第23話



俺は朝の支度を済ませると、早速自然公園へ続く道路のトレーナー達をなぎ倒しに出かけた。



「残念だけど、虫取り大会はしばらくお休みなんだ」



えー、うそっ?!俺は思わずカウンターに乗り出す。まじかよ、ついてねえ。ごめんね、とやんわり戻されちまう。自然公園前のゲートキーパーの兄ちゃんが困ったように笑った。ポケスロン会場を建設するための拡張工事の関係で、スタッフをそちらに回す分虫取り大会を取り仕切る運営人数を確保できないらしい。なんでだよ、ゲームじゃコガネジム攻略前だって普通にやってたじゃねーか。レギュラーバッジゲットしたあとだったら、立ち入り禁止がとかれてたし、虫取り大会も開かれてたってのに。はあ、とため息をついた俺の横で、どうするんだとばかりにオ―ダイルが顔を覗き込んでくる。ツクシが急いでた理由はこれだったのか。言ってくれりゃよかったのに、みずくさい奴。つーか虫取り大会でしか入手できねえポケモン、全滅かよ!



あーあ、せっかくわざわざ自然公園まで来たってのに。仕方ない、今日の予定は変更して周囲の探索とポケモンの捕獲とレベル上げといくか。アイテム回収も済ませないと。いこーぜ、と告げた俺に、オ―ダイルは元気よく返事する。行ってらっしゃい、と兄ちゃんに手を振られ、俺は軽く手を振り返した。





先制の爪をポケモン塾で講師をしている女性から無事に入手して、柵を乗り越えて自然公園を取り囲む木々の合間をぬけて、どこかの誰かさんが落っことした技マシンやアイテムを入手する。ポケモンが出てこないってのは地味にありがたい。ついでにトレーナー達をなぎ倒しつつ、着実にパーティのレベルを上げていく。賞金も集まってきて、寂しかった懐もこころなし暖かくなってる気がする。お母さんから重複する半減の木の実シリーズと次いで、ようやくこだわりスカーフとこだわり鉢巻を入手できたから、いよいよ貴重なアイテムが揃ってきた。ストーリー中にこだわり系があるのとないのじゃ難易度が桁違いに変動するからなあ、いい調整だと思うぜ。こればっかりはぬいぐるみやドーピング剤ばっかり買ってきてたお母さんが、俺のことを応援してくれるんだなあ、と実感できるからありがたいところだ。ついでに自然公園のトレーナー達を撃破し終わった。マキチャンというミニスカートに逆なんされ、別れたところで、ぽつぽつ、と降り始めた雨が次第に地面を濡らしていくことに気づいた俺は、ステップするオ―ダイルをせかしてゲートに走る。天気予報で行ってた通り雨だな、明日まではひびかないだろ、どうせ2,3時間でやんじまうんだろうし。うーんと、コガネシティに続く道路に逆戻りして、横道の草むらにそれ、いあいぎりでショートカットできるはずのルートがあったはずだ。あそこの道路曲がって、残りのアイテム回収とバトルを済ませないといけないな。そうそう、ヤンヤンマ捕まえなきゃ。トレーナーは唯一進化の石入手の貢献者がいる場所、早いところ探さないと。はやる気持ちを抑え、俺はゲートをくぐった。


















「やあ、そこのキミ!みよ、このボールさばき!」



いきなり声をかけられてぎょっとする。あたりを見渡す俺に、オ―ダイルが指さす先には、人だかりができていて、輪の中心人物が俺に呼びかけたらしく親子連れやトレーナー達が俺を見ていた。集中する視線に無視するわけにもいかず、俺はしぶしぶそちらに向かう。赤いヘアバンドに赤いスーツ、ベスト姿の髪を逆立てた大道芸人が器用にボールを回していた。さすがに雨だからかゲートの傍らで客集めをしているらしい。すぐそばに置かれたトランクには、お金やアイテムが投げ込まれ、拍手喝采を浴びていた。テレビの特番でよく見るけど実際に見るのは初めてだ。すげえ、器用だなあ、と感心した俺は、拍手に加わった。見よう見まねでオ―ダイルがまねをする。



すると傍らで客寄せをしていたピエロみたいないでたちのおっさんが、何かの入ったペットボトルを口にすると、ロコンに命じて火の粉を命じる。すると、ぼおうっという音とともに口から火炎放射が発射され、俺達を含めて観客たちが歓声に似た悲鳴を上げた。両手を広げたおっさんに、また拍手があふれる。こええ、熱さがこっちまで伝わってきたぞ、迫力あんなあ。自然と顔がほころんでくる。オ―ダイルは少し暑そうでいやそうな顔をしたが、好奇心をくすぐる面白さに押される形でじわりわりと近づいている。



で。そこでなんでそんな期待に満ちた目で俺を見るんだよ、お前は。なんだ、あれか、俺に火炎放射しろってか。無理に決まってんだろ、無理無理、と手を振ると、残念そうにため息をつかれた。お前の中の俺って何なの、オ―ダイル。あの人たちは特殊な訓練受けてんだよ、真似するなってとテロップのような言葉で諭し、俺はオ―ダイルが他のお客の邪魔をしないようそれとなく腕をひいて牽制する。なんでそこで尻尾振るかな、お前は。



「さあ、ここで最後のメインイベント!」



ジャグラーが、えええ、とブーイングする観客を笑顔で制す。俺が自然公園を探索してる間に終わっちまったらしい。俺が見てたのは最後の方か、残念だな、もうちっと早く来ればよかったかなあ、と考えているとジャグラーの声がひびいた。え、なに?聞き逃した俺は顔をあげると、オ―ダイルが今までになく張り切っている。ざわざわ、とするギャラリーの視線が再び俺に向く。へ?ぽかんとしている俺に、まっすぐ指をさしていたジュグラーが言った。



「毎度おなじみ、飛び入りゲストとのバトル!さあ皆さん、どちらが勝つか応援よろしく!」



はああっ?!一番大きな拍手に包まれて、俺は気が動転して後ずさる。がんばれよ坊主、と後ろからさっき自然公園で倒したポケモン大好きクラブのおっちゃんがにやりと笑った。がんばれー、とピカチュウのきぐるみを着た双子の声援。え、え、え?!突然の事態に混乱する俺をしり目にジュグラーから差し出されたマイクに身構える。



「お名前は?」

「オ、オイラは、ゴールド、だけど」

「なるほど、ゴールド君だね!」



消え入りそうな声をしっかりとマイクに拾われ、きれいにフォローされてしまう。紹介しろと身を乗り出してくるオ―ダイルに、こいつは相棒、と付け足した。ふんふん、とジュグラーは笑うと俺を無理やりステージに押し上げた。ぎゃああああ!なにこの公開処刑!一気に顔が赤くなるのを感じて、俺はひきつった。逃げ出そうとするけどジャグラーは腕を放してくれない。なんで俺なんだよ、勘弁してくれ!



「今回の特別ゲストは相棒のオ―ダイルくんと……」

「あの、オ―ダイル、メス、なんだけど」

「おや、これは失礼。相棒のオ―ダイルちゃんと参戦してくれる、ゴールドクン!ルールは簡単、僕とポケモン勝負をしてほしい。もちろん勝ったらいいものあげるよ、がんばって!」



周りからがんばれ、と飛んでくる応援は、慣れてない俺にはますます委縮させるプレッシャーとしてのしかかる。レフェリー役の火吹き野郎が紅白の旗を持ってきた。マジでこんなところで勝負していいのかよ、と思ったけど、よく見たらギャラリーにさっきのゲートキーパーの兄ちゃんが手を振っていた。仕事しろよ!やる気満々のオ―ダイルに俺はすっかり四面楚歌状態。え、俺なんかした?だーくそ、どうにでもなれ!俺ははあ、とため息をついて、しぶしぶうなずいた。ようやくジャグラーが手を放してくれる。さすりながら距離をとった俺は、ジャグラーを待った。



「じゃあ始めよう。ジャグラー、マイク対ゴールド君。レディー、ファイト!」



マ、マイクうっ?俺は思わず相手を凝視した。マジで?ジャグラーのマイク?相手はビリリダマを繰り出してくる。というよりもジャグラーが回していた3つの球体が、どうやらビリリダマのようだった。お前か、お前かーっ!あの妙に戦闘に入る前のBGMがねちっこいマイクか!こんのストーカー、自重しろーっ!




















「いやあ、ショーを盛り上げてくれてありがとう。突然巻き込んですまなかったね。はい、これはお礼だ、受け取ってくれ」

「おー、ハイパーボールじゃん!ありがとう!」

「いやいや。なかなか楽しいバトルだったよ。相性の悪い水タイプで3連戦はきつかっただろう?マイクのやつ意地悪なことしやがって。注意しとくよ」

「へへ、勝ったからいいよ」



所詮はレベルのごり押しでどうとでもなるしな。レベル2のビリリダマに負けるほど軟弱に育てた覚えはないし。にしてはスパーク覚えてたから、絶対にゲーム通りのレベルじゃないんだろうなあ、とぼんやり考えた。でも今までの補正から考えてマルマインが出てこないだけまだまだ良心的ってもんだ。そう言ってくれると助かると火吹き野郎に肩をたたかれた。



