七日後、早朝…。


「お帰りなさいませ」
「おめでとうございます。ご無事で何よりです」


最初と同じオカッパの女の子二人が出迎えてくれた。
周りを見るとあれだけ居た人はどこに行ったのやら…私と善逸以外には三人しかいなかった。

無論、どこに行ったかは考えたくもないが。


「死ぬわ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ…ここで生き残っても結局死ぬわ俺」
「大丈夫だってば」
「そんなこと言ったってなまえがいなかったら俺死んでたんだぞ!?」


そんなことない、と言っても無駄だ。こうなった善逸は何を言っても通じない。


あの後、私一人で何とか頑張っていたが体力が限界になって動けなくなったことがあった。
善逸が恐怖のあまり気絶…ではなく寝てしまい覚醒して助けてくれたのだけれど。


私が動けなくなった時に鬼に腕を傷つけられたのを目の当たりにしたからか、善逸は自分を責め、更に鬼の恐ろしさが身に染みたようだ。

二日ほど前から更にこんな風に後ろ向きな考えをするようになってしまった。


「で?俺はこれからどうすればいい?刀は?」


顔に傷のある男の子が、オカッパの女の子たちに詰め寄る。


「まずは隊服を支給させていただきます。体の寸法を測りその後は階級を刻ませていただきます」
「階級は十段階ございます。甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸。今現在皆様の階級は一番下の癸でございます」
「刀は?」
「本日中に玉鋼を選んでいただき刀が出来上がるまで十日から十五日となります」
「さらに今からは鎹烏をつけさせていただきます」


女の子がそう説明すると空からカアカアとカラスが鳴いて一羽私の元へやってきた。
よろしくね、と言うとカアと鳴いた。


「…え?烏?これ雀じゃね?」


善逸を見ると、何故か彼につけられたのは烏ではなくて雀のようだ。
小さく丸い体型が何とも愛らしい。


「鎹烏は主に連絡用の烏でございます」


バシ、と大きな音がして、音のした方を見る。
顔に傷のある男の子が鎹烏を叩いていた。


「!!」


善逸が叩かれた鎹烏を受け止めて心配そうに見つめている。
私も何処か怪我していないかまじまじと見る。…大丈夫そうだ。

それにしても酷いことをする人だ、と思っていると今度はオカッパの女の子に掴みかかる。


「どうでもいいんだよ烏なんて!刀だよ刀!今すぐ刀を寄越せ!鬼殺隊の刀!!色変わりの刀!!」


それを見た善逸はあわわわと怯えている。
私は眉をしかめる。
理不尽に乱暴をする人は、嫌いだ。


すると一人の男の子が、乱暴な男の子の腕を掴む。


「この子から手を離せ!離さないなら折る!」
「ああ?なんだテメェはやってみろよ!」


あ、嫌な空気だなと思った。

次の瞬間にはミシッと音がした。

「ひいっ…お、折れた?」
「多分…」

ヒビは確実に入ったかもしれない。

「ぐっ…」

乱暴な男の子は、恨めしそうに赤みがかった黒髪の男の子を見る。


「お話は済みましたか?ではあちらから刀を作る鋼を選んでくださいませ」


えっ…何の反応もないの…?
少し面食らいながら、もう一人のオカッパの女の子の後ろにたくさんある石を見る。

選べっていったって…。


「ん…?」


一つ、違う空気を感じる石がある。
それにそっと触れる。
掌より少し大きめの、ひんやりとゴツゴツした感触。
どことなく手に触れてしっくり来た。


…よし、これにしよう。







「よく無事に帰って来た!善逸、なまえ!!」
「ただいま戻りました、師範」
「じいちゃあん…」

二人とも体力はもう限界で、実は足がプルプルしている。
善逸は泣きべそかきながら師範に抱きつく。
私も二人に抱きついた。
温かいな。



それから刀が出来るまでの間、穏やかな時間が流れた。
これからは鬼殺隊として日々忙しく働くのだ。今くらいは少し師範に甘えたりゆっくりしたっていいだろう。

そんな風にまったりと時間を過ごしていると、あっという間に十日が過ぎた。


「なまえ」
「どうしたの善逸」


善逸が私の瞳をじっと見つめる。
心臓がどくりと甘い音を立てる。

私の音は耳の良い善逸曰く、酷く平坦で聞き取りにくいのだそうで、私にとってそれは好都合なのだ。


「もうそろそろ刀が届くと思うんだ」
「ああ…そうだね、もう十日以上経つもんね」
「だから…」


真面目な顔から、一気に崩れて泣き顔に。
何なんだこの男は。


「怖いよおおお刀来たら任務に出ないといけないんでしょぉお?!嫌だよ俺!ずっとここにいたいよおお」
「どうしたの急に…まだここを出てもいないのにもうここが恋しくなっちゃったの?」


えぐえぐとしゃくり上げながらこくこくと頷く。
しょうがないなあと私は苦笑した。


「ほら、桃もらったんだよ。切ってあげるから皆で食べよう?」
「桃…」


薄ピンク色の可愛いハート型の果実を、善逸に見せる。


「ね?」
「…うん」


じゃあ、待っててねと声を掛けて台所でいい塩梅に熟れた桃の皮を剥く。
そして綺麗に切って皿に乗せ、ついでにお茶も入れて善逸の元へ行く。

途中、自室にいる師範に声を掛ける。


「師範、桃切ったので食べませんか?」
「おお、悪いなぁ」


皆で縁側に座り、お茶と桃をいただく。

なんて優しい時間なんだろう。
こんな時がずっと続けばいいのに、と願わずにはいられなかった。



03 優しい時間
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