第82話

見渡す限りバトルポイントで交換することができる商品が陳列した棚が並んでいる。
さすがはバトルフロンティアだぜ、品ぞろえがハンパない。好奇心が刺激されるなあ。
入り口にあるカートを引っ張り出して、2つほどかごを並べた足取りで先を急ぐ。
案内看板を頼りにお目当てのコーナーに直行したオレを待っていたのは、
フレンドリィショップにおいてあるアイテムや限定デザインのメールのコーナー、
トレーナーズマーケットの看板だ。もったいないからここはパス。
バトルの間に使える能力アップの道具、バトルコレクション。ここもパス。
ポケモンの努力値を上昇することができるアイテムやふしぎのあめがあるメディシンボックス。
ここはジョウト地方を制覇して、努力値がリセットできる木の実が入手できたらだな。
スルーしようとしたら、後ろを歩いていたクリスがちょっと待ってって声を上げた。



「ゴールドがいってたのってここのこと?」

「え?」


目を輝かせているクリスの視線の先には、もようがえに使える壁紙やぬいぐるみ、
そしていろんなデザインのアイテムが山積みになっていた。
おっきいぬいぐるみを見ると無性に心引かれるものがあるんだけど、
今回は我慢だ、我慢。いつかバトルポイントが溜まったらラプラスとカビゴンゲットしよう、
と泣く泣く今回は見送ることにする。


「あー、うん。そうみたいだな」

「すごーい、こんなに一杯あるのはじめてみたわ。さすがはバトルフロンティア。
 目移りしちゃう、どうしよっかなあ。あ、ゴールド、アタシここにいるね」

「りょーかーい、そんじゃオイラはあの先にいっからさ」

「わかったわ。じゃあ後でね」


ひらひらと手を振ってぬいぐるみコーナーに直行していったクリスとマリルリと見送ったオレは、
じゃあ行こうぜってオーダイルに笑いかける。大きく頷いたオーダイルは顔を上げた。
オレも釣られてその先を見上げると、本日のお目当ての看板がようやくみつかった。
お待ちかねだぜ、わざマシンコーナー!いよっしゃ、って意気揚々とオレは商品棚に直行した。
くしゃくしゃになってるパンフレットを広げて、マジックで印を付けたわざマシンを探しにかかる。
つーか棚の高さがオレの背伸びした範囲よりもはるかに上ってどういうことだよ。
足の踏み台どこだっけ、と辺りを探してみたけど見つからない。くっそー、これだから子供の体は不便だなあ!
はあ、と地味にショックを受けながら、オレはパンフレットをオーダイルに差し出した。
にやにやすんなよ、相棒。くっそー、170ごえだからって調子にのるんじゃねえよ、ばーか!
恨めしげに見上げていたら、オーダイルが優越感をあからさまに誇示しながらわざマシンを差し出してきた。
あ、さんきゅー。えっと、これはストーンエッジか。86BPだな。
ケースに入っている色違いのCDを確認しながら、オレはカゴの中に放り込んだ。
普通の技マシンはCDケースの中に入っていて、そのデータをモンスターボールの中に転送して登録する。
そして、使い勝手はDVDでもある実践を見ながら覚えさせるのが普通なんだけど、
そういや教え技ってどうやって覚えさせるんだろう?じいさんかばあさんか、その手の達人に預けるのかな?
お買いあげしたらそこのお姉さんにでも聞いてみよう。これと、あれと、それと。
ポケギアに入ってる電卓機能でちまちま計算しながらがんばる。よし、なんとかこれでセーフだな。
オレの進行方向の先には、バトルでおなじみの縛り系アイテムが並んでる。パワーアンクル系は今回パスだ。
あとは・・・ハチマキ系とタスキ系は入手してあるから、あとは牙か、爪ってところ?
・・・・・・・・どうしようかなあ。
月曜日に40番道路で、ツキコさんに会えば入手することができるはずだから、
わざわざ入手しなくてもいいってのはある。でも会いにいくのもめんどくさいしなあ。
んー、と思案しながらわざマシンが揃ったことを確認しつつ、持ち物アイテムコーナーに向かう。
さて、どうしよっかなあ、と目配せしたオレは、すこし低くなった棚の向こう側にポケモンの文字を見つけた。
え?もしかしてゲームコーナーみたいにポケモンも交換して貰えるのか?
ちょっと心引かれて背伸びしてみると、そこにはジョウトとカントーでは交換でしか入手できない
ポケモンたちが並んでいた。おー、こんなコーナーもあるのか、すごいな。
・・・・・・でもゲームコーナーでゲットできるポケモンばっかりなのはずいぶんと微妙なラインナップだこと。
これはあれか、ランクが上がったら取り扱いのポケモンが増える仕様なのかな。
ポリゴン、バリヤード、イーブイあたりが珍しいけど、イーブイはマサキから貰えるしまあいっか。
・・・・ちょっと待てよ。見本として並んでいる画像を見つめたオレは、思わず交換チケットを掴んでいた。










