第13話

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「はあ……、どうしよう」

「どーしたんだ?ツクシ。ため息なんかついて」

「あー、うん。ガンテツさんって知ってるかい?ゴールド」

「もちろん、知ってらい。ガンテツさんといえば、ぼんぐり製のモンスターボールの技術を今に伝える人間国宝だろ?すっげー頑固で、気に入った人にしか作ってくれないんだよな?いっぺん会ってみてえよ」

「そっか、そうだよね、うん!僕が案内してあげるからさ、会いに行ってみるといいよ!ってか一緒に来て!頼むから!」

「ちょ、おま、近い、顔近いって、離れてくれよ!誰がうれしくて男に手を握られなきゃなんないんだ!」

「あ、ごめん」



つながりの洞窟道中で、今朝からずっと思いつめたような顔をしているツクシは、ため息交じりに理由を話してくれた。てっきりジョウト最年少のジムリーダーは立て続けに起こる、かつて解散したはずの犯罪組織が絡んだ大事件が起こっていることに責任感を感じてるんだと思ってた。だから沈黙を決め込んでたんだけど、微妙に読みはずれていたらしい。



ガンテツさんが行方不明なんだ、と開口一番にツクシは言った。ちょっと待て。わかってたけどちょっと待て。思わず声に出てしまう。うん、とツクシは焦燥感を浮かべながらうなずいた。ラプラスの件でツクシを足止めしてるとは思ってたけど、実際にイベントが勝手に先行してるとやっぱり焦る。っつーことは、あれか、もうヒワダ中のヤドンは行方不明ってことか。驚いた俺に何を思ったのか、そうなんだよね、うん、と勝手に自己完結したツクシが、喧嘩っ早い人だからなあ、と独り言をつぶやくまなざしはどこか達観の域に達している。何があった。うーむ、もうガンテツさんがヤドンの井戸に突入してるてことは、えーっと、番をしてる下っ端をしかり飛ばして入ったらぎっくり腰?まずくないか?ガンテツさんってポケモン持ってるのかと聞いてみると、首を振られる。だからやなんだよーもー!ともはや面倒事の処理が常習性を増していることがうかがわれる、ツクシの悲鳴。おつかれさん、と俺は肩をたたいた。



「僕がトレーナーを始めたころからの知り合いだから、容赦ないっていうか、厳しいっていうか。わっぱが、とか虫取り小僧が、とか言っちゃって、なかなか認めてくれないんだ。よくジムを留守にするなって怒られるし……この間も怒られたばっかりなのに、今回の事態でなんでいなかったんだって絶対怒られるよーっ!」

「いやそれ、ツクシがポケギアもってりゃ、さあ。自業自得じゃねーかなあ」

「わかってるよー。あーもー、なんで忘れちゃったんだろ。ついてないや」



しかも雨降ってるし。土砂降りの雨が、つながりの洞窟の出口でカーテンを作っていた。傍らでやたらうれしそうに、アリゲイツが飛び出していく。口をあけて、雨を飲み込んでいる。バッチいからやめなさいっていいたいとこだけど、急ぐしまあいっか。買っててよかった雨合羽。リュックから取り出して、上から着る。用意周到すぎない?とさすがに準備がよすぎる俺に少々疑問がわいたのかツクシはぼやくものの、折り畳み傘を渡すと笑顔になった。ただし骨が二三本折れてるけどな。ゴールド、とツクシは不満そうに俺を呼んだ。雨道を走ると、どんどんスニーカーが湿っていく。水たまりをよけても駄目だ。気持ち悪さはこらえながら道路を走る。ずーっとツクシは黙ってる。ガンテツさんにはなす言い訳を考えてんだろう。大変だなあ。



「あ、そーだ!今回は怒られずにすむかもしれない!」

「お、なんか思いついた?」

「ガンテツさんのお孫さん、ヤドンもおじいちゃんも帰ってこないって泣いてたんだ。近所の人がわざわざジムまで連絡してくれたらしくって。さっき、ずっと電話してたでしょ?あれ、あの子なんだ。絶対に早く帰ってきてねって約束したし、うん、いける、たぶん」



一時間ほど前、ポケギアを忘れたツクシは、ポケモンセンターに電話を借りて、何件か電話してたんだけど、そのうちツクシお兄ちゃんって自分で言ってた電話か。ちなみに俺は例の刑事さんに、ロケット団とブラックについて報告してる最中だったから、それどころじゃなかった。


ほっとした様子でため息をつく、ツクシ。気づけば雨が上がった。動きにくいから脱いで、適当にビニル袋に突っ込んで、リュックに押し込む。名残惜しそうなアリゲイツを叱咤して、俺達はヤドンの井戸を目指した。


たしかガンテツさんところの女の子は、父親がシルフカンパニーの社員で、仕事が忙しくて一緒に住めないから預けられてるんだっけ?手紙つきのヤドンも盗まれたはずだから、それでガンテツさんは飛び出して行ったはずだ。いそげいそげ、と走る。下っ端よりレベルが低い手持ちを持ってる四幹部が一人が待ってるはずだ。なんだっけ、えーっと、ランス?ロケットが由来のネーミングって聞いたけど、アポロしかわかんねーや。もしサカキが再登場したとしても、初代の名残で植物の名前が付けられてるボスは、結構浮いちまう気がするのは俺だけでいい。





ヒワダタウンの伝承を紹介する看板が見えた。あれだよ、とツクシが指さした。アーやっと着いたぜ、つっかれたー!息を荒げながら、ゆっくり立ち止まる。呼吸を整えながら一応、茂みから覗いてみるけど、誰もいそうにはなかった。あっちゃー、もういっちまった後かよ、ガンテツさん!ツクシは頭を抱えてる。急いでそばによると、結構狭い古式の井戸だ。組み上げしきだけど、さすがにそのまま使われないように梯子が作ってある。よいしょっと手ごろな小石を落っことすと、乾いた音がした。じめじめともしないくらい干上がってんのか。ゲームじゃ普通だったけど、確かに今でも生活用水として利用されてる面がアンなら、ちょっと問題かもしれねえなあ。



「半年くらい前から、こんな調子だよ。いつもより晴れの日ばっかりだったから、雨が降らないだけかと思ってたんだ。うかつだったなあ」

「後悔したって仕方ねーって。じゃあ、オイラ行ってくるからさ、応援よろしくな」

「うん、って、え?ぼ、僕もいくよ、ゴールド!」

「なーにいってんだよ、ツクシ。洞窟の下っ端たちがいってたろ?ここに本部隊がいるって。ロケット団捕まえなきゃなんねーんだ、あぶねーからやめろって警察のおっちゃんたちに止められてたの忘れたのかよ。オイラ達、それ無視してきてんだぜ?万が一ってのがあるだろ?」

「う、わ、わかったよ。でも、僕が行ってもいいだろ?」

「どこにポケモンセンターとかジムあるかしらないオイラが行ってもいいけどさ」

「あ、そっか。もう、仕方ないなあ。すぐ行くから、へましないでよ?」

「わかってらい。オイラが先に解決してやっからさ、心配いらねーって。っつーわけで、アリゲイツ、あぶねーから戻っててくれ」



ばしゅ、とモンスターボールに戻す。井戸からの陽だまりだけが、照らしてくれる。俺は観光向けにちょっとだけ整備されてる井戸を降りてく。だんだん薄暗くなってきた。ヤドンがあくびをすると雨が降るから、別名アメフラシの井戸ともいうらしい。カラナクシがいそうだよな、元ネタ的に考えて。つーか、けっこう深いなあ。ガンテツさんの大声で踏み外した下っ端がちょっとかわいそうになった。こりゃ主人公に八つ当たりしてもいいレベルだ、よく死ななかったな後ろから落っこちたろうに。俺は洞窟と化している先へ急ぐことにした。



















「ん?どーしたんだ?アリゲイツ」



あたりを警戒してくれているアリゲイツが、歩みを止める。俺の先には、洞窟と化しているヤドンの井戸は、どっかでつながりの洞窟とつながってんじゃねーかと思うくらい広い鍾乳洞のような空間がある。この先にロケット団どもがいると思うんだけどな。どうした?すると突然振り返ると、俺のほうを向いて吠えはじめる。ど、どうしたんだよ、アリゲイツ。たじろいだ俺を無視して、タックルしてくる。おわ、と後ろに下がった俺は、壁にぶつかりそうになって、踏ん張るけど追撃くらって尻もちをついた。いてえ、と呻いた俺に、今度は上から乗っかってくる。なんだなんだ、どうした。やめろって、と抵抗した俺は、今度はまだ記憶に新しいつながりの洞窟落下事件の数秒前に感じた浮遊感を感じた。





どおおおおおおおおおおおん!





うわあああああっ?!思わず悲鳴をあげて俺は思いっきりアリゲイツに抱きつく。反響したエコーが奥まで広がっていった。突然の地震は、一度だけ。ぱらぱらぱら、と上から落ちてくる石や砂埃をアリゲイツがかぶってくれたことを知る。俺から降りて身震いしたアリゲイツは、俺に早く立てと促してくる。



「だ、大丈夫か?アリゲイツ」



身を案じる俺に一言鳴いて、アリゲイツは俺の後ろに回ると急げ急げとばかりに、無理やり押してくる。先に進むと、わずかながらにどどどどどど、というまるで滝のような唸りが聞こえる。まさか。俺は青ざめた。まさか今まで水をせき止めてたところを、爆破しやがったのかロケット団のやつら!ガンテツさんがまだいるかもしれないってのに!俺はあまりの事態に、俺は声を張り上げて全力で走る。ロケット団らしい格好のやつらはいない。おそかったか、ちくしょう。



「ガンテツさーん!おーい!いたら返事してくれよ!ガンテツさーん!」



反響する洞窟。必死で走って行った俺に、アリゲイツが飛び出してきて、ついてこい、と先導してくれる。しばらく走っていくと、だれかおるのか?!というしわがれた頑固爺の返答が聞こえた。いた!あんなところに!ガンテツさんはしっぽをきられてぐったりしているヤドンたちを、片っぱしからルアーボールに収めているところだった。傍らには、ちぎられたひも。つかまってたらしい。



「おお小僧、いいところにきた!手伝ってくれ!ヤドンは尻尾が切られるとバランスがとれずにうまいこと泳ぐことができんのじゃ!このままだとおぼれ死んでしまう!」

「えええっ?!そりゃ大変だ!ちょっと待ってて!」

「早くせんか、クソガキ!一匹といわず全部のポケモン出してくれ!ヤドン達はもう動くこともままならん」

「わ、わかった!」



みんなでてこーい!とボールを投げた俺は、突然呼び出されて驚いているメンバーに説明しながらリュックをひっくり返してボールを探す。アリゲイツに先導されてみんなルアーボールを片手に片っぱしから投げ始める。モンスターボールなんてけちってらんねえ、もし捕獲しそこなったら時間がもったいなさすぎる!この前買いだめしたスーパーボール15個と拾ったハイパーボール4個全部出して、俺も捕獲するべくボールを投げまくる。水がどんどん浸食していく。少しずつ足場が狭まっていく。捕獲済みモンスターボールを、泳げるアリゲイツと飛べるヨルノズクに任せて、俺達は必死でヤドン達の救出にいそいだ。



「ぐっ、もう危ないか?!小僧、今まで捕まえたヤドンたちと一緒に逃げるんじゃ!おぼれてしまうぞ!」

「ガンテツさんはどうするんだよ!」

「ワシは無論こやつらを全員助けるにきまっとろうが!こいつらはヒワダのシンボルじゃ、一匹たりとも死なせはせん!」

「なーに一人、勝手にかっこいいこといってんだよ、ばーか!アンタんとこのお孫さんがヤドンもおじいちゃんも帰ってこないって泣いてんだ!ちっとは家族のこと考えろよ!」

「なっ……?!」

「それにオイラはゴールドって名前があるんだよ、小僧じゃない!あーくそ、ボールがもうねえや。モンスターボールしかない!いっけー!」

「ふん、どこぞの虫取り小僧のようなこと抜かしおって」

「その虫取り小僧から頼まれてきたんだよ」





計57匹。リュックや風呂敷、ポケモンたちにも手伝わせて、なんとか回収し終わった。あっぶねー。はあ、と安堵のため息をつき、俺達はいそいで入口に戻る。なにやらガンテツさんが思い出したようにヨルノズクに頼みごとをしてて、どっかに飛んでったヨルノズクが帰ってくる。あれ?なんでお前、モンスターボールなんてもってんだ?流されちまってたのか?俺の肩に帰還したヨルノズクは、俺の手元に転がしてくる。俺は凍りついた。



「え?ちょ、な、で、なんでベイリーフがこんなところにいるんだよ!」



モンスターボールには、親がブラックを書かれている。瀕死状態だ。ポケモンたちが俺に反応してぎょっとした顔で俺を見る。ヨルノズクは、かつての自分と重ねるように低く唸り声を上げた。はやくせんか、とガンテツさんが怒鳴って、俺達は歩みを速める。駆け足でガンテツさんに追いついた俺は、どーいうこと、とパニックになったまま問いかける。



「ゴールド、お前、赤い髪をした目つきの悪いガキと知り合いか?」

「ブラックが来てたってこと?」

「ブラック、か。あいつ何者なんじゃ?わしが怒鳴りこんだ時には、すでにここにいたほとんどのロケット団の下っ端たちを倒しておったが……チームリーダーとバトルの末に激しい口論しとったぞ」

「口論?」

「ワシが来た時には、もう決着はついとったが、負けたらしい。すれ違いでヤドン達を置き去りにして、リーダー達を追いかけてどこかへ行ってしまたわい!」



ヤドン達を助けもしなかったことに激しい憤りを感じるのか、拳を握りしめたガンテツさんは、息をつく。お前が来てくれなかったら、どうなっていたかわからんなあ、と礼を重ねてくれた。よせやい、照れるぜ。頭を撫でられて、俺は笑った。俺しか手伝える状況下に無くて、しかもあんな目の前であんな事態になったら、俺しかいないっていきり立つに決まってるじゃんか。英雄願望ってやつだ。たまには俺、かっこいい!って酔いしれたって罰は当たんないだろう。





しっかし、ブラックには先越されちまったかあ、と思うとちょっと悔しい気持ちになる。主人公差し置いてイベントこなしやがったぞ、あいつ。お前はあれか、レッドさんと戦いたいがためにロケット団の基地にまで潜入する元祖ストーカーか。あーでも、たぶんロケット団がらみだけだろうし、グリーンの方がたち悪いよな。まあロケット団のヤドンの井戸事件に関しては、俺がヒント与えすぎちまったってのもあんだけど。


本来、ジム戦を済ませてすぐゲート付近で遭遇フラグが立つわけだから、おおかた道端でロケット団がらみの事件があったと耳にして、黄色い帽子の少年とでも目撃証言の中にあったから問い詰めたってところだろう。でもそんなことするくらいなら、ヤドンの井戸こいよ、とつっこみたかったのは俺だけか。あからさまに黒ずくめのR男が街をうろうろしてたってのにさ。それがきっちり回収されてるわけだが。



それにしたって、なんでベイリーフ放置なんて暴挙に出たんだ、あの野郎。かわいそうに、ポケモンセンターに行ってやっからまってな、と声をかける。やっぱり反応は鈍い。



「かわいそうに、な。リーダー格の男とバトルしとった最中に、後ろからヤミカラスの奇襲をかけられて、それをかばって倒れたんじゃよ。そしたら突然、狂ったように笑い始めてな。むちゃくちゃなことをいい始めた。なんでかばったとか命令をきけないなら、いらない、とかいってボールごと投げ捨てていきおったわ」



まじかよ、おい。完全に頭に血が上って、勢いに任せての暴挙じゃねーかあの馬鹿。うわああ、と俺は想像して顔をしかめた。なんつー地獄絵図。いなくてよかったぜ。ブラックが笑ったっつーことは、あれか、初めて会った俺がやっちまったみたいにトラウマスイッチ、もとい地雷平野を思いっきり踏み抜いちまったのか、ベイリーフ。ただでさえコンプレックスの塊であるロケット団を前にして、平静さを保てねえだろうに、かつての父親の側近だかしらんがリーダー格で今のブラックでも勝てねえってことは、俺でも結構厳しいはずだから幹部だな。そいつに、挑発でも呼ばわりされてみろよ、無理だって、そりゃ。でもベイリーフだってあいつのこと考えての行動だろうし、せつねえなあ、と思いながら俺はガンテツさんの話を聞く。



「裏切り者、とか聞こえたが、まさかあんなガキがロケット団なわけないしのう。すごかったぞ、ものすごい剣幕であれだけ詰てたしな。だが、リーダー格の男が知っとったような……ゴールド、なんでそんなやつと知り合いなんじゃ?」

「なんか3年くらい前、ゴールドってやつが、あいつにちょっかい掛けてバトル放棄して逃げたらしいんだけどなあ……オイラ最近トレーナー始めたから人違いにきまってんのにさ。一方的に難癖つけられて、気付いたら知り合いになってた」

「……大変じゃなあ」

「うん」



自業自得?何それ美味しいの?つか、裏切り者って。俺は何も言えなくなった。うーむ、ベイリーフどうしよう。ウツギ博士に報告すっか。なんか勝手に戦力弱体化してくれたんだけど、喜ぶべきかどうかは分からず俺は梯子を上る。どーやってアカネに勝つきなんだろーな、ブラックのやつ。まーいいや、サトシみたくおこぼれちょうだいしますかね。



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