第81話

バトルタワーは、いろんな施設が複合しているためか、階層によって大きく印象が変わる。
一番屋上にはバトルフロンティア全体を見渡せる展望デッキと飲食スペース、グッズ
なんかが軒を連ねているためか、観光目的でやって来た人たちでいつもにぎわってる。
展望スペースのすぐ下の階層は商業スペースになっていて、有名な会社のオフィスがある。
だからオレたちが向かう先は色んな会社のテナントが入ってる階層で、
みんな大好きバトルタワー設備が整っている階層を一気にスキップしてエレベータが直進だ。
凄まじい勢いで上昇するエレベータ。どんどん加速していく階層番号。
ガラス張りのエレベータからはバトルフロンティア全体を見渡せる景観が望める。
すっげー、と声を上げるオレの横で、耳の奥に変な感じをおぼえているオーダイルは、
さっきから両耳を気にしている。つばを飲み込むといいらしいぜって教えてやれば実践してた。
ふわふわと宙に浮く感覚が普通よりもずーっと長く続くことが怖いのか、
マリルリはさっきからクリスの足元からちっとも離れようとしない。
小っちゃくなっていく人混みをちら見して、とてつもなく高い世界に圧倒されてしまったらしく、
思わず目をそむけたマリルリは、もう二度と景色は見てやらないとばかりにきつく目を瞑っている。
楽しいのに、って残念そうに肩をすくめるクリスは、後ろに回り込んで小さくなっているマリルリにため息をついた。
そっか、クリスは飛行要員を持ってないから、空を飛ぶをやったことが無いんだな。
オレは分身ルギアに乗っけてもらったことがあるから大体予想つくし、
ガラス張りのエレベータなんて元の世界で観光で何度か行ってきたことのあるレベルだ。
心の準備は出来てた。うん。でも、やっぱり進んでガラス窓の世界に首を突っ込もうとは思ってない。早くつかねえかなーって待ってたら、いきなりアラームが鳴り始める。
さすがにびっくりしてエレベータを見上げたら、ふっとあたりが暗くなる。
え?ちょ、え?なんだよこれ、なんかあったのか!?いきなり世界が闇に染まる。
クリスたちの悲鳴が響く。ぐいって引かれる腕にぎょっとしてたら、盛大に足を踏まれた。
いってえな、誰だよ!びっくりして声を上げたら短く鳴いたのはオーダイルだった。
ちょっとしたパニック状態になってると、唯一の光源であるボタンの近くにいたお姉さんが、
全てのボタンを押しながら振り返った。黒いシルエットだけが響いている。
緊急ボタンを押した彼女は、慣れた様子で外部と繋がってるボタンを押して、停電になったと知らせた。
エレベータは動き続けている。どこまでも落ちていくような錯覚にとらわれてしまい
さっと血の気が引いたオレの耳に、最寄りの階層で止まるというアナウンスが流れた。

「ふう、びっくりしましたね。最新式のエレベータでよかったです。
非常用電源が作動したらしいので、どうやら停電らしいですね。
 最寄りの階で停止してドアが開くようになっていますので、安心してください」


落ち着き払ったお姉さんの声が響く。オレはとりあえず息を吐いた。あーよかった。


「滅多にないトラブルなんですが……どうしたのかしら」


しばらくして、ようやくエレベータの扉が開く。
あーこわかった、と大きく息を吐いたオレは、ばたばたばたと走り出す。
少しでも早く暗闇の棺桶から逃げ出したくて、一目散に踊り場に出た。
急に明るい所に出たものだから、目がくらんでスス渡りがまぶたの裏にちらついた。
後ろから腕を掴まれそうな気がして、連れ去られないように窓枠に捕まりながら、
明るい太陽の木漏れ日が差し込む窓ガラスを見下ろした。
後ろでクリスとマリルリがこっちをみて笑ってる気配を感じるけど知るもんか。
怖いもんは怖いんだよ、わるいか!くっそ、今日風呂に入るときに鏡が
見れなくなっちまったらどうしてくれるんだよ、無駄なトラウマ残しやがって。
恨めし気にぼやくオレの背中を叩くのはオーダイルだった。
バクバク言ってる心臓がうるさい。はー、と何度目になるか分からないため息をついて、
ようやくオレは眼下に広がる遊園地みたいなパラソルの施設を見下ろせた。
ここより少し上には電気を供給する電線が走っているようで、
長い長い黒いケーブルがしなりながら、風に吹かれて揺れていた。
それを目で追っていたオレは、豆粒みたいに小さい何かがちょこまか動いてるのを見つけた。
そのすぐ下ではたくさんの黒山の人だかりが出来ている。なんだ?
目を凝らしてみると、警備員らしき服を着てるメットを被った人たちが、網を持って奮闘しているのが見えた。


