第15話

つづきはこちら
「ウバメの森には、神様がいるからね、悪いことはしちゃいけないよ」

「へええ、神様かあ」

「そうだよ。ウバメの森は、古来から自然崇拝の聖地でね。ずっと昔から神様を祭った祠へいろんな街から続く参道があるから、迷わないよう気をつけてね。これはサービスだよ、はい」

「地図なんて貰えるんだ!ありがとう」

「あれ、知らないのかい?おとといから、ウバメの森一帯が、世界文化遺産に登録されることが決まったってニュースでやってるんだけどなあ」

「ええっ、それホント?!知らなかった!えっと、オイラ、ガンテツさんのところに泊ってたんだ。テレビないし、作業の邪魔になるからラジオは遠慮してたし、あはは。そっか、そうなんだ、すっげー!」

「うん、その関係で、地図を無料で配ることになったんだ。運がいいね、君」

「へええ。じゃあさ、そのー、ついでにお願いがあるんだ。オイラ、コガネシティに抜けたいんだけど、どこを通ればいいか教えて!」

「いいよ、うーんと、コガネシティだっけ?じゃあペンでなぞってあげようか、地図かしてくれるかい?そうそう、参道の終点地がこちら側だから、ウバメの祠はすこし歩くけど近いよ。もしよかったら、参拝していったらどうだい?地図があってもやっぱり道中は不安だろうし、もしかしたら神様が守ってくれるかもしれないよ?」



お礼を言うと、ゲートキーパーの兄ちゃんは、気をつけてね、と手を振ってくれた。一歩外を出ると、ひんやり、と肌寒さを感じた。虫よけスプレーを使った俺は、隅の方に設置されてるゴミ箱に放り込んだ。



祠っていやあ、鳥居がない神社だろ?神社も参道も丸ごと敷地内が世界文化遺産に登録されるってなーんかどっかで聞いたことがありそうなニュースだなあ、なんだっけ?うーん、と考えてみるものの、てんで疎い俺は思い出すことができないので、そのうち諦めた。



さすがはセレビィが祭られてる森だ、どことなく神秘的な雰囲気がそこには広がってる。日中でも生い茂った木々に阻まれて、わずかな木漏れ日が点在するくらいで、ほとんど薄暗い森が続いている。山じゃないから、起伏はたまにあるみたいだけど基本的にはずっと平地だ。兄ちゃんのいう通り、参拝客がいるためか人の手が入っているあたり、やっぱり放置されて荒れ放題の山林とはえらい違いだ。舗装された整備済みの道じゃないけど、人の行き来がうかがえるか細い道がずっと続いていて、雑草が生い茂っているわけでもないから、定期的に近隣の住人達が手入れしているんだろう。墨職人たちはここの森の木を使ってるはずだし、ひとつ9800円もするんなら、さぞこの森の木々は上質なんだろうなあ、と思った。こんなに湿気があるなら、きのことかの換金アイテムも生えていそうだけど、探してたらそれこそ迷いそうだなあ。仕方ない、今回はスルー決定っと。天国と地獄をうろ覚えで歌いながら、地図を広げた俺は、指でなぞる。



「なあ、アリゲイツ。せっかくだし参拝してくか?」



こくり、とうなずいたアリゲイツのほっぺたが不自然に膨らんでいる。ん?何か食ったのか?と声をかけると、ぎくっと肩を揺らしてふるふるふる、と首を振る。嘘つけ、明らかに何か食ってるだろ、何食った?としゃがんでアリゲイツに近づく。一歩二歩下がったアリゲイツは不自然に目をそらす。そして、くい、くい、と俺の腕をひいて先に行こう、とごまかすので、がしっと捕まえる。じたじた暴れるアリゲイツをはがいじめにして、ほら、見せろ、というもののずっと口を閉じたままだ。こんのやろ、絶対喰いもんじゃないやつ口の中に放り込みやがったはいいけど、飲み込めないから途方に暮れてんな。あー、しろ、あー、と迫るものの強情なアリゲイツは首を振る。俺は肩をすくめた。しゃーねーなあ。



「もういいや、ずっと噛んでろ。せーっかく、オレンのみやろうとおもったのによ」



アリゲイツが顔を上げる。ガンテツさんのお孫さんがヤドンを助けてくれたお礼に、と毎日集めてくるランダムな木の実を2つずつくれたんだ。なんというキリちゃん。おかげで5日かけてオレンのみが6個、ヒメリのみが2個、あとはチーゴ2個。できれば麻痺回復が良かったぜ。ミルタンク回復イベントがあるからオレンのみはあんまり使いたくないんだけど、アカネ戦も近いしな。ついでにお母さんが勝手に50円で弱点半減の木の実をランダムで10個セットを買ってくれたおとどけものが、初めて届いた。でも毒半減と氷半減ってのっけから微妙なのだけど。はやくスカーフと鉢巻がほしいから我慢我慢っと。


ほしくねーのか?ん?と木の実をかざすと、ぐあーっと口を開けた。あーもーやっぱりゴミじゃねーか!スチール缶とかあぶねえよ、馬鹿。腕をまくりあげてとってやる。あーもーよだれだらけじゃねーか、きったねえ。口さみしそうにアグアぐしているもんだから、木の実をあげた。道具のつもりだったんだけどなあ、仕方ないか。しっかしあいかわらず食欲だけは旺盛だな。朝は確か照り焼きチキン入った分厚いサンドイッチに、リンゴ3個、あげくに俺が食べようとしてたメロンパン食いやがったくせに。仕方がないので一度手を洗いにゲートに戻った。




















ウバメの祠を求めてどんどん入っていくにつれて、森深くに入り込んでいく。アリゲイツが疲れたとおんぶをせがむので、背負いながら進むこと30分、ようやくたどり着いた。つっかれたー、と伸びをしてアリゲイツをおろす。興味津津でアリゲイツは見上げる。うーん、よく見えねえか?と聞いてみるとだっこをせがんでくる。結構膝がきついんだけど、仕方ないから手を広げた。



思っていたよりもこじんまりとした木製の社だ。ゲームとあんまり変わらないなあ。高さは俺と同じか、ちょっと高いくらい。全体的に神社の社を小さくしたような感じで、仏壇の戸みたいな形をした開きがあるけど、ずっと雨風にさらされているからかすっかりガラスはかすんで中は見えない。でも祠自体は手入れされているらしく、苔が覆っているわけではない。たぶん中にはセレビィにかかわるような神具なり像なり置かれてるんだろう。そして小さな小さな鈴鹿根と貯金箱みたいに小さいさい銭箱。両脇には花瓶が置かれ、誰かが備えたのだろうか、いけられたばかりの花。おちょこには透明な何かが入ってる。水か酒かな、たぶん。



地図の裏面にある解説書には、自然崇拝の歴史や行事が紹介されている。お盆になると、ここに来るまで間隔を置いて立っていた木の柱に行燈をともすらしい。ちょっとしたお祭りみたいだな。よし、と俺は一回アリゲイツをおろす。そして財布を探った。50円玉をいれて、鈴鹿根を鳴らして目を閉じて、手を合わせる。迷子になりませんようにっと。正式なやり方なんて覚えてないから適当だ。俺の様子を見ていたアリゲイツがこつこつ足元をつついてくるから見下ろすと、やりたいのかねだってくる。あーもー。仕方ないからまた抱き上げる。





「ここにいれな、で、鳴らすんだ。ほら」



見よう見まねでやったアリゲイツは俺と同じポーズをして固まる。うーん、セレビィが祭られてるってことは、やっぱりライチュウもやらせた方がいいかなあ、タイムマシンの事故がまた起きないとは限らないし。事情を説明して、えーっと不服そうに鳴くアリゲイツを戻す。なんでまたそんなに不機嫌になるかね、こいつは。もう仲間だって3体目だってのに、何を今さら。そういえばキキョウシティのポケモン塾で黒板に書かれたことが分からなくてすねてたっけーな、と思いだしてちょっと笑いつつ、ライチュウを呼び出す。で、説明をする。幸いライチュウは背伸びして届く距離だ。お参りを眺めつつ、もう一回伸びをした。なんかイベントおこらねーかなあ、と期待してみたけど、やっぱり色違いかギザミミのピチューじゃないとだめらしい。ちぇー。いまから戻してもアリゲイツへそ曲げて唸ってばっかだしなあ、先頭はライチュウでいくか、どーせ野生は出てこねえし。



