毎週のお楽しみ。
外で善逸たちのクラスが体育をやっていて、私はその姿をチラ見しながら授業を受ける。


今日はドッチボールをしているようだ。
中々熱い。
善逸は炭治郎と同じチームで、伊之助が相手チーム。
主にこの三人が戦いあっているけど、体の柔らかい伊之助が二人の攻撃をかわしまくる。

炭治郎は伊之助の攻撃を真正面から受け止めて、ボールを奪うとそれを思い切り投げる。
善逸はというと基本的に攻撃はせずに情けない顔して逃げまわっている。恐らくボールが当たるのが怖いのだろう。


善逸らしくてくすりと笑う。


授業も終盤になってきたのに、未だに三人で膠着状態が続いていた。
業を煮やした伊之助がぶんと思い切り善逸の左肩にボールを当てると、ぽてんとボールがお互いの陣地ギリギリに落ちる。それを見ていた炭治郎が慌ててボールを拾おうとするも伊之助の陣地の方にボールが行ってしまい、すぐにボールを拾い上げた伊之助に当てられ、伊之助の逆転勝利で終わった。



三人とも粘ったなあと思っていると、この間のゆるふわ茶髪パーマの、文化祭実行委員の女の子が善逸に駆け寄り、タオルを渡す。

体育は隣クラスと合同授業なので一緒だったのだろう。
いいなあと二人の姿を見下ろす。


善逸はタオルを受け取って、だらしない顔でぺこぺこお礼をしているようだ。
女の子は平然と善逸の横に座り話続けている。



…善逸の、隣…その位置、いつも私がいる場所…。



それを見た瞬間、どぼん、と私は水の中にでも落ちたかのような感覚に陥る。

身体が上手く動かない。
音はよく聞こえないし、息苦しい。
ふわふわゆらゆらと暗闇に沈んでいくような嫌な感覚。

目を逸らしたいのに、それすら出来なくて授業が終わって二人の姿が校舎の中へ消えていくまでずっとその不思議な感覚に包まれたまま見つめていた。







「なまえ、ご飯食べに行こう」


カナヲがお弁当箱を持って私の前に立つ。

「…どうかした?」

カナヲが少し心配そうに私の顔を覗き込んだ。
私はハッとして心配かけまいとにこと笑う。

「あ、ううん…行こっか」


いつの間にか炭治郎たちと食べることが当たり前となった昼食。
なんだか気が進まないな。
今は少し善逸に会いたくない。


それでも善逸たちのクラスに向かうと、善逸の机のところにさっきの女の子が立って、善逸と話をしていた。

どくん、と心臓が嫌な音を立てる。

善逸がふいに振り向いて、私と目があった。
善逸の瞳が一瞬、罪悪感の色に染まるのを見た。
私は知らない振りをして、炭治郎の元へカナヲと向かう。


「お昼食べよう」
「ああ!机くっつけるから待ってくれ」


炭治郎が自身の机と近くの空いている机をくっつけると、すぐさま弁当を持った伊之助がどかりと座る。
私たちも座るが、善逸が一向に来ない。
まだ女の子と喋っているようだ。


また身体が水の中に沈んでいくような感覚に拐われそうになっていると、炭治郎が私の名前を呼んだ。
ふと顔を上げると、竈門ベーカリーのパンをいくつか紙袋から取り出した。


「これ食べないか?なまえの好きそうなパンだぞ」


新作のはちみつバターパンだ、と私にニコニコしながら差し出す。


「ありがと…」


美味しそうな匂いのするパンを受け取ると、少しだけ心が暖かくなった。


「んだそれ!美味そうじゃねえか!おい権八郎!俺にも寄越せェ!!」
「ああ、いいぞ。たくさん食べろ。ほらカナヲも。…ちなみに善逸の分は無しだ!内緒だぞ?」


炭治郎が苦笑しながら私に目配せする。
私を励ましてくれてるんだ。

皆ではむはむと竈門ベーカリー新作パンを頬張っていると、ようやく善逸がやって来た。
私たちが食べてるパンを見ると、え、俺の分は!?と泣きそうな顔になる。
炭治郎は善逸の分はない!とむん!と胸を張る。


「何でねえんだよ!あっおい伊之助!食うな!俺に残せ!おいい!」
「うふへえ!おへほほんは!!」


うるせえ俺のもんだ、と言いながら最後の一個を口に放り込んでいく。
それを見た善逸が、ああ…と肩を落とす。
私や炭治郎、カナヲがそんな様子を見てくすくす笑い合う。
少しだけ、心がスッとしてしまった私はきっと性格が悪いのだろう。

ふと嫌な空気を感じた。
空気の方向を辿ると、さっきまで善逸と喋っていた女の子が私を見ていた。
私はすぐに視線を逸らす。

何で私を見てるのだろう。
そんな嫌な空気を纏って。


炭治郎がすんと鼻を鳴らす。
そしてまたあの複雑な顔をするのを見た。

気付いている。炭治郎も。
私と目が合うと、炭治郎はにこりと笑った。


「さ、ご飯にしよう!」


その言葉に皆が反応して、お弁当箱を取り出した。



13 貴方の隣
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