「いつもここでやってんの?」

「いや、俺達は客の集まりそうなところならどこにでも行く流れものだからな。特定の場所はないんだ」

「へええ。じゃあさ、オイラの電話番号教えるから、ポケギア登録してもいい?オイラも旅してるから、近くにいるんならまた見たいなあ」

「ああ、もちろん。なあ、マイク」

「うん、もちろんさ」



ところで、とマイクが笑いかけてきて、俺はぞっとした。傍から見ればこう青年そのものだってのに、なんだろうこの鳥肌。先入観があるせいか、ただ見つめられてるだけだってのになんか変な勘ぐりをしてしまう。なんかこえーんだよな、こいつの言動。会話面白いから電話は消せないんだけど。なんせついさっき解決したはずのロケット団の事件をものの数分でつかんで話題にしてくるようなやつだ、応援してくれるのはありがたいし、ファンだってのはくすぐったいけどさ、いくらなんでもおかしくね?絶対どっかで見てるだろ、お前。



「つながりの洞窟の事件を解決して、ヤドンたちを助けたひとって、もしかして君かい?」

「へ?まあ、確かにそうだけど、なんで知って?(ゲームじゃ俺が話したみたいな雰囲気だったのに、なんで知ってんだこいつは!)」

「ああ、噂があるんだよ。黄色い帽子をかぶった、オ―ダイルを連れた凄腕の少年がいるって話だ。もしかしたら、と思ったんだけど」

「あー、そっか。凄腕かどうかは置いといて、たぶん、オイラだよ(なんという具体的な目撃証言。おっかしいな、ブラックともども事件にかかわったのは伏せてもらってるはずなんだけど。未成年だし実名は出せないはずなんだけどな、ネットか3龍記事にでもネタにされたか?帰ったら調べてみるか)」

「そっかそっか、なるほど。君みたいな強い人は初めて見たよ。道理で、勝てないわけだ。これからも君のこと応援するからさ、ぜひ電話番号教えてほしいな」

「ああ、マイクがいってた噂の少年ってのは、ゴールドのことなのか。なるほど、ははは、じゃあオレ達すげえ奴と知り合ったわけだ」

「あ、ははは(まるでマイクが噂を流したみたいにとれるのは俺の気のせいだよな?だよな?!)」



俺達は電話番号を交換した。早速ポケギアに登録する。



「ありがとう。これから、なにかあるたびに君に電話したり、何もしなくても君に電話したりするから、よろしくね。ぜひ気軽に君の武勇伝を聞かせてくれ」

「おいおい、マイク、なんか怖いぞそれ」

「うん?そうかな?」

「あはは」



無自覚ストーカーって怖え。



















ふあああ、とあくびをしながら、涙をぬぐう。伸びをするついでにみた時計は、9時を回ったところだ。風呂に入って着替えて髪を乾かして戻ってきただけなんだけど、5体も同行者がいるとそれはそれでつかれちまう。



よっこらせ、ともう慣れてしまった手順で布団を敷いていく。押入れから引き出してきたシーツを敷布団と掛け布団にはさみ込んでひき、縦に並べる。ヨルノズクに枕のカバーを持ってきてもらい、おーい、ライチュ、といいかけて振り返ると、押入れに上って、ぼふぼふ、と遊んでいるライチュウがいた。あの野郎、やめろっつってんのにまた。ゴローニャが引っぺがそうとするものの、あ、あの野郎、突っ込みやがった。あああ、蒲団の壁が崩れちまった。ライチュウはどんどん奥にもぐってしまう。でも長すぎるしっぽは隠しきれず、そこをつかまれて広げたばかりの布団までぶん投げられたライチュウはべし、とつぶれていた。ゴローニャがどすどすどす、と容赦なく枕を上に落としてくる。自業自得だぜ、お前。はあ、とため息をついて俺はまたすっかり日課になってしまった説教をする。ゴローニャにいつもわりいね、と笑うと、あいかわらず無愛想なやつはうなずいて作業に戻ってしまう。ぶーたれるライチュウに、枕にカバーをかぶせろと見本を手渡すとしぶしぶ作り始める。オ―ダイルが崩れ落ちてきた蒲団のなだれに巻き込まれたバルキーを救出して、崩れた布団から一度に4人分持ってくる。よろしくな、と指示を出しつつ、俺は布団を戻そうと押入れに向かった。ヨルノズクに頼んで手の届かない戸をあけてもらって、ひもを出してもらう。あーあ、つかわねえ布団までぐちゃぐちゃにしやがって。ため息をついて、とりあえず布団の山をまとめる。一枚一枚広げてはたたむ。決まったたたみ方がされているから、もしここをひきはらう時に管理人の兄ちゃんからアウト食らうのは面倒だしな。俺は腕をまくった。お、バルキーちょうどいいとこに来た、手伝ってくれ。