いくか、と呼びかけたとき、後ろから声がした。



「おー、おったおった!おーい!」



マサキと同じ大阪、いやコガネ弁特有のイントネーションな掛け声と言葉、そして「おった」なんて明らかに俺を探してたらしいセリフとともに、女の子が息を弾ませて走ってくる。確かにさっきお賽銭は全部いっぱいご縁がありますよーに、なんて欲張りな縁起担いで50円玉3枚入れたけどさ、いくらなんでも御利益早すぎやしねーか、セレビィ。2回目ともなるとさすがにうまく笑えてるか自信ない。確かに今日は振り替え休日で休みだってツクシが言ってたし、ジムは休みかもしんねえけど、このエンカウント率の高さはなんだよ、おかしいだろ。驚いている俺をしり目に、やーっと追いついた、と息を整える女の子は、しばらくして顔を上げた。俺はショックに打ちのめされる。お、俺より身長あるとか、お前はコトネかよ!何歳上かは知らないけどやっぱりショックはショックだ。どないしたん?と尋ねられ、いんや何でも!とごまかす。まーええわ、と流してくれた。



「ウチ、コガネシティのアカネいうんやんか、よろしく。今日までガンテツさんとこにお世話になっとったゴールドって、君やろ?探しとったんやでー、ツクシはもう行ってもたいうし、あーもー疲れた!」

「うん、確かにオイラはゴールドだけど、え?なんでジムリーダーがここに?」

「おおー、よう知っとるやんか。駆け出しやけど、バッジ2つは伊達やないってとこ?うんうん、確かにウチはコガネシティのジムリーダーやで。けど、今は休みやからガンテツさんとこに頼んどったラブラブボール、取りにきた帰りなんやんか。あの人ケチやから、頼んだやつが取りに来いってめんどくさいこというんやもん、嫌やわあ」



なるほどガンテツさんとこで俺のこと聞いたのか。でもそれだけじゃ俺を追っかける理由にはなんねーんじゃ、と俺は首を傾げる。もしかしてなんかフラグたったのか?とちょっとだけ期待する俺に、アカネがいきなり手を合わせてきて、ぎょっとする。あれ?なんか違う?



「ホンマもんのライチュウやー!やっぱりピカチュウもいいけど、進化してもかわいいって最高やなあ、そう思わん?ゴールド。追っかけてきたのは、ほかでもないんやって。ジョウトじゃライチュウなんておらんやろ?お願い!お願いやから、触らして!」

「はあっ?!」

「えーっ、あかんの?」

「いやいや、そうじゃなくって、わざわざそのためだけに追っかけてきたのかって驚いてんだよ!」

「何を言うかと思えば、あったり前やんか!ウチがトレーナー始めたんは、かわいいポケモン集めるためやもん!なー、お願い!」

「うーん、まあ、それぐらいなら、いーだろ?ライチュウ」



お前オスだもんな。まさかのご指名に驚きつつ、俺は苦笑する。えっ、嘘?!とばかりに俺があっさり許可を出したのが意外なのか、ちょっと待ってくれとばかりに俺に抗議をするライチュウは軽く無視する。なんかミーハーはいってんな、このアカネ。たしかに可愛いポケモンがどーたらこーたらいってたような気がするけど、かわいいポケモンを育てる中でどうやったらあそこまで強くなれるのか知りたいもんだ。うらやましいぞ、この野郎。



「ありがとう!うひゃーっ、電気袋ってホンマにぷにぷにやー!かっわええ!」



ライチュウ、そこ変われ。やめてーと暴れるライチュウなんぞお構いなしに、アカネは構い倒している。コガネといえば忘れもしないトラウマの「まるくなる」と「ころがる」のコンボだもんなあ。始めてやった時には、ステータス変化技や状態異常技なんて無視してフルアタが当たり前、コンボなんて知らなかったもんだからインパクトが半端なかった。オ―ダイル一匹しかろくに育ててなかったせいで、「メロメロ」に「のしかかり」による麻痺、挙句が転がるコンボで初めて完封されたんだっけ。5.6回負けた記憶がある。やっと勝ったのは、「こわいかお」からの「かみつく」でひたすらひるみを狙ったら、ようやくってところだ。あとでワンリキーがデパートで交換できるって攻略本で知ったときには泣きそうになったぜ。ハートゴールドは「まるくなる」がない代わりに、「ミルクのみ」が追加されて、しかも肝っ玉でゴーストが落とされちまったんだっけ。気を張ってレベル上げすぎたせいかトラウマよか危険はなかったけど、異常状態が続出して結構長期戦になっちまったんだよなあ。おかげであんまりマツバが、げふんげふん。