白いニット帽をかぶった黒髪の男の子から、モンスターボールが投げられた。
大型船を引っ張って泳いだり、重さが1トン以上ある岩の塊を
軽々と持ち上げてしまうパワーを持っていて、一振りだけでその岩を粉々に砕いてしまう
自慢の剛腕を振り回しながら、彼の相棒は高らかに咆哮する。
濁った水中の中でも見通せる目を持っているうおぬまポケモンがあらわれた。
ジェットスキーと同じくらいで泳ぐくせにアクアジェットが覚えられない謎仕様な、
初心者トレーナーが選べる御三家の中では、間違いなく最強の一角を担っている
ポケモンの登場に、思わずオレは声を上げて釘付けになる。
技マシンやアイテムを山のように積み上げているカートをガラガラひいて、
大画面で表示されているリアルタイム中継の休憩所のテレビに向かって突撃した。
え、うそ、マジで!?すげえ、すげえ、スイト、見てみろよ、ラグラージじゃねえかっ!
興奮状態でオーダイルを引っ張ってきたオレは、周りのことなんか全然お構いなしで、
見ろってば、って今まさに始まろうとしている大迫力のポケモンバトルの前を占拠する。
めずらしいポケモンの登場にボルテージが最高潮なバトルタワー会場のせいで、
肝心のラグラージの持ち主の声が聞こえないんだけど、指示を飛ばしてる男の子が
カメラに写り込んだ瞬間、オレはまっじでかーっと思わず拳を握り締めてしまう。
間違いない。絶対に間違いない。ルビー、サファイア、エメラルドの男主人公じゃねーか!
なんでジョウト地方のバトルフロンティアにいるんだよ、え、なにこれ、どっきり?
すっげえ、と目を輝かせて勝手に盛り上がっているオレに、完全に置いてきぼりを
喰らっているオーダイルはオレの隣でじいっと大画面を見つめていた。
お隣さんだったらヌマクローどまりのはずだから、絶対にこいつ男主人公にちがいない。
センリさんの一人息子にちがいない。センリさんの弟子だったっていうアカネに聞けば
名前分かるかな、あーくっそ、なんで電話番号聞いてないんだろう、オレとしたことが!
バトルフロンティアに挑戦してるってことは、ホウエン地方制覇したってことだよな?!
リーグチャンピオンだってことだよな!?くっそ、出遅れた!今すぐ逢いに行きたいのに
バトルフロンティアに入り浸るだけのスペック持ってない!なんという肩すかし。
勝手に悩んで勝手に落ち込んで、はあ、とため息をついたオレはきっと、
百面相してたに違いない。ぽんぽん、とオーダイルに肩を叩かれた。
また始まったオレの一人劇場についていけないらしく、フォローしようにもオレの
実況解説がついていないものだから、どういうことなのかよく分かってないのがありありと浮かんでる。
わかった、わかった、大人しく観戦してればいいんだろ、くっそう、とぼやきながら、
オレはテレビ画面に視線を戻した。
美しい砂浜が生息域のラグラージは、波音や潮風のわずかな違いをヒレで感じて、
津波や嵐を予感すると岩を積み上げて巣を守る習性がある。
嵐の到来を確信したのか、ラグラージは彼に向かって警戒を促した。
その瞬間、放り投げられたモンスターボールから放たれた光を中心に、
一気にフィールド上が砂嵐に包まれる。名物実況で有名な男の人が興奮気味に叫んでいる。
相手が繰り出してきたポケモンには見覚えがあるオーダイルは、
さっきよりも食いつきがいいのか、ぐいっと首をもたげて視線がくぎ付けになった。


うっわー、さすがはバトルフロンティア。初っ端から600族の登場ってかっ飛ばしてる!
砂嵐の向こう側から現れたのは、背中にいくつものとげを生やした怪獣のような体格に、
青いひし形の模様がついた胴体と腕、頭部にはつのを持っているポケモンだった。
辺りに響き渡る牽制おびた鳴き声がフィールド上に響き渡る。地鳴りがした。
薄い緑色の皮膚は非常に強靭で、びくともしない貫禄をみせている。
周りを気にしないふてぶてしい顔はオレもオーダイルもよく覚えている個性だ。
好戦的なまなざしをラグラージに向けるのは、バンギラスだった。
そうそう、これだよ、これがオレの知ってるバンギラスなんだよ。
やっぱり真っ黒バンギラスはかっこいいけど違和感が半端なかったからなあ、
こっちの方が見慣れてるから落ち着く。これが普通のバンギラスだぜってオーダイルに教えてやった。
バンギラスのトレーナーにカメラのアングルが移され、画面が切り替わる。
赤い髪飾りで長い髪の毛を結い上げている眼鏡をかけた女の人が現れた。
男主人公よりも年上っぽいからオレより年上のお姉さんだ。
モンスターボールがデザインされてるノートパソコンを構えてる。
これは砂パのヒトミさんじゃないか。メタグロスとバンギラスを持ってるガチパの人!
たしかダイパにもゲスト出演してなかったっけ?映画の冒頭で男主人公と戦ってる
場面があったはずだから、今まさに再現されてるってわけだ!これは見逃せない!
お姉さんと男主人公の声が全然聞こえないのがものすごく残念だ。
でも、やっぱり3Dのテレビは迫力が違うなあって思いながら、
完全に観戦モードに入ってしまっていたオレに、はあってため息が聞こえた。


「ゴールド、何やってるのよ、こんなところで」

「え?あ、クリス」

「あのねえ、バトルファクトリーに行くんじゃなかったの?
 すぐに終わるから待っててくれっていったのゴールドじゃない。 
 なんで休憩スペースでテレビに張り付いてるのよ、もう」

「……あー、あはは、わりいわりい普通に忘れてた。
 ごめんごめん、これ見終わったらすぐに行くからさ、ちょっと待ってくれよ」

「だーめっ!」

「えー」

「もー、アタシ、バトルフロンティアのこと全然しらないから、
 ゴールドがいなかったら、困るの!お願いだから早くいきましょうよ」

「えー、いいじゃねーかよ、ちょっとくらい」

「だめったらだめ!もう30分たってるじゃない。
 女の子の買い物は長いからファクトリーで会おう、現地集合なって
どっか行こうとするから、手短に済ませたのにずるいよ」

「うっ……わかったよ」


がっくり肩を落としたオレは、ラグラージがバンギラスめがけて冷凍ビームを発射したところを合図に、レジに直行することにした。


「あ、そう言えばクリスってアカネと仲いいんだっけ?」

「え?あ、うん、そうだけど。アカネちゃんはアタシの親友だけどそれがどうかしたの?」

「ほら、ラグラージってたしかホウエン地方でもらえるポケモンだろ?
アカネの前のジムリーダーだった人がホウエン地方に転勤になったって
 話を思い出してさ」

「あー、センリさんのことね。奥さんと2人のお子さんの4人で、
隣町のミシロタウンに引っ越しちゃったの。
 毎日歩いてジムに通ってるってアカネちゃんがいってたわ」

「へー、そうなんだ。ジムリーダーの子供ってことはすっげー強いんだろうなあ」

「こっちにいた時にはまだポケモン持ってなかったのに、今やチャンピオンなのよ?
トレーナー始めたのはホウエン地方に引っ越してかららしいから、すごいなあ。
 久しぶりにこっちに帰って来るって電話があったってママがいってたから、
 今度育て屋ファームに帰ろっかなって思ってるとこなの」

「へー、それじゃあここにも入れるんだな」

「あ、そっか。そうよね。ホウエン地方にあるバトルフロンティアとは違うらしいから、
 今度あったら案内してあげよっかな」


あ、あれ?なんでクリスのやつ、思いっきり画面を見てたのに反応しないんだろう?
楽しみだなあって笑ってるクリスとマリルリの様子に、すっかり肩すかしを
喰らってしまったオレは、疑問符を浮かべながらカートを押した。
あの口ぶりから察するにホウエン地方の主人公と友達らしいクリスのことだから、
バトルをしてる友達の姿を見たら間違いなく反応すると思ったのに。
あって大きな声を上げることを期待してたのに、思いっきりスルーされちまったぞ?
もしかして、この世界のホウエン地方主人公は、女の子のほうか?
センリさんの子供って女主人公の方か?塾帰りな弟がいる方か?
そっかー、さっきの男主人公はオダマキ博士の息子で、妹がいるほうか、お隣さんか。
よかった、よかった、最後まで御三家を育てないで博士の助手ポジションになるって
宣言する歴代最弱ライバルとまで言われちまう風評を見事払しょくしてくれたわけだ。
まあミツルがライバルだもんな、仕方ない。ユウキはお隣さんだったし。
……でも、あのラグラージを超えるパーティ持ちってことだよな、女主人公。
どんだけ強いんだよ、おい。
そんなことを思いながら、オレはようやくやって来たレジのお姉さんに籠を差し出した。
ぴ、ぴ、ぴ、とバーコードが流れていく。3ケタあったポイントがあっという間に雀の涙。
これだからバトルフロンティアは恐ろしいぜ。遠い目をしているとクリスが笑った。


「なんか豪快だよね、ゴールドって」

「え、そーかあ?」

「いつもは拾ったアイテム、ほとんど換金してるくらいの節約家で、自分には使わないし、
 回復は木の実ですませちゃうのに、いざって時には一気にお金つかっちゃうじゃない?
 だからお金が貯まらないのよ、きっと」

「なっ!?うっせえやい、余計なお世話だ!オイラだって好きで貧乏トレーナーやってるわけじゃないんだよ!」


クリスは声をあげて笑った。


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