第35話

バルキーは格闘・ノーマルの技しか覚えてねえから、ゴーストに技が当たらねえ。理不尽だよな、なんで格闘技はゴーストに当たんねえのに、ゴーストの技は当たるんだ。ノーマルと一緒で無効化しちまえばいいのにさ。あー、バレットパンチほしいなあ、ま、細かいことはいいっこなしだけど。そして何よりもレベルが足りない。

ゴローニャはすばやさの低さと特殊攻撃に対する耐久力が低いから、結構荷が重そうだ。あーもうこの時ばかりは本気で特性いらねえと思ったもんだ。なんでよりによってゴ―ス系統はふゆうなんだよ、地面タイプの技だけ当たらないとか何そのいじめ。おかげでドガースあたりもきつくなっちまったんだよなあ、もう。おかげで無双できない。

ピチューの卵は、まだまだ生まれてくるのは先立ってメッセージ出てるから、生まれてくるのはまだ先だ。


つまり、俺はオ―ダイルとヨルノズクの2体を主力に戦うことになる。うーん、やっぱりヨルノズクはとっときたいな、ゲンガー相手にかなり有利に戦えるから。幸いなのは、ジョウト地方にいるゴーストタイプはゴ―ス系統とムウマ系統だけど、後者はレッドさんのいるシロガネやまにしか出てこないから、事実上マツバの使ってくるポケモンはゴ―ス系統だけだ。ねむけざまし効果のある実も持たせて、準備万端と行こうじゃねえか。



日が、傾き始めていた。





「ジムリーダーの俺が使うポケモンは4体だ。もちろん使うタイプはゴーストタイプ。挑戦者のゴールドは所持ポケモンの制限なし、アイテム制限なしのジムルールだ。勝敗はシンプルにどっちかの全滅でいこう。準備はいいか?」

「おうよ!」



ホイッスルが鳴り響いた。



「頼むぜ、オ―ダイル!」

「まずは、こいつで勝負だ。いけ、ゴースト」



やっぱり初っ端からゲンガーは出してこないか。さすがにジム戦で連れあきしてると、初手がばればれなのでいつもモンスターボールにしまってる俺は、オ―ダイルを繰り出す。最終進化系になってから始めてのジム戦だ。張り切っていこうぜ!今までの傾向からして、もう俺の持ってる知識のレベルじゃないんだろう。なら、いきなり噛み砕くに行くよりは、新技で様子見と行くか。



「ゴースト、呪いこうげきだ!」

「やっぱ早いか。オ―ダイル、高速移動!」



あわよくば、ゲンガーまで抜き去ってしまいたい。ゴーストならブラックが今度挑んできたらはいってるであろう、パーティだ。マツバには悪いけど、参考にさせてもらうぜ。
なにせうちのオ―ダイルはすばやさと防御に補正があるけど、攻撃力も特殊攻撃力も補正なしだから決定力に欠ける。破壊力が足りない。だから技の威力に頼らなきゃいけない。



「オ―ダイル、噛み砕いちまえ!」



ずるずる、と減っていくHPの中で、とりあえず一体撃破。マツバは今度はまたゴーストを繰り出してくる。



「オ―ダイル、もっかい噛み砕く!」

「つめが甘いな、ゴールド。ゴースト、舌でなめる攻撃だ!」



げっ、麻痺状態で抜き返しやがった!こっちは催眠対策で、専用の木の実持たせてたから、オ―ダイルは麻痺状態で素早さがダウンしてしまう。のろい効果でずるずる、とけずられてしまうオ―ダイル。くそ、まだゲンガーまで遠いってのに。ヨルノズクはタイマンでいどませたい。俺は、モーモーミルクを使った。HPが回復する代わりに、シャドーボールをこらえるも、しばらく保守側に回される。一個だけあった何でも直しを使った。シャドーボールとのろいのたたみかけはやっぱりきつい。あ、やっと黄色ゲージまでこれた!



