それからしばらく、善逸とは一緒に帰れない日が続いた。
一緒に帰れないだけでこんなに寂しくなるものなのだろうか。
同じ屋根の下で寝食を共にし、朝昼晩と1日の大半を一緒に過ごしているのに。


今日も帰りは一人か、と外でしとしと降り続く雨を見ながら考えていると、うちのクラスの文化祭実行委員の声が聞こえて我に帰る。


「そういうことで、うちのクラスは大正浪漫喫茶に決まりました!異論はないですか?無ければ今日の文化祭実行委員会議に持っていきます!」


異議なーし!と男子たちの元気な声が聞こえてきた。
話を全く聞いてなかった私が、黒板に書かれたメイド喫茶やら男女逆転喫茶、コスプレ喫茶などの文字を見る。…これらよりはマシ…なのかな?


「カナヲ、大正浪漫喫茶って何?」


こそ、と隣の席に座るカナヲにどんなことするのか聞くと、聞いてなかったの?と少しだけ苦笑したカナヲが内容を説明してくれた。


大正時代らしい和洋折衷な装いの袴を着て、お団子などの菓子やお茶を出す喫茶店のようだ。
なるほど、と納得する。


善逸たちのクラスは何をするんだろう。







「俺たちのクラスはポップコーンの屋台を出すぞ!」


炭治郎がむん!と胸を張る。
伊之助はポップコーンを知らないらしく、炭治郎から説明を受けてとうもろこしが破裂するとか怖え、と言うので笑ってしまった。

味は塩とキャラメルの2パターンを用意するようだ。


「皆で売るの?交代制?」
「そうだよ、それでなまえ…」
「我妻くん!」


善逸が私に何か言いかけた時、別のクラスの女の子に呼ばれた。
ゆるくパーマのかかった茶髪の女の子だ。

善逸はハッとして時計を確認すると、委員会議の時間だった!と慌てて女の子の元へ行った。

女の子が、去り際にちらりと私を見た気がした。
何となく嫌な空気が流れたな、と思ってるとスンと横から鼻をすする小さな音が聞こえた気がして、炭治郎を見ると複雑な顔をしていた。


「…炭治郎、今の子は?」
「確か、隣のクラスの文化祭実行委員の子じゃないか?」
「そっか」


一緒に行くなんて仲良くなったんだね、と言おうと口を開けて、言うのをやめて閉じた。
何だかその言葉を口に出したら負け惜しみというか、嫌味っぽいような気がしたから。
どろりどろりと嫌な気持ちが溢れ出して、抑えようと心臓あたりに手を触れる。

駄目駄目と私は首を横に振って、炭治郎や伊之助と話を続ける。
私は善逸が誰を選ぼうと応援する。善逸が幸せなら。


「なまえのクラスの…大正浪漫喫茶、だっけ?俺たちも見に行くからな」
「変な格好すんだろ、笑ってやろうぜ」
「やだなあ、恥ずかしいし…」


私たちはそれから少し文化祭のことを話して、炭治郎は実家のパン屋の手伝いに、伊之助は腹が減ったとそれぞれ帰って行った。
私も夕ご飯の支度があるので帰りにスーパーに寄って帰宅した。







「ただいまー」

玄関から善逸の声がして、夕飯ちょうど作り終えた私はフライパンから野菜炒めをお皿に盛り付けてから、先に出迎えた師範の後ろから声をかける。


「おかえり、善逸…今日は遅かったね」
「あー、うん。ちょっと」
「…?…ぁ、そっか」


善逸の視線が一瞬私を逸らして、気まずそうな顔をした。
私は空気を察して、それ以上は何も聞かなかった。
女の子を送ってきたのかな。その他にも何かあったのかな。そこまでは分からないな。…でも私が気にすることではない。


「ご飯できてるよ、着替えてきたら?」


私がそれ以上突っ込まないと分かると、何故かあからさまにホッとした顔をして頷いて着替えに自室へと向かって行った。


「…」


私がそんな善逸の背中を見つめていると、隣にいた師範が何も言わずに私の頭をぽんぽんと優しく撫でた。


「師範…?」
「…さ、飯にするか」


私が不思議そうに師範を見ると、暖かい微笑みで返してくれた。
私、少し表情に出てたのかな。
私は表情を引き締めて、師範に笑い返す。


「はい、今準備しますね」


すぐに台所に向かって、夕飯をテーブルに出していく。
今日は獪岳がいないけど、獪岳の分は別に分けてラップにかけて置いておく。
食べてきたり食べてこなかったりするので余ることもあるけど、余った時はお弁当のおかずになる。

そうしている間に着替えてきた善逸がやって来ると、何か手伝おうか?と聞かれたので大丈夫座っててと言ってお盆に人数分の味噌汁とご飯を乗せて持っていく。
各々の席の前にそれらを置いて、お盆を私の席の脇に立て掛けて、それを見届けた師範がいただきますと言うと私たちも合わせていただきますと言って食べ始める。


今日は肉野菜炒め。
程よく火の通った野菜はシャキシャキしていて美味しい。
肉より野菜を堪能していると、善逸が今日あったことを師範に話し始める。
師範はご飯を食べながら相槌を打って、時々質問し返す。


「そうだ、爺ちゃんも文化祭来てよ。俺たちのクラスはポップコーン屋やるんだ」
「ほぅ、ポップコーンなあ。あんまり食べたことはないが…」


今の文化祭は色んなことやれるんだなあと師範が懐かしそうに言う。


「なまえのクラスは大正浪漫喫茶?だって」
「変わったもんやるんだなあ」
「まだ他のことは全然決まってないんだけど…師範、もし文化祭来れたら私のクラスにも来てくださいね」


師範はニコニコ嬉しそうに頷く。
獪岳も来てくれるかなあ。来ないか。


「でさ、なまえ…文化祭の日…」
「うん」
「俺と…まゎ……いや、ポップコーン買いに来てよ」
「もちろん行くよ。ポップコーン好きだし」


あ、ハーフアンドハーフがあるといいなあ。塩もキャラメルもどっちも食べたい。



12 二人の間
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