第34話

エンジュジムは、ゲームと違って、街はずれの丘にある。
もともと、大昔にあったエンジュの大火をきっかけに設置された火のやぐらが改築されたもので、
今は赤い屋根の時計台が目印の洋風な建物になっていた。
あー、洋風な建物じゃ、純和風なエンジュジムじゃ思いっきり浮くわな、なっとく。
ちょうど時計は9時45分をさしていた。



「よう、待ってたぜ、ゴールド」

「おっはよー、マツバ」

「まさか本当にくるとはなあ。夜まで待つかと思ってたぜ?あっさり承諾した時点でリトルカップルールを知らねえとは思えないしな。飛び入り参加より心構え的に、ジム戦の方が気が楽じゃないか?」

「せっかくお祭りイベントやってんだ、参加しなきゃそんだろ?」

「はは、そういう乗りが良い奴は嫌いじゃないぜ。さあ、いくか」



まあな、と笑う俺は、わりと必死だった。ぜってえ勝ち上がって、エキシビションマッチ勝ち取ってやる!

なんでかって?
エンジュジムでジムリーダー戦したくないからだよ!
四つ目のジムとなるエンジュジムが扱うのは、ゴーストタイプ。千里眼の修験者のわりに、明らかに未来視の能力を口にしてるマツバは、門下はイタコのばあちゃんにお坊さんばかり。むさい。聞いてみたところ、修行の上では師匠たちばかりだそうだ。

もちろんそれはどうでもいい。どこぞのハーレムジムリーダーだったら、ぼこぼこにしてやるとやる気にみなぎってるとこだ。


いつか話したと思うけど、俺は怖いのが苦手だ。ポケモンは別だぜ?正体が分かりゃこっちのもんだし、慣れた今ならそれまで。

でも、な、エンジュジムは駄目だ。絶対無理だ。入っただけで身が竦む。きっとマツバにたどり着く前に心が折れる。演出がへたなおばけ屋敷より怖いんだよ、ゲームごしならいいけどリアルは勘弁してくれ。あそこでやるくらいなら、リトルカップに出たほうがましだ!


金銀水晶ならまだいい。真っ黒なゆかは、通路が一本しかなくて、一歩足を踏み外したら奈落に真っ逆さまだ。考えただけでも身の毛がよだつ。んなとこでバトルなんかできるかよ!しかも、またスターと地点に強制帰還させられる。時空が歪んでいます、なにかが、ジムの、ってレベルじゃねーぞ!


一番いやなのは、さらにグレードアップしてるハートゴールドの方だ。 金銀水晶の仕様そのままに、今度はジム全体が暗やみの洞窟並みに真っ暗で、じいさん、ばあさんに達が持ってる明かりが唯一の足元を確認できる。なのに、勝つたびにいきなり明かりが消されちまうとか、んなとこまでこだわんなくていいんだよ!


んなもん、ジムに慣れるまで毎日通わなきゃいけねえ。俺に死ねと?と思いたくなるようなジムなんだ。勘弁してくれ。



「一応確認しとくが、ルールはわかってるよな?」

「へっへー、レベル5までで覚えられる技に限定だろ?」

「正解だ。まあ、リトルカップみたくレベル5で戦うわけじゃないがな。レベルはランクごとにわかれてるから安心して戦えよ。ただし、みちずれと自爆は禁止。反動技は仕掛けた側の勝ち、補助技でどちらも倒れた場合は、先に倒したほうが勝ち。持ち物は特に制限はなし。まあそれも込みで実力ってことだな」

「りょーかい」













ただ今、モーモー牧場。せっかくだから、売店で一本買って飲んでみた。モーモーミルクは、普通の牛乳よりちょっとだけ甘い気がする。練乳ほどじゃないけど、ホットミルクに、はちみつをちょっとだけ入れたような感じだ。マツバは久々に飲めるとえらく機嫌がいい。お年寄りから小さなお子さんまで、みんなに愛されている牛乳らしい。特に、子供が生まれた時に絞られたミルクは、栄養満点だとか。ミルタンクのミルクを飲んで育った子供は健康でたくましい子になるらしい。って、マツバ、お前どこの宣伝部長だよ、絶賛じゃねーか。まあ、おいしいけどさ。




モーモーミルクを唯一入手できるモーモー牧場は、エンジュシティの入り組んだ草むらと段差をくぐりぬけた先にある。金銀水晶では一本500円ずつ、まるで自動販売機のようにいちいち買わなきゃいけなくなってたけど、ハートゴールドではなんと1ダースまとめて買える。回復量100で、500円は安い。でも、いくらアイテムとはいえ、ずーっともってるには、少々不安があったので、マツバに聞いてみると、じゃあヨーグルトを買えとアドバイスされた。