「おいおい、どうした?ゴールド。交換しないのか?」

「へへっ、オ―ダイルで十分ってことだよ!オ―ダイル、なみのり!」



まひさえ治ればこっちのもんだ!激流が発動した、津波がゴーストを洗い流す。防衛側から一転攻撃に回った不意を突いて、ゴーストが倒れてしまう。そして、3体目も同様に。つぎはとうとう真打登場だ。高速移動でぬききれるか?



「そうはいかないぜ、ゴールド。こっちもゴーストつかいのいじってもんがあるんだ。いけ、ゲンガー!シャドーボール!」

「えっ、まじかよ!」



しまった、ヨルノズクと交換が正解だったか、ゲンガーのすばやさなめてた!
たった一撃で崩れ落ちてしまったオ―ダイル。ごめん、オ―ダイル、俺の判断ミスでいっつもこうだよな・・・・・。
俺はボールに戻した。



「ゲンガーの素早さを舐めてもらっちゃ困るな。こいつは俺のパーティの要なんだ。まだまだ、俺は信じてんだよ、こいつらを。そして、俺自身をな」

「へへっ、じゃあオイラはその上をいきゃあいいってわけだな!」

「なんだって?」

「ありがとな、オ―ダイル。おかげで無事に無償降臨できたぜ。こい、ヨルノズク!」



な、とマツバは俺が繰り出してきたヨルノズクを見て、絶句する。
なんせゲンガーとヨルノズクは相性が最悪なまでに悪い。
こちとら大枚はたいてサイコキネンシス覚えさせてあっからな、準備だけは万端だ。
ノーマル・ひこうだから、特殊化してタイプ一致と相まって極悪化した、シャドーボールが無効化できる。とくせい不眠だから、催眠術もきかねえし、あえていうなら怪しい光と呪いがやっかいだな。でも、ゲンガーがいくらオボンの実を持ってようと、万全の体制で出てきたヨルノズクの方がアドバンテージがある。マツバは俺の持ってるあと一体のポケモンがゴローニャと知らない。だからまだ最後の手札が残ってると勘違いしてくれたら、もう言うことはない。


悪く思うなよ?こちとらハートゴールドでヨルノズク先発で特攻させたら、呪いのダメージと存在を把握してなかった不意打ちの連打でまさかの完封負けしちまったんだ。同じ間違いは犯さねえ。たとえ金銀水晶仕様でも、催眠術が使えない時点で夢くいコンボは無効だ。道ずれしてみろよ、こっちはまだ2体いるんだ。その瞬間勝ちが確定する。だが、マツバは心底楽しい、といった具合で笑ってる。なにかあんのか?



「ゲンガー、あやしい光!」

「うげっ、ヨルノズク、リフレクター!」



混乱回復できねえ!あ、よかった、発動してくれた!これで不意打ちは一発耐えて、反撃でサイコキネンシス連打すればいける。



「あくのはどうだ!」

「え?」



ゲンガーが放った真っ黒な念の波動がヨルノズクを襲う。ただでさえ混乱状態にあるヨルノズクは、あくのはどうの追加効果でひるみの危険もはらむ。ま、まじか、そこまでレベル高くなっちまってんの?ふらふらになりながら、ヨルノズクは吹き飛ばされた衝撃で自分の体を傷つけてしまう。



「いいぞ、ゲンガー、もう一度あくのはどう!」

「ヨルノズク、サイコキネンシス!」



二つの波動がぶつかる。まずいな、いくらヨルノズクがとくぼうが高いからって、努力値なんて振ってないから補正はない。さいわいタイプ不一致だけど、威力80はでかすぎる。ゲンガーはとくこうが半端ない。俺は数少ないモーモーミルクを使って、また苦戦を強いられた。幸いなのは、お互いにオボン持ちとはいえ、ゲンガーの耐久力はヨルノズクより低いこと。そして弱点を突いている分、こちらの一撃が重いこと。そして、とくぼうを下げる効果があることだ。



「ヨルノズク、サイコキネンシス!」



PPぎりぎりの攻防を制したのは、俺だった。
気づけば、もう牧場は傾き始めていた。おそらく、あと2時間もすれば日没だ。
肩をおろしたマツバは、ゲンガーをモンスターボールに戻して笑った。
俺もつられて笑う。あるいてきたマツバは、ポケットからバッジを取り出して、手渡してくれる。



「おめでとう。お前ならきっとアサギシティまで海で渡れるさ。十分実力は見ることができたし、言うことはねえよ。もってけ。エンジュジム公認のファントムバッジだ。受け取んな」

「ありがとう、マツバ。楽しかったぜ!」

「こちらこそ。今日の大会は豊作だな。何個バッジ持ってかれたことか」

「………ああ、ランク優勝者の数だけバトルしてたの?」

「ま、そういうイベントだからな」



やっぱジムリーダーってすげえ!
















夕暮れのエンジュシティにて、俺はマツバに案内される形でとある場所にいた。



「おおお!」

「ホウオウがエンジュシティから飛び去って以来、ここは、永遠に秋が取り残されているんだ。俺のお気に入りの場所さ。ホウオウが降臨する時、スズのとうから鈴の音色が響き渡ると伝えられている。だから、その伝承をよく知る人は、皆、このスズのとうに至るまでの道を、鈴根の小道、そう呼んでいる」



すげえもんだろう?と言われ、俺はあんぐりと口をあけたまま、こくこく、とうなずいた。オ―ダイルもぱちぱち、と瞬いて、周囲を見渡す。

奥には、金色のホウオウの像が構えていて、見上げるほどりっぱなたたずまいの5重の塔が鎮座している。今はまだ、帰らない塔の主を待ちわびて門を閉ざしている。あのいちばん上の屋根に、いつかホウオウは飛来するんだ。舞妓さんたちの踊る延喜の舞に迎えられる形で。なんか想像したら感動しちまった。


いーなあいーなあ、クリスのやつ、いいなあ、くそう!うらやましいことこのうえねえじゃねーかよ。あーあ、今からでもトゲピーの卵俺に譲ってくれやしねえかなあ、とくすぶっていた嫉妬心と羨望がわきあがって来て、俺はため息をついた。一度たりともあっていない人間に何敵対心燃やしてんだよ、あほか。考えをシャットダウンして、ただ目の前に広がる絶景をひたすら目に焼き付ける作業にもどらねえと。



鈴根の小道は、一定の間隔で配置されている飛び石と細かな細かな砂利道。一歩踏み出すと、なんだか面白い音がしてマツバを見ると、つるつるの表面同士がこすれ合ってまるで鳥が鳴いてるみたいな音が出るんだ、と教えてくれた。あー、沖縄にある音の鳴る砂浜と鴬張りを二つたして割ったみたいな感じか。おもしれえ、と歩いていこうとしたが、思ったより歩きにくい。なんか思ったより沈んじまう。俺は石に飛び乗った。


一面に広がるのは、季節はずれの見事な紅葉。赤やオレンジやだいだい色や黄色やコトブキ色や、とあまりにも口にできる色の数が少なすぎて悔しくなってくるくらい、肉眼で識別できるぎりぎりの色がそこにある。時折風が吹いて、葉っぱが落ち、あざやかなじゅうたんとなっている。春夏秋冬、ずっとこの景色を保っているらしい鈴根の小道。ゲームで初めて見たときも感動したもんだけど、その比じゃねえわ。言葉にするのも忘れて見入る俺達に、満足そうにマツバが笑う。なんかここだけ別世界だ。



いくぞ、と言われて歩きだされてしまい、我に返って俺達は歩き出す。目移りしてしまうのも無理ない。



「ここ、エンジュシティでは、昔からポケモンを神様として祭ってきたんだ」



背を向けたまま語り始めたマツバに、耳を傾ける。



「そして、真の実力を備えた者の前に、伝説のポケモン、ホウオウは再び舞い戻る。そう伝えられている」



オ―ダイルが何かを見つけたのか、袖を引っ張ってくるので視線を追いかけると、小さなキノコ。大きなきのこ。うぐ、ほしいな、換金アイテム。でも今はそれどころじゃねえ。ゲームじゃ普通にアイテム回収の場と化してたけど、今はマツバの話が重要だ。今はまだ立ち入り禁止のはずのここをわざわざジムリーダーの権限を使ってまで、通してくれたんだ、絶対何か大事な話がある。あわてて俺は引き留める。さすがに空気読め。



