→至あの日の一本道



 私は決して友達が多いほうではない。数えるならば、学部に3、4人の友人。それから20人規模のサークルのなかにいる同級生くらいだろう。もし友人のハードルを下げたならぐっと数は増すかもしれないけど、「よっ友:すれ違いざまに挨拶を交わすだけの関係」を頭数に入れるのはすこし安直な気がする。友達。学生時代を彩るもの。楽しい時、苦しい時を共に過ごす、切磋琢磨しあえる存在。女の子は基本的にかわいく、目の保養、あるいは癒しの存在だ。だけど悲しきかな、可愛い女の子にはとげがあるということもまた然り。女子であるがゆえに美少女や美人の性格が鋭利な傾向にあることもまた然りなのだ。

 そもそも、私は一人でいるのが苦ではない。自由な時間を確保したいという願望があるからだ。もちろん365日ずっと一人でいたいというわけではない。講義を友人と受けたり受けなかったり、昼食を友人と食べたり食べなかったり。とくに決めることもせずにキャンパス内で会ったとき一緒の時間をすごす。そういう現在のやり方が一番居心地がいいと思っている。一人でいる時間は課された課題や読みかけの本を消化するのに充てたし、ふらりと町にでて買い物を楽しむということもあった。

 もし私が古い時代に生まれていたなら、誰かと空間を共有したいという思いは強かっただろう。けれどインターネット、とりわけSNSが普及した今ではポケットの端末一台で世界中のだれかと繋がることができる。一匹狼、もしくは自由人という皮をかぶりながら、億劫なリアルの人間関係を希薄にして、楽なSNSに流れてバランスをとっているともいえる。

 余談だが、我が家は高校まで門限はバカ早いし携帯・ゲームは一日1時間までとかいう縛りのキツイ家庭であったため、友人からは話の分からない付き合いの悪いやつだと思われていたと思う。学校での流行や共通の話題に微妙についていけない焦りを隠すように周囲に合わせて愛想笑いをし、胃を痛めながらやり過ごすという爆裂ストレスの溜まる学生生活を送ってきた。

 人付き合いはめんどくさいし、精神的負荷が高い。だけど人の輪には憧れてしまう、というこじれた思い出が私の中にある。

 これがなにかを歪めてしまったのか、私はスマートフォン、とりわけSNSに対する執着というか依存度がめちゃくちゃ高い。浅い付き合いのフォロワーが星の数ほどいるし、一日中通信制限ギリギリまでスマホをいじり倒したあげく、ネタツイートでインプレ稼ぎして承認欲求を満たす、みたいな拗らせた奴の典型みたいなムーブを日々の常としている。

 子供のころに与えられなかったものを取り返すために何かに対して異様な執着を見せてしまうみたいなのが遠からずあるのかもしれない。私にとってはそれが、他人の目だった。

 単位はちゃんととっているので私の自由だと驕ってはいるものの、ネットに依存する人間なんて母親は一番軽蔑していると思う。その母に知られたら控えめに見積もっても仕送り停止、もしくはバイトで学費も賄うことになるくらい突き放される可能性も覚悟している。私をこんなふうにした母には恨みもあるが、経済的DVを受けたわけでも殴られたわけでもないので、行き場のない鬱屈とした思いだけが私を依存へと駆り立てている。

 こんなんだから人付き合い苦手系を卒業できないまま大学生になってしまったのだが、こんな私にも人並みの幸せはあった。大学生になって初めてできた恋人の名は、ユウキといった。

 サークルの新歓で知り合って、好きなものに対してのスタンスの近さとか、言葉の選び方が互いに心地よいと感じたところとか、そういうのがかち合って、1カ月もたたないうちに付き合うことになっていた。
 異性はもともと共通点の少ない存在とわかっているからか、仲間内から排除されるというような恐怖感もなく、高校までと違って人数で群れていないため話しかけるハードルも高くない。入学間もなくの個人行動の多い時期に知らない男の子と話すのはなぜだかとても気が楽だった。

 私はネット弁慶を自負している割には私がSNS上でユウキと絡むことはほとんどなかった。というか意識しすぎて絡めなかった。ユウキもツイート総数200くらいのアカウントは所持していたが、私が意気揚々とツイートを連投する中(67ツイート/時間)、彼がつぶやくと私は急におとなしくなった。急にいなくなっては後からお風呂入ってました〜みたいな何に対してかわからない弁明をしたりもした。

 彼の投稿には通知もつけている。リアクションはしないが、投稿があると直後に飛んで行って、私のことが直接にでも暗にでも書かれていないかチェックし一喜一憂した。

 いちどだけ私が決死の覚悟でアクションを起こしたのは、彼がフェイスブックに投稿したきれいな夕焼けの写真に「いいね!」を押したくらいであった。その時ですらいいね!するまでに2日ほど悩んだ。236いいね!の中に紛れ込むことによってやっと行動を起こせたのである。彼はネットに対して淡白で、一方私は精神の支えだった。

 ツイッターで直接リプライを交わしあうことはないけど、私は数多ある一日の投稿の中に、読めばなんとなく今日のあのことかな?と二人にだけわかるような投稿を混ぜた。ポジティブな投稿もネガティブな投稿もした。直接言わないで公開日記みたいなものをインターネットの宇宙に浮かべる。そのいずれにもユウキからいいねがついた。投稿の内容ではなく、たまたまタイムラインを見たときに私の投稿が目に入ったら、いいねをしているんだと思う。その証拠に、ユウキのいいね覧には時間帯以外の法則性がほぼなかった。つながっている知人やバズってるツイート、自己啓発系のツイートが満遍なく並んでいた。どんなふうに受け取っているかは私にはわからない。

 普通に会えばコミュニケーションに何ら問題はない。普通に話せた。それからメールも日に数通程度、普通にやり取りしていた。ユウキは私のSNSの使い方を知らないわけではなかったが、とやかく口出ししてくることもなかった。会うと話も弾んだし、一緒にいるととても楽しくて、周りから見てもうまくいっているカップルだったと、私は思う。




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