マツバ曰く、モーモー牧場は乳牛としてミルタンクを育てている全国でも珍しい牧場らしい。あ、やっぱその付加価値で高いのね。最近までミルタンクが特有の病気にかかってしまい、オレンの木の実を煎じた薬を飲まないといけないため、しばらく販売は休止状態だったらしい。あれ?なんだよ、もうイベント終わってんの?せっかく毎日毎日プランターとにらめっこしては、オレンの木の実をひたすら増殖させてたのに。たしか7個オレンの実を牧場でミルタンクを看病してる双子ちゃんに渡さないとモーモーミルクを購入できなかったはずだ。なーんだ、じゃあもうオ―ダイル達のおやつでいいよな。というわけで、今回のフェスティバルのイベントということになってはいるが、ミルタンク達が無事に回復したので、営業再開を祝したイベントでもあるらしい。乳搾り体験とかやってるけどいくか?と言われたが、首を振った。面白そうだけど、やっぱバトルが先だろ。


なんとなく、マツバがこのイベントの審査員に呼ばれた理由がわかる気がする。










さらに先に進むと、露店や誰が勝つかダービーもやっている。スタッフはみんな「モーモー牧場」とかかれたミルタンクのロゴをつけたつなぎ姿だ。あ、あの呼び子さん可愛いな、丸い大きな眼鏡にみつあみなんて絶滅危惧種すぎる。そのさきには、ちみっこたちがポケモンと受け付けに並んでいた。大人は誰もいない。俺もガキだけど、いきずれえ。固まっていると、こらこらこら、と引きずられる。


「トレーナーは、もちろんリトルカップ出場できるポケモンのみで参加可能だ。なに一般枠にまぎれこもうとしてんだよ。トレーナーはあっちだ」

「あはは、だよな。じゃあおいらはバルキーかあ。って、マツバ、もしかしてエキシビションマッチもそうなの?」

「はは、安心しろよ。いくらイベントとはいえ、ジム戦だ。フルメンバーで基本的なルールはジムと同じだ。リトルカップルールだと、俺はなにも出せないからな」

「なるほど」


思い出した、固体値合計の制限があるんだっけ?あれか、某動画でやってたリトルカップルールで一番強いやつを決めるとかいう企画で出てた奴らだな。うーん、ズバットあたり優勝候補じゃねえか。思わず俺は辺りを見渡す。よかった、どうやらブラックはいねえらしい。ほっとした俺は、受け付けに向かった。









俺はEブロック。特設のバトルフィールドと観客席は満員御礼だけど、レンタルポケモン大会よりはましだ。慣れてる自分が怖いけど、いまさらだよな。

西側は審査員席があって、判定のときなんかに動いてくれるみたいだ。つか、マツバ、審査員長なんだ?



「Eブロックの第一回戦、青コーナー、ゴールドくんとバルキー!赤コーナー、ケイスケくんとバルキー!おっと同じポケモン対決だ!どちらが二回戦に駒をすすめるのか期待です!」



まじかよ。

相手も驚いてるが、ま、勝ちに行かせてもらうぜ。先に先手を取ったほうが勝ちだな。鏡合わせのように構えるバルキーに、頑張れよ、と発破をかける。短いが大きくはっきりとした返事。


ホイッスルがなった。


「バルキー、ねこだましだ!」

「させません!守るでかわすんだ!バルキー!」



げ、流された。バルキーが距離を取る。ねこだましは相手を絶対にひるませるけど、先制技扱いだから素早さ依存だ。守るは優先度が上だから素早さ関係なく出せる。やっぱり同じポケモン持ってると、技が把握されてるなあ。



すると相手のバルキーから、ぷかぷかと紫色の泡が上った。どくどく玉かよ、なんつー変態型だ。わざとどく状態にして、根性を発動させる気か?これで攻撃はあっちが上だ。でもたすきじゃないから、こっちの攻撃が有利だ。仕方ねえ、攻撃あるのみだな。頼む、こっちの方が早く動けますように!



「はずすなよ、バルキー!とびひざげりだ!」

「いっけえ、空元気!」



先に動いたのは、相手だった。でも、たすきで耐えて、お返しにとびひざげりをお見舞いする。よっしゃ!一撃!



「ナイス、バルキー!」



お母さんに頼んで、たすきを買ってもらえて助かった。消耗品だからか、セットだ。ラッキー!













第二回戦は、ウリムーだ。なーんか、相手が思いっきりトラウマのあるギャンブラーなんだが、いやな予感がする。頼むから、バトフロに帰れ!ラッキーなのは、タイプ的には有利なことだ。



「挨拶代わりのねこだまし!」



思いっきりはり飛ばしてるけど、ねこだまし。ときどきポケモンによっては技が詐欺じみてる時がある。気にしたら負けだ。早いんだよなあ、意外に。吹雪か?地割れか?まさかな。



「バルキー、とびひざげり!」

「させんよ、つぶてだ!」

げ、たすきをつぶされた!小さな氷の固まりがいまひとつのわりには、きっつい技ダメージをあたえてくる。代わりにとびひざげりわたたき込むが、防御の壁は厚い。



「地割れだ!」 

「はずれてくれえっ!バルキー、とびひざげりだ!」


フィールドに裂け目がうまれ、豪快にえぐられる地面。どおん、という音で地面が揺れる。観客席はどよめきが走った。


せ、セーフセーフ!バトフロじゃなくてよかった!とびひざげりがもう一度たたき込まれ、イノムーが倒れる。



審査員席には、俺のコーナーの色があがった。










準決勝は、メリープとエリートトレーナーだ。リメイクだとチャンピオンロードやダンジョン奥地にしかいない、まさしく修業大好きトレーナー。アキラねえ、聞いたことないけど、金銀水晶時代のやつか?エリートトレーナーは賞金がおいしい。勝って、お近づきになっとくかな。なんかエリートトレーナーは受け付けでグループ作ってたし、こいつリーダーかくっぽいし。



「毎度お馴染み、ねこだまし!」



メリープが吹っ飛ぶ。もこもこしてて、いいよなあ、あいつ。もふもふしたい。ばちっとしたらしく、バルキーが驚いて飛び退く。



「メリープはせいでんきだ。うかつじゃないかい?」

「格闘タイプにムチャいうなって。ご心配なく、アンタ、エリートトレーナーなら知ってるだろ?」



ちら、と見れば、逆境にももろともせず、身構えるバルキー。根性は、まひ、どく、やけど(ただし攻撃力ダウンはある)のとき、攻撃力が上がる。もともと絶望的に遅いんだ。早さはあきらめてる。



「メリープ、リフレクターだ!」

「うげっ、守りを固めるかよ?バルキー、とびひざげり!」



せめるしかない。でも、ダメージ半減はでかすぎる。幸いは、メリープの電気ショックに耐えられたこと。一度行動不能になったが、補助技に救われた。おかげで攻撃力はずたぼろだ。



「バルキー、とびひざげりだ!」



よっしゃあ、ラッキー、急所!



「なかなかやるな、君。どうだい、電気番号を交換しないか?日々精進している僕らなら、うまくやれると思う」

「おいらはいいけどさ、アキラたちはどこにいるんだ?」

「ん、ああ、今はつながりの洞窟の奥を拠点にしているよ。洞窟の主がいないからな、静かなもんさ 」



俺は笑うしかなかった。












決勝戦は、キャンプボーイとウパーだ。うげえ、ズバットよかましだけど、まためんどくさいやつが相手だなあ。物理攻撃主体のバルキーに、耐久力のあるウパーはけっこうきつい。でも、また準優勝はごめんだ。全力でいくか。あと一勝だ、頑張ってくれ、と頭を撫でるとてれくさいのかあらぬ方向をみていたバルキーは、赤ら顔でうなずいた。


「バルキー、ねこだまし!」



あれ?守るないってことは、あくびなしか?



「バルキー、仕留めてくれ、とびひざげり!」

「反撃だ、あくび!」



あるのかよ!ぎゃああ、やばいやばい、最悪だ!あくびは一ターン後に強制的に眠らされていまう。とびひざげりするか?いや、いやいやいや、落ち着け俺!
こっちはてれやだから、性格補正も努力値の恩恵もない。絶対、思ったよりダメージ与えられてない。 一撃なんて無理だ。あれ、積んだんじゃね? 俺ならぜってえ、するだろ、カウンター!普通に攻撃されたらなみだめだけど。


「バルキー、てだすけ!」

「あ、はずれちゃった」



セーフだけど、バルキーは眠りに堕ちる。あー、仕様変更の恩恵よ、はやくこい!



起きろ起きろと叫ぶ俺の横で、キャンプボーイは技をだしたはずだが、いつまでもこない。


ウパーは力をためているようだ。


あ、あそんでやがるっ!あのモーションは気合いパンチじゃねーか!くそ、やるならさっさとやってくれよ!


「ウパー、気合いパンチ!」



格闘最大の技が襲い掛かる。たすきでつないだものの、次でしぬ?


起きてくれ、バルキー!ジム戦はここでしたいんだよ、頼むから!



ぱち、と目があく。力をためているウパーが驚いて声を上げた。


「バルキー、とびひざげり!」


よっしゃ、起きればこっちのもんだ!さっきのお返しだとバルキーが奮起してけりをたたき込む。これなら!ウパーは、ばたん、と倒れた。




「よっしゃあああ!よく起きたぜ、バルキー!最高だよ、お前、もう大好き愛してる!」



拍手喝采に包まれて、俺は思いっきりバルキーを抱き締める。ゆでダコなバルキーなんて全く気付かなかった。

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