※学パロ
※先生がちょっと出しゃばり




 アホほど大量のプリント束を両手に積んでいると、まあ案の定足取りは気怠く、重たいものになる。更にはそれらをぶちまかないようにと神経を使う労力が加わって、しんどい仕事だ。か弱い女子生徒を捕まえて容赦なく力仕事を押し付けるとは、担任にはつくづく生徒を思いやる気持ちが欠けていると思う。

「ほんと人使いが荒いですね」

 頼みごとのあいだも弁当を箸でつついている担任に呆れながらそう言うと、「それ運んだらまた職員室来てな」と、無駄な笑顔で追加の注文をつけてきやがった。もう皮肉を言う気にすらなれず、無言で職員室を後にする。自分の容姿をわかったうえでやっているに違いない。まったくこれだからイケメンは。

 昼休み、教室の前の水道はまず込み合う。人と競合しない職員室脇の水道めあてで階段を降りてきたのがそもそもの間違いだった。戻ったら黒板消しの任務が残っている。この調子じゃ昼食の時間に十分な余裕はないと見ていいだろう。四時間目の数学の先生、筆圧超強くて黒板の字がなかなか消えないんだよなあ。

(ソネザキくんに手伝ってもらう、とか)

 いやいやいや、それは無い。できるだけあの人とは関わらないで週番を終えようと決めたんだった。幸い彼は自分が週番であることを忘れているようだし、それに教室のど真ん中でわいわい昼食タイムを謳歌しているグループに突っ込んで行く勇気は無い。一瞬とはいえなんて無茶な考えを。短時間でも昼食なんてかき込めばいい。変な気は起こすものじゃない。

 頭に浮かんだ邪念はさっと振り払う。ふさがった手の代わりに足で教室の扉を開け、騒がしい空気に染まりきれない私は教室に入った。それはいつもと何ら変わりの無い昼休みであったが、教卓に重たいプリントを置いて、私はふと異変に気付く。

(あれ…黒板きれいになってる)

 黒板の字は綺麗さっぱり無くなっていた。咄嗟に教室中央のグループに目をやっても、探した姿は見当たらない。不思議に思ったけれど、そのまま深く考えることもなく、面倒事がひとつ減ったことにただ気を良くして、プリント配布をさくさくと終わらせた。

「ああ、お前もう来なくてよかったぞ」
「はぁ?」
「先生に向かってはぁとか言うな」

 出席簿で頭をぺこんと叩かれた。表紙が固く厚みのある冊子は見た目の割に殺傷能力が高い。

「いったっ、!これ体罰です先生」
「最近の子供はすぐソレだな。俺の時はこんくらいじゃなんとも思わなかったぞ。まあ下手に親御さんに言いつけられてネットに拡散されても堪らないからな。悪い悪い」

 担任の呼びつけ通り再び職員室を訪れたらコレだ。私は言われたとおりに動いただけなんですけど先生。イケメンスマイルで誤魔化さないでください先生。

「なら何で呼んだんですかぁ」
「さっき日誌渡そうと思ったんだけどな、プリントが余りに多かったから、2回に分けて運ばせてやろうと思って」
「分割の仕方おかしいじゃないですか。50:1で割られても楽になりません」
「まあそう言うなって。日誌はもうソネザキが取りに来たから、お前も戻っていいぞ」
「え?あ、はあ…そうですか」


 ソネザキくんが?じゃあ私がプリントを配っている間に彼が職員室に来ていたのか。それでさっき教室に居なかったんだ。週番やるつもりがあるんならわかるようにしていてほしい。

 結局ソネザキくんが黒板を消したかどうかはわからなかったが、それは私が知らなくてもいいことだ。もともと当番なのだからお礼を言う必要性もないだろう。関わらないままでも週番って案外こなせるものだなあと胸を撫で下ろす自分がいる。


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担任はこっそりとワタルさんなイメージ。マサキは次ようやく出ます



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