5月3日 ()
 小雨のち晴れ


 一日ぶりの部活。昨日の休みは今後のハードスケジュールを考えてお情け程度に設けられたんだろうけど、土砂降りでどこにも行けやしなかった。っていうか普通に授業あったからな。フリーなの夕方だけ。しかも土砂降り。なんなの。
 俺はそんな不満を脳内でふつふつと煮込みながらラケバを背負って歩いていた。正午過ぎ。午前中は小雨が降ってたから、俺は連休を外で楽しもうと目論む弟達を尻目に逆さてるてる坊主を大量生産したというのに、無情にも雨雲は駆け足で去って行った。クソみてぇな快晴。メンタルの影響受けまくって、身体がずっしりと重く感じるけどまだマシだ。三日後にはアンデッドモンスターばりのふらふら歩きになってること間違いなし。そして俺の横には既にゾンビのようになっている仁王と、去年も地獄を味わったはずなのに記憶力の無さが幸いしてか、やたらと元気な赤也がいる。

「のう、今日って何の日?」
「漢方記念日っすね」
「憲法だろぃ」
「で?」
「4連休1日目、人によっちゃあ9連休6日目」
「…で?」
「俺たちは地獄の4日連続練習日の初日っス」

 分かってはいたけど、その赤也の言葉に思わず仁王とそろって溜め息をついた。そうなのだ、雨の止んだ今日の午後から、俺たちの地獄のゴールデンウィークが始まる。普段の練習ももちろんキツいけど、授業中寝たりしてフォローできるから問題ない。けど連休はやばい。一日中みっちり練習して、日が落ちてから帰宅、そしてまた朝早くに集合。それが何日も続く。お天気お姉さんは今後数日間、快晴の夏日が続くって言ってた。死の宣告すぎてやばい。あと3回アクティブターンがまわってきたら死ぬ。むしろ3ターンも耐えたくない今死にたい。苦しみのない即死希望。

 ずるずると重い足を引きずりながら立海の裏門を抜けた。さすが部活動に力を入れている立海というか何と言うか、テニス部以外にも活動があるらしく、野球部を始めとするいろんなユニフォームのやつが校内をウロウロしてる。俺等以外のレギュラーはもうとっくに部室かコートについてるんだろうけど、ドリンクでも買うかぁ、なんつって自販機に寄った。そんなことしても何も変わんねーけど、気持ち的に時間ギリギリまでコートに行きたくない。
 自販の前の流しに座り込んで、三人でだらだらとスポドリを飲んだ。この塩味と甘みが絶妙すぎてうめえんだけど、去年のゴールデンウィーク最終日あたりはこれすらも気持ち悪くて飲めなくなったような記憶がある。そんだけ辛いんだ連休の部活は。ああそうだ、塩味と言えば。

「つかさ、まじねえんだけど。うちの奴ら、明日海行くらしいぜ。くそ羨ましい」
「まじすか、うちなんて昨日から俺置いて泊まりで軽井沢っスよ!」
「うわー赤也どんまいー」
「におー先輩ん家はどうなんスか?」

 赤也の言葉を聞いたと同時に、静かにビタミンガードを飲んでいた仁王の指がぴくりと反応した。そしてどこか遠い所を見るような表情で、フッっと、息を吐いて笑うのが聞こえた。この笑い方きもいわ。つかビタミンガードってお前。女子かよ。

「仁王家は…俺だけ残して…ハワイなり…」
「うわぁ………におー先輩…」
「泣くなよ仁王」
「泣いとらん…ほんに超笑えるのう」
「全然顔笑ってないすけど大丈夫っスか」
「いやいやこれ今の仁王の精一杯の笑顔だからたぶん」

 軽く仁王に同情しながら、味の無くなったガムを包んでゴミ箱に投げた。いつもなら天才的カーブを描いて吸い込まれるようにジャストインするのに、うっかりゴミ箱の縁にあたって弾かれていた。最低だ、もう嫌な予感しかしねえ。さすがに遅刻するわけには行かねえからと、三人でだらりと部室へ向かう。立海テニス部の、全然休めない連休が始まります。


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