第20話

「カポエラー、いっけえ!とびひざげりィ!」



あたれあたれあたれ、外すなよ!心の中で必死に祈りながら見守る。何度も思うけど、それ回し蹴りだろ、飛びひざ蹴りじゃねえ!カポエラーの強烈な一撃がジュゴンにジャストミート。見事に俺の期待に答えてくれた。よっしゃあ!とガッツポーズした俺は、うれしそうに振り返ったカポエラーに手を差し出す。少しかがんで、ハイタッチ。お疲れさん、とねぎらってモンスターボールに戻した。あっぶねえ、初手でナッシー大爆発で先発の2匹ごと吹っ飛ばされたときには、どうなるかと思ったけど、タイプに恵まれたな、セーフセーフ。ほう、と息を吐き、判定を待った。



「今、勝負が決しました。おめでとう!Aブロックの代表は、炎のファイター、ゴールドくん!」



ばっと俺のほうに手を振り上げて、おめでとーっとクルミちゃんが高らかに宣言する。はあ、と息を吐き、俺はすぐにバトルフィールドの階段を下りると、回復役のスタッフの兄ちゃんにモンスターボールを渡す。



「決勝進出決定したのは、炎のファイター、ゴールド君!さあ、彼の相手は誰になるのか、次はいよいよ準決勝Bブロックです!」



待ち時間が指定されてる。俺が対戦相手のポケモンと技を事前に分かってしまうと相対的に不利になちまうからな、仕方ないか。スタッフの兄ちゃんにパンフレット片手に説明を受けて、俺は待合室に行くため廊下に出る。





次第に歓声が遠くなっていく。ぱたん、と扉を閉めると静寂がおちた。かたん、と俺は背を預ける。はああ、と息を吐いて、ずるずる、とそのまましゃがみ込んだ。



「くくく、決勝進出、おめっとさん!な、ほのおのファイターくん!」

「うげっ、アカネ!」



顔をあげると、にやにやしながらのぞき込んでくるアカネがいた。ほのおのファイターなー、と強調してくる。ぎゃーす、体が火照る。つかばれてやがる!ほのおの、と何度も繰り返すアカネに、うわああああ、と俺は耳をふさいだ。勘弁してくれよ。誰が悲しくて勝手に格ゲーの煽り文みたいな二つ名付けられた挙句、大衆の面前で何度も何度も連呼されなきゃなんねーんだ!羞恥プレイにも程があるっての!戦闘が始まっちまえば、もう戦闘に集中するしかなくなるから、周りは一切気にならなくなる。なれってのはこわいな、3回も同じ場所で戦闘をくりかせば、いやでも周囲の圧倒的な観客の歓声や存在感にのまれてばかりもいられなくなる。でも駄目だ、これだけは駄目だ。いくら勝利の余韻に浸れたって、クルミちゃんの声で一気に現実に引き戻されちまう。はた、と自分の状況に冷静になっちまう。人間××年やってっけど、あいにくこんな中二病ちっくな呼び名なんてつけられた覚えねえよ、どうやって慣れろと?あばばばば、とドアに張り付く俺に、アカネが声をあげて笑った。ひでえ。



「まさか初出場でホンマに決勝行ってまうとは思わんかったわあ、まったく、運だけはええやっちゃなあ」

「運も実力のうちっていうだろ?実力、実力」

「戦闘が終わるや否や、クルミちゃんのインタビューもかわして颯爽と立ち去るくせに、何を今さら恥ずかしがっとんやか」

「へ?インタビュー?そんなんあんのか?」

「あっはっは、なんで気付かんのよ、ゴールド!待機中、他の人らの勝負みたんやろ?一試合一試合大事いな勝負やんか、クルミちゃんのインタビュー目当ての参加者も多いってのに、なにいっとん!」



あーもーだめ、おもしろすぎるわ、ゴールド、あんた最高!と腹抱えて笑い始めたアカネは、ひいひい言いながら笑死寸前まで追い込まれている。椅子の背にのかかる体制で座っているため、ばしばし、と椅子の背がたたかれて悲鳴を上げた。だーもー!と俺は改めて思い出してしまい、頭を抱えた。ってことはあれか、俺なんかかっこつけてる痛いやつとでも思われてんのかよ、勘弁してくれ!どのみちインタビューなんか無理だけど。



はあ、とため息をついた。










「そろそろ決勝の相手が決まったころやな。ゴールドは出たらあかんのやろ?手持ちばらしたらあかんけど、顔みてくるくらいならいいっておっちゃんいっとったし、見てきたるわ」

「おう、よろしくな。さーて、どんな相手かなっと」



かちゃ、とドアを開けたアカネは、うわ、と声を上げたので、俺はどーした?と身を乗り出す。何やらばたばた騒がしいことに気づいて、俺はそっちに向かった。ひょい、と顔を出す。あ、育て屋のおっさんたちまで。



