「文化祭実行委員会?」


私が聞き返すと、善逸がため息混じりに頷いた。
私もため息をついてどうしてもっと早く知らなかったかなとか自分も立候補すれば良かったと後悔した。


私のクラスでもホームルームで文化祭実行委員会決めが合ったが、私はならなかった。
しかし善逸のクラスはやりたい人がいなかったらしく、くじ引きで決まったようだ。そして不運にもそのくじを引いたのが善逸だった。


文化祭実行委員会は、各クラス男女二人ずつ。
善逸のクラスはもう一人の実行委員の女の子がやる気なさげなギャルの女の子なので女の子に強く言えない善逸は、恐らく一人でやることになるだろうとぐちぐち文句を言う。


「…そういえば、文化祭でやるクラスの出し物って決まった?」
「いや、まだ… なまえの所は?」
「私のところもまだだよ。いくつか案は出てるけどね。あ、そういうの決めて他のクラスと被らないようにするのも実行委員の仕事だっけ?」
「そうだよ…あー!風紀委員だけでも忙しいのに本当何なんだよ!」
「頑張れ善逸」


他人事だと思って、と恨み言が聞こえて来る。
しかし文化祭、忙しくなりそうだなあ。善逸が。


「我妻!もうすぐ文化祭実行委員会が始まるぞ!」


煉獄先生が善逸の肩をポンと叩いて会議室に入っていく。


「あ、は、はい!じゃあなまえそう言う事だからしばらくは一緒に帰れないから。先帰ってろよ」
「うん…頑張ってね」


軽く手を振って、会議室に入っていく善逸の背中を見届けた。
その後に続いて実行委員会らしき数人の生徒たちが会議室に入っていく。


私は仕方なく一人で帰ろうと歩き出すと、あらあと柔らかい口調が聞こえた。
目の前にはニコニコ笑顔のカナエ先生と隣にはしのぶさんが居た。


「こんにちは、なまえ。これから帰るところ?一人なの?」
「こんにちはカナエ先生。はい、これから帰ろうかと」
「珍しいですね、善逸くんは一緒ではないのですね」


しのぶさんの質問に、私は会議室をちらりと見てからはい、と苦笑するとそれだけで察したらしくああ、とつられて彼女も苦笑した。


「それにしても心配ですねえ?」
「…え?」
「善逸くんですよ。彼、意外とモテるんですよ?知りませんでした?まあ顔だけは良いですからね」
「こら、しのぶ。そんな言い方」
「そう、なんですか?」


善逸がモテる?
聞いたことも考えたこともなかった。
そんな素振り見せたこともなかったし。

しのぶさんはてへと笑って私の頭を撫でる。


「まあ影からこっそり見てるタイプが多いようですけどね。すみません、不安にさせるつもりではなく… なまえも早く気持ちを伝えた方が良いという意味です」
「それは…無理です、私には…伝えられません」


カナエ先生が少し困ったように笑った。


「ごめんなさいね、いいのよ。気にしなくて。それじゃあ気をつけて帰ってね」
「あ、はい。さようなら」


私は少しだけモヤモヤした気持ちを抱きながら帰路についた。



「…しのぶ、人の事に首を突っ込んではいけないわ」
「すみません。でもあの二人…見ててイライラしません?さっさとくっつけばいいのに」
「それは…少しだけそう思うけど、ほんの少しだけ」
「姉さんも思うんじゃない」
「すこーしだけよ?」







トントン、とネギを刻んでいると家の戸がガラガラっと開く音がした。
私は沸かしていた鍋の火を落として、急いで手を洗って玄関まで行く。


「おかえり、善逸」
「ああ…ただいま」


少しげっそりした様子の善逸が居た。
何があったんだろう。
担当教師が煉獄先生だし、大変なのだろう。とても良い先生だが熱いし妥協しないから。


「大丈夫?先お風呂入る?」
「いや…腹減った…もうご飯?」
「もうすぐできるよ」


会話していると師範もやってきて善逸におかえりと言う。善逸は半べそかきながら爺ちゃぁんと泣きつく。師範はそれに少し嬉しそうにしながらも鬱陶しそうにこれよさんかと善逸を引き剥がした。


「…ご飯準備するから待っててね」


私はぱたぱたと台所に戻ってすぐに残りのネギを刻み終えると味噌汁に入れて、それを人数分のお椀によそい、筑前煮、焼き魚とほうれん草のお浸し…そしてご飯をテーブルに置いていく。

そして私服に着替えてきた善逸が席に着くといただきますとみんなで手を合わせてご飯を食べ始める。


久しぶりに獪岳がいる夕食。
やっぱりみんなで食べるご飯は美味しい。

善逸は師範と獪岳にくじ引きで文化祭実行委員になってしまったことを文句を交えて話す。
獪岳は基本的に会話に参加しないが、師範は決まったからにはしっかりやれと善逸を鼓舞する。
善逸はやるけど、やるけどさぁ、と泣きそうな顔をする。

…どんだけ嫌だったんだ。


「…あ、でも」


ぴたりと善逸の箸が止まる。


「隣のクラスの女の子も一人で来ててさ、ちょっと話したけど可愛かったなあ」


善逸の顔がでへ、と緩む。
私の箸もぴたりと止まって、…そっか、と心の中で呟いた。



11 文化祭実行委員会
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -