少し前からお付き合いしている緑谷くんとはまだ手も繋いでいない。
お互い積極的な性格ではないので仕方ないのかもしれないが、2人で顔を合わせる度顔を赤く染めもじもじしてしまう姿は周りから見れば中学生のような可愛らしい恋に見えることだろう。


もちろん私はそれでもとても満足しているし、ヒーロー科に所属する忙しい私たちは、お互いのために時間を作ることが何だか少し特別なことに感じてそれすら愛おしく感じる。


そして今日、付き合って三ヶ月。
何とか時間を開けて二人デートに行けることになった私は、一つの目標を立てた。


緑谷くんと手を繋ぐ!
手を繋いでデートする!


「みょうじさん、ごめん!待った?」


自ら掲げた目標に燃えていると、先に私が待っていた事に焦って青い顔をした緑谷くんがわたわたとやって来た。


「全然待ってないよ!行こうか?」
「う、うん」


よし、ここだ!
自然に手を繋ぐ一つ目のチャンス!

隣を歩き出す緑谷くんの手に触れようと手を伸ばす。
すか、と手が空振り。緑谷くんは気まずそうに頬をかいた。


「こういうのって、男の方が先に来なくちゃいけないのにね…駄目だね僕は…」
「へっ?…そ、そんなことないよ!」
「そう?」


眉尻を下げる緑谷くん。
気にしなくても良いのに…。

ってそうじゃなくて、せっかくの一番自然なチャンスだったのに。
少し気を落とす。

…いやいや、まだまだここから!


「みょうじさん、今日は僕に任せてくれるかな…?みょうじさんの好きそうなデートプランを考えてるんだ…実は」
「えっ!本当?ありがとう、緑谷くん。楽しみだなあ」
「あはは、じゃあこっち」


緑谷くんがにこりと笑う。
そして何の躊躇いもなく私の手に触れた。

私は驚いて、手と緑谷くんの少し赤くなった頬を二度見する。
緑谷くんは照れ臭そうに視線を彷徨わせる。


「いいかな、手」
「…っ!う、うん!」


手を繋いだだけで、頭の中が真っ白になった。
それからじわじわと頭が腫れるように熱くなった。
繋いだ手に神経が集中しすぎて、足がもつれそうだ。


今日の目標がこんなにすぐ、しかも簡単に達成してしまうとは。
少し拍子抜けしてしまうが、それよりも嬉しさが勝って頬が緩む。




それから緑谷くんが連れて来てくれたのは水族館。
二人で色とりどりの魚や、白いドレスのようなクラゲを可愛いね綺麗だねと他愛もない会話をしながら進んでいくと、ちょうどイルカショーの時間になって、二人でイルカの水槽から離れてるけど真ん中の見やすい場所に腰を下ろした。
イルカショーは凄い迫力があって、頑張ってるイルカ達に少し感動した。
水槽の前の席に座ってる人たちなんかはびしょ濡れになっていて、遠くに座ったのは私を濡らさないための緑谷くんの配慮だったのかと気付いて嬉しく思った。



「はあ、楽しかったね〜!」


すっかり日が暮れた、水族館に併設されている海沿いのカフェで夜ご飯を食べ終わって、食後の紅茶を飲む。


「本当だね、あの時のイルカ迫力とか凄かったよね」
「うんうん。私はクラゲが綺麗で良かったなあ」
「クラゲかあ、ふわふわしてる所とか少しみょうじさんっぽいよね」
「え、そうかな…」


恐らく褒めてくれてるのだろう。
ふわふわと水に漂うクラゲ。
どこが私っぽいのだろう、と少し考えているとその様子を緑谷くんがにこにことしながら見ていた。


「な、なに?」
「みょうじさん、可愛いなあって…」
「っ!な、な、」


からかわないで、と恥ずかしくなって視線を落とす。
ごめんね、と緑谷くんが笑って伝票を手に立ち上がった。


「そろそろ行こうか」
「あ…うん」


そっか、もう夜だもんね…デートも終わりか、と少し寂しくなる。
荷物をまとめてレジまで行くと、緑谷くんがスマートにお会計を終えていて慌ててお財布を取り出すが受け取ってくれなかった。
ありがとう、と申し訳なく思いながらお礼を言うと、気にしないでねと微笑む。


思わずきゅんとしてしまう。


「みょうじさん、まだ時間…平気?」
「うん、平気だよ」
「じゃあちょっとだけ、付き合ってくれるかな」


こくり、と頷くと彼はまた私の手を優しく取って歩き出した。

着いた場所は海浜公園だった。
少し前までゴミの不法投棄で荒れ放題だったこの場所は、いつからか綺麗になって今では人気のデートスポットにもなっている。


「ここ、僕の思い出の場所なんだ」
「そうだったんだ」


思い出。
どんな思い出なのだろうと緑谷くんの横顔を眺めるの懐かしそうな優しい表情をするので私もなんだか幸せな気持ちになった。


「みょうじさん、今日は楽しかった。ありがとう」
「こちらこそ!凄く楽しかった。私の為にデートプラン考えてくれてありがとう」


お互い向き合って、お礼を言い合う。
二人とも頬が赤くて、触れた手が少し震えてる。


「あの、なまえちゃん、って呼んでもいいかな…」
「う、うん…じゃあ私も、出久くんって…呼ぶね」


ドキドキと心臓が高鳴る。
海の波が打ち寄せる音と心臓の音が見つめ合っている私たちを包み込むようで。


「…好き、だなあ」


ふにゃりと緑谷くんが笑う。
私も同じように笑った。


「私も、出久くんがとっても好きだよ」


緑谷くんは少し真剣な表情になって、私を抱きしめた。
驚いて思わず身体が強張る。
どくんどくんと二人分の少しずれた心臓の音が聞こえて、ああ、すごく緊張してるんだと分かって、身体の緊張が解ける。


そしてお互い視線を合わせて、優しく触れるように唇を重ねた。

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