「道をあけてくれ!」

「急いでポケモンセンターに転送するんだ!」

「何を考えているんだ、あのトレーナーは!」

「ひどいっ、なにもここまでしなくてもっ」



傷だらけのポケモンが担架に乗せられて運ばれていく。傍らではパーティを組んでいたらしいトレーナーとポケモンたち、運搬を手伝う大人たちがあわただしく過ぎていく。なんやなんや、騒々しいなあ、と見送ったアカネがぱたぱた、と走ってくるスタッフを捕まえて事情を聞いた。



「黒い服を着た少年が、もう戦えないポケモンに追撃させて大けがさせちゃったんです!」

「……ゴールド」

「またお前か」



頭をよぎった赤毛に俺はため息をついた。焼けた塔まで出てこないんじゃないのかよ、お前は。あ、サミット会場になってんだっけ?じゃあそこまで。エンカウント率高すぎるだろ、いくらなんでも。バッジの数だけあってる気がするぜ、あはは。はあ。部屋に引っ込むと、アカネが憤りをあらわにして乱暴に扉を閉めた。なんにせよ、案外早い対面になったな、ラッキー。



「ちょっとかっちょええなあ、とは思っとったのになあ、ええのは顔だけか。性格ひん曲がっとるやんか、ひどいやつ」

「アカネ、一回戦ってんだろ?気付かなかったのか?あいつ、あんな奴だぜ?」

「んー、実はな、最初っからミルタンクの転がる無双やったもんで、ぶっちゃけ戦い方見るまでもなかったんやってー、あはは」

「うわああ。だからベイリーフを捨てるなとあれだけ」

「ええっ、まじでこの子の親ってブラックなん?!ゴールド、正気い?なんで返すんよ」

「オイラだってすっげえ欲しいっての。でもベイリーフがついてくのはあいつだけだって、結局最後まで振られちまってさ。こっちにもいろいろ事情があんだよ」

「ううっ、なんて健気な子なんや」

「っつーわけでさ、アカネ。ボール返してくれよ。たぶんあいつのことだから、用がおわりゃさっさとどっか行っちまうだろうし、追っかけないと」

「ん。じゃあ、おっちゃんに話通しといたげるわ、ちょっと待っとき?スタッフの誰かに預かってもらって、すぐに準備できるよう荷物もろとも預かってもらえばええわ」

「さんきゅー」



ひらひら、と俺は手を振った。





















「さあ、今大会もいよいよ決勝戦!Aブロック代表、炎のファイター、ゴールドくん!対するBブロック代表は、暗黒の貴公子、ブラック君!」



ぶはっと吹いてしまった俺は、あわてて手の甲で抑えるけど笑い声が抑えきれない。んは、は、は、はっ、と肩を震わせながらこみあげてくる衝動を必死こいて我慢するけど、やっぱり無理だ。クルミちゃんのアナウンスとともに澄まし顔で入場してきたイケメンは、破壊力がありすぎた。や、やべえ、呼吸出来ねえ、なんつー拷問だ、勘弁してくれ、頼むから不審そうな顔でこっちみんな!笑い死にさせる気かよ!うずくまった俺は、にやつく顔を隠すため俯いた。も、もう負けでいいや、勝てる気がしねえっ!勇者だ、勇者がいる!俺なんかよりよっぽどすさまじい二つ名をつけられちまったのに、むしろ平然と受け入れてやがる豪者がいる!ひいひい言いながら、ここがフィールドのド真ん中であることも忘れて、俺はすっかり動けなくなってしまった。あ、暗黒のき、貴公子っ!だめだ、今ブラックの顔見たら、二度とまともに顔みられなくなっちまう!だ、大丈夫かい?と審判のおっさんが声をかけてくるので、必死にうなずいた。棄権はまずい、さすがにまずい、でも、っく!深呼吸しながら、俺は必死でにやける顔を押さえた。こつこつこつ、と近づいてくる足音、やべえまずい!俺は立ち上がった。



フーディン、ニューラ、マグマラシをひきつれて、ブラックが疑心の凝り固まったような顔をしていた。



「ふん、怖気づいたか?」



き、気付いてねえ!ぶり返しそうになった発作に、とっさにせき込むことでごまかした俺は、ようやく落ち着いてきた。はー、あー、苦しかった。涙をぬぐう。



「暇つぶしに参加してみたが、所詮ゲームと実戦は違うか。まるでガキの遊びだな、お前なんかが勝ち上がってくるのが何よりの証拠だ!」



おーっといきなりの言い合いか?と茶々が入る。ああ、ブラックがわざわざこっちまで挑発しに来てるから、聞こえねえのか。つか、心理フェイズもカウントに入んの?それどこの遊戯王?



「へっへーん、暇つぶし?何言ってんだよ、そっちこそレベル上げしなくてもいいのか?格闘タイプ居ないみたいだけど、大丈夫なのかよ?」

「……なんの話だ」

「まーた、岩弱点のやつばっかじゃねーか」

「…………なんで知ってる」

「オイラは、ウバメの森でもう貰っちゃったもんね。やーっと追い越せたな。アカネから聞いたゼ?後悔してんじゃねーの?ベイリーフ」

「うるさい。それとこれとは何の関係もねえだろう。ふん、一度ならず二度までも僕に楯ついた報いだ、今度こそやっつけてやる」



公衆の面前だからか、珍しく僕口調のブラックは、台詞の割にひどく声を荒げている。自分の立ち位置に戻っていく。うし、やっぱり想像通りベイリーフに戦力外通知を出したこと、後悔してるみたいだな。なんとかうまくいきそうだ。とりあえずこの戦闘を終わらせないといけねえけど。



「頼むぜ、カポエラーにモココ。フーディンだけは何としても、な」



ブラックはフーディンとニューラを先発させる気らしい。



「では、始めましょう!レディー、ファイト!」


















「フーディン、守れ!」

「へへ、それくらい読めらあ!カポエラー、ニューラに猫だまし!モココは電磁波だ!」

「くっ、不発か。フーディン、アンコールで目障りなカポエラーをしばりつけろ!」

「げえっ、アンコもちって技よすぎるだろ!くっそ、モココ、フーディンに嫌な音!もどれ、カポエラー!」

「ニューラ、モココをきりさくでしとめろ!」

「きゅうしょとか勘弁してくれよ!だーくそ、まさかレンズでも持ってんのか?うぜええ!」



モココをボールに戻す。こっちはカポエラーとヌオー。向こうはアッタッカー性能がガタ落ちしたニューラとフーディン、ひかえにマグマラシが残ってやがる。フーディンさえなんとかできりゃ、こっちのもんなんだけど。



「降参するなら今のうちだぞ?ただし、お前がトレーナーをやめると宣言すれば、の話だがな」

「ばーか、誰がいうもんか。相性の不利を補って戦うのも、トレーナーの実力だろ?カポエラー、不意打ちだ!」

「ふん、ここで倒れるほどやわなわけないだろう。フーディン、サイコキネンシスでたたきのめせ!」

「ああっ、カポエラー!」

「………っ、なにっ?!」

「なーんちゃって、残念でした。とくぼう110なめんなよ!HPの低さが足を引っ張るけど、とくぼう振りと半減の実さえありゃ一発は余裕で耐えられるんだよ!ヌオー、岩なだれだ!」

「ちいっ。もどれ、フーディン。ニューラ、つばめがえし!」



マグマラシが現れる。威嚇が効いてるな、ぎりぎりだけどカポエラーは耐えきった。



「カポエラー、不意打ち!」

「何度も同じ手を食うか!マグマラシ、鬼火だ」

「げっ、やけど!耐えられない、か。ごめんなカポエラー。ヌオー、がんばれ!岩なだれ!って外れるなよーっ」

「ニューラ、つじぎり!」



しばらく、到着状態が続く。いかくで威力が下がっているニューラとタイプ技半減のマグマラシの猛攻。岩なだれの命中率がひどすぎて困る。ダブルのせいで威力が3分の2の上に、やけどをからめられて、アタッカー能力は地に落ちた。そのうち、猛火が発動しちまってやばい。これでどっちにも当たらなかったら負けちまう!頑張れ!



「これで終わりにしようぜ、ヌオー!岩なだれ!」



あたれあたれあたれっと今までになく祈った。岩石があたりに散らばってフィールドが狭くなりつつある。あ、くそ、これじゃあどっちに当たったか見えねえじゃねーか!岩のカーテンの後、疲弊しているヌオーが構える。



「ニューラ、つじぎりだ!」



あああああっ!思わず叫ぶ。最後の最後でまた急所かよ!ってことはマグマラシには当たったけど、ニューラは外れたってことか?まひの意味ねえ!これだからいわなだれは!力尽きたヌオーをボールに戻す。あーくっそ、あとちょっとだったのに!これで一敗二分けかあ。はあ、とため息をついた俺は、ふと周りがざわいついいることに気付く。あれ?なんで野次なんて飛ばしてんだ?周りの人たち。しかたねーじゃねえかよ、はずれははずれだって。運ゲーで悪かったな!



「よくやった、ニューラ。どんな手段を使ってでも勝つ。お前の戦いは、俺の戦い方に通じる美学がある。こい、ニューラ、今日からお前は俺のポケモンだ」



何言ってんだ、お前。そこはフーディンだろ!なんでよりによってニューラもってくんだよ、ブラック!俺はわけが分からず困惑した。なんてこった、タンバシティのポケモンマニアからポケモンを強奪するんだから、そうすればベイリーフを返す必要もなくなるかなーなんて考えてたのに!だーくそ、めんどくせえ。何やらゴミまで投げ始める態度の悪い観客たちがいて、気分が悪くなってくる。いいじゃねーか、ポケモンバトルはショーじゃないんだよ。いちいち文句付けんな。ブラックがニューラを連れて出て行ってしまう。あ、やべ、いそがねーと!俺はあわてて階段を駆け降りるとスタッフのお姉さんに声をかけて荷物をまとめると、ブラックを追いかけた。


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