「なまえ…聞いて」
「うん?」


なまえの手を握り直す。
二人とも向き合って、なまえは小首を傾げた。


「俺… なまえが、好き。ずっと好きだったんだ」


握る手に力を込める。
なまえのもともと大きな瞳が、更にじわじわと大きく見開くのがやけにゆっくりに見えた。
そしてなまえの頬が少しずつ赤く染まっていく。


「…うそ」
「嘘じゃない」
「…ほんと?」
「うん」


なまえは俯くと、その大きな瞳からはぽたぽたと雫が零れ落ちる。
告白がそんなに嫌だったのかと驚いて慌てていると、なまえからは幸せそうな音が溢れ出てきて、周りはこんなにも騒がしく煩いのにいつまでも聞いていたくなるような甘くとろけるような幸せな音でいっぱいになる。


「私も…初めて会った時から好きだったよ。もちろん、今も好き」


なまえは涙を掬いながら、俺に微笑む。


「でも、怖かったの。私じゃ善逸を幸せにはできないって思ってた」
「俺もそう思ってた」
「善逸が幸せなら私じゃなくてもいいって…強がって」
「…分かるよ」
「だから…こんな…」


うう、となまえがまた泣き出す。
なまえ、普段全然泣かないのに…急に涙脆くなったかのようだ。



「ありがとう、私…今すごく幸せだよ」



そうだ、俺はこんな風に幸せな音を出して笑うなまえを見たかったんだ。

思わずなまえの腕を引いて抱きしめる。
なまえは一瞬驚いたけれど、嫌がっている音はしない。代わりにどんどん心臓の音が大きく早くなっていく。


「なまえはキャンプファイヤーの噂って聞いた?」
「確か…キャンプファイヤーの前で愛を囁き合うと永遠に結ばれて幸せになれるって言う…」
「今まさにその状況なんだけど、これ」
「あ…でも踊らなかったよ?」
「踊ったかどうかは噂には入ってなかったじゃん」
「そうだっけ」







どこにでもよくある、根拠のない、ただの噂。
それなのにその状態に善逸となってしまっているというだけで、全く興味がなかったはずなのにこんなにも嬉しく思ってしまうのは何故なのだろうか。
善逸の存在って本当すごいな。


「そういえば着替えちゃったんだね」
「あ…袴?」
「うん…あんまり見れなかったな。可愛かったのに」
「な、な…」


顔が一気に熱くなる。
可愛い、なんて。

誰に言われても何とも思わなかったのに。
善逸の口から言われるとこうも恥ずかしく、でもとても嬉しくなるなんて。
何で?善逸って何かそういう力でも持ってるの?


「善、逸」


小さな声で彼の名前を呼ぶ。
周りはとても騒がしいのに、耳の良い善逸はしっかり私の声を拾ってくれて、ん?と優しく微笑みながら私を見下ろす。


「こんなに幸せで良いのかな」
「ふーん、なまえ幸せなんだぁ〜」


善逸がニヤニヤと私の顔を見つめる。
ムッとして視線を逸らす。

でも、手は繋いだまま。

そんな私を見て善逸はふっと笑う。


「…良いんだよ、幸せでさ。俺も幸せ」
「そっか、良いんだ」


ああ、何で優しい空気なんだろう。
私たちは二人で笑い合って、キャンプファイヤーの炎を見つめる。
もう暗くなって空にはたくさんの星が光り、火が夜空に吸い込まれていく。
善逸と見ていると全てのものが何だかキラキラと素敵に思えるのだから不思議だ。

きっと何もかもが今まで見ていた物と違うように見えるのだろう。
好きな人と同じ想いで、想い合えるって凄いことだなあ。


私は手のひらに伝わる暖かい熱を確かめるように、僅かに力を込める。
それに反応して善逸も手のひらに優しく手に力を込める。
それだけのことなのに何でかとても嬉しくて笑ってしまった。



24 優しい空気
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