「ここで修業するものは皆、ホウオウに魅入られた者たちばかりなんだ。かくいう俺もその一人でな、その言い伝えを信じて、物心ついた頃から、うまれ育ったこの街で修行とともに生きてきた。そのおかげで、他の人には見えないものも見えるようになった」



マツバが振り返ったので、俺は立ち止まる。オ―ダイルもおとなしくなってくれた。どこかさみしそうな笑い方だった。



「俺が見えるのは、この地に伝説を呼びよせる、人物の光なんだ。正直、ゴールドがエンテイ、スイクン、ライコウをまじかで見たと人づてに聞いた時、愕然としたんだぞ?伝説の三犬と伝えられている彼らは、ホウオウとゆかりの深い存在だからな。誰よりも彼らやホウオウに近くなるよう、修業を積んできたつもりだったんだけどなあ」



このやろう、と軽くげんこつで小突かれる。あー、すっげえわかるわ、その気持ち。残念ながら今のところホウオウフラグはクリスに立ってるっぽいけどな。なんで俺がわざわざ呼ばれるんだろう、と思ったけど、なるほどそういう解釈もできるか。スイクンをひたすら追い求めているマツバの親友と一緒の立場なわけだな。改めて切々と語られるつーことは、やっぱ悔しいんだろうなあ、人生なげうってまで求めてきたやつをよこからぽっとでのトレーナーに分捕られるかもしれないなんて、ねえ?でも、いくら牽制されても、こればっかりはまた別の話だしな。あくまで俺の目標はチャンピオンとポケモン図鑑完成だし、悪いが同情ごときであきらめるつもりは毛頭ないけど。


いてえなおい、と地味に嫌がらせをしてくるマツバをかわして、俺はにい、と笑った。



「安心してくれよ。いつかオイラがホウオウ捕まえて、見せてやるから」

「ちょっ、オマエなあ、人の話聞いてたか?」

「んな難しいこと言われてもわかんねえよ、大人の事情なんて。だからなに?って話なんだけどさ、マツバ」

「はははっ!ああ、そうだよな、お前はそういう奴だ。だがちっとは人の気遣いっつーもんを覚えろ、このがき!せっかくここからいい感じに話をまとめてやろうと思ったのに、横からちゃちゃ入れやがってこの野郎」

「うっせえやい、いけめんはオイラの敵だ」

「あはは、いっぺん呪ってやろうか?」



眼つぶしされた。ぎゃーす!



「とりあえず、聞けよ。俺はそれでも、伝説を再び実現させるその光は、俺自身だと信じてる。だからな、ゴールド。今度は挑戦者やジムリーダーといったしがらみのない立場で、また戦おう。俺は俺のやり方で、ホウオウに認められて見せる。お前に勝てば、何か見える気がするんだ。だから、それまで負けるなよ?」

「べー、やなこった」

「だから、人がせっかくいい話にしたっつーのに、落ちをつけるな、落ちを!」

「別にんなきれいごとでまとめなくてもいいんじゃねーかな?オイラにホウオウとられんのいやなら、オイラが呼び込んだ時に横からかっさらうくらいの横暴さ見せたって罰当たらないと思うぜ?」

「はあ、これだから子供らしくないがきは嫌なんだよ。あっさり人ができないことを言ってのけやがるんだから。ここは素直にうなずいとけ!」

「目が笑ってねえ奴ほど信用ならねえ奴はいねえよ、ばーか。さっきから思いっきり片思いの乙女みたいな発言連発しやがって。マツバ、あれだろ?最近はやってるオトメンだろ?」

「だーれーが、オトメンだ、この野郎!」



関節技を決められた。ギャーす!



「ま、がんばれよ。応援してるからな」

「ちょ、ま、ぎぶぎぶぎぶっ!さわやかな笑顔でアームロックかけないでくれよう!死ぬっ!」

「ちょっとくらい八つ当たりさせろ、この野郎」

「ぎゃああああああ!」


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