少し前のことになるけれど、片思いをしていた相手と晴れてお付き合いする事になった。
鼓の屋敷で一緒に仕事をしてから彼の優しさを知りすぐに好きになった。
だから告白していい返事をもらえた時は天にも登るような気持ちだった。
嬉しくて嬉しくて、幸せだった。


…はずなのに。


「禰豆子ちゃんがさぁ…」

せっかくのお互い指令がない日。
二人でずっと一緒にいて、楽しい話を出来るのだと楽しみにしていたのに。
彼の口から出て来たのは炭治郎の妹の禰豆子ちゃんのことばかり。

そりゃ、私も禰豆子ちゃん大好きだけど、私の立場は?
何だか悲しくなってくる。


「今日夜ね、禰豆子ちゃんをお花畑に連れて行くんだ!」
「え…そう、なんだ」


私とすらあまり行かないのに。
何で禰豆子ちゃんと行くの。

醜い嫉妬心がむくむくと膨れ上がる。


「それでね、その時禰豆子ちゃんが…」
「…っ」


耐えきれず、私は俯きながら立ち上がる。
それを目を丸くして善逸は私を見上げる。


「… なまえ?」


不審そうに私の名前を呟いて私の顔を覗き込む。
ぺちんと軽く善逸の頬を叩く。

叩かれたのは善逸の方なのに何故だか私の方が痛くて辛くて涙が溢れた。


「そんなに禰豆子ちゃんがいいなら、何で私と恋仲になんてなったの!?禰豆子ちゃんと一緒になったらいいじゃない!!」


そのまま走ってその場から逃げ出した。
やってしまった。

これじゃあもう、元には戻れない。
どうしよう。
自分がしてしまったことに深く傷ついて蹲って大声で泣いた。
声なんか出したら耳の良い善逸に丸聞こえになってしまうかもしれないのに、止まらなかった。


「どうしたんだ、なまえ…大丈夫か?」


いつの間にか炭治郎が立っていて、私の背中を優しくさすってくれた。
ひっくとしゃくりあげながらもこくこくと頷いて、炭治郎が心配そうに私の顔を見る。


「善逸はどうした?」
「…引っ叩いてきちゃった」
「えっ…善逸何かしたのか?」
「したと言えばしたけれど、私の方が悪いかもしれない…」


うーん、と炭治郎は頭を捻った。
そして炭治郎は私の手を取って立ち上がらせてくれた。


「とりあえず話し合うんだ!じゃあ!」


炭治郎は軽く手を挙げると素早く行ってしまった。
何で急にと思ってると後ろに気配を感じて振り返る。
善逸が今まで見たことない顔をして怒っていて。

私は驚いて後退る。
善逸はそのまま私に近付いて壁際に追いやると、ばんと壁に手をついて私を見つめる。


「炭治郎と何喋ってたの」
「…善逸なら聞こえてたでしょ?」
「…じゃあ、何で触らせてんの?」


さっき炭治郎が私を立ち上がらせる為に握った私の右手を、善逸が無理矢理触る。


「俺以外に触らせんな」
「なに、それ…」


可笑しいじゃない。
自分は禰豆子ちゃんの話ばっかりして、夜には一緒にお花畑行くくせに。


「言ってることが無茶苦茶だよ善逸は!自分は禰豆子ちゃんといちゃいちゃしてていいんだ?!私は炭治郎に少し触れられるのも駄目なのに!?」
「駄目に決まってるじゃん!!俺は、…俺と禰豆子ちゃんは…」
「やだ、聞きたくない!やめてよ!善逸のばか…んんっ!」


言葉を言い終わる前に、善逸の唇が少し乱暴に私の唇に重なった。
私は目を白黒させて抵抗しようとするも両手を掴まれ壁に押しつけられる。

何度も角度を変えて、善逸が優しくない口付けをする。
やだ、やだ、やだ。


どうしてこんなことするの。
嫌なのに、腹立たしいのに。

こんなに心が満たされて幸せになって行くの。


「…っはぁ、」


ようやく唇が離れて、善逸がこつんとおでこをくっつける。

「落ち着いた?」
「…」

落ち着けるわけないでしょと言いたかったけど少し気分が良くなっている自分が恥ずかしくて何も言わなかった。


「禰豆子ちゃんとお花畑行くのは、なまえにあげる花束選ぶの手伝ってもらうだけだよ…」
「…え」
「何あげたら喜ぶか分からなくて、花くらいしか思い浮かばなくて。禰豆子ちゃんにも少し選んでもらおうと思って…けどやっぱこういうのは自分で選ばなきゃ駄目だよな…不安にさせてごめん」


善逸の手が緩んで、申し訳なさそうに頬を掻いた。
私もそんなこととは知らずに勝手に怒って、善逸を傷付けてしまった。


「…ごめん」


私は善逸を抱きしめて、胸に顔を埋めながら誤った。
善逸は優しく私の髪を撫でてうんと呟いた。


「善逸が好きだから、焼き餅焼いた…私は禰豆子ちゃんみたいに可愛くないし、優しくもないし、それに…んむっ、」


再び強引に唇を奪われる。
善逸は少し怒った顔をして、私を抱きしめた。


「俺の好きな子のこと悪く言わないで。誰よりも一番可愛くて俺の好きな子なの」


善逸、と私が小さく名前を呼ぶ。
嬉しくてぽろと涙が零れた。


「俺が好きなのはなまえ、ただ一人だけだよ」


そしてまた、唇を重ねる。
今度は先程とは違ってとろけるほど優しい口付けだった。

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