5月4日 ()
 晴れとみせかけゲリラ豪雨


「ブンちゃん見て見て、これさっきのチョコチップじゃ」
「じゃあ俺のこれも見て。さっきのタコさんウィンナー」
「こうなったらもうタコさんもクソもないのぅ」

 渡り廊下で土下座のように四つん這いになる俺と、うんこ座りの仁王。ならんで首を伸ばして、ぶちまけたお互いのそれを吟味していた。吐き気とのデッドヒートの末、余裕で負けた。どうもこんにちは俺の胃液。さっきぶりですね俺の昼食。まさかこんな形であなたと再会できるとは思っていませんでした。胃が空っぽだ、まじもったいねー。俺の昼食、わりと切実にプリーズカムバック。
 開始二日目でゲロるとかやばい早い。でもこれはしょうがない。昼休憩の後にいきなり降り始めたクソみたいな土砂降りによって外での練習が中止になって、筋トレの後に延々と校内を走らされた。やたら長いマンモス校の廊下と、やたら段数の多いマンモス校の階段。その上、男子が集団で走ることによって生まれるむさ苦しい湿気。このコンボを長時間くらって平気でいられる人間が居たら見てみたい。いや、もう見たわ。俺と仁王と赤也以外は汗だくだったものの普通に歩いてたわ。柳なんてジャージ着たまんまだった。意味わかんねえ。ちなみに赤也は仁王の横で散々吐いた後に伸び切って倒れてる。

 いまごろ家のやつらは海かよ。仁王家に至ってはハワイ。青い海、白い浜、たわむれるビキニのトップレス。天国だろぃ。それに比べてここにはぐちゃぐちゃの土、その上で雨と混じる新鮮なゲロ、倒れ込んだまま動かないゾンビみてえな赤也。まさに地獄絵図。俺と仁王が現実逃避ついでにゲロ品評会を続けていると、もぞもぞと瀕死のイモムシのようにうごめいていた赤也が青ざめた顔をあげた。どうやらまだギリギリ生きていたらしい。

「先輩見て見て、これダイイングメッセージ。これを手がかりに、可愛い後輩にトドメをさした犯人捜して下さいよ」

 赤也が指差す先には、ドロドロの地面に引かれたミミズみてえな線。人差し指の先に泥がついてるから、たぶん指で何か書いたんだろう。すぐそばには俺と仁王と赤也のゲロが漂ってるっつうのに、きったねえだろぃ。

「可愛い後輩とか誰だよキモッ」
「字が汚なすぎて読めん。この事件は迷宮いりじゃ。のぅ、ブタソン君」
「ア?誰が何だって?」
「さ、戻るかの」
「話そらしてんじゃねえよ」

 さっさと立ち上がった仁王を追って、その頭を一発平手ではたいてやった。未だ起き上がれていないだろう赤也が両手を伸ばして「せんぱーい、腕引いて起こしてくださいよぉ」とか言ってたけど無視した。あいつもなんだかんだいって逞しいから大丈夫だろ。案の定、俺と仁王が渡り廊下から校舎へ戻ったあたりで背後からドタバタと俺たちを追いかけてくる足音が聞こえて、若いっていいなあなんて思った。追いついて軽くスキンシップとるフリして指先の泥を仁王のユニフォームで拭いた赤也はわりと本気で仁王にキレられてた。


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