本のページを捲る音だけが轟くんの部屋に響く。
時々ずずと温かい煎茶を飲んではまた本に視線を落として読み進める。


今日は轟くんにとって久しぶりの休みの日だった。
お休みの日はいつも仮免取得の研修に行っていたから本当に久しぶりのお休み。

どこか行こうかと話したりもしたが、せっかくのお休みに身体を休めて欲しいと私がお出かけを拒否した。

その結果、二人で轟くんの部屋でまったりと各々好きな本を読むことになった。
他の人からしたら一緒にいる意味があるのかと疑問に思うかもしれないけれど、私たちにはこれくらいの距離感がとても心地良いのだ。


「みょうじ」
「うん?」
「この本、下巻持ってるか?」
「持ってきてるよ。どうぞ」
「ありがとう」


一冊目を読み終えた轟くんが二冊目を受け取り視線を落とす。
本を読む轟くんの横顔が好きで、私も本を読みながら時々思い出したように轟くんの横顔を盗み見る。
そんな他愛もない時間が私にとっては宝物のようで。


「…あ」


伸ばした湯飲みにもうお茶が入っていなかった。
私は立ち上がって、急須にお茶っ葉を適量入れてお湯を入れる。
少し蒸らして、二人分の湯飲みにお茶を注ぐ。


「轟くん、お茶どうぞ」
「ああ、悪いな…」
「あ…見て!茶柱」
「ほんとだ、珍しいな」


一人だとどうでも良いようなことなのに、何故か轟くんと居ると茶柱が立っているだけで特別なことのように思えるから不思議だ。


「何かいいことあるかも」
「いいこと、か」
「例えば野良猫が触らせてくれるとか」
「例えがみょうじらしいな」


だって猫ってふわふわで可愛いもん。
犬も好きだけど、普段ツンとしている野良猫が寄ってきてくれた時の喜びといったら。


「他の良いことはねえのか?」
「他?他かあ…うーん」


ぱたんと本を閉じて、例えば…と轟くんが私の手を取って指を絡める。
そして私の手の甲にキスを落として、軽く微笑む。


「嬉しくねえか?」
「う、嬉しいっていうか…照れる…?」
「ふぅん…」


轟くんが何を考えてるのかたまによく分からない時がある。というか今まさに分からない。
何故急に私の手の甲にキスを?
何だか気恥ずかしくてどうしたらいいのか分からずにいると、轟くんが首を傾げた。私も同じように首を傾げてみせる。


「嬉しくねえか?…峰田が持ってた雑誌で読んだ。手の甲にキスされるのが嬉しいって書いてあったから喜ぶかと思った」
「…そういうことだったんだ」


ていうか峰田くん、どんな雑誌読んでるんだ。
モテる秘訣特集とか読んでそうだな、なんとなく。


「…じゃあ、今日は俺がみょうじを喜ばせる」
「へ!?な、なんで急に」
「本読んでるだけってのもなんだしな。せっかく二人でいんのに」


そこからの轟くんはとにかく色んなことを試してきた、壁ドンとか顎クイとかオーソドックスなものから少し変わった事まで。

峰田くん、轟くんに変なことを教えないで欲しい。
容姿の整った轟くんに至近距離で迫られては私の心臓持たないよ。


「…そういや、これだけはまだだったな… なまえ」


抱きしめた体制のまま、耳元で低く私の名前を呼ぶ。
耳元で囁かれただけでもぞくりと腰に来るのに普段苗字で呼ぶ轟くんが私の名前を呼ぶ。

かあと顔に熱が集まり、おそらく耳まで真っ赤になっているだろう私の顔を見ると、轟くんは珍しく少し意地悪な顔をしてくつくつと笑った。


「なんだ、名前呼ばれるのが嬉しいのか?」
「あっう…う〜…」


恥ずかしくて視線を彷徨わせる私の頬に手を添えて、もう一度甘くとろけるような声で「なまえ」と呼ぶ。
きゅうと心臓が掴まれたような感覚に陥って息苦しくなる。


「と、轟くん…」
「焦凍、だろ」
「…焦凍くん…」


熱を持った視線が、私を求める。
どちらからともなく、熱い唇が重なる。
そして何度も何度も角度を変えて強弱つけて唇を重ねた。

名残惜し気に離れた唇からお互いにほうと熱い吐息。



今日はお休みの日のはずなのに、体力も精神力も削られてくたくただ。

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