第30話

「ブラック、ヘルガーは鬼火もってる可能性高いから、これ持たせといて」

「シンクロもちに鬼火なんかするか?」

「炎タイプに鬼火は効かないんだよ」



投げてよこしたチーゴのみのはいった持ち物袋。
ブラックはロケット団幹部のグレイに殴り込みをかけるらしい。
ブラックは受け取ると、ブラッキーの首に引っ掛ける。こけんなよ、と茶化したら、弁慶の泣き所を盛大に蹴られた。いってえ。
涙目になりながら、俺達は所定の位置に向かう。俺の相手はドンカラス連れてる下っ端だ。
さすがはかつてのロケット団ボスの息子、主要なやつのパーティは把握済みで頼りになる。
グレイも下っ端も今回の任務には一匹しかポケモンを連れてきてないらしい。
そりゃ、本気はコガネシティのラジオ塔ジャックだもんな。ありがたいこった。
んー、もちものどうするかなあ。
電磁波されちゃ困るから、今までせっせと育成プランターで育ててきたラムの実にするか?
シンクロもちに電磁波なんてあほなことするとは思わないけど。
いや、でも、やっぱり優先すべきはダメージだな。あくタイプの技を半減できる木の実、たしかあったはず。
俺はリュックを探って、持ち物袋に放り込むと、エーフィに渡した。
うし、いくか、と呼びかけると、ゆらゆらと二又の尻尾を揺らし、エーフィが振り向いてうなずく。
俺は、振り返ってマサキを見た。



予め決めておいた、合図が見える。さん、にい、いち!



俺達は同時にロケット団の占拠したステージに飛び込んだ!



















いきなり飛び出してきた俺に、下っ端たちが驚く。
ポケモンを取り上げられて身動きが取れない観客やジムリーダーたちを背にして、大ポカなんかできっこねえな、こりゃ。
俺は帽子をかぶりなおして、エーフィとともに踊りでた。



「むっ、そのポケモンはマサキの?どこに隠れているのかと思えば、こんな坊やに託してたのか。
勇敢な坊やだ。しかし、子供が大人の邪魔をするのはいけないぞ」

「うっせえやい。アンタを倒して、催眠電波の機械は壊させてもらうぜ!いくぞ、エーフィ、リフレクター!」

「悪い子には、お仕置きだ!ドンカラス、いけ!電磁波で動きを封じろ!」



だれだよ、電磁波は普通しねえよな、って言った馬鹿は!俺です、すいません。
麻痺状態になってしまったエーフィは、動きが鈍くなる。これで素早さはガタ落ち、ドンカラスが早くなってしまう。
ドンカラスにシンクロの効果でエーフィの麻痺状態が、同様に襲いかかる。
しかし、ドンカラスは木の実を食べて回復してしまった。
さいきんのロケット団は木の実までもってんのか、かしこくなりすぎだろ!
ま、いいけどさ、むしろラッキー。



ちら、と駆けて行ったブラックを見ると、一瞬目が合う。
作戦通りにちゃんとしろよ!と口ぱくで笑う。あ?さっさとしろ?うっせえな、この野郎。
不意打ちは、すべての先制技を含めた攻撃技よりも先に攻撃できる代わりに、
補助技や二ターンの攻撃をすると不発に終わる。
にい、と俺は笑う。ラッキー、不利なタイプだからって余裕かましてると、しっぺがえすを喰うのがバトルだっての。
先発のエーフィにいきなり不意打ちはねえよ。耐えられるよう防御力強化したり、リフレクターや光の壁警戒しろよ、ばーか。
挑発覚えてねえのか?俺は手はず通り、命じた。



「エーフィ、トリックルーム!」

「なにいっ?!」



なんでトキワジムでグリーンにもらえるはずの技マシンを使わなきゃ覚えられないはずの、
トリックルームをエーフィが覚えてるのかは謎すぎるけどこの際放置。
ホント何者だよ、マサキの知り合いさん。
未来の俺と通信交換するほどの仲よしで、俺にピチューの卵を一方的にくれて、
しかもエーフィだけじゃない。ブラッキーだって、教え技じゃないと覚えられないはずの
不意打ちを習得させるなんて、何者だよ。
バトルフロンティアで、結構活躍しないとポイントたまらないのに。
分かるのは、すっげー強い人なんだろうってことだけだ。ま、会うのが楽しみってね。



ブラックの方を見ると、火炎放射を喰らったらしい。ま、ブラッキーが火炎放射で一撃で倒されるほどやわじゃないのは折り紙つきだし、大丈夫だろう。
のろいを命じたらしい。これで、トリックルーム下では、すべてのポケモンは素早さの遅い順から行動できる。
先制技以外はな。



「ドンカラス、不意打ちだ!」



大きな翼を広げて飛来したドンカラスが、エーフィに襲いかかる。
効果は抜群。でも、半減の実とリフレクター、ついでにトリックルームを発動するために、
知り合いさんは防御面に力を入れてたらしく、ダメージは普通より少ない。
すっげえ。



「エーフィ、目覚めるパワー(氷)!」



ホント、マサキの知り合いさん何者だよ。改めて、思う。
目覚めるパワーなんて、ポケモンの個体値でタイプも技の威力も変化するような、
日夜卵の孵化作業してるような、超やり込み組が大好きな技平然と入れるとか、
ホント何者だ。



エーフィがひと声上げる。額の水晶に反応して、エメラルド色の光がぶわっとあふれだす。
そして、エーフィが突き上げると、神秘的な音とともに、光が収束する。
一端エーフィのまわりで収まった光が、再び地面を這って、波紋状に広がった。
ドンカラスはHPあるけど、特殊防御も防御も低いから、いけるはずだ。
ぱあん、と目覚めるパワーがさく裂し、ドンカラスは後退する。



よっしゃ、やりい!



ちら、とブラックの方を見ると、ブラッキーは持ち前の頑丈さで、じわじわと追い詰めている。
のろいから、しっぺ返しにつないで、不意打ちと行きたかったらしいブラックには、
トリックルームの使用をさんざんなじられたわけだけど、仕方ねえだろ、こうでもしないとだめなんだから。
あ、なんでかっていうと、しっぺ返しは後攻になると威力が60から二倍になるんだ。
だから俺がトリックルーム使うと、ヘルガーよりブラッキーの方が早くなってしまって、
威力がさ、微妙になるんだ。
へへ、一足お先に!俺はエーフィとともにステージを走り抜ける。



倒れてしまったドンカラスを下っ端が回収する隙をついて、俺はエーフィにマヒ直しを使った。
そして、階段を駆け上がる。



「エーフィ、サイコキネンシス!」



きらきら、とふたたびエーフィの額の水晶が輝く。タイプ一致のサイコキネンシスの威力は半端ない。
どおん、と豪快な破壊音。あーあー、もったいねえ。いくらくらいかかってんのかなあ、これ。
よっしゃ、これで、ひとつ撃破っと。振り返ると、ロケット団の下っ端たちが狼狽してる。
とりあえずここのエリアのトレーナー達はポケモンが使えるはずだ。
一斉に、ジムリーダーやトレーナー達が動き出す。
よっしゃ、ここは任せて、さっきの下っ端から爆破スイッチを!、と俺が駆けだしたとき、後ろから聞いたことのない、男の人の声がした。



「ゴールド、あぶない!後ろ!」

「へ?って、うわあああっ!」



視界いっぱいに広がる、黒。あっぶねえ!間髪でよけたその先で、階段がえぐれる。



「エーフィ、目覚めるパワー!」



さっきの声の人が、代わりに応戦してくれる。
あれ?なんで、この声の人、エーフィが誰の言うことでもきく、特殊なモンスターボールに入ってること知ってるんだ?
って、俺の馬鹿!そんなこと考えてる場合じゃないだろ!勢い余って階段から足を踏み外した俺は、あわてて受け身をとった。
ごろごろごろ、と転がる。痛い痛い痛いっ!ようやく止まった時には、くらくらして、周りがよく見えない。
ぐにゃりと曲がった視点。ふらふらになりながら、俺はあちこちに打撲や擦り傷ができたのを確認した。
い、いきててよかったあ。



ヤミカラスがドリルくちばしを俺に向かって突っ込んできたらしい。こ、こええええっ!
人間に攻撃すんなよ、お前はアニメかポケスペの住人か!



ほう、と息を吐くと、大丈夫?とさっきの声が後ろから降ってくる。

さっきこの声の人、俺の名前呼んだよな、もしかしてマサキの知り合いさんか!



「な、何とか……ありがとう」



俺は振り返った。



「あれ?」



一瞬、俺は、目の前にいる人が理解できなくて、固まる。










え?俺、どっかうちどころ悪かったかな?幻覚が。







「つめが甘いよ、ゴールド。ロケット団を相手にするなら、奇襲にも警戒しなくちゃ、だめじゃないか。
バトルの最中に、相手に背中は見せられない。だろ?」



ぽん、と肩に手を置かれ、俺は、間抜けな声しか出てこない。
その人は、無事でよかったよ、と笑った。
後ろの方で、グレイを突破したらしいブラックとブラッキーが催眠電波の機械を破壊して、歓声が上がるのなんか、耳に入らなかった。
音が消える。



面影があるのは、赤いキャップのついた帽子だけだ。


俺の知るその人の格好といえば、茶色の短髪。体格も顔つきも俺より年上ってこと。
黒のアンダーに、赤色のジャケット。ジーパン、ランニングシューズ。
黄色いリュック。5つのモンスターボール。


その人は、いわゆるスタッフと同じ格好をしていた。


眠りから覚めたのか、背後から飛び出してきたピカチュウが、肩に乗る。
その人は、安堵したようにピカチュウに笑いかける。



なんで?


まじで?


うそだろ?



まじかよ?



思わずほほを思いっきり引っ張るが、痛い。
いきなりの突拍子もない俺の行動に、ぎょっとしたその人が、打ち所でも悪かったのかと心配してくる。
だ、だだだ、だいじょうびれふって、いてえ!思わず舌をかんでしまって、
でもそれどころじゃない俺は、ものすごいスピードで後ろに後退した。



ヤミカラスを撃破し、エーフィが俺のところに帰ってくる。
口には爆破のスイッチが加えられてる。よっしゃ、ナイスだぜ。
エーフィはそれを俺の手元に置く。心配そうに俺を見て、そして傍らにいるその人を見るなり、うれしそうに飛び込んだ。
ピカチュウが飛び降りて、ねぎらっているのか、じゃれついた。



夢見心地の俺は、ぽかーん、としたまま見入るしかない。
すると後ろから、マサキの声がした。こころなし、音量小さめだ。



「あっはっは、大成功やで、レッド。な?いうたやろ?今の子供は普通こういう対応するんやって」

「やめてよ、マサキ。僕はもう、チャンピオンじゃ、ないんだから」



なんで裏ボスが普通にいるんですか、誰か教えてください。
何かを思い出すように、キャップを下げて表情を隠したレッドさん、らしい人は、
マサキに抗議する。
あ、すまんな、とマサキは地雷を踏んだことを自覚したらしく、マサキが謝る。
何この急展開。さっぱり話についていけない。
なんでレッドさんが俺のこと知ってんの?つか、
エーフィ、まさかHGSSでリストラされたあのエーフィなのか?
それにってことは、マサキのいう知り合いってレッドさんてことで、えーっとえーっと、
未来の俺と通信交換してたのがレッドさんで、俺にピチューの卵くれたのもレッドさんで、
ええええ?!
重大すぎる事実にびっくりしすぎて声が出ない。



「なーにをいっとるか、生きた伝説が。もっと自覚し?レッドがチャンピオンになってから、
ゴールドみたいに帽子をかぶる子がどんだけ増えたとおもっとん」

「うーん……」

「それにしても、や。ようやったな、ゴールド!ありがとう!」

「うえ、あ、まあ、はあ」

「あっはっはっは。だから言うたやろ?驚くって」



マサキのウインクに、俺は殺意を覚えた。



「なんでレッ」

「おっと、ストップストップ」



むぐ、とマサキに口をふさがれる。



「お忍びできとんや、ばれたらやばいやろ?
まさかレッドの帽子しとる人が、本人とは誰も思わへんけど、さすがに騒いだらやばいさけ、堪忍な」



俺は、しぶしぶうなずいた。あー、苦しかった。いきなり鼻までふさぐなよ、窒息しかけたじゃねーか。
はあ、と息を吐くと、レッドさんが苦笑する。



「これで、形勢逆転やで、ロケット団!いい加減、堪忍してお縄につきや!」




マサキお前何もしてないじゃねーか!


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