第25話

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「ミルタンク、のしかかりやっ!」



びくともしない超ド級のウソッキー。目を閉じて口を真一文字に結んでるのか、上からじゃ太陽からの逆光のせいでよく見えない。顔がありゃ一発でアカネも気づくんだろうけどなあ。どおん、という音とともにミルタンクは全身の体重をかけた渾身のタックルをかましたが、びくともしない。しん、としたままで鳴き声はおろか、揺らぎもしない。ただ大木の如く立っているだけだ。はえー、うそだろ、びくともしないのかよ。いくらノーマル技半減ったって揺らぎはするだろ、普通。無効じゃあるまいし。うそお、と予想外の光景に絶句するアカネだが、困ったように振り返る相棒を戻す。さすがやんか、ただじゃ動かんってことか、とつぶやいている。よし、次は俺の番だな。ウソッキーだとどういうわけか誰も気づかないこの状況におかしさを感じるけど、とりあえず空気読まずにオ―ダイルのモンスターボールに手を伸ばす。



「ノーマルが効かねえってことは、岩か鋼あたりだな。頼むぜ、オ―ダイ」

「ちょっとまち。まだポケモンと決まったわけちゃうやろ?まずは植物かどうか調べんのがさきやんか。そもそも岩鋼であんな立派なハッパ生やしとるやつなんて、おらんやろー!」



びしっとアカネが3つ玉の緑を指さす。確かに草にも等倍だし、でかいからダメージを感じてないといえば、まだタイプの判定は出来ねえか。確かに盆栽にありそうな形状に見えなくはないけど、ねーよ。急激にでかくなる原理はさっぱりだけど、普通に考えて雨をよける移動する植物ってだけで十分化け物の領域じゃねーか。誰か植えたのかもしれない、と主張するアカネは別のボールを構えた。誰かが一晩でやってくれましたってか?何のためにだよ。まさかロケット団がサミットを中止にさせるためにやったとでもいいたいのかよ、おいおい。オ―ダイルがちょいちょい、とつついてくるので振り返る。どうした?と振り返ると、モンスターボールを指さす。ぽちぽちとスクロールし、技の覧を見せて、困ったように差し出してくる。……あ、そういや水鉄砲消しちまったんだっけ?わりいわりい、忘れてた、あはは。



「木いなら火に弱いはずやんな?ゴールド、ちょっとごめんやけど、木炭かして?」

「なんで?」

「あっはっはっはっは。おいで、ブビイ」

「あんとき炎タイプはもってねえし、育てる気ねえって言ったのはドイツだよ、アカネ」

「かわいいポケモンコンプリートはうちの目標や」

「なんでペット持って来てんだ、ジムリーダー!」

「なんてな。焼けた塔が取り壊されてもたときに、生息場所を奪われたポケモンたちもおったわけよ。新しい生息場所が確保できるまで、預かっとる一体や」

「へええ。じゃあ、ほい、もくたん」

「あんがと。よっしゃ頼むで、ブビイ、火炎放射!」



首から下げられたお守り袋、木炭の援護で威力が増大した業火が、ウソッキーに襲いかかる。ごおおおおっと炎に包まれ、熱気に俺達は後ずさる。タイプ一致技に補助道具の威力は、ベビイポケモンでも健在かあ。もくもくと上がる黒煙。高温で見るのもつらい光につつまれる。ブビィは疲れた様子で帰ってくる。これで少なくても、ただの大木とは思わないでくれるだろ。



草タイプの弱点は氷・炎・飛行・毒。毒を除いてものの見事にウソッキー筆頭の単岩タイプにとって、耐性があるタイプがそろっている。実は草タイプは岩技を覚えるだけで多すぎる自分のすべての弱点タイプに対して抜群以上のダメージを与えられる。弱点が補えるわけだ。案の定、燃えもせずに炎はウソッキーの体を滑るように登って行き、やがては煙を残して消えてしまう。多少の効果はあったらしく、半減だけど、体の表面は焦げている。ぱらぱら、と落ちてくる何かに俺は思わず頭を覆う。拾い上げた指先には、粘土質の黒こげた何か。指でこすると、案外カラカラで、ぼろぼろと崩れてしまう。砂みてえだな。砂?



「うそおっ?!なんでこの木、どっこも燃えへんねん!やっぱ、ポ、ポケモン?」

「だからオイラが何度も言ってるだろ!こいつポケモンだよ!」

「あかん、ブビイもどって!潰されてまう!」



あわててアカネがボールに戻す。その瞬間、不動だった影がぐらりとゆれる。あ、と俺達は真っ青になって顔を見合わせた。まさか。まさか。まさかっ。ぱらぱらぱら、と落ちてくるカラカラに乾いた黒い泥の塊。う、動き出しそうなんですけど、アカネさん。まさか起こしてもうた?アカネの馬鹿!何やってんだよ!しらんわ、そんなん!ウチのせいにせといてよ!じりじりと後ずさりしつつ、俺達は必死で考える。



「何タイプなんよ、あれ!」

「ノーマル、炎がきかねえんだ。ノーマル半減は、はがね、岩、えーっと地面もだっけ?」

「で、炎もきかんとなると、鋼は除外やな。岩か地面?ゴールド、オ―ダイルの水鉄砲や!それならどっちにも効くで!」

「ご、ごめん。オ―ダイル、冷凍ビーム覚えさせちゃったから、水鉄砲消しちまって覚えてないんだよ!」

「あほう、なにやっとんよ!こんなときにい!」

「オイラのせいじゃねえよおっ!くっそ、頼むぜ、ゴローニャ!」





モンスターボールから先陣を切ってあらわれたゴローニャは、目の前に現れた巨木と見まごうばかりに立つウソッキーに、圧巻されたのか上を見る。だが、すぐに目の色が変わり、すさまじい雄たけびをあげる。俺達もつられて空を見上げると、かっとウソッキーが目を見開いて、ぐぐぐっと力を入れ始めていた。まずいまずいまずい、歩き始めでもしたら、どんだけ巨大なクレーターが量産されちまうんだ。俺は叫んだ。ここで何とかしないと、お祭り気分でここにいる観光客たちまで危うくなっちまう。さいわいまだ足を固定化させたままだ。しかも足を抜こうと、力の重心が左にかかってる!よし、これなら!



「ゴローニャ、左足に向かって、地震だ!」



ばっと攻撃する箇所をさして、指示を飛ばす。うなずいたゴローニャは、ぐっと体を縮めて力をためると、再び雄たけびをあげて勢いよく両手を振り下ろした。どん、とゴローニャを震源地に、湧き上がった砂埃が幾重にも円を描いて、広がっていく。衝撃が飛ぶ。わきあがる風に、俺はキャップを抑えた。次の瞬間、どおおおおおおおん、とウソッキーの巨大な左足部分の地面が隆起して、轟音が響く。ウソッキーは効果抜群なのか耳が痛くなるような悲鳴をあげて、ぐらぐらと体を揺らす。ますます砂埃が降ってきて、俺達はせき込んだ。習得したばっかりの新技披露がこれとはなあ。さすがは地面技最強の凡庸性を誇る技だけある。やがて、穴を掘る最中のポケモンに対する地震と同じ原理で、通常よりも強烈なダメージを受けたらしいウソッキーは、無理やり足をひっこ抜こうとしていたせいでバランスを崩し、ずううん、と後ろに豪快に転倒した。飛び跳ねる地面に、俺達もびっくりしてバランスを崩しかけた。どうするアカネ、ぶっちゃけこっから考えてねーぞ、俺。



「ナイスや、ゴールド!でもどうするんよ。図体でかすぎて、地震でずっこけるだけなんて反則やわあ。ハイドロポンプ使える奴とかおらんの?」

「いねえよ!だーくそ、せめてもっと小さかったら!」

「地面が抜群ってことは、岩タイプ?うーん、草っぽい外見しとって、岩タイプ、うーんと、どっかでみたことあるんやけどなあ、どこやっけ?あーもう思い出せん!」

「そもそもなんであんなにでかいんだよ、あいつ!」

「そうやって、さっきからぱらぱら泥落としよって!」



ほこりまみれの俺達はいらだち気味に叫んだ。ウソッキーは体制をなかなか立て直せないらしく、道には巨大な大木が横たわっている。これからどうするんだと指示を仰ぐゴローニャ。俺はとりあえず時間稼ぎに、再び地震を命じて、立ち上がりかけた手を地面に沈ませる。どうすりゃいいんだ。ダメージくらってないし。ウソッキーにしては大きさが規格外すぎるから、絶対にモンスターボールじゃ入らないに決まってる。はらはらしながら、必死で考えるものの、まったく思いつかない。あ、とアカネが声を上げた。



「泥…?そうや、泥や!ゴールド、あのポケモンが出てくるんは、決まって雨上がりで、地面が泥んこんときやったんや!さっきからぱらぱら落ちてきとんのは、もしかしたら泥で表面を塗り固めとんのかもしれん!」

「じゃ、じゃあ、表面を濡らして力押しでやりゃ、はがせるってこと?」

「そうかもしれん。ちょっと待っとき!だれか水タイプもっとらんか、探してくるわ!メタモンで変身すればなんとかなるかも!」

「お、おう!頼んだぜ、アカネ!ゴローニャ、それまでなんとか、がんばろうな!」



こくり、とうなずいたゴローニャとともに、ウソっキーを足止めする。アカネが、ざわざわし始めた人だかりの中に消えた。




























ぽつ、と冷たい感覚がして、空を見上げると局地的な雨雲が上空に発生していた。ゴローニャがいやそうな顔をする。よっしゃ、なんとか間に合ったな、アカネのやつ。PPが赤になってる。披露が浮かびはじめたゴローニャに、お疲れさん、と戻した。ほっとして俺はライチュウに切り替える。バルキーにはまだ荷が重い。ぎょっとした様子で巨大なウソッキーをみるライチュウだが、雨を嫌がっているのを見て怖がるのをやめた。だんだん雲行きが怪しくなり、ざあああああああ、と本格的に降り始めた雨が、ウソッキーを直撃する。もちろん俺もライチュウも濡れるわけだけど、ウソッキーが暴れるのを考えると下手に動けない。やがてバケツをひっくり返したような激しさが増し、白いカーテンを作るまでになる。はねっかえりですっかりシューズは泥だらけだ。ぐしゃり、と崩れ始めた泥の塊が落ちていく。よし、という俺の声を聞いて、ライチュウが振り返る。前髪をぬぐって、俺は命じた。



「ライチュウ、かわらわり!」



やわらかくなった泥の体めがけて、ライチュウの瓦割が炸裂する。いくら図体がでかくてライチュウが米粒くらい小さくても、ダメージは確実に響くはずだ。タイプ一致の地震でさえ平然としていたとはいえ、ライチュウとの圧倒的なレベル差を利用すれば、さすがに軽減はできないはず。しかも泥は溶け始めてる。喰い込んでいく手に驚いたライチュウは技を引っ込めてこちらにかけてくる。じわじわと溶けだしていた泥が、一気に崩れていく。



「おおお!すごいやんか、どんどんちっちゃくなっとるで!」

「アカネ、おかえり!「あまごい」かあ、よく覚えてるポケモン見つけてこれたな」

「うん、助かったわあ。高威力の水技覚えとるポケモンもっとるトレーナーがなかなかおらんくて。やっとみつけたの、ゲートの前やもん。間に合わんかと思ったわ」

「おお、マリルリだ!」

「事情説明したらすぐかしてくれて、助かったわあ」

「そっか」



ライチュウが到着することには、へにょりとなったツインテールのアカネが、マリルリに変身したメタモンとともにあらわれた。……こうしてみるとなかないい体か、げふんげふん、そうじゃねーだろ、俺。前見てみ、前、といわれて振り返れば今までの蓄積したダメージが響いてきたのか、ふらふらのウソッキーがいる。よっしゃ、きた。俺はハイパーボールを投げた。



かんかんかん、からから、とボールに吸い込まれたウソッキーが抵抗してボールの中で暴れる。左右に揺れる。一回、二回、三回、かちっ。転倒していた中央の白いボタンが音を立てて光を失った。思わずガッツポーズする。やっぱり何度やってもここは緊張するぜ。



「よっしゃあ、捕獲成功!」

「なーんか、人騒がせなポケモンやったなあ」

「だよなあ」



はあ、とアカネがため息をつく。俺もつられて肩を落とした。戦闘が終わり、雨乞いが終わって空が晴れていく。ライチュウお疲れさん、と頭を撫でてやると気持ち良さそうに目を閉じた。疲れた。ホントだぜ、まったく。ボールの中でおとなしくなっているウソッキーに、俺は苦笑いした。すると、後ろからおもむろにぱちぱちぱち、と拍手が聞こえてきて俺達は振り返った。どうも、と帽子を外したのは、サイドンを連れたジェントルマンだった。



「いやいや、とんでもない」

「へ?」

「あ、マリルリ貸してくれたおっちゃんやん!」

「やあ、わずかながら力になれたようでうれしいよ。見事なお手並み拝見、といったところかな。いいものを見せてもらったよ。二人とも、お疲れ様」

「は、ははは、へっへー、こっちこそありがと」

「おっちゃんのおかげやで。ありがとう!」

「君たちのおかげでサミットは中止にならずに済みそうだね。よかったよかった。さあさあ、疲れたかもしれないけれど、ポケモンセンターに行きたまえ。このままでは風邪をひいてしまうよ」

「あ、うん」

「そうやなあ、さすがにうちも疲れたわ。ホントやったらここに残って、いろいろかたずけなあかんのやけど、あかんわ、へろへろ。ちょっと電話せんとあかんなあ。ゴールド、先にエンジュシティ、いそごか」

「おう」

「二人ともつかれているようだね。この状態ではろくに指示もできないんじゃないかい?まだ草むらもある。僭越ながら、私が道中の戦闘を引き受けよう。いいかね?」

「え、ホンマに?!ありがとう、おっちゃん!」

「え、でも、悪いんじゃ?」

「なあに、子供を守るのは大人の役目さ。違うかい?」



か、かっけええええ!何このダンディ。かっこよすぎるだろ、さすがはジェントルマン!俺は感激のあまり言葉を失ってしまい、ほう、と息をつくしかなかった。










「あ、忘れてた。アカネ、木炭返してくれよ」

「あ、忘れとった。ありがとう」

「いやいや。って、うわああああ、雨にぬれてしめっちまってるよ!大丈夫か、これ」

「あちゃー、大丈夫かなあ?ごめん、ゴールド。もしあかんくなったら、弁償するわ」

「うーん」

「大丈夫だよ。ポケモン用のアイテムとしての木炭は、特殊な加工をされているからね。半永久的に効果は持続するはずだよ」

「よ、よかったあ」

「ホンマ助かったわあ。ありがとー、おっちゃん。さすがに9800円はきついんやって、あはは」














ちなみに、このおっちゃんは舞妓さんたちが踊りの稽古をしてる修練場にいる、秘伝マシン「なみのり」をくれる太っ腹なおっちゃんだったと知るのは、その日の夜。三叉路をつなげてくれた礼だと誘ってもらった時に知ったのは別の話。もちろんロケット団の下っ端を追い払って秘伝マシンを貰ったわけだが、若干不安が残る一夜となった。勘弁してくれよ、もう。


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