第11話

「どうだー?ヨルノズク。どっかにひっかけれそうなとこないか?」







できれば、すっぽぬけないような岩とか。あなぬけのひもを使おうと思ったんだけど、まさか一人ででていかないよね?!と泣きそうな顔で必死に揺さぶってくるツクシのせいでわざわざあなぬけのひもを垂らす非常口を作るはめになっている。中途半端に反響するつながりの洞窟にて、俺は豪快にぶち抜かれた全長10メートルほどのでっかい天井穴を飛んで行ったヨルノズクに呼びかける。洞窟内は、ひんやりしていてじめじめしていて、わりと涼しい。でも六分丈のハーフパンツな俺には、少々肌寒い。ぱら、ぱら、と時折降りかかる砂埃に、こほこほせき込みながら、手で払う。ただでさえ全身泥だらけで、ほこりまみれだってのにまだくるか。一抹の不安を抱えて、俺は見守る。まだまだ崩落の危険性を考えると、素直に人を呼んでもらった方がはえーか?とも思える。なにせこっからじゃ上がどういった状況になってるのかさっぱり理解できないから、困ったもんだ。それもこれももとはといえば、とじとめで石壁をにらむと、にらみ返される。ゴールド、と呼びかける声があったんで、俺はおかえり、とねぎらいつつ、どーだった?とツクシに聞いた。ツクシはさっきから顔面蒼白だったけど、通り越して真っ白になってる。まじか。思わず俺はうなった。







「最悪だよ。落ちた場所が悪すぎたみたいだ。ポケモンに手伝ってもらわないと動かせなさそうな大きな岩と水辺が邪魔して、梯子のあるところまでたどり着かないよ。ああ、もう、なみのりもかいりきも持ってるわけないじゃないか」



「いわくだきは?」



「使えそうなところはあったけど、肝心の通路はかいりきでやっと動かせる岩が邪魔してるよ。そっちはどうだい?ゴールド」







ヨルノズクが帰ってくる。聞いてみると、案の定無理だとばかりにうなずいて、一声鳴く。ち、と離れたところで舌打ちが聞こえる。俺はほら、とあなぬけのひもを見せると、ツクシはすべてを悟ってそっかあ、とうなだれてしまった。先には、すっぽ抜けたでっかい岩だったものが、上から下にたたきつけられて粉々になっている。ヨルノズクに石をくくりつけた先端を、めぼしいポイントにまで運んでもらって、軽そうなやつを借りて綱渡で上ってもらって、くくりつけてもらったんだけど、いざ上ろうとしたら支えきれずに落ちてしまったってわけだ。ちなみにこれで6回目。借りものはレベルが低いから、野生のやつらに襲われるとやばいんで、もう持ち主のもとに戻ってもらってる。ヨルノズクが帰ってきてしまったということは、ほかによさそうな岩がなかったってことだ。なんてこったい。あなをほるがありゃよかったんだけどなあ、くそう。







「仕方ないから、ヨルノズクに助けを呼んでもらおうぜ、ツクシ」



「そうだね。じゃあ何か書くもの、書くもの、えっと、ちょっと待ってて」







がさごそとリュックをさぐるツクシは、びりり、とレポート用紙をちぎると、速筆で文章を書いていく。折りたたまれたそれを俺は肩に泊まったヨルノズクに渡した。入口あたりに人がたくさんいるのは間違いないから、読んでもらえるのは間違いないだろう。







「鳴き声ごときで逃げ出すような腑抜けどもだ、来るわけないだろ。馬鹿か、お前ら」







石壁に腕を組んで体を預けていたかっこつけたがりは、ふん、と鼻で笑う。冷やかにブラックが指摘するので、俺たちはあちゃー、と顔を見合せた。洞窟の奥では、再び地の底から這い上がってきたような恐ろしい咆哮が、何重にも反響している。









これは30分ほど前にさかのぼる。









































ジムリーダーって仕事は、どうやら俺の考えている以上に大変な仕事らしい。地方イベントへの出張(バスケ大会のことな。決勝で火吹き野郎と当たって準優勝って、すげーなおい!)や周囲の出現ポケモンの調査(これはポケモン研究家を目指すツクシがて定期調査してポケモン協会に送ってんだと)、そして治安維持(今まさに鳴いてるつながりの洞窟の主についてだ)。今回の場合、ツクシは1と3のためにジムを臨時休みにしてまで、ここに来たことになる。え?治安維持?調査だけじゃねーの?っていったら、あは、あはははは、って全力で目えそらされた。おいおい、なにやってんだよジムリーダー。Wikiに治安維持につとめて慕われてるって紹介されてる、キョウを見習えよ。しっかりしろよ、ジョウトジム最年少。







