第19話

アカネ曰く、このレンタルポケモンの大会は、育て屋の若夫婦とゲームセンターのオーナーが共同で開催しているとのこと。育て屋で預かっているポケモンを自由に戦わせることで、効率的にレベルを上げることができるし、ゲームセンターとしても十分な宣伝材料になるらしい。誰でも普段は使えないポケモンを自由に使うことができるとあって、ハネッコとヒマナッツの看板が目印のそこをくぐると、いろんなトレーナー達でごった返している。



確かにそうだけど、一応人様から預かってるポケモンを他人に使わせるってどうなのって話だが、預ける時点でトレーナーはどういった理由でポケモンを預けるのか選べるらしい。そのうちレベル上げを希望する人は、あらかじめ説明を受けてから預けるらしい。そりゃそうか、俺の場合孵化作業でしか利用したことないけど、レベルを上げる手間が惜しいって人にとっては歩数を稼ぐ方法よりか、ずっと効率がいいもんな。なるほど、うまいこと考えたなあ。


もちろんレベルの格差が出ないように、予めフラットルールが適用できるバトルフロンティアでおなじみの「おや」の部分が表示されない、強制的にレベルが35で統一されるボールを使ってるみたいだ。これでだれでもポケモンを使えるってわけだ、すっげえ。その割に経験値はたまるっておいしすぎるだろ、なんだそれ。ルールは3体固定のトーナメント式で、途中で交換はなし。対戦方法は、ダブルバトル。そのかわり6匹から、なんてルールはなくて最初から自分で選べるらしい。え、楽勝じゃね?しかも優勝したらそのポケモンもらえるとか、こっちはありがたいけどいいのかよ、って話をしたら、アカネが笑って何のための全国展開よ、それくらい同じ条件のポケモンは育ててあるって。さすがに借りもんのポケモンをあげるわけにはいかんやんか、と笑った。ですよねー。




感心しきりの俺をしり目に、おーい、おっちゃーん、久しぶりやね!とアカネが手を振る。振り向くと、仲良くネイティのエプロンをつけた、見るからにブリーダーらしき若夫婦が、こちらに歩いてくる。こんにちはー!と俺とオ―ダイルは威勢のいい挨拶をかます。こんにちは、と黒い髪を後ろでくくった愛想のいいおっさんが返してくれた。



「いらっしゃい、アカネちゃん!と、新顔だね、ボウヤ」

「新婚さんでもないのに年中あっついんやで?この夫婦!」

「やだ、アカネちゃんったら。ほめたって何も出ないわよ」



やーねえ、と抱きしめていたヒトカゲをきつく抱きしめるおばさん。苦しそうに悲鳴を上げたヒトカゲが炎を噴き出して、隣のおっちゃんのバンダナを焼いている。うわ、あっちい!こら、苦しがってるじゃないか!とおっさんがとがめて、おばさんがおほほと笑う。ごほん、と気を取り直して、おっさんが笑った。



「オイラ、ゴールドってんだ、よろしく!優勝したらチームン中から一匹もらえるってアカネに聞いたんだけど、まじ?どんなポケモンでもいいの?」

「もちろん。優勝者にはプレゼントするよ。健闘賞、まあいわゆる準優勝もあるからがんばってね」

「おおー、おっしゃあ、がんばっぞ!」

「ん?待って、ゴールド、って言ったわよね、君。もしかして、ポケモン爺さんが卵を預けたって言うトレーナー、もしかして君のこと?」

「そ、そうだけど、なに?」



深々と古傷をえぐられて、俺は思わず言葉を失う。くっそおおおお、思い出さないようにしてたのに、なんという不意打ち!あら、とかこれはたまげた、とか顔見合さないでくれよ二人とも。アカネも、へーそうなん?すごいやんか、なんてのんきに言わないでくれよ、本当ならへっへーって笑ってられるところだってのに!ウツギ博士がクリスタルって女の子にトゲピーの卵預けちまったせいで、ホウオウかルギアかは知らねえけど、舞妓さんに会えるフラグと壮大な出現イベント丸ごとたたき折られちまったんだよ、ちくしょう!うわあん、とオ―ダイルに泣きついた俺に、どないしたん?とアカネが疑問符を浮かべた。ウバメの森で舞妓はんに会わなかったってだけでも地味にダメージだったってのに、なんでこんなところで追撃くらわなきゃなんねーんだ。神様俺のこと嫌いだろ、といじけている俺をしり目に若夫婦が話を進める。なにいじけとんよ、しゃきっとし、と引っぺがされて、俺はしぶしぶ目もとを乱暴に拭った。



