俺と付き合え、なんて色気もへったくれもないような告白をされたのが数ヶ月前。
彼がよく言葉にするような所謂モブやら端役筆頭のような私のどこがお気に召したのかは分からないが、彼からの告白にオーケーを出して付き合い始めた私たちは、拍子抜けするほど普通のお付き合いをしてきた。
爆豪くんのことだから、急に呼び出されてトレーニングに付き合えとか昼飯一緒に食ってやるからパン買ってこいやとか半ばパシリ目的で告白してきたのじゃないだろうかとか失礼な事を考えていたちょっと前の私をぶん殴りたい。
「なまえ」
「ば、爆豪くん。なに?」
付き合い始めてから私のことを名前で呼ぶようになって、他の人より少しだけ優しい視線を向けてくれる。それが私は本当は嬉しい。
「今日暇か」
「うん、暇だよ」
「俺の部屋来い」
へ?
部屋?
私は首を傾げながらもうん、と答える。
爆豪くんはすぐに自分の席に戻って行って、次の授業の用意を始めていた。意外に真面目なのだ。
放課後になって、爆豪くんに連れられ彼の部屋に行く。
もう何度か来たけれど、やっぱり一応彼氏の部屋だ。緊張する。
テーブルの前にちょこんと座っていると、爆豪くんがペットボトルのお茶を差し出してくれてそれを受け取る。こういう小さな気が利くのも少し意外でいちいち感動してしまう。
「今日は何か用事あった…?」
「…用がなけりゃお前といちゃ悪ィかよ」
「そ、そんなことないよ!」
そういうつもりで言ったんじゃないんだけれど、言い方が悪かったな、私は慌てて弁解しようと口を開くも、なんて言っていいか分からず開けた口を閉じる。
「なあ」
「な、なに?」
テーブルの向かいに座った爆豪くんが、テーブルに頬杖ついて私を見つめる。
整った端正な顔立ちが私みたいなちんちくりんを見つめていると思うと少し身動ぎしてしまう。
「いつまで他人行儀なんだよ、てめェは」
「っ、ご、ごめん」
だって、爆豪くんみたいな強くて格好いい男の子が私とお付き合いしてくれるなんて夢みたいなんだもん。
こんな私でいいのかなって思っちゃうんだよ。
「…俺が怖えのか。ビビって付き合ってんのかよ」
「怖くないよ、ビビってもいないよ。…逆に私なんかで良いのかなって…思っちゃって…ごめん」
爆豪くんは徐に私に顔を近づけて半ば強引に唇を奪う。
「っ、ん!」
驚いて声が漏れる。
爆豪くんは私の後頭部を支えて離れないようにキスをする。
強引に、でもどこか切ない想いが溢れるようなキスだった。
唇を離すと、彼は赤い綺麗な瞳で私を見つめてふいと視線を逸らした。
「なまえが良いから付き合ってんだろうが頭沸いてんのか」
「…っ」
嬉しい。
こんななんの取り柄もない私を好きでいてくれることが。
「てめェがいつまで経っても慣れねえから…」
「爆豪くん…」
少しだけ悲痛を孕んだ声色が、爆豪くんらしくなくて。
せっかく付き合ってるのに私がしっかりしないから彼を不安にさせているんだ。
爆豪くんだって全てに自信があるわけじゃないのだ。
そう思うときゅうと心の奥が締め付けられるようだった。
私のことで一喜一憂してくれていたのかもしれない。
そんな私の知らない爆豪くんが凄く愛おしい。
「…好きだよ爆豪くん」
「俺も名前で呼んでんだからてめェも名前で呼べ」
「か、勝己くん…好き…」
ずっと苗字で呼んでたのに今更呼び方を変えるのは何だか気恥ずかしい。
私は顔に熱が集まるのを感じながら何度も勝己くん勝己くんと彼の名前を呼ぶ。
その度におう、と小さく返事する勝己くん。
「…今度出掛けるぞ、なまえ」
「へ?どこに?」
「そんなんてめェの好きなとこどこでも連れてったるわ」
「ふふ」
そっか、と笑うと勝己くんが少しムッとした顔をする。
私と一緒にいたいと思ってくれてるんだなと思うと嬉しくて頬が緩む。
そんな私の頬を掴んでびよんと伸ばす勝己くん。
「とにかく俺の女なんだから堂々としてろ、わァったな」
「うん」
それから今度行く場所はどこにするか二人でたくさん話し合った。
街に出てお買い物も楽しそうだし、映画でもゲームセンターでもカラオケでも。
結局どこに行くかなんて決まらず、それでも二人でたくさん色んな場所の案を出した。
きっと、二人で居れればどこでもいいんだ。
二人でこれからのことを話しているだけでこんなにも楽しくて楽しみで、幸せで。いつまでもこの時間が続けばいいのにと願った。