そんなことを休憩のために麓のポケモンセンターで談笑してた俺たち。その時だ。つながりの洞窟が事故で通行不能という、とんでもないニュースが飛び込んできたのは。





















俺はあわてた。待て待て待て、エンジュ側は今ウソッキーのせいで通行止めだからわざわざ遠回りルートを通ってるってのに、なんでこっちまで通行止めだよ。明らかに詰みじゃねーか。ただでさえ、マサキとの約束でエンジュのイベントに間に合うように急いでるってのに、なんだそれ。焦燥感と困惑で、うっそお?!と声を上げた俺に、ああ、やっぱり、と思わせぶりなセリフを吐かれてみろ。首突っ込まざるをえないじゃねーか。一緒に来てくれと手を引かれたら、やる気なアリゲイツ。便乗せざるを得ない状況が形成されていたわけだ。





原因は、ラプラス。ツクシは金曜日のポケモンって形容したから、俺はもちろん言ってない。金曜日に出てくる、最深部に住んでるあのラプラスらしい。いぶかしむ俺にツクシは詳細を道中で説明してくれた。かつてラプラスは毎週金曜日に現れては、美しい歌を奏でるポケモンが出現する、という噂のもとになっていたらしい。そりゃ洞窟最深部まで行くには、最低でもバッジは5ついるわけだから、そりゃここらのトレーナーじゃ、洞窟から聞こえてくる鳴き声が頼りで、そいつの正体は分からないってわけか、なるほど。







で、近年らアルフの遺跡やスポーツ公園ができた関係で通行量が多くなった洞窟は、案の定噂が広がって、観光客がたくさん来るようになったらしい。そこまではいい。つながりの洞窟の管理は、麓のポケモンセンターやヒワダジム、近隣の町のボランティア法人で成り立っているけど、マナーの悪い一部の観光客やトレーナーのせいでゴミが大量に捨てられるようになり、彼らの努力を大きく上回る速度で汚染され、すっかり汚れてしまった。これは目で見た方が早かった、入口に入るや否や、すさまじい異臭と吐き気がするようなハエのとぶゴミの山。ビニル袋に詰め込まれたペットボトルやプラスチック梱包、毒にしかならない。つながりの洞窟は生活と直結している道でもあるため、封鎖ができず、掃除活動も追い付かなくて困っているらしい。







結果、今となっては、その影響かラプラスは歌うどころか、耳をつんざくような波長を含む鳴き声で観光客や通行人、トレーナー達を脅かすようになったらしい。時折ゴミの重さで地盤沈下が起こって工事をしたり、土砂崩れが起きて交通が遮断されるなど不便が強いられているとか。俺たちは先を進もうとした。





ぶっちゃけ、吠えるだけなら実害ないんじゃ、と思う俺は薄情なのかねえ。こわがってるだけだろ?人間が一方的に。それに、と俺はちょっと気になることがあって、ツクシに聞こうとした。













そしたら、そいつの凶暴さに魅かれて、ブラックが現れたわけだ。案の定、問答無用でブラックは俺を挑発してきて、強制的に戦闘に入った。ベイリーフを先発で出されて、読み違えてた俺はゴ―ス目当てのヨルノズクだったんだけどごりおし。そしたらズバットにされて、ふきとばし。アリゲイツで水鉄砲(氷の牙はPP切れなんだよ、ちくしょう)しまくり、すぐにヨルノズクにかえたら、やたらと踏みつけを連発されてうざいのなんの。リフレクはっても麻痺るし、回復されるし、一方的に削られるし。レベルが高すぎてあんまり使う気になれないライチュウに手伝ってもらおうか、と思ったら、ばきって音がしたわけだ。そしたら、ずどーんだ。地盤沈下してた区画だったらしい。それに水鉄砲、そして踏みつけの連打という追撃で踏み抜いちまい、俺たちもろとも落ちてしまったというわけだ。ちなみにそのせいでブラックのベイリーフはHPがやばい状態になったけど、光合成で回復した。うらやましい仕様だぜくそう。