「なあなあ、クリス、あそこなんかいるぜ?」

「え、どこどこ?」

「あの電線の上んとこ」


指差すオレにつられてオーダイルたちが窓ガラスに集まった。
あー、と声を上げたのはフロントガールのお姉さんだった。


「どうやら停電の犯人はあの子たちみたいですね。いたずらをしたい盛りなのか、
 よくファームから脱走するので困ってるんですよ。元気なのも考え物ですね」


くすりと笑ったお姉さん曰く、トラブルメーカーこと問題児の正体は、
ホウエンからやって来たお騒がせな応援ポケモンであるプラスルとマイナンらしい。
いわれてみれば、兎みたいな耳と丸いほっぺ、ちょっと変わった尻尾を持っている
小型のポケモンであることがなんとなくわかった。さすがはピカチュウリスペクト。
お姉さん曰く、大型スクリーンで対戦しているポケモンたちの熱気にあてられて、
もともと仲間を応援する習性がある彼らが白熱した結果がさっきの停電らしい。
身体に貯めた電気をショートさせて音を立てるプラスル達は、
とびちる火花をポンポンみたいに弾けさせながら応援し、
応援してる方が負けそうになると火花の数がどんどん増えていくらしい。
プラスル達がここに来るきっかけは、頻発する停電トラブルの原因を調査していたら、
路上バトルを観戦していたプラスル達が応援をするために電柱やら電線を駆け回っていたから。
電気の供給源は主に電柱だったらしく、すっかり味を占めてしまったプラスル達は、
本来の生息域に放たれても、結局帰ってきてしまい、堂々巡り。
最終的に捕獲されたプラスル達はいろんな施設をたらい回しにされて、ここに流れ着いた。
雨になったら大人しいんですけど、と水嫌いな一面を教えてくれたお姉さんは苦笑いだ。
なんでそんなに詳しいのかといえば、プラスルとマイナンの電気を同時に浴びると
血行が良くなり、こりをほぐす効果があるとポケモン学会が発表したものだから、
人なれしてる彼らは主にそっち方面でスタッフたちに愛されてるらしい。
バトルフロンティアではある意味風物詩の脱走劇は、警備員のポケモンが繰り出した催眠術で終了した。
そして、予定より手前の階で降りてしまったオレたちは、
階段を使ってロンド博士の待つオフィスゾーンまで歩く羽目になる。





ようやくたどり着いた踊り場の先にいたのは、
オールバックで黒い上着と灰色のスーツを着た研究者らしき人だった。
後ろ姿でなければお出迎えだろうと思えたんだけど、駆け足で反対方向に向かってしまう。
その先には、その男の人と同じこの辺りでは珍しい髪色をした男の子がいた。
白いキャップがついた水色のパーカーを着ている男の子は、
キャップの大きさを調整する紐にポンポンがついているせいでオレくらいなのに幼く見える。
力強く握り締めている右手にはいくつもの鍵がつられている輪っかが握られていた。
なにやら険しい顔をしている男の人を男の子は睨みつけている。
だれだろう?とクリスと首をかしげていると、お姉さんがぽつりとつぶやいた。


「ロンド博士とトオイ君だわ」

「トオイ?」

「ロンド博士のたった一人のお子さんなんです。どうしたのかしら」


オレたちの存在に気付かないまま、廊下に二人の声が大きく響いた。


「何をしているんだ、トオイ」

「パパ」

「ここには入ってきちゃダメだと何度言ったら分かるんだ」

「・・・パパには関係ないよ」

「そんなことはないだろう。その手に持っているものはなんだ。
 私の研究所に入るためのマスターキーだろう?返しなさい」

「・・・やだ」

「返しなさい。こら、トオイ!」

「・・・やだよ」

「あそこにはいったらダメだと何回言ったらわかるんだ。
 頼むから私を怒らせないでくれ」

「やだっていってるだろ!僕から友達を取り上げないでよ、パパの意地悪!」

「こら、トオイ!」


あの先の通路は行き止まりだ。
それを知ってるのか、トオイはロンド博士の脇を潜り抜けて一目散に走りだした。
制止を促す父親の言葉なんて知らないとばかりに全速力でこっちに向かってくる。
そこでようやくオレたちに気付いたらしく、ロンド博士が止めてくれって叫んだ。
事情をイマイチ呑み込めないまま、クリスがマリルリと一緒にトオイを止めようとする。
ここでようやくオレはすぐそこまでつっかかっていた記憶が蘇ってきて、
慌てて前に立ちふさがるために飛び出そうとするオーダイルの手を掴んで止めた。
なんで今の今まで忘れてたんだよ、オレの馬鹿野郎。
ホウエン地方の住人だからって完全ノーマークだったのは仕方ないにしても、
プルートみたいに名前が変わってるわけでもないのに本人目にするまで思い出さないとか
とんだ大ポカだ。ロンド博士とトオイといえば、みんな大好き伝説配布目的で
羞恥心を抱えながらゲーム機片手に向かった映画館で何度も逢ったゲストキャラじゃないか。
当時はデオキシスの入手方法はあれしかなかったんだよ。
いくら映画の入場者数に限界が来たからってあの商法は無いわといいつつ、
サブロムの分まできっちりお支払したオレにとっては記憶に新しい。
たしかこのトオイって子は……。突然オレから止められたオーダイルがびっくりして立ち止まる。
大声で助けをあおぐロンド博士を見て、いいのかと非難めいたまなざしを向けてくる相棒なんかお構いなしで、
オレはオーダイルを押しのけてマリルリのところに向かった。
ゴールド?って不思議そうに首をかしげるクリスはこの際無視だ。
両手を広げて止まって!と大きくアクションするマリルリを前にしたトオイ。
くそ、間に合わなかったか。


「うわああああっ!?」


こっちがびっくりするような大声が響いた。
突然態度が豹変したトオイにぎょっとしたマリルリは、きっと生まれて初めて拒否反応をみたらしく、
がーん、と盛大なショックを受けてすっかり涙目になっている。
すっかり腰が抜けてしまったらしく、大げさなくらい尻餅をついてしまったトオイは、
可愛そうな位青ざめてずるずると後ろに下がってしまう。
マリルリはますますショックを受けた様子ですっかり涙目だ。
すがるようにクリスを見上げている。オレはマリルリの手を引いてクリスのところに向かわせた。
わあん、とマリルリはクリスに泣きついている。
オレは迷わずオーダイルをモンスターボールに戻した。
そして振り向くと、オーダイルがいなくなってあからさまに安どのため息をついているトオイがいる。
これはオレの考えていた以上に重症のようだ。


「ごめんな、びっくりしただろ?大丈夫か?」


はっとした様子で顔を上げたトオイは、オレの他にクリスやフロントのお姉さんが
こっちを窺っているのに気付いて、唇をかんだ。振り返るとロンド博士がもうそこまで迫っている。
手を差し伸べようとしたが、空を切ってしまった。
ぎこちない足取りで立ち上がったトオイは、オレを押しのけるような形で
そのまままっすぐに階段とエレベータがある方向に走り去ってしまった。


「どうなさったんですか、ロンド博士」

「すまないがトオイをお願いできるかな。また研究所のマスターキーを持ち出してしまってね、
 このままだと何かあったら困るんだ」

「わかりました。では私はこれで失礼いたします」

「ああ、ここまで案内ご苦労様」

「はい、それでは」


それじゃあね、とカウンターガールのお姉さんはオレたちに軽く会釈して去っていった。
無線を利用しながらお姉さんの姿が見えなくなる。
他のスタッフや警備員の人たちに連絡を取ってるらしい。
大変だなあ、と思いつつ、オレはクリスと共にロンド博士のところに向かった。
ロンド博士は申し訳なさそうに苦笑いを浮かべた。


「すまないね、みぐるしいところを見せてしまって。
 ゴールド君とクリス君だったかな、私は室長のロンドだ。よろしく」

「あ、はい、よろしくお願いします」

「トオイが失礼な真似をしてしまってすまないね、マリルリ君。 
 トオイは少々ポケモンが苦手なんだ。大目に見てやってくれないか」


マリルリはパチクリしながらロンド博士を見上げる。
ポケモンアレルギーではないだけましだ、とロンド博士はつぶやいた。
ポケモンが心理的に受け付けない。異常なまでに強い恐怖と不安感を覚えてしまう症状。
汗をかいたり、動悸がしたり、体や手足の震えが止まらなくなったりする。
パニック状態になる。トオイはポケモン恐怖症なのだと教えてくれた。
さすがに原因までは教えてくれなかったけど、クリスとマリルリは、神妙に聞いている。
まあ無理もないけどな。トオイのポケモン恐怖症のきっかけはロンド博士の仕事の同行だ。
罪悪感や後ろめたさが見え隠れしてるロンド博士は、当時のことを思い出したのか表情が暗い。
氷山の崖から滑落した先で足が引っかかって身動きが取れなくなった時に、
パニック状態になったトドクラーの大群にまきこまれて、危うく潰されかけたんだ。
4年前って言えば、オレと同じくらいのトオイだから普通に考えて十歳にもなってない。
幼少期の記憶としては強烈すぎるほどの恐怖体験だ。ヘタしたら死んでたかもしれない。
大きなポケモンを見ると恐怖心を抱くのは無理もない。
オイからすれば大きいポケモンはフラッシュバックしてしまうから拒絶反応も無理ない。
ましてやオレが連れてるのはオーダイルだからなあ。
マリルリは可愛いからまだましとしても、オーダイルと同じくトドクラーたちと
色合いが似すぎてて無理なんだろう。こればっかりは仕方ない。
恐怖症なんて人にとって身近な存在が対象になる場合が多いから、
動物よりポケモンが人と近い存在なこの世界のことだ、ポケモン恐怖症の人がいてもおかしくない。
恐怖の対象になるポケモンと触れ合える機会に巡り合えたらいいんだろうけど、
トレーナーでもないのに日常生活で大型のポケモンとかかわり合うことは難しいと思う。
ペットとしては向いてないし。なかなか恐怖を克服したり、改善することがむずかしいんだろう。
バトルフロンティアは基本的に進化後のポケモンたちばかりだから、
進化前のちっちゃいポケモンたちはなかなか会えないんだろう。
焦っても上手く行かないのはお約束だ。
カウンセリングにしたって、自分に言い聞かせるのが一番の特効薬なんだから、
トオイはその気がないから難しいんだろう。
協力してあげたいけど、オレが連れてたオーダイルの反応を見る限り
嫌われちゃったみたいだしむずかしいかもなー。
うちのピカチュウはサトシのピカチュウと違って賢くないから
トオイの事情なんて説明しても分かってくれない。邪険に扱われたら怒って
ぱちぱち電撃を発するくらいはするだろう。それじゃだめだ。
まあ、今度あったら話くらいはしてみようかなと思いつつ、オレは話を聞いていた。


「そうだ、そうだ。ありがとう、ゴールド君。トオイに気を遣ってくれて。
 よくわかったね、トオイがポケモン恐怖症だってことに」

「え?ああ、いや、なんかマリルリを見てるトオイが、よく似てたからさ、
 もしかしてって思っただけだよ。スイト…ああ、オーダイルを連れ歩きしてると、
 似たような顔よくされるもんだから」
 
「よく知らないと怖いもんね、おっきなポケモンって」

「しっつれーしちゃうよな、うちの子はがぶりと噛んだりなんかしねえよ、ばーかって感じだよ」


ロンド博士はオレたちのやり取りに笑ってくれた。


「ゴールド君たちみたいに、ポケモン恐怖症の人に理解がある子供がいるとほっとするよ。
私もなかなか仕事が忙しくてかまってやれないのが悪いのかもしれないが
 ポケモンが苦手なものだから、なかなか友達ができずに困っているんだ。
 もしよかったら、声を掛けてやってくれないかな」

「それくらいならお安い御用だぜ。な?」

「はい、わかりました」

「そういってくれるとありがたいよ。
何度言っても研究施設に無断ではいる悪戯を辞めようとしないから困っているんだ」


はあ、とため息をついたロンド博士は、立ち話もなんだからと室長室に案内してくれた。
お茶とお菓子を出してもらったオレたちは、ソファに腰を落ち着ける。
向かいにロンド博士が座った。


「ロンド博士はラルースシティの人ですよね」

「おや、よく知っているね。君のような若い子にまで知られているとは光栄だなあ」

「なんでバトルフロンティアに?」

「ああ、それは3年前に、ここからずっと南にむかった先の孤島で、
デオキシスと同じ波長をもつ石が見つかったからなんだ。
支配人であるエニシダさんから打診を受けてね、3年前からここに拠点を移しているんだよ」


たんじょうのしまと言われているそうなんだが、とロンド博士は付け足した。
見せてもらった資料には一遍が2キロメートルほど、
一番高い標高でも9メートルほどしかないとっても小さな孤島がある。
ほとんど正三角形の形をしている不思議な島だ。
島の周りはサンゴ礁で浅くなっているけど、潮の流れが早くて波乗りではいけない
海域だから、ナナシマとかアサギシティから船を出さないといけないらしい。
島の周りは深い海に囲まれていて、サンゴ礁のすぐ先は断崖絶壁が海の下に広がってる。
なるほど、だから現地調査のためにわざわざホウエン地方にあるらしい
ラルースシティからロンド博士たちはきてるってわけか。
ロンド博士はデオキシスの名付け親にして第一人者だもんな。
しっかし、もったいねえなあ。たんじょうのしまっていえば、
映画の予約券についてるオーロラチケットがあれば行ける場所だから、
レッドさんも行こうと思えば行けたはずなのに。
レッドさん回収しなかったんだ、デオキシス。ミュウツーといいフリーザーといい、
伝説ポケモンに興味なかったりするんだろうか、あの人。
まあバトルフロンティアでは出場できないからもっぱら観賞用か秘伝要員になるのは目に見えてるけどさ。


「はじめはこの島の先にある海溝に、レアアースがあるということで、
 タマムシ大学の研究チームが調査にむかうことになったのがきっかけなんだ。
 海溝と陸続きになっている無人島であるこの島の地中にも可能性があるということで、
発掘調査が行われたんだよ。その先でデオキシスの波長と同じ石を見つけたものだから、
 大騒ぎになったんだ。今はデオキシスの誕生のメカニズムを研究するために開発は延期になっているんだよ」


元ネタになってる島でもレアアースが見つかったとかどうとか大騒ぎになってた気がするなあ。
やっぱりオレの世界と似てるところはあるんだなあと思いつつ、ロンド博士がちょっと疲れた様子でため息をつくのが気になった。
デオキシスの研究家としては新しいデータが得られるってわくわくするもんじゃないのかな、と
思いつつ不思議そうに見ていると、オレの視線に気付いたのかロンド博士は苦笑いした。


「環境と開発を両立するのはいつの時代も難しいものだ。
レアアースの海底発掘は続いているんだが、泥からの採集技術は開発中でね、
あの石さえ見つからなければと睨まれることも多々あるんだよ。
陸上から採取する方がはるかに楽だからね」

「大変なんですね」

「ああ、すまない。君達にはちょっと早かったかな。
 ゴールド君たちはしっかりしているようだから、ついつい大人の話をしてしまったね。
  難しくてつまらないといつもトオイに怒られているんだが、はは」

「トオイくんでしたっけ、たまには遊んであげてくださいね。さみしいと思うし」

「そうだな。ユウコ君にはいつも怒られているよ。
 トオイのことは亡くなった家内に任せきりにしていた部分もあるから、
 いまいちあの子のことを分かってあげられていないのかもしれない。
 難しいものだね」


ロンド博士は寂しそうに笑った。


「時間をとらせてすまなかったね。このポケモンたちは責任を持って私たちが引き取ることにするよ。
 ゴールド君もクリス君もせっかくバトルフロンティアにきたんだから、思いっきり楽しんでくれたまえ。
 それではね。また会う時が来ることを願っているよ」


そういってロンド博士はオレ達を見送ってくれた。


「ロンド博士って優しいけど不器用な人なのね」

「大人って大変なんだな」

「ホントにね。トオイ君とロンド博士、仲良くできるといいんだけど」

「こればっかりはオイラたちじゃどうしようもないだろ、クリス。
 逢ったばっかりなのに、トオイはあのお姉さんじゃなくてロンド博士に
追いかけてきてほしかったんじゃないかなあ、とか言えねえよ。
あの人ユウコさんって人に結構トオイのこと相談してるっぽいしな。
相談する相手がちげーだろ。ちょーっと言葉が足りないよな、あの人たち」

「そうよねえ。でも、ここってバトルフロンティアでしょう?
トオイ君ってポケモンが苦手なのにどうしてお父さんについてきたのかしら。
やっぱりお父さんと離れるのが嫌なんじゃない?だったら素直になれないだけよ、きっと」

「そういやそうだな」


トモダチと会うのを禁じる父親に反発するトオイにちょっと違和感を覚えながら、
オレたちは復旧したとアナウンスが流れているバトルタワーのエレベータに乗り込んだ。

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