比べて少ない。まあ、すべての御三家の中ではトップクラスにかわいいし、ジョウト御三家はそもそも2二刀流にできるから抜群な安定感がある。しかもチコリータ一派は耐久力に優れてる、壁・補助役には抜群の力を発揮できる縁の下の力持ちだから弱いってわけじゃないんだけどな。けどなあ、と俺は遠い眼をした。

やっぱりイケメンにチコリータはシュールだわ。



「せいぜい覚えておくといい。僕は、最強のトレーナーになる男さ」



うそぶくライバル(仮)。相も変わらず厨二病全開だな、さすがはライバル(仮)。さっきからホーホーの様子がおかしい。どこか悲しそうな、悔しそうなまなざしと小さな怯えの残る唸り声。警戒心丸出しで嘶く(いななく)。そしてこちらと目が合うと、すりすり、と俺の顔にすり寄ってくる。俺はホーホーの頭をなでた。



「そりゃ聞き捨てなんないぜ、大事なこと忘れてるよ、アンタ」

「何?」

「へへ、それはおいらのことさ!ポケモンを盗むようなアンタに負けやしない!おいらだってジョウト制覇目指してるんだ!」

「ふん、僕が見限ったポケモンを、わざわざ保護するなんて甘さ以外の何物でもない!そんな軟弱なトレーナーが僕に勝てるだと?笑わせてくれる」

「ホーホー、やっぱり捨てられてたのか?」



こくり、と力なくホーホーはうなずいた。



「大丈夫だからな、落ち着け」



ぽんぽん、となでてやる。HGでどんだけお世話になったと思ってんだ、今さらメンバー変える気なんてないっての。ほっとしたのか、ホーホーはうれしそうに鳴いた。なるほど道理で予想以上に突っかかってくるわけだ。つまりこいつは俺が瀕死状態のポケモンを捕獲するという非常識的な行動よりも、建前を作ってごまかすためにワニノコやゴロウに口にした保護という名目を信じたわけだ。よかったよかった、ゴロウ達にはまともに見えてたわけだ。まさか戦闘が面倒で、捕獲もモンスターボールももったいなかったなんて言えるわけもない。いいわけだって副産物だ。つーかどっかで一部始終を見てたのか、なんで今まで出てこなかったんだよ、このストーカーめ。ほっとけ、とばかりに俺はぼやいた。



「おいらがどうしようと勝手だろう?」



こいつの思考回路を否定するだけの、立派な正統派な主人公補正を俺はもってない。なぜなら、途中でこいつ弱いなって思ったら、レベルが上がっても逃がすなんて日常茶飯事だったからだ。大量に卵を生産させて、孵化させて性格と個性を選んで、いいのが見つかれば他の子を逃がすなんて当たり前だったし、途中で飽きて卵をボックスに放置、なんの卵か分からなくなるなんてざら、育成放置もボックス警備員大量発生もおなじみだった。HPやPPが満タンのボックスから逃がす、という行為と瀕死寸前のポケモンを逃がすという状況は、倫理的に考えたら格差はあれど、とっぱらったら同じだ。何よりもこいつと同じように捕獲直後のろくに回復してないポケモンをすぐにがすって行為なら、したことあるし。よっぽど俺の方が倫理的に考えたらやばすぎることばっかしてんじゃね?むしろレベルを途中まで挙げてくれてありがとうって感じなんだが、そんなこと口にしたが最後、ホーホーの人間不信が取り返しのつかないところになりそうだから、絶対に黙っとく。嫌われたくないもの。



「黙れ。お前みたいに、弱いポケモンを甘やかしたり、助けたりするようなトレーナーも僕の敵だ!」



なんという見当違いな嫌悪感。それはサトシとかポケスペのレッドに言ってやってくれ、きっとアンタが望むとおりに反発してバトルに応じてくれると思うぞ。ああ、本当に俺はこいつのライバルには絶対向いてないわ、なんせむしろ全力でうなずきたい。盗むのはどうかとおもうけどさ。とひしひしと感じつつ、ここで拒否したらむしろ逆上しそうだしうかつに行動出来ねえ。ホーホーは戦う気満々だし、かたかたかた、とワニノコがボールの中で暴れてる。俺はため息をひっそりとこぼしたつもりだったが、ライバル(仮)は地獄耳らしく、ぎり、と殺気を強めてきた。・・・・・・・・・・メンドくせえ。



というか、強くて勝てるポケモンを奪って最強のポケモントレーナーを目指すって、明らかにロケット団の考え方を踏襲してるよな。まあウバメの森イベントによれば、ロケット団解散を宣言しつつも組織による頂点を目指す父親に、烏合の衆だって批判して、俺は一人で頂点目指してやる!って飛び出して行ったわけだし、思想的には変わらないんだよなあ。3年間も一人でやってればこうもなるか。だんだん思考が硬直化してくんだよな。過去を思い描いて同情的なまなざしを向けてしまう俺に感づいたのか、ライバル(仮)が、なんだその目は、と声を荒げる。やっぱりこの手の視線には過敏か。というかこいつってウバメの森イベント踏襲してんのかな、と好奇心で俺は口を開く。



「強くて勝てるポケモンを奪って最強だっけ?誰譲りかなあって思って」

「―――――――っ!!」

「おおう!なにすんだよ!」



一瞬、本気で殴りかかってきたぞこいつ!殺気が尋常じゃない。あーやべえいらん逆鱗に触れちまったか?間髪で逃れた俺は後退した。



「お前は変わらないなァ、ゴールド。そうやって、また……俺を見下すのか?だから気に食わないんだよッ、お前はァ!」

「え?俺ら初対面だろ?名前名乗れよ!」

「うるさい、黙れ!言うに事欠いて初対面だと?ふざけるな!あれだけ強いポケモン連れてたくせに、今さら新人気取ってる馬鹿が!」





きいん、と耳が痛い。ホーホーが果敢にも懸命に仲裁に入ろうとする。やめろ、俺が古傷にハバネロ塗りこんじまったんだから、トレーナーに攻撃するなんてゲームの根幹揺るがすようなことすんな!強引にモンスターボールに戻した俺に、ちっと舌打ちして、激こうしたままのライバル(仮)は自嘲するような声を出して笑う。狂気じみていて、戦慄した。まっすぐ俺を見つめて挑発してくる。



「10年トレーナーやってんだろう?戦えよ。冗談じゃねえこと、知ってるぜ?」



たしかにポケモン歴はなげえけど、そういう意味じゃねーよ!俺は叫びたくなった。ゴロウとの会話まで聞いてるとかどんだけストーカーよ、お前。だーくそ、本気でめんどくさい奴に絡まれちまったぞ、おい。ややこしすぎる!


俺は頭を抱えた。本気で余計なことしちまった。間違いなくこいつは、ウバメの森イベントをしっかり踏襲している。セレビィの時渡りで3年前に飛ばされた未来の俺は、カントーのどこかで離別するサカキとこいつの会話をしっかりと聞いてしまう。で、親子喧嘩の後、こいつと未来の俺はすれ違うわけで、こいつからすればその瞬間が俺との初対面ってことになる。たぶん3年間必死で一人で生きてきたこいつにとって、3年前のあの日をおもい出させる俺が、たぶんあのときと同じように同情した目をむけたことが我慢ならなかったんだろう。まるで変わらない、と見下したと受け取られかねない。つーか俺なら間違いなく切れてる。当然殿堂入り後の特殊イベントだ、ポケモンだって強いに決まってる。こいつからすれば今再会だ、未来の俺と今の俺がごっちゃになって、なんで強いとトレーナーだったくせに、今新人をやっているんだって話になる。こいつのセリフいわく、どうやら未来の俺と会話までしたらしい。名乗りあいしたらしい。しかもこいつのプライドを逆なでするようなセリフを吐いて、バトル放棄してどっかいっちまったらしい。何つー俺だ、絶対今の俺のことみじんも考えてないうえに、何も知らかったであろうこいつに何言いやがった!くっそ、ふざけんじゃねえ!つっこみたいけど、なんでじゃあお前知ってんだってややこしくなるから、なんも弁解できねえじゃねーか!なんてこった!



沈黙する俺をしり目に、ライバル(仮)は、チコリータを繰り出してくる。あまりにも変貌した主人にチコリータは呆然としてちらちら、と双方を見つめていた。ぼん、とボールが開いて、ホーホーが飛び出してくる。そして、威嚇する声が聞こえた。



「あのときの俺とは違うんだと思い知っただろう。勝負しろ、ゴールド。二度と勝負を逃げるなんてマネ、通じると思うなよ」




おーい、未来の俺。お前どんなことこいつにすれ違いざまにいいはなったんだよ、思いっきり恨まれてるじゃねーか!と、心の中で絶叫しつつ、俺はしぶしぶホーホーを見る。



「いけ、チコリータ。こいつの甘さを切り捨てろ!」

「ホーホー、頼んだぜ!」



人に本気で恨まれるなんて経験皆無な俺には、あまりにも強烈過ぎる出来事で、正直まだ正常な思考回路は戻ってきてないんだが、なんとか声を絞り出す。俺は、にい、と無理やり笑顔を作った。頼む、持ってくれ。せめてこいつに勝って、なんとか解放されるまでは。にげ出したい衝動を全力でこらえる。不満そうに眉を寄せられるが、知るか。俺が呆然自失のまま戦闘に突入したら、こいつらまで影響されてろくな戦いできないじゃねーか。謝ったんだ、後悔したってもう遅い。俺の悪い癖だ。やるしかないだろう。



「おいらたちの強さ、見せてやれ。格の違いってやつを教えてやるよ!」



俺は、吼えた。HGの世界でよかったぜ。いいことを思いついて、俺は笑った。そうだよ、このバトルが終われば、ライバルの名前づけイベントが待ってるじゃねーか!面白いからこいつの勘違いだまっとこ。へへん、名前決めるとき楽しみにしやがれ。絶対にむちゃくちゃな名前にしてやる!


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