「ぼうやがポケモン爺さんにおつかいを頼まれたトレーナーだったとはね。話は聞いているよ?フリーザーに気に入られるなんて、さすがじゃないか」

「へへ、やっぱわかる?ってかポケモン爺さんなんで知ってんだろう?あんときいなかったような」

「ああ、オーキド博士から聞いたと言っていたよ」

「あー、なるほど」



ゴールド君にもなかなかの期待ができそうだね、とおっさんたちが笑う。きっと会う奴会う奴に同じこと言ってんだろうなあ、商売上手め。言われて悪い気はしないし、むしろもっと褒めろって話だけどな。ども、とここは素直に笑っとく事にしよう。オ―ダイルがハヤトとの死闘を思い出したのか若干いやそうな顔をした。あーそっか、あんときお前戦闘不能の瀕死状態になっちまったんだっけ。ごめんな、と謝るともげるんじゃないかってくらい首を振られる。あれ?違うのか?と聞くと今度は沈黙してしまった。変なやつ。ま、とにかく、さすがはフラグが折れても主人公補正は健在ってところかな。今さらだけど主要人物とのエンカウント率高すぎるしな。普通ジムリーダーと一緒に行動なんて出来るもんじゃないし。うんうんうなずいていると、えええっととなりで声が上がる。



「フリーザー?なんよそれ、聞いてないで、ゴールド!ずるいわあ、うちかって今まで一度もハヤトに見せてもらったことないのに!」

「まあ、ライチュウのおかげだし、あんときつぶて喰らってたら負けてたんだけどな。まぐれだよ、まぐれ。へっへー、オイラに勝ったら見せてもらえんじゃね?」

「うぐっ。自爆でなんとか五分にもってたやつに言われたかないわあ」

「せっかく眠らせたってのに、わざわざ指を振るで「さわぐ」出すなんて壮大な自演したアカネにはさすがに負けるなあ」

「うううっ!なんでこんなトレーナーのパートナーなんかしとんの?オ―ダイル」

「こら!勝手にオイラのポケモンナンパすんな!」



困ってるじゃねーか!と俺は合間に入る。これからボックスじゃなくて、わざわざアカネにライチュウたち預けてやるってのに、なんだよ油断も隙もありゃしねえ。あはは、とおっさんたちが笑う。冗談やって、とオ―ダイルに隠れたままアカネが笑う。やれやれ。俺はとりあえずボールを全部アカネに預けることにした。いつまでもチンたらしてるわけにはいかないしな。時計を見ると、まだ時間に余裕があるとはいえ、3体選ばなきゃなんないわけだから、そろそろいかねーと。オ―ダイルに、行ってくるな、と別れを告げて俺はおばさんについていく。



「がんばれやあ、ゴールド!」

「言われなくてもわかってら!」



やがて通路を曲がってみんな見えなくなってしまった。










「トーナメントの出場登録はここね。やっぱり、あくまでも預かってるポケモンたちが選択肢なわけだから、もしかしたらゴールド君のほしいポケモンはいないかもしれないわ。それはあらかじめ了承してね」

「え、じゃあ、もしかしてヘラクロスって、いなかったりする?」

「あらら、ヘラクロスがほしかったの?ごめんね、前回の大会でもらわれて行っちゃったから、いないのよ」

「あっちゃー、ついてねーや。ま、いっか。格闘タイプがほしいんだし、一匹選ばせてもらおうかな」



さっそくパソコンにトレーナーカードをくみこませて、データ登録。そしてパソコンで表示されるポケモンたちを見比べる。もらえるんなら、やっぱりほしいポケモンで固めた方がいいよなあ、うーむ、どいつにしようか迷うなあ。タイプが偏っちゃ決勝までいけないし、うーむ。パソコンとにらめっこする。さすがに35レベルの制限がつくせいか、バトルフロンティアおなじみのガブリアスとかミロカロスとかそういうレベルのポケモンたちは軒並み除外されてる。そもそもそんな奴預けるわけねえよな、育て屋さんに、しかもレベル上げ依頼で。たまにギャラドスクラスのやつもいるけど、技が貧弱すぎる。性格や個性はこの際よっぽどひどくなければ目をつぶるとして、せめて技くらいはまともじゃないと優勝してもいらねえなあ。



格闘タイプの項目は、エビワラー、サワムラー、カポエラーの三種類だけしかいない。やっぱりアカネ効果がこんなところにまで来てやがる。しかし、こうも都合よく三体そろうか?絶対誰か同じ人がまとめて預けてるだろ、これ。おばさんに聞いてみるけど、さすがに親までは教えてくれない。お、技は結構いいのそろってんじゃん。そっか、卵から育ててんな、これ。うーん、どうせなら今まで使ったことない奴にしてみるか。せっかくだし。





カポエラーに決めた。こいつはほしいなあ。カポエラーの弱点は、飛行、エスパー、か。電気、岩、氷、虫、悪、うーん。こいつの技構成となると、電気電気、お、モココいるじゃん。げ、でも電気ショックだけかよ!んーでも、けっこう嫌がらせできるから、ありっちゃー、ありか?じゃあ、あとは、んー、ヌオーでいっか。でもいわなだれだけかよ!





エントリー完了。最初から相手の手持ちがわかってる状態って、結構面白いルールだ。
がんばってね、とおばさんの声を背に、俺は早速奥に向かうことにした。開始時刻は30分後だ。





さーて、そろそろいくか。







ん?でも結構でっかいな、客でもいるのか?






いくらなんでもここまで響いてくるなんておかしくね?






「え、ここホントにゲームセンター?」



うっそだあ。俺はもう笑いしか出てこない。俺の眼下に広がるバトルフィールドと周囲四方を囲む観客席は、満員御礼。一階と二階に区分けされている大会会場の天井には、二階席むけにテレビによる4カメラほどの生中継がある。どっと沸き立つ歓声。審判が2名いて、しかも聞き覚えのあるアナウンサーの声が聞こえてくる。あれ、DJのクルミちゃん?え、まじか。どんだけでっかいイベントなんだよ!やべえ、緊張してきた!手に嫌な汗をかいてしまい、あわてて拭う。てっきりバトルフロンティアみたく一対一の静かなバトル会場だと思ってたのに、なんだこれ。あまりにも落差がありすぎて、俺はそのまま硬直してしまう。場所を間違えちまったのか、と振り返ってみても、今まで通ってきた通路があるだけだ。



バトルフィールドでは、ちょうど最初の組み合わせであるトレーナー達が戦っている。えーっと、ドンファンとレディバ対リングマとデンリュウ?なかなか面白そうな組み合わせだなあ。ゆっくりと選手用のスロープを下りて行きながら試合経過を見守る。そうだ、えっと、モンスターボールの順番はこれでオッケーか。せわしなくキョロキョロしながら、降りていく。あーあーあーどうしよう、すっげー緊張してる。ぶっちゃけこんなでっかい会場で戦うの初めてなんだけど。大丈夫かなあ、俺。深呼吸しながら、ゆっくり下りていく。はー落ち着け、俺。目を閉じて、笑顔だけ先に作る。負けたら負けたで仕方ねーだろ、運が悪かったってことで。格闘タイプの入手が遅れるだけだしな。階段を降り切ると、ゴールド君ですね、とスタッフに呼び止められる。選手席に案内される。んーアカネどこら辺かな、と見渡すがさっぱりわからない。ふわふわしたまま、俺はいすに座って出番を待った。



















「さー、次のブロック対戦は、塾帰りのタツヤくんと新人トレーナーのゴールドくんの一戦です!実況は引き続き、DJのクルミがお送りしまーす!」



俺が階段を上っていくと、昨日収録現場を見学したばかりのクルミちゃんが、盛り上がっていきましょー!と全力で仕事している。おー、すっげえ。ぱち、とライトが双方に下ろされて眩しいので、俺は反射的に腕で顔を覆って目を細めた。歓声がひときわ大きくなる。天井のモニターの音が変わったので見上げて、俺は顔が引きつった。ぎゃああああ!なんで勝手に俺のトレーナーカードに使われてる顔写真がどアップで写されてんだよ、おかしいだろ!あのスキャンはそのためかよ、恥ずかしいにもほどがあんだろうが!何だよこの公開処刑!聞いてねえぞ、アカネ!薄れてきていた羞恥心のせいでろくに集中できない。あわわ、と心の中でテンパリながらも、必死で取り繕う。さいわい相手は気付いてないようだった。あがり症じゃなくったってどぎついにもほどがある。



「さあ、両者、選んだポケモンは?」



俺はヌオー、カポエラ、モココを繰り出す。タツヤってやつはマリルにノコッチ、ヤンヤンマを繰り出してくる。なにそのまったく統一感のない組み合わせ。あ、ラッキー、いけそう。緊張しきっていた俺は、すとん、と落ちてくるのを感じた。ラッキー、初戦でいいくじ引いた!タツヤってやつには悪いけど、いける!バトルタワーの一週目みたいな感じだな。ようやく落ち着きが取り戻せてきて安心する。さ、勝てる勝負は勝たせてもらおうじゃねーか。



「なんと、タツヤ君はレアなポケモンを選んできたー!」



あ、そういう縛り?いや別にヤンヤンマは自然公園前の草むらに結構いるんじゃねーか?ノコッチは暗闇の洞窟オンリーだから珍しいだろうけど。マリルはどうだっけ?あれ?もしかして金銀クリスタル基準なのか?このレアさって。ちょっと気になってみる。



「対するゴールドは……」



いやなんで呼び捨て?なんでタツヤはクン付で、俺呼び捨て?別に長ったらしい名前じゃねーだろうに。ちょっといらっとした。



「バランス重視の安定感あるパーティを選んできた!これは面白い勝負になりそうです!」



あー、どうしよう相手のポケモンが何してくるか、逆に全くわかんねえ。やるしか、ないけどな。俺は早速カポエラを下がらせる。タツヤはマリルを下がらせた。










「準備はいいですか?では、レディー、ファイっ!」


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