文化祭実行委員が俺に決まって、本当に落ち込んだ。
文化祭実行委員は、文化祭までは当然忙しいとして、当日も各クラスや部活に不備がないか聞いて回ったりもする。
風紀委員として文化祭当日に見廻りもあるので、ある意味二重になる。


空いた時間、なまえを誘おうと思ってたがどうしようか、と考えながら一回目の会議の席に着くと、すぐにこれから実行委員が行っていく仕事内容が記載されたプリントが配布された。


まずはクラスの出し物を決め、被ったクラスはこの会議で話し合いかジャンケンで決めることや、当日までにパンフレット作成やクラスや部活の出し物の不備がないかの確認や進行具合の把握。
当日は当日でまた不備がないか一つ一つ確認していくなどたくさんの仕事があった。


それを見た俺は流石にこれ一人でやるのは辛いぞ…と、目に手を当てる。

ふと、隣を見ると隣に座っている女の子が一人で不安そうな顔をしていた。
彼女の隣も俺と同じく空席で、押し付けられた側なのだろうとすぐに察した。


「君ももう一人の実行委員にすっぽかされたの?」


そう声をかけると、俯き気味だったふわりとした茶髪の女の子は髪を揺らしながら顔を上げ、俺を見ると目を見開く。


「俺もなんだ、良かったら協力しない?」
「協力…?」
「隣のクラスだよね。俺、我妻。一緒にやってくれると心強いんだけど…俺のクラスの子サボりでさ」
「私のクラスの子も…バイト忙しいから一人で行ってくれって」
「うわー、そいつもひどいなあ」


くすくす笑う。
女の子もつられて少し笑った。
可愛い子だな、と素直に思う。


「私、砂藤です。よろしく我妻くん」



それから砂藤さんはよく俺に話しかけてくるようになった。
ふわふわした髪の毛も白い肌も綺麗で可愛いし、俺を見つけると笑顔で駆け寄ってくる所を見ると嬉しくならない男はいないだろう。


いつの間にやら休み時間にも俺の所に来るようになって、女の子とこんなにたくさん話せて嬉しいけど、こんな所なまえに見られたら…。


と思ったらすぐに見られた。


なまえの心臓の音はいつも聴いてるから、遠くに居てもすぐ聞き取れる。
だからなまえが教室に入ってきたことはすぐに気が付いた。
なまえの平坦な心臓の音が聞こえて来て、それからどくんと悲しげな音を立てた。

それなのに表情はあまり変わらなくて、いや、少し変わったかな。諦めの色が見えた気がした。
そのままなまえはカナヲと共に炭治郎の元へ行ってしまった。

俺は内心穏やかではなく、早くこの場から逃げ出したい気持ちでいっぱいになりながらも砂藤さんの話を聞く。
しばらくして砂藤さんが帰っていくと、皆が炭治郎ん家の新作パンを頬張っていた。
パンのいい匂いに混じって蜂蜜の甘い匂いがする。
なまえの好きな蜂蜜入りのパンらしい。
炭治郎、きっと気を利かせて持ってきたんだろうな。

なまえはすっかり機嫌よくして蕩けそうな顔をしながらパンを頬張っている。


俺の分はないと炭治郎に言い切られた。
伊之助が全部食べてしまって、いよいよ本当に俺の分はなかった。
食べたかったな。
炭治郎の作ったパンうめえんだもん。


そしてようやく席について弁当を広げると何だか嫌な音が聞こえた気がした。
嫉妬、羨望、苛立ち。ぐちゃぐちゃと嫌な気持ちを丸めたような不快な音だ。


ちらりと伏し目がちに音の主を探すと、さっきまで話していた砂藤さんが教室のドア付近からこちらを覗いていた。
最初俺を見てそんな音を出してるのかと思って驚いていると、その視線の先がなまえに向いてることに気付いた。







「クラスの出し物も決まったことだし、今日はパンフレット作りだ!」

煉獄先生がばん!と何枚もの紙を机に置いていく。
1人につき、クラスメイトの人数分とその保護者の分も合わせて2冊のパンフレット、さらに来場してきた人にも配るので…それなりの量を作るハメになる。

実行委員の子が来てくれれば作業量も半分で済むのに、今日もギャル子ちゃんにはマニキュア塗ってるから無理ィ〜と言われてしまった。マニキュアを塗っていたから何だと言うのかよく分からないが、強く言い出さない俺は曖昧な顔でそっか、と言って帰してしまった。


紙を表紙、ページ順に並べて最後に裏表紙を重ねてホッチキスで止めるという単純作業であるが、俺は他の人の倍あるこの作業を目の前にして辟易する。

ちらりと隣を見るとやはり1人で来ていた隣のクラスの女の子…砂藤さんもため息混じりだった。


「…頑張ろっか」


俺がそのに向けて笑うと、砂藤さんは少し笑って、作業に取り掛かった。







終わったクラスから帰っていいと煉獄先生に言われていたので、どんどん他のクラスの人たちは帰っていく。
それに比べて俺はまだ半分以上残っている。
隣の砂藤さんも同様のようだった。



その日の作業が全て終わったのは、どっぷり日の暮れた頃のことだった。



「んー…つっかれたあ」


伸びをしながら帰り道を歩く。
いつもならそのまま駅に向かう所を、遅くなってしまったため砂藤さんを送る為に少しだけ遠回りする。


「ごめんね我妻くん。また送ってもらっちゃって」
「そんな別にいいよぉそれくらい。遅くなっちゃったし女の子一人じゃ危ないしさ」


へらへらと笑いながら砂藤さんを見る。
俺と目が合うと少し照れ臭そうに微笑んだ。
本当、可愛い子だな、と思った。

彼女の家は学校から割と近いのでそんなに手間ではない。


「あのさ、我妻くんって…」
「ん?」


砂藤さんがもじもじとしながら俺の顔を見ずに言い淀む。


「みょうじさんと付き合ってるの?」
「えっ!?なまえと?つ、付き合ってないよ!」
「そうなんだ…じゃあどういう関係?前々から見かけて気になってたんだけど、凄く親しいよね?みょうじさんって学園三大美女の一人だし…」


遠回しに学園三大美女のなまえが何で俺"なんか"と仲が良いのか、と聞かれているようで少し言葉に詰まる。


「…幼馴染みだよ」


間違ってはいないけど少し違う答えを出す。
…本当は、家族。
これが俺となまえの関係で、それ以上でも以下でもない。


砂藤さんがそっかあ、と少し嬉しそうな顔をするのを見た。俺に向けられた甘い音がしてきて、俺は不覚にもドキドキとする。


「じゃあまた明日ね、善逸くん!」


砂藤さんが少し悪戯っぽく頬を染めて笑い、俺に手を振る。
気が付けば彼女の家のすぐ側まで来ていた。

彼女が好意の音を向けながら俺の名前を呼んだだけで顔が熱くなった。
俺はそれを悟られないように平静を装って、うんまた明日、と手を振り返して踵を返す。




彼女と別れてからすぐになまえのあの諦めの色を浮かべた顔が脳裏に過った。
無駄に罪悪感を抱えながら、重い足取りで帰路に着く。



14 罪悪感
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