もうすっかり規則正しい生活リズムが染み付いてしまった体は、9時30分を過ぎるともううつらうつらし始めてしまう。となり部屋からはおそらく友人同士でお泊まり会状態になっている虫取り少年か短パン小僧あたりがまくら投げしているらしく、どすんどすん壁越しに聞こえる。ついでにはしゃぐ声も。ばかだな、そのうちキャンプボーイあたりが殴り込んでくるぞ。壁をにらむと、うるさい静かにしろ、と壁越しにもよく響く、もっと年上らしいトレーナーの声がした。あーあ、ばっかでえ。扉を開けて廊下に立てば、他の部屋から光が洩れているだろう。今時こんな時間帯に寝る奴なんて、小学生だって低学年までだろう。フレンドリーショップの新聞を立ち読みしたときの記憶が正しければ、見れば面白そうな番組があるのはわかってんだけど、どうも我慢できない。どうせまた10分もすれば騒ぎ出すのは知ってるけど、あいにく一人暮らししてたマンションは高速のすぐ横でずーっと車の騒音が絶えなかった環境ゆえに安いところだったんだ、平気で寝れてた俺には何の問題もない。好き勝手やってたポケモンたちに呼びかける。気が向いたら遊んでやるんだけど、今日はどうもつかれてるらしい。



「え?まくら投げ?あー、オイラパス」



遊び足りないメンツから不満が上がるが無視した。どのみちこの宿泊施設は消灯が10時と決まっているから、30分しか変わらねえ。基本的に先着順だから、俺はド真ん中の布団を占領した。枕元にリュックと洗濯乾燥し終わった服を置いといて、帽子をかぶせる。こっそり一番柔らかい毛布を仕込んだところだ、悪く思うなよ。消灯はしないで、俺は胡坐をかいた。一応、新メンバーもいることだし、一度話しとくかと俺はみんなを呼んだ。わらわらと集まられるとなかなか暑苦しいメンツだ。ま、これがベストメンバーなわけだけども。増えるとしたらあと一体かな。



珍しく俺の膝の上に乗っかるライチュウを邪魔しなかったオ―ダイルが、となりを陣取る。ライチュウをなでながら、俺は言った。



「バルキー以外は、次の街でライチュウとはお別れなのは知ってるだろ?」



ある程度予想がついていたのか、うなずくメンバー。え、と虚をつかれた様子で俺を見てくるバルキーに説明することにする。こいつからすれば、メンバー加入の初日からいきなり別れの話だから驚くのも無理ないけどな。時期が時期だ。仕方ない。



「もともとこいつは、ずーっと未来にオイラ達があうはずのポケモンなんだ。タイムマシンの事故で、キキョウジムっていう最初のジム戦のときに誤送されてきちまったんだな。マサキっていう人に渡せば、未来のオイラに返してくれるんだけど、あのひと忙しくてなかなか会えないから、次の街、エンジュシティまで連れてきてくれっていう約束だったんだ」



ライチュウが俺の元から離れて、すっかり意気消沈して残念そうにしているバルキーのところに向かう。わらわらとみんな集まっていく。傍から見ればなんかシュールな光景だ。。なんせみんな最終形態ばっかだし、バルキーだけまだ初期ポケモンだ。レベル差もおおきい。まあ微笑ましいのは違いないんだけども。俺はこっそりライチュウのモンスターボールをひらく。刻まれたデータをもう一回確認する。ポケモンをいつ、どこで、何レベルの時に捕獲したかを記す項目には、あしたの日付に卵を受け取り、けっこうな時間を経て孵化したと記されている。ずっと未来なんだろうと思っていたけれど、案外近いもんだった。そりゃそうだよな、3日ぶっつづけでやればクリアできるとはいえ、実際に旅するのはあまりにも勝手が違う。ポケモンたちの鳴き声が飛び交うがさっぱり理解できない俺は蚊帳の外。みんなが落ち着くのを待って、俺はぱんぱん、と手をたたいた。ハイちゅーもく。



「アカネとは育て屋さんで、昼の2時頃落ち合う約束だから、明日どっか喰いに行こうぜ。賞金もたまったし、お別れ会ってわけじゃねーけど、ライチュウを笑顔で送り出せるようにさ、ぱーってしようぜ」



ライチュウが飛び込んできて、俺は受け止めきれずに布団に沈んだ

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