たすけてグリーンの続き


「さてシルバー。早速だけど頼みたいことがある」
「断る」
「まだなにも言ってないよ」
「いやな予感しかしない」
「またまた〜、そんな大袈裟な!」

 盛大なしかめっつらのまま私から距離をとろうとするシルバーににじり寄る。残念だ少年、後ろは壁でした。私の家は狭いから逃げるところなんてありません。

「ちょっと買ってきて欲しいものがあるの」
「嫌だ自分で行けばいいだろ」
「そうしたいところだけどね。私いま街の女性に命を狙われてるんだ」
「いや……命って」
「私が街の王子にとんでもないことさせちゃったから、ただじゃすまさねーーって人達がわんさかいるんだよね。迂闊に外なんか歩いたら私誰かに刺されちゃうかも」
「そうなのか?」

 シルバーは私の説明がほとんど理解できていないといった様子で首をかしげた。だけどそこに物騒なキーワードが紛れていたことで、私をとりまく事態が深刻なものだとうまく勘違いしてくれたようだ。人を騙す時は、まず相手の不安を煽るのがポイントだ。少しの事実を織り交ぜながらな。……って、このあいだ読んだ漫画のイケメン詐欺師がそう言ってた。だけど少年、私は少し心配です。よそでそんなに簡単に人の言うことを信じたらいけないよ。

「シルバー、お願い。まずちゃんと聞いて?」
「……何を買わなきゃいけないんだ」

 両腕を伸ばして、真剣な目で語り掛ける。逃げ道のない壁ドンだ。顔めっちゃ近くてなんか違う気もするけどそういうものだということにしておこう。するとようやくほだされてくれたのか、それとも圧が強すぎたのか、なんとシルバー自ら用件を聞いてくれたではありませんか。急カーブを描いていた眉はなだらかに戻っていく。警戒を解いた野良猫みたいなシルバーを可愛いなあと思ったのは、とりあえずこっそり胸にしまっておくとして。

「ナプキン」
「……」
「あれ、わからない?レストランとかにあるやつじゃないよ。女性がパンツをプロテクトする「わかったからそれ以上言うな」
「話が早くて、すごく助かるよ〜。じゃあ、行ってくれるよね?」
「ふざけるな!刺されてでも自分で行け!」

 そんな、話が違うじゃないですか少年。声を荒げて憤慨するシルバーの顔は、見たことがないほど真っ赤に染まっている。ははーん、思春期の彼には取り扱いの難しいワードだったかしら?さっきから動揺しまくりのシルバーを見て、悪魔にささやかれた私はもうひと押しすればいけると踏んだ。

「そっか……やっぱそんなこと頼まれても嫌だよね。ごめんねシルバー、無理なお願いしちゃって。でも私が刺されたらもうシルバーとバトルできないね」
「……」
「シルバーと一緒に居るの、私は結構楽しかったんだけどな」
「……」
「いままでありがとう」
「っっっ俺は!!知らないからな!!」

 ありゃ、駄目だった。シルバーはなんだかんだで優しいから、情に訴えたら折れてくれるかなと思ったんだけど。当の本人は私の壁ドンを抜け出して、脱兎のごとく家から逃げ出してしまった。残念。ちょっとかわいそうだったかなあ。いじめすぎてしまった。

 仕方ないけど、今回は家にある分でなんとかしのぐしかない。いつものペースで使っていたんじゃ今日を乗り越えられなさそうだし……もう、今日はトイレで座って過ごそうかな……。

「……やる!」

 夕方、ぜえぜえと息を切らしたシルバーが帰ってきた。髪には落ち葉が刺さっているし、服にはところどころ擦ったような跡があるし……どうしてこんなに満身創痍なんだろう。

「え?何これ」
「見ればわかるだろ」
「あ!」

 不透明の袋から出てきたのは、まさかと期待したけど本当ににそのまさかだった。小花柄の、華奢で可愛いらしいパッケージだ。

「……お前が刺されたら、お前のポケモン誰が面倒みるんだよ」
「シルバー……」

 なにそれ、すごいじーんときた。そこまで私のことを……!

 感嘆の溜息を漏らすと、シルバーは少しだけ満足気な顔をした。やり遂げたという達成感がにじみ出ている。少年よ、確かにこれだけのことをやり遂げたら君は男に違いない。だからとっても言い出しにくいんだけど。

 (……ライナー買ってきたんだ)

 なんていうか、本当に惜しい。売り場こそ変わらないものの、小ぶりのパッケージは月経用と書かれたそれではなかったのだ。すっっっっっごく褒めちぎりたいし、本当にいいセンいってるんだけど、今の私を助けてくれるアイテムにはなりえなかった。

 こんなに遅くなるまで戻って来なかったということは、そうとう手を焼いたんだろうな。あのコーナーに立つのにも、レジに並ぶのにも、計り知れないほどの苦労があっただろう。多分シルバーは、露骨にナプキンの絵が書いてあったり、しっかり吸収とかなんとかって書いてあるパッケージは直視すらできなかったに違いない。唯一手に取ることができたのが、可愛いらしくこぢんまりとしたこのパッケージだったというわけだ。

「シルバー、ありがとうね」
「……フン」

 そっぽを向いたシルバーの耳は赤くなっていて、なんだか本当にかわいそうなことしたなあと今更ながら後悔した。駄目だ。これじゃないなんて絶対にいえない。




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