で、今に至るわけだ。ちなみに10分間ツクシに両成敗されるまで、どっちのせいかギャーギャー言い合ってたのは秘密だ。











「なあなあ、ツクシ。オイラ思うんだけどさ、金曜日のポケモンには誰もあったことがないんだろ?」



「うん、そうだよ。だからこそ、この呼び名だからね。それがどうかした?」



「ツクシは金曜日のポケモンが暴れてるのは、ゴミのせいだっていうけど、ちと違うんじゃないかなあ、って思うんだ。そりゃ、あんだけひどいと、きっと奥まで水も土も汚れるだろうし、環境の変化に敏感ならあばれっかもしれないぜ?けどさ、毎週毎週現れるってことは、こんだけでっけえ洞窟だ、きっとどっかの地下水脈と繋がってて海から来てるんだろ?普通、こんなに汚れてちゃだめだって見切りつけて、もう来ないんじゃねーかなあ」



「でも、怒ってるからこそ、わざわざ来てるんじゃない?」



「おかしいって。だれも見たことがないってことは、金曜日のポケモンだって人間がここを出入りしてることなんて知らないはずだろ?人間のことは知ってるとしても。ましてや、観光客のせいなんてわかるわけないって。ましてや意図的に土砂崩れ起こすなんて無理だろ?」



「もしかして、ゴールドは、金曜日のポケモンは別の理由でこんな声あげてるって思うのかい?」



「だってさ、すっげー苦しそうじゃん。それに」



「それに?」



「明日からジムを再開すんのに(ブラックが一瞬固まった。で、ちら、とツクシを見て絶句する)(そりゃな、こんなところにジムリーダーがいるとは思わねえよな)、今すぐ帰らなきゃなんないツクシが、ポケモンセンターについたとたんに暴れてんだよ?前もこんな感じだって言ってただろ?なんか足止めしてるみたいだなあって思ったんだ。なんか最近、変なこと起こってねえ?」



「変なことって?」



「たとえばさ、黒ずくめの変なやつがうろついてるとか」







ブラックがすさまじい眼光でこっちを射抜く。俺は虚勢を張って、にい、と笑ってやった。面白くないのか、舌打ち。こえええなあ、もう、と密かに汗をぬぐう。初対面の時から思ってたけど、こいつ本当に性格以上に目つきが悪いやつだなあ。実はロケット団の黒幕でした!って落ちでも全然いわかんないぞ、たぶん。けど、こいつの過去的にそれはない。ツクシがいるから、なんか証拠でもあるのか、と詰め寄りたいのを思いとどまってんだろうなあ。こえーこえー、はやいとこ退散したいのはやまやまだけど、しばらく同行は続きそうだ。





一方、ツクシは背を向けてるから全く気付かず、うーん、と考えこんだまま、ちょっとまってね、とリュックの手帳を探った。えーっと、とぱらぱらめくる。そして、あ、もしかして、これかな?と見せてくれた。ブラックはそれとなく近寄ってくる。







「ヤドンの井戸って名所があるんだけどね、一度も枯れたことがないはずなんだ。でも、どういうわけか最近枯れてきちゃってね。今度調査しよう、と思ってるんだけど、こっちの件が優先事項だから、つい後回しにしちゃってるんだけど……もしかして、これ?」







ブラックが無言でツクシに詰め寄る。な、なに?とツクシはひきつりながら、二三歩さがる。







「おい、お前、全身黒い服装で、背中や帽子にRって刻まれた変な格好のやつをみなかったか?」



「やだなあ、さすがにそんな不審人物みつけたら、すぐに警察呼んでるよ。それ、どこのロケット団だい?」



「だから、聞いてるんだ」



「え、ほ、本当にロケット団がいるかもしれないってこと?ゴールド!」



「そーいうこと。とりあえず、金曜日のポケモンを探しに行こうぜ、ツクシ。なんかわかるかもしれねーかんな」



「うん、わかったよ」



「待て、あのポケモンは俺が捕獲するんだ。邪魔するな」



「アリゲイツいるから、はなから考えてないっての。だいたいオイラはツクシに言ったんだ、ブラック、アンタには言ってねーよ」



「ハッ、やっと思い出したか、ゴールド」



「キキョウジムの石碑に書いてあっただけだっつーの」



「お前人をどこまで馬鹿にすれば気が済むんだ!」



「だからいい加減人違いだって気づけよ、女顔!」



「だれが女顔だ!こんの鳥頭!」



「誰が鳥頭だ、クソガキ!」



















「さっき、友達?って聞いたら速攻で否定されちゃったけど、実は仲いいんじゃないかな、君たち」



「よくねえよ!」



「何言ってるんだ、お前!」



「あはは、ほら!同じこといってるよ!」


「「・・・」」



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