第10話

手ごろなベンチに座る。ゲートキーパーのオレンジの服着た兄ちゃんからもらったパンフレットを広げてみると、アルフの遺跡はずいぶんと広大だ。えーっと、現在地は、ときょろきょろ見渡すと、化石ポケモンのオブジェが目印の一番でっかい建物が見える。えーっと、ってことは。なるほど、ゲーム中じゃちっちゃい民家だった研究所は、こっからでもわかるくらいでっかい建物になってるわけだ。写真とカラフルな色遣いでわかりやすく説明してくれている観光案内もお供に、読み込んでみる。研究所は博物館と併設されているらしい。どうやらジョウト地方各地のポケモンにかかわる伝説や伝承が集まってるらしく、図書館やミニシアターなんかもあって、こういった分野に興味がある人にはとても居心地いい施設らしい。観光客や見学にきた子供づれ向けのツアーも何回か行われてるみたいだけど、俺はあんまりパック旅行は好きじゃないから、どこ回ろうか迷う。どういった理由かまでは知らないけど、入場料無料だし一日つぶせそうだ。



気になる、めっちゃ気になるぞ、どこもかしこも。どうすっかなあ、今日一日観光ってのも悪くねえなあ。俺はにやにやしっぱなしだった。世界不思議発見とか地球大紀行とか大好きだ。こういった分野は触れるだけでロマン感じてわくわくする。ましてやゲームやアニメじゃ分からねえポケモンやこの世界の人たちの歴史だって、たくさん発見できるに決まってる。わくわくしなくて、なんだってんだ、って話だろ?



「さーて、どこ行きたい?アリゲ、あれ?」



いない。腰のモンスターボールは5つ。あ、やべ、忘れてた。すっかり話しかけるのが癖になってるせいで、モンスターボールに戻したの忘れてたぜ。ってことはここまで、独り言状態だったのか!うわ、うわ、うわああああ。羞恥心が襲ってきて、俺はひっそり悶えるはめになった。さいわいウソっキーのせいで客はまばら、きっと聞かれてない、といいなあ、聞かれてたら死ねるぞぎゃあああ。



カミングアウトすると、俺は怖いものが苦手だ。だからアルフの遺跡で連れ歩いてるポケモンがする反応は、ゲームでこそ、こえーなおい、と笑ってられたけどリアルにされたら絶対今日寝られなくなっちまう。警戒するのはまだいいとして、いきなりありもしないものに反応してびくっとされたり、振り替えられたり、しかも俺の後ろにむかって吠えられたら無理だ、絶対無理。霊感といった分野はどんかんなおかげで、生まれてこのかた幽霊や妖怪といった人ならざる者を見たことも聞いたことも感じたことも、ラップ現象といった非現実的な現象に遭遇したこともない。一切ない。ないんだけど、それゆえのこわさってもんがある。ぶっちゃけるとマダツボミの塔は昼間に回ったから、ゴ―スにゃあってない。俺は、あれだ、映画や小説を見るのは平気なんだけど、後で風呂入るときに鏡見れなくなったり、二階から一階に下りるときに背後が気になって仕方なくなるタイプ。無駄に想像力が豊かすぎるせいで、怖がっちまうタイプ。なっさけねーとは思うんだけど、どうしようもねえ。だーもー考えんのやめよう。とりあえず展示品をみてくか、観光客が少ないってことは結構ゆっくり見れるはずだ。うすら寒くなってきたのを無視して、俺は駆け足で研究所に向かった。



















あーおもしろかったぜ!気づけばすっかり日が昇ってる。これで一通り博物館内は回ったはずだ。休憩所で腰をおろした俺は、ミックスジュースを飲みほした。どうでもいいけど、250円ってぼったくりだよな。結構疲れたけど、あとは公開されてる遺跡でもいってみっか、と立ち上がった。




こう、壁にびっしりアンノーンが彫り込まれてると不気味だな。古代のポケモンの象とか実際に目にするとけっこうでかいし、けっこう怖い。なんか憑いてるんじゃねーだろうな?内心びくびくしながらガイドさんにはなれないよう、ついていく。


ガイドの姉ちゃん以外、俺しかいなかった。まさかのマンツーマン。結構気まずいなあ、と考えていたのは俺だけだったようで、お姉さんは子供の相手も慣れているのか結構気さくに話しかけてくれた。曰く、やっぱり俺くらいの子供がたった一人でここに来るのは珍しいらしい。将来は博士になるのね?といわれ俺は苦笑した。悪いけど、俺、学生時代は数学大っきらいだったかんな、たぶん無理だと思う。楽しいのは事実だけど。まあ普通は俺くらいのガキだとバトルとかポケスロンの方が面白いんだろうけど、なんせジョウト地方は10年ぶりだしな、懐かしく観光するってのもありだと思う。こうでもしないとアイテム回収とアンノーン図鑑完成以外、一切来ることのない場所だったりするしな、うーん、あとは例のトラウマラジオを聴きにか?今だにべったりアンノーンにはりつかれたのが忘れらんないぜ。


説明を聞きながら、時折質問(やっぱホウエンやシンオウについても触れなくてどうする!と絡めて話したら、よく知ってるのねえ、と流されちまった。あれ?若干ひかれてる?)しながら進んでいく。そして外に出た俺たちは、小さな遺跡へ足を踏み入れた。一般開放されている遺跡の一つらしく、中央に古代ポケモンを形作ったレリーフが置かれている以外は、何もないこじんまりとしたへやだ。ライトがついてるけど薄暗い。なるほど、ここが完成するや否や、いきなり地下の遺跡にたたきおとされる理不尽なやつか。ゲームでも思ったけど、すっげー地味だなおい。せっかく最後に来るんだから、もっとおいときゃいいのに、展示品。この石ころのどっかに化石があるから、探してみよう!あったら持って帰っていいよ!的なものを。まあいいや。俺はパズルの前に立った。説明ヒントを見る限り、カブトだろう。うし、がんばるぞ。ピース1000個は予想外だけど。













「頼むぜ、ヨルノズク」



さすがに完成すると同時に、テンション高いアラームなって、がこん、ぴゅー!はいやだから一応最善の策を取っておく。手渡した最後のピースを受け取ったヨルノズクが、そうっとレリーフの中央にかけらを埋めこむ。さーくるぞくるぞ。お姉さんがやってあげようか?とガイドさんに言われたんだけど、代わりにこの人が落ちたらダメだろってことで断ったら、くすり、と微笑ましげに笑われたのはちょっと堪えたけど、まあいっか。つか、大丈夫、そのうち大きくなれるわよ、ってなんだよおい。いやいやいや、別に届かねーわけじゃねえよ、断じて。つま先立ちすればかろうじて届くんだよ、ちくしょう!150cmって小さすぎるっつーんだ!



アラームはこないけど、がこん、という音と遺跡全体が揺れる衝撃が走って、とっさにしゃがみこむ。ガイドさんの悲鳴が反響する。足場が見事になくなっていた。ヨルノズクが驚いてパニックを起こしたのか、天井付近を旋回する。




「大変だわ!ちょっと、スタッフ呼んでくるから、外に出ましょう?」

「ヨルノズクが暴れちゃってるから、戻したらでるよ!」

「なるべく早くね!」

「うん!」



いや別に遺跡がもろくて底が抜けたわけじゃねーんだけどな。ヨルノズク!と何度か叫んでアピールしてやると、気がついたのかこちらに下降してくる。鷹匠がつけてるような肩当ては高すぎたから、なけなしのガードをつけてあっから蹄は大丈夫。問題はすっげー重いこと。ゲームでも思ってたけど、ずーっと滑空してんだよな、ヨルノズクって。たまには休ませてあげないとかわいそうだなあ、と思った次第。さーて、と石碑の後ろの石壁をみてみると、「ANANEKE」と書かれた扉が現れた。待ってました!早いところガイドさんが帰ってくる前にアイテム回収しねえと。いやあ、トレジャーハンターっぽいよなあ、あはは。え?墓荒らし?泥棒?RPGの鉄則じゃないか、あはは。まじで捕まるとしゃれにならんから、急ごう。今の時点で星のカケラとか金の球は切実にほしい。どうすんだ、とこちらをみるヨルノズクの前で、リュックからあなぬけのひもを取り出した俺は、使っていったん外に出た。げっ、もう人きちまった!最悪だ、アイテム回収できねーじゃん。



「いたいた!大丈夫だった?ボク!(俺はどこの夏休みだよ)」

「大丈夫大丈夫、おいらならこの通り」



にこにこ、と笑うとほっとしたように研究員やスタッフ、ガイドさんがため息をつく。事情を説明した俺は、追加した。



「よくわかんねえけど、あのパズルの後ろの方に、「ANANNUKE」って書かれた変な扉がでてきたぜ?ちょうどあなぬけのひもがあったから、使ったんだけど、なんかあっかな?」



関係者の人たちが一斉にざわめく。そして、だだだっと遺跡に行ってしまう。小さな空間だから大人はあんまり入れないと思うんだけどなあ、と覗き込んでみると、歓声が上がった。あーあ、これじゃ、お供え物のアイテム回収は無理かなあ、古代の人のやつだし。ひっそりため息をつくと、なにやら研究者の人がすごい勢いで走ってくる。驚いて顔を上げた。



「すごい!すごいよ、君!このレリーフは頻繁に発掘されるものだから、だれも目を向けずに、一般向けのパズルとしていたんだが、とんだ落とし穴だった!ずっと探してきた、秘密の個室への道がこんなところにあるとは!よかった、よかったよ、遺跡に穴をあけなくても済むんだ!助かった!是非、名前を教えて食えないかね?お礼がしたいんだが」

「へ、へえー、じゃあオイラ、け、結構すごいことしちゃったんだ?」

「ああ、そうとも!」

「へへへ、オイラはゴールドってんだ、ポケモントレーナーやってる。よろしく!」

「ああ、よろしく。そうか、ポケモントレーナーか、ということは観光できたんだね?残念だなあ、せっかく期待の若手が来てくれたかと思ったんだが」

「ごめん。オイラ、理数系の科目、全部苦手だから、こういうの好きだけど向いてないんだ」

「はっはっは、そうかそうか。じゃあ仕方ないなじゃあ、ゴールド君にお礼としてこれを上げよう」

「おおう、これは?」

「時々、差し入れにもらうんだが、どうも味が好きではないんだ。トレーナーの君なら重宝するんじゃないかと思ってね。私たちはポケモンバトルには疎いから、なかなか使う機会がないんだよ。使ってくれたまえ」

「ありがとう!」



なんと研究員のおっさんは、貴重な木の実がはいった木の実袋をくれた!へー、木の実って人でも食えるんだ。えーっと、中身はっと。すっげー!オボンの実とラムの実が10個も入ってるじゃん!サンキューありがと、おっさん!とつい口にして、お・に・い・さ・ん・だ・よ、と口を引っ張られてしまった。痛い痛い、ごめんなさい。赤くなってしまった頬をなでていると、奥から声がした。どうやら行くらしい。



「オイラもいっていい?」

「うーん、すまないが、さすがにそれはできないなあ。これからいろいろ調べなきゃいけない。追い出すようで悪いけれど、ごめんね」

「やっぱかー、ちぇー」



予想された範囲とはいえ、実際に古代の人が残した文章を見られないってのは、残念だ。アイテム回収もあったけど、こっちの方が楽しみだったんだけどなあ。ぶーたれる俺に、困ったようにおっさんは頭をかく。



「調査ってどれくらい?」

「だいたい3カ月から、半年くらいかけてやるね」

「うそお、そんなにかかっちまうのか!じゃあ、それくらい後になったら、来ていいよな?何が出てきたのかくらい、教えてくれよ!」

「ああ、もちろん。たぶん、調査がすんだら、特別展示、って形になると思うんだが、遺跡の保存状態がよければ、特別にあの中に入れてあげよう。待ってるよ」

「あったりめえよ!楽しみにしてるぜ、お兄さん!じゃあ、調査がんばって!」

「ああ、ゴールド君もね」



俺はその場を後にした。





















ひょえー。やっぱり博物館のカフェは高い。店の前に出されたメニューを見て気が変わった俺は、お土産屋までもどって弁当で済ませることにした。袋をぶら下げて、ちょっと遠いけど離れた場所にあるスポーツ公園を目指す。なんでもおととい、アルフの遺跡の一般公開を記念したバスケットボール大会があったらしい。ポケスロンみたいなもんかな?見たかったけど、おとといなら仕方ないな、キキョウジム打倒を目指してひたすらレベル上げしてた時だし無理だ。


どうやら今日は休館で総合体育館はあいてないらしい。でも今日はいい天気だし、外で食べるのがいいだろう。しばらく歩くとバスケ大会があったらしいフィールドが見えた。近くに観客席もあるし、ここでいっか。俺はポケモンたちを外に出してやる。4匹もいると食費がかかって仕方ない。でもさすがにポケモンセンターまで引き返すのは気が遠くなっからパス。腹減ってるし、って言ってるそばから集るなお前ら!よっこいせ、と座って、片っぱしから封を開けていく。待て、状態だからみんな目をキラキラさせて、よだれたらしてるやつもいるけど、待っててくれる。うーん、これで人数分か?うし、じゃあ、いただきます!4匹分歓声が聞こえた。焼きそばパンにありつこうとした俺は、草むらの音を聞いて振り返る。なんだなんだ、まさかポケモンか?



「あ、ごめんね。邪魔しちゃったかな?」



人だった。俺はほっとして焼きそばパンをまた手にする。あーもーこら、アリゲイツ、お前にはハンバーガーあげたろ?横取りすんじゃねえよ。なんとか死守したと思ったら、今度はライチュウが俺のアグラかいてる上に飛び込んでくる。まてまて喰いながらこっちくるなよ、汚れちまうだろうが!わらわらとみんな調子にのって近づいてくる。ヨルノズク肩のんな、食えねえよ。つかイシツブテお前まで俺のポテチ喰うな!だーもーお前ら、落ち着け!と一喝して黙らせる。はあ、と一息。ぽかんとしてるそいつに俺は笑った。



「あ、いや、驚いただけだから、気にすんなよ」

「そ、そうかい?あははっ、ずいぶん楽しそうなランチタイムだね。そっか、もうそんな時間か。ついこのあたりのポケモンたちを観察してたから、気付かなかったなあ」

「もう1時すぎてるよ」

「本当に?あちゃー、またやっちゃった。そうだ、ねえ、せっかくだし僕も一緒にいいかい?」

「どーぞどーぞ、ただ、やんねえぞ?」

「あははは、大丈夫、お弁当もちだから心配しないで」



軽口をたたきながら、そいつは近くに寄ってきた。そしてポケモンを出す。ものの見事に虫タイプばっかりだ。興味津津のポケモンたちに、そいつは笑う。弁当は自作なんだろうか。



「僕は虫使いのツクシ、よろしくね」

「オイラはっと、うーん、肩書きできるような縛りしてないしなあ、まあいいや、ゴールド。よろしくな」

「よろしくね。好きなポケモンが虫タイプだっただけで、意図的に縛りはしてないよ。そうそう、ゴールド、君珍しいポケモン連れてるね」

「まーな」

「よかったら、観察させてくれないかな?僕、ポケモンの調査をしてここまできたんだ。せっかくだからさ」

「おう、いーぜ?その代わり、2つほど質問があるんだけどさ、いい?」

「なに?」

「ツクシってさ、僕っ子?それとも男?」

「な、なにいってんの、ゴールド!失礼にもほどがあるよ。僕は男だ!」

「つーかジムはいいのかよ、リーダー」

「あは」



ヒワダタウンジムリーダーの歩く虫ポケ大百科こと、ツクシがなーんだばれてたのか、と舌を出して笑う。やっぱり男にしては疑問符が、といいかけたら殴りかかってきたので、よけた。あぶねーなおい。


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