久しぶりの風紀委員会議。
月に数回ある風紀委員会議は、普段はいつも通り頑張りましょう的な内容なのだが、文化祭が差し迫っている今回は文化祭当日の見回りの時間決めや不審人物や風紀を乱している者が居たら注意しよう、など普段より真面目な内容だった。


善逸は文化祭実行委員の方で欠席。
善逸の分の取り決めは私が代わりに決めた。
その結果、私は善逸と一緒に当日の午後に見回りをすることに決まり会議が終わった。


会議で使っていた空き教室には夕陽が差し込んでいて、いつの間にか結構な時間が経っていたことに気付く。


…善逸、文化祭実行委員の方は終わったのかな。


文化祭実行委員が使っている会議室を覗くと、善逸は居なかった。
人はまばらで、あの茶髪ゆるふわパーマちゃんと目が合うと不穏な空気を纏いながらもにこりと笑った。怖い。思わず後退る。


そんなことはお構いなしで彼女は私に近付いてくる。


「みょうじさんだよね?何か用?」
「…善逸はいないの?終わってたら一緒に帰ろうと思って…」
「あー、善逸くんなら今はちょっと出てるよ?今日もまだ仕事があるからぁ、一緒に帰るのはちょっと難しいんじゃないかなー?」


…善逸くん、か。


それにしても凄い空気を纏っているのに笑顔を崩さないのが怖くて、私はそっかわかった、と短く返事して帰ろうとしてまた彼女に声を掛けられる。


「ねえ、善逸くんとみょうじさんって幼馴染みなんだよね?」


幼馴染み?
私と善逸の関係をそう言う言い方をした事はなかったので、少し違和感を感じる。


「……。善逸がそう言ったの?」
「うん」
「…そう…そうだよ」


善逸がそう言ったのなら、わざわざ訂正することはない。それに間違ってはいない。


「じゃあ、善逸くん、貰ってもいいよね?」
「え…貰、う…?」


一瞬意味が分からなくて目を見開く。
その真意を探ろうと彼女の瞳を見つめるけど、よく分からなかった。


「ただの幼馴染みなんだよね?それにみょうじさんは学園三大美女の一人だし、善逸くんじゃなくてもいいよね?」


…っ!
心臓がどくんと嫌な音を立てた。

善逸じゃなくて、いい…?
そんなわけない。あり得ない。
私にとって善逸は特別だ。
一番大切な人だ。代わりなんていない。


それに学園三大美女とか知らない。今は関係ない。


「ぜ、善逸は…物じゃない…」


ムッとしながら、精一杯の反論。
しかしそれは届かない。

彼女はそうだねごめんなさい。と笑って、私を値踏みするかのように微笑みながら顔を眺める。


「好きなの。善逸くんが」
「…っ」


私はどうしたらいいか分からず、そうなんだ、とだけ答えてその場を後にした。







「っよいしょ」
「悪いな、我妻!」
「はあ、いえ…」

文化祭で使うダンボールやガムテープ、ペンキにベニヤ板。
それらの数を数え記入していく。
足りない分を買い揃えるためだ。

しかしこの倉庫、いらない物多すぎないか?
多少片付けながらでないと作業が進まないのでそれなりに時間かかってしまった。


「こんなところか。よし、会議室に戻るぞ!もう今日は帰ろう!」


煉獄先生がふう!と汗を拭う。
涼しくなってきたとは言え、倉庫の中は空気が入りにくいので少し蒸し暑かった。
倉庫の外に出ると、心地の良い風が吹き抜ける。


煉獄先生と会議室に戻ると、聴き慣れた平坦な心音が少し遠くに聞こえた。

なまえがどこか近くにいる。
でもその心音は酷く不安で悲しげな物だった。
一体どうしたのか、そう考える暇もなく先生に会議室へと連れて行かれる。

そしてすぐに解散になり、なまえの音は全く聞こえなくなってしまった。


…先に帰ったかな。
なまえ、俺のとこ寄ってくれたのかな。


音を探ってみてもやっぱりなまえの音は聞こえてこなかった。


「善逸くん、帰ろ」
「砂藤さん…」


砂藤さんがにこりと笑う。
何だろう、違和感を感じるな。


「…砂藤さん、なまえ来なかった?」
「… みょうじさん?」


一瞬、笑顔だった顔が歪んだ。
そして、来てないよ、と変わらない表情のまま言う。
けど、その音は嘘をついている音だった。


「…そう」


俺はそれ以上は何も言えず、今日も彼女を送って帰った。



16 宣戦布告
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