「やっぱ見た目がかわええポケモンは見ててなごむわあ。ゴールドもそう思わん?」

「それは同感。でもさ、オイラはどんなポケモンだって連れて歩いてると、なんかこう、愛着湧いてくるんだよなあ。ゴツイやつだってなんかかわいいだろ?仕草とか」

「あー、わかるわかる!すっごいわかるわ!うちはかわいいポケモン専門で育てとるけど、連れ歩きしとるトレーナー見とると、なんかええなあ、って思うもん。ほんまにポケモンリーグはにくい仕事しよるわあ」

「だよなー、今まで育てたことなかったやつも育てよっかなあ、って気になるし。罪悪感半端なくて、ボックスに預けたくなくなっちまうんだ。困るって」

「うんうん、そういえばウチ、自転車最近使ってないわあ。コガネシティにな、ミラクルサイクル出来たんやけど、どーなんやろう。はやくポケモン乗せれるやつ作ればえーのに」

「あー自転車な。どうしよっかなあ、オイラぶっちゃけいらないかも」

「うんうん、やっぱりゴールドとは気が合うわあ。なあなあ、どーせやしコガネシティまで一緒にいかへん?ウチもっと語りたいわ。ジムの子ここまで相手してくれへんからさみしかったんやって」

「オイラはいいけどさ、ジムはどうすんだ?」

「大丈夫大丈夫、ウチ明日のレンタルコンテストに招待されとるから、急がんでもえーんや」

「育て屋さんの?」

「なんや、ゴールド参加するん?」

「うん、格闘タイプがほしいんだ」

「おおー、ってあからさまにウチのジム対策やん!あかん、あかんって、格闘タイプは堪忍してよー」

「やなこった」

「むー、けど、ってことは、そこまでウチの実力評価してくれとるってことやし、まあえっか。上位に組み込めるかってのもあるし、参加しとる間、ゴールドのポケモンたちと応援したるわ。ウチめっちゃ強いで、格闘タイプだけで勝てるなんて思わんといてよ?」



うなずいといた。言われなくったって知ってるよ。ジョウトっていやあ、真っ先に思い浮かぶジムリーダーの筆頭だしな。ちなみに2番目は以外に大食いなミカン。なんで白のワンピースやめちまったんだろう、もったいないと思ったのは俺だけじゃないはず。このアカネはリメイクに近いのか?とふと思う。初対面はラジオ塔。ジム戦後はポケスロン会場でわざわざジャージ用意してくれたはずだし、外で会う回数は数えた方が早かったはずだ。いきなりM?S?ってのっけから聞くんだもんな、最初は何事だと思ったぜ。スタッフ狙いすぎだぞ、普通服のサイズはSから聞くだろうが。しっかしギャルはまんまだし、プリティはまあ人それぞれとして、どこら辺がダイナマイトでなのかなあと思っていると、視線が合う。こころなしゲームより小さいような、げふんげふん。



「なんかすっごい失礼なこと考えんかった?ゴールド」

「いやいやいや、ライチュウオスなのに大胆だなあって思っただけだぜ?」

「えっ、このこオスなん?もったいない、こんなにかわええのにい」

「いやいやいや、オスだってメスだって別にいいじゃん。別にオイラ、そんなことまで考えてポケモン捕まえてないって」

「そりゃそーやけどさあ」



ライチュウが次第に慣れてきたのか寄ってきてたんだけど、その一言でショックを受けてまた俺のところに行きたがってしまい、あわててアカネがごめんごめんと引き留める。



「いっそのことコガネまで貸してくれへん?」

「残念ながら、そいつはタイムマシンの事故で送られてきちまった、預かりもんなんだ。マサキさんにエンジュシティまで連れてきてくれって言われてんだ。無理だよ」

「おー、ゴールドもサミットいくん?じゃあ、じゃあ、エンジュシティまで貸して!」

「なんで伸びてんだよ!だめだって!」

「むー、ケチい」

「かわいこぶっても駄目だぞ、オイラの好みじゃないし」

「んなっ、何言っとんよ、ゴールド!別にそんなつもりで言ったんちゃうわ!」

「ツンデレはもう間に合ってるって」

「ちがーう!つかツンデレって、イブキさん?イブキさんやんな?嫌やわ、そんな目で見とったんけ?エッチい」

「あはは、ちげーやい。大人のお姉さんとかアロマのお姉さんが出てこなくていらついてるだけだい」

「もっとあかんやんか!」





俺達は顔を見合せて笑った。


[ 25/97 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -