第2話



「教えろよー、電話番号!」



くそ、10年前は人数制限を理由にできたってのに、無限に登録できる高性能がうぜえ。



「また戦いたいんだよ!な、いいだろ?」



力説してくるゴロウが、さっきからずーっと後をついてくる。早く帰らないとお母さんに怒られるだろ、放してくれよーとはらうと、じゃあ電話番号教えてくれ、とループ。断ったらさみしそうなコメントで会話は切れるもんだろうが、なんでこんなにしつこいんだよ、今時こんなナンパしたら警察呼ばれるぞ?



「じゃあさ、ゴロウ。オイラにきのみとか貴重なアイテムとか高価なドーピング剤くれたりする?」

「あー」

「ポケモンの大量発生とかジムリーダーのいきつけとか有益な情報くれちゃったりする?」

「うー」

「高額の賞金くれたりする?」

「え?」

「実は女の子だったりする?」

「ちょっと待てよ」

「やだ」



なんでじと目で見るんだよ、失礼なやつだな。いつ電話してもコラッタで作戦立ててるの一点張りで、プレイ時間102時間28分たっても、再戦バトル一度もしてくれないのはどこのどいつだい?お前だよ。さっさとマックスアップよこせ。おれ知ってんだからな。銀の時代から電話の回数はずば抜けて多いくせに、オタチ倒しただのポッポ捕まえ損ねただのそんなことどうでもいいんだよ、一方的にまくし立てるだけまくし立てて、一方的に切りやがって。ポケギアはギブアンドテイク、挙げた条件以外にトレーナー登録する気みじんもないからな。わくわくしながら待ってた初心者時代の俺のドキドキを返しやがれ、こちとら友達できた!やったぜ、ライバル認定された、うれしいな!ってにやにやしてたのに、畜生。


かたくなに拒否するトレーナーなんて無視してさっさとポケモンセンターに行けばいいものを、ゴロウは粘りに粘っていた。なつき度下がるぞ?瀕死状態で放置すると。指摘しても、だったら教えろの無限ループ。え、もしかして強制イベントなのか?



「すぐ再戦してくれんなら、いいけどなー?」

「おおう!あったり前だろ、まかせとけ!」

「一週間後」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・たぶん」

「じゃーな!」

「うそうそうそだって!頼むよ!」



とんずらしようとした俺をあわてて引き留める。ちょ、ま、パーカー引っ張んな、息出来ねえよ!ばたばた暴れる俺に、じーっとゴロウとのやり取りを眺めていたワニノコが止めに入ってくれた。ナイスだ、ワニノコ、命の恩人だぜ。ごめん、でもお前が(以下略)とぬかすゴロウに俺は無理難題をふっかける。へへん、できるか?



「再戦延期につき、モンスターボール一個な」

「はい」

「3週間も無理かよ!」



仕方ねえなあ、と俺は登録した。ラッキー、今ヨシノシティじゃモンスターボール売り切れてて手に入らないはず。明日ポケモン爺さんを訪ねたら、自動的にライバル戦のはずだからレベル上げた新入り入手して完封してやるぜ。ホクホク顔の俺に、賞金の10倍とゴロウが嘆いているが、あーあー聞こえなーい。



「ワニノコ、手持ち強化だ。新人いれようぜ」



きょとりとしていたワニノコだったが、オレがかざしたモンスターボールに、がーん、と影を帯びる。うるうるしながら抱きついてきた。よしよし、と撫でる。心配すんな、となだめる。いちいちこの調子じゃ先が思いやられるなあ。いやいやお前が役に立たないから新しいポケモンゲットするんじゃないんだよ。銀時代だったらお前しか育てなくても十分ジョウト地方制覇できたんだけど、今回はジムリーダーたちが強化されまくってるからさ、きついんだわ。とりわけライバル戦。ベイリーフのじわじわ戦法がうざすぎるんだ、お前だけじゃ突破できないんだ、そのうちわかるから、と抱きしめた。どのみち秘伝要員ゲットしないといけないしな。


仲いいなあ、君たちとゴロウが苦笑する。それほどでも。まーな、と納得してくれたワニノコに安心しつつ笑った俺たちは、不自然にゆれた物音にはっとなる。あたりを見渡すと不自然にゆれる草むら。ワニノコがぎゅう、と俺の脚にしがみついてくる。ビビるわけにはいかないよな。なんだなんだ空気の読めない飛んで火にいる夏の虫は。この時間帯ならホーホーかコラッタか、ホーホーなら捕獲だな。わらった俺に、ワニノコが気づいて戦闘態勢になる。





傷ついたホーホーが飛び出してきた!





「ホーホーだ!大変だ、傷ついてるよ!」





ろくに動けないのか、翼をばさばささせつつ、こちらを威嚇するものの鳴き声がか細い。
こりゃまた珍しい。瀕死寸前のポケモンが倒された後、人間の目に触れるような場所にいるのはリアルならではのイベントってところか。たぶん3,4レベルしかいないこの道路で、ゴロウみたいにLv.13のコラッタつれてるようなトレーナーに狩られたんだろう。あわあわしているゴロウに、おいおいと俺は突っ込みたくなる。



「へへっ、落ち着けってゴロウ」

「で、でも、今からポケモンセンター行っても間に合わないし!」



肩をたたいた。お前だってトレーナー戦オンリーでここまできたわけじゃないだろ?何十匹のポケモンを倒して、経験値もらって今ここにいるんだろーに、なんでホーホーが瀕死になってることぐらいで驚くんだよ。レベル上げは野生狩りが鉄則だろ、序番は。自分のポケモンじゃないのになんで心配するんだよ。


しっかし幸先いいな、ラッキー。ワニノコレベル上げすぎちまったから、飛行タイプ捕獲するの面倒だったんだ。ポッポかホーホーか迷ってたところだったんだけど、この際手間が省けてありがたいってね。心配そうに見つめるワニノコに、いけ!と命令を下すと、えええっと俺を見る。馬鹿だな、追撃しろって言ってるわけじゃないんだ。戦闘に入らないと捕獲できないだろ。モンスターボールをかざした俺に、ワニノコが気づいたのか近くに寄っていく。



「え、ちょ、ゴールド?!」



俺はなんの躊躇もなくモンスターボールを投げた。銀ならこの道路の先にきのみのなる木(今でいうならオレンの実か?)があっから、ほっとけばホーホーもたどり着いて回復できるだろうけど、あいにくハートゴールはみどぼんぐりだしな。かた、かた、かた、と必死の抵抗でボールが揺れる。まさか人間に出会った時点で、こんな暴挙に出るとは思わなかっただろうなあ、悪いね。まあ運が悪かったと思って、あきらめてくれ。俺は見守った。一方、まさかいきなり俺がもらったモンスターボールで捕獲するとは思わなかったらしく、あんぐり口をあけたままゴロウは立っていた。


かちり、とボールがなっておとなしくなる。ラッキー、ボール代、浮いたな。



「へっへーん、これで大丈夫って寸法よ!」

「あ・・・・・ああ、なるほど!これなら安全に回復してやれるもんな!びっくりした」



ものはいいようってな。近寄ってきたワニノコにモンスターボールを見せてやる。微動だにしないホーホーがいる。HP残り3か、本当にぎりぎりだな。ついでにデータを見ると、ここら辺ででるポケモンにしてはレベルが高い。9ってことは、誰かに捨てられたか?どうりで必死に抵抗してくるわけだ、と納得しつつ、傷薬を施した。心の声なんて誰も聞こえなくっていい。ワニノコに嫌われたり、失望はされたくないしな。体当たりに催眠術、つつく。助手からもらったのはワニノコに使っちまったから、ひろいものの傷薬を使った。



「大丈夫そうだな、よかった」



ほっとしたゴロウがのぞきこんでくる。意外とお前、いい奴だな!と肩をたたかれる。よせやい。意外は余計だぜ。俺ほどやさしいトレーナーはいないだろ?偽善だろうがやったことは事実だもの、人間の心情より行動しか事実には残らないんだよ。言わなきゃわかんないんだ。何事においても。



「ワニノコ、ほら、新人くんだ。ホーホー、よろしくな」



活発に活動しはじめたモンスターボール。ワニノコは元気よく挨拶した。うわーっと開けた口にホーホーがびっくりして縮こまる。こらこら、驚かすんじゃねーよ、ホーホーも大丈夫だからビビんな、と仲裁する。モンスターボールに表示された性格も個性もなかなかだ。もしかしたらこいつを捨てた奴、厳選してたのかな。


ライバル戦に備えてちょっとだけレベル上げするか、とワニノコにいう。ゴロウに別れをつげ、すっかり暗くなってしまった道路で、茂みに飛び込んだ。


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