「あ」

声が重なるのを美咲は感じた。
高くて透きとおった声と、低く優しい声が誰もいない静かな一室に響く。
窓からは日が入り込み、部屋を明るく照らしていた。
空は赤く染まっており、カラスの鳴き声が聞こえる。
既に5時半をまわっており、あと15分ほどで閉館する図書館に、2人はいた。
周りに人の気配はなく、しんとした静けさが漂う。
「ご、ごめんなさいっ」
伸ばした手を、慌てて美咲はしまいこんだ。
相手も美咲と重なった手を素早く下ろした。
「ご、ごめん。」
相手も慌てた様子で頭をぺこっと下げた。
美咲はじろりと相手を見た。
Tシャツにジーンズというラフな格好の上、髪は真っ茶色だ。
背が高く、少し威圧感もある。
こんな男が自分と同じように、星に関する本を借りようとしてたと思うと、少し驚いた。
とはいえ、自分も大した格好ではなかった。
パーカーにスカートを履いており、十分ラフである。
向こうも美咲がこのような本を借りることに驚いてるかもしれない。
「あ、あのさ」
男が口を開いた。
「好きなの?星。」
この本に手を伸ばした美咲に興味をもったらしい。
同じ年くらいであることもあり、悪い人ではないだろうと美咲は思った。
少しくらい会話するなら、変な人でも構わないとも思っていた。
「好き。…友達がね。」
「え?」
「親友が星好きでね、少し私も勉強してみようかな、って思ったの。」
美咲は少しドキドキしながらしゃべっていた。
馬鹿にされないかどうか、という不安が胸に居座っていた。
すると少年はふっと顔をくずした。
「いいよなぁ、星。最近の夏空はきれいなんだよ。よく晴れてるし。」
温かい笑顔を向けながら男は言った。

(あ、いいひとなんだ。)

そう美咲は感じた。

「高校生、だよね?」
男はまた口を開いた。
(え、ええ、ナンパ!?)
少しどきっとしながら美咲は「うん」と答える。
しかし残念ながらナンパでも何でもなく、ただの質問だったらしく
「そっかぁ」と男は頷いた。


ーその瞬間、終わりを告げる鐘がなった。
閉館の時間だ。

「あ」

再び2人の声が重なった。

「それじゃ、俺行くわ。」
「あ、うん。」
男は小走りで玄関の方へ走っていった。
結局2人も借りたかった本は棚にしまったままだ。
そのことに美咲は気づく。
「あっ、あの…」
本どうしますか、といいかけて美咲はやめた。

このままにしておけば、彼もまたこの本を探しにやって来るかもしれない。
そういった考えが頭に浮かんだ。

美咲は一人男の背中を